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-呼応-











ジャンハンにそびえ立つ高いビルの屋上。



黄色い髪に小さなドクロ帽子を被った青年…黄涙は、フェンスに腰掛けてぼんやりと赤い月を眺めていた。


刃先の無い片手剣クルタナの刃が、月光に照らされ鈍く光る。




「………ふう。今日でまだ四日目か。」



ぽつりと呟くと、彼はコンクリートの床に寝転がる他のトランプ四重奏のメンバー三人に視線を移す。


紅羽は穏やかな寝息を立て、白薙は時折激しいいびき、蒼影は呼吸をしているのか疑問に思えるほど静かだった。




「三人共…よく寝られるね、今の状況で。山茶花嬢に何かあったらと思うと…俺はとてもじゃないけど寝てられないのに。」



呆れと羨望が入り混じった声で言うと、黄涙は再び赤い月に視線を戻す。



短いようで長く、長いようで短いジャンハンの夜が更けていく………。














同時刻、日本のとある場所にある木造建築の学校。




「もう四日目か。平和な時間はあっという間に過ぎていく…ってことかな。」



昼休み、山茶花は机にだらっとうっぷし顎を山積みの教科書に載せて呟いた。



きっちりまとめられた茶色いポニーテール髪がかすかに揺れ、オッドアイの瞳はどこか遠くを見つめている。




「平和って…そんな疫病神みたいに言ったら、トランプ四重奏の人達が可哀想だよ。」



親友の香川椿が、フォローするように言った。


紫色の髪が外から入ってきた風にふわりとなびく。




「…実際、そうだよ。彼らがトランプ探しに来て、ZOKKAとかいう役割押し付けられてからのこの二ヶ月間…ろくなことなかった。」



「そうかな?あたしは、トランプ四重奏の四人と居ると、楽しい気分になるけどなあ。」



「…ほぼ毎日、彼らと一緒に居たら、さすがに嫌気刺すと思うよ。」



「そういうものなのかなあ。でもさ…それだったら逆に離れてると寂しくなるんじゃない?」



「全然。」



山茶花はきっぱりと答えた。



こう言われては、椿もフォローのしようがない。


彼女は少し考えてから、話題を変えてみた。




「そう言えばさ…っていうか、わざと触れないようにしてたんだけど。」



「何?」



「明日から三日間、テストだよね…。今回範囲広いしさ…今日は図書館で二人で勉強しない?そっちの方が一人でやるより、はかどりそうだし!」



山茶花は、どうしよっかなと少し言葉を濁す。



「あれっ?もしかして、もう用事が入ってた?」



「用事ってほどのことはないけど…。」



「じゃ、断る理由ないじゃん!二時間ぐらい勉強して、その後カラオケで盛り上がろう!」



「…そっちが本命か。」



バレちゃったかとおどけてみせると、椿は自分の机に戻っていく。



気が付けば、授業の開始を知らせる単調なチャイムの音が鳴り響いていた。




「………あの娘がZOKKAか。」



山茶花と椿の掛け合いを、電柱から眺める男が一人居た。



黄色いモヒカン頭で、筋肉質な彼はフンッと鼻を鳴らすと浮遊しながらどこかへ去って行ったのだった…。












「いやー、久々にあんなに歌ったよ!やっぱ、カラオケ最高!」



夕日がオレンジ色に染める住宅街。



椿は満足げに言うと、カラオケで歌った歌の一曲を鼻歌で歌い始める。


ポップなCMソングで、周りで聞く人も思わず口ずさみたくような歌だ。




「うん…まあまあ楽しかったかな…。」



対する山茶花のテンションは低めだった。


口では“楽しかった”と言いつつも、顔はぐったりしているように見える。




「まあまあ?テスト前にカラオケ行けるなんて、そう滅多に無いのに…まあまあの評価?」



「それはそうだけど…二人で三時間歌うと、喉潰れるわ、声枯れるわで、疲れたなって。」



「いい若い者がなーに言ってんの!」



年寄りくさいセリフを吐く山茶花に、そんなことないっしょと椿は一刀両断。



和やかな空気が二人を包んでいたその時。




「捕まえたぜ…ZOKKAの娘さんよお!」



「うわっ!?」



不意に山茶花の背後から合幅のいい男が現れ、彼女の脇を掴み高く持ち上げた。




「山茶花…!?」



「おっと、動くんじゃねえぞ、お嬢さん。下手な真似しやがったら、女といえど容赦はしねえぜ?」



「うっ…卑怯者め!!おまけに、めちゃくちゃムサいよ!」



噛みつかんばかりの勢いで罵る椿に、ムサいはやめろよと男は眉を下げて返した。




「モヒカン!筋肉質!胸毛!タンクトップ!ムサくないと言う方が無理っしょ!!」



「モヒカンは関係ない気もするけど…。」



どんな状況でも突っ込みを忘れない山茶花。


たとえそれが、ムサい男に持ち上げられ武器も持たないというピンチであっても。




「ムサいは止めろと言ってんだ!…って、ZOKKAの娘…おまえは何やってる?」



男が椿と張り合っている間に、山茶花はカバンの中から何かバッジのような物を取り出していた。



そうして、その小さな物を親指でピンと上向きに弾いて、




「…オハン。」



静かにかつはっきりとそう言った。




次の瞬間、




「がああっ!?なんだ、この不快な音は!?」



「痛い!ものすごく耳が痛くなるよ!」



男と椿は思わず両手で両耳を塞いでいた。



絹を裂くような悲鳴に近い音が辺りに響き渡ったからである。




「確かに耳をつんざくような音だ…うん。」



山茶花はスルリと男の腕から抜け、椿の元へ駆け出した。


彼女の右手には、音の発信源…鋭い歯の生えた大きな口が描かれた盾“オハン”が持たれている。




「椿…はい、これ。耳栓。」



「あり…がと。ふう…うるさかった。」



椿は山茶花に手渡された耳栓を素早く装着し、ホッとしたように息を吐く。




「女が…ぐっ…ふ、ふざけた真似しやがって…!!」



男は苦しそうに顔を歪めながらも、山茶花と椿にゆらりと近づいてくる。



彼の右手には、鎖鎌が携えられていた。




「うわっ…さすがムサ男!!伊達に筋肉ついてないねえ。」



「逃げるべきかな、この状況って…。」



「まだ奥の手があるじゃん、山茶花!ダメだったら、逃げるしかないけどね。」



奥の手と聞いて男は怪訝そうに顔をしかめる。


既にオハンの叫びは収まっており、夕日はほとんど沈みつつあった。



通りを歩く人も無く、暗くなったことを感知した電灯が明かりを灯し始めている。




「今度は何を出す気だ…?」



鎖鎌の鎌部分をぶんぶん振り回し攻撃準備をしていた男は、警戒するようにその体制のまま身構える。




「さーて行くよ、オカルトマニアこと香川椿の奥の手…魔弾!!」



椿はニッと不敵に笑うと、カバンに付けていた銃形キーホルダーの一つを取り外す。



途端に、銃形キーホルダーは風船のように膨らみ、本物の銃が椿の右手に収まっていた。




「はっ…ははは!!何かと思えば…魔弾だと?魔弾を好んで使う変わり者など居るはすがないだろ。それが女なら尚更…」



男の言葉を遮るように、椿の魔弾から破裂音が発せられる。



「ぬおっ!?」



モヒカン男は反射的に飛び退いた。



彼が直前まで居た場所の地面には、銃弾が深くめり込んでいたのだ。




「魔弾を好んで使う女…それが香川椿なのだ!よっし、もう一発ドーンと!」



椿は銃口を男に向け、引き金を引き銃弾を発射。



銃弾は一直線に男の左脚に直撃した。




「ぐはっ!?」



魔弾から発射された銃弾殺傷力は無いが、衝撃力は抜群のようだ。



痛みのあまり、モヒカン男は左脚を両手で押さえ地面をのた打ち回っている。




「よっし、今の内に逃げよう、山茶花!」



「…結局、逃げるんだね。」



椿と山茶花はそれぞれの武器と防具をしまうと、全速力で駆け出す。




「ぐっ…ここまでやられて…逃がすものか!!」



モヒカン男は患部をさすりながら立ち上がると、地面から一メートルほど浮遊して二人を追いかけた。













ゾウさん滑り台のある公園。




「はあ…はあ…追いつかれちゃったし…。」



椿は肩で息をつきながら言った。



額から流れ落ちる大粒の汗が、数十分間全力疾走したことを物語っている。




「はあ…家と反対方向なんだけど…。今、何時なんだろう…。」



山茶花は椿と同様に息が上がっていたが、考えていることは切実なことだった。



登り棒近くにある時計を見ると、時刻は既に七時を回っていた。




「やっと…はあ…追いついたぜ…生意気な女どもがあ!!」



モヒカン男は心底疲れたように顔を歪めて、ようやくそれだけ言葉を発した。



銃弾を受けた左足は赤く腫れ上がっている。




「本当、感心するほどタフだね、ムサ男は!まあ、しつこすぎてウザったいんだけど。」



「誉めてんのか、けなしてんのか…どっちだ!?」



「けなしてる方。」



椿はためらう風もなく、しれっとした顔で答えた。




「くそっ…女だと思って手加減してやってたが、もう容赦はしねえぞ!!」



悪びれる様子も無い椿に、モヒカン男は完全に逆上してしまったようだ。



空間から鎖鎌を取り出すと、椿に向けて鎌の部分を投げつける。




「きゃっ!?」



「椿…!」



鎌の先端は、椿が持っていた皮製の鞄を数回切りつけ、男の手元に戻る。



威勢の良かった椿も、これには驚いたようで、地面にへたり込んでしまった。



「ぐはっはは!これが俺の実力だ!怖がれ!もっと怖がれ!!」



「いったた…腰打っちゃったし…。ムサいから最悪男に格上げだよ…。」



「まだ言うか!死にてえのか…女が!?」



「…やめて。」



腰の打撲で動けない椿を守るように、オハンを右手に携えた山茶花が立ちはだかる。




「…椿を傷つけたら許さない。」



「ほう…やる気か、ZOKKAの娘?」



「ZOKKAと呼ばないで。私には…山茶花って名前がある。…オハン!」



山茶花の呼びかけに応えるように、オハンから音波が発せられた。



耳を覆ってしまうような絶叫。




「もうその手は喰わねえぜ、娘っ子が!」



しかし、二度目のそれはモヒカン男には効かなかった。




「わっ!?」



「山茶花!」



鎖鎌の攻撃で、オハンごと二メートルほど後方に吹き飛ばされる山茶花。



地面で擦った両肘から鮮血がじわっと滲む。




「山茶花!大丈夫!?」



「大丈夫…だけどオハンが…。」



「運も尽きたな、ZOKKAと人間の女!」



勝ち誇った表情のモヒカン男は、鎖鎌を椿の額に突きつける。




「こ、来ないでよ、ムサ男!ムサいのが移るでしょうが!!」



椿は、座り込んだまま後ろに身を引いた。




「まずは…おまえからだ、魔弾女ぁ!いたぶってやんぜ…たあっぷりとな!」



「待ちなせえ!!」



「なっ…誰だ!?」



どこからともなく聞こえた声に、モヒカン男は辺りを見回す。




「女性に手を上げるような男は、あっしが成敗してやりやすぜ?」



「どこだ!?姿を見せろ!!」



「姿なら見せてやすぜ、兄ぃさん?後ろ見てみなせえ!!」



「後ろ…だと?ぐほああ!?」



振り向こうとしたモヒカン男の右肩に、強烈な蹴りの一撃が入る。


モヒカン男は声の主の姿を見ることなく、左方向に二メートルほど吹き飛ばされた。



地面から黄土色の砂埃が舞う。




「大丈夫ですかい、姐ぇさん方?」



声の主はモヒカン男には目もくれず、椿と山茶花を交互に見返した。



緑色の短い髪に茶色ハンティング帽、黄緑色の瞳。


さながら、カウボーイを思わすような服装をしている。




「あ…はい、ありがとうござい……」



「何…和やかムード醸してやがんだ!?」



椿の礼を遮り、モヒカン男はハンティング帽の真打ちに向き直る。



「おうおう…怖い顔でやすねぃ。そんなんじゃ、モテやせんぜ。」



「人が気にしてることをぬけぬけと……この野郎がぁ!!」



ハンティング帽の助っ人に、モヒカン男の鎖鎌が飛ぶ。




「おっと!まだ話は終わってやせんのに……。」



ハンティング帽の助っ人は、背中から剣のようなものを引っ張り出し防御する。



鎖鎌の刃とそれの刃部分が擦れ合い、ガキッという金属音を立てる。




「あれって…剣かな?槍かな?それとも、盾……?」



「盾っすよ、姐ぇさん。知りやせんかい、アダーガって名前の盾を?」



椿に問いかけられた山茶花ではなく、交戦中のハンティング帽の助っ人が答える。




「呑気に……くっちゃべってんじゃねえ!!」



「ほいっと!兄ぃさん……怒りっぽすぎ。カルシウム足りんとちゃいます?」



アダーガと呼ばれる盾を地面に突き刺し、助っ人はくるっと宙返りしながら地面に降りる。







「次で決めてやる…消えろや、ガキが!!」



「消えるんは…兄ぃさんの方ですぜ!!」



鎖鎌を持ったモヒカン男とアダーガを携えた助っ人は、同時に走り出す。




「やっ!!」



「うりゃ!!」



鎌とアダーガが擦れ違う。



そして…




「ぐほあ!?」



短く低い悲鳴。


声の主は、モヒカン男だ。



特殊盾…アダーガの尖った先端が、男の右胸部に刺さっている。



男が投げた鎖鎌の先端は、助っ人のハンティング帽をわずかに数センチ斬っただけであった。




「ば…かな……こんな…子供に……。」



「言いやしたでしょ?消えるんは兄ぃさんやって。」



モヒカン男の姿は、砂のような細かい粒子となり、風に流され消えて行く。



彼が居た場所の地面には、二枚のトランプカードが落ちていた。



ハンティング帽の助っ人が、少しかがんでトランプカードを拾う。




「これは……おまけとして渡しておきやしょうかねぃ。」



「つ、強い!かっこいい!!ありがとうございます!!」



言いながら、椿は助っ人に抱きついた。




「わっ!?姐ぇさん!?」



助っ人はバランスを崩しそうになり、左足に力を入れてなんとか踏ん張る。




「椿…困ってるみたいだよ。」



「えっ…?あっ、ごめんね!感動しちゃっててつい……。」



山茶花にたしなめられ、椿は助っ人から手を離した。



「いや、女性に抱きつかれて嫌な気はしやせんがねぇ。あ、名乗り遅れやしたね。あっしは、茶色い夢と書いて茶夢チャム。ハートブレイカーで旅商人で用心棒やっとりやす。」



ハンティング帽の助っ人…茶夢は、苦笑しながら自己紹介する。




「本当にありがとう、茶夢さん!あたしは、香川 椿。こっちが親友の涼原 山茶花。」



「助けてくれてありがとう。」



椿はペコリと頭を下げ、山茶花はその隣で会釈した。




「礼は要りやせんよ、姐ぇさん方。ついで言うと、“さん”も要りやせん。あっしは、とある兄ぃさん方からの依頼を果たしたに過ぎやせん。オハンの音が聞こえたら姐ぇさん方を助けに行くように、と。」



「それってもしかして…トランプ四重奏の四人?」



山茶花の質問に、よくご存知でぇと茶夢は感心したように言った。




「トランプ四重奏の兄ぃさん方は、常連客でしてねぇ。あの四人からの依頼は断れやせんから。」



「……どんな様子だった?」



「んっ?トランプ四重奏の兄ぃさん方ですかい?そうですねぃ…姐ぇさん方の心配をしとりやしたよ。自分達が来ない間に、ハートブレイカーに襲われてケガしたりしないかって。特に……黄涙の兄ぃさんが。」



「そう……。」



やっぱ寂しいとか思ってたんじゃんと、椿が茶化す。




「別に寂しくないけど……なんか、物足りない感じはするかな。」



「もう、わがままだなあ、山茶花は。居たら居たで迷惑がるくせに、居なかったら物足りないなんて。今に罰が当たるよ!」



茶化し続ける椿に、違いないですねぃと茶夢も同意した。




「ま、それはいいとして……ねえ、茶夢?そのアダーガって盾、見せてもらってもいい?」



「構いやせんよ。はい、椿の姐ぇさん。」



そう言うと、茶夢はアダーガを椿に手渡す。



椿は、ありがとうと礼を言いながら、アダーガをじっくり観察してみた。



皮を張った盾の上下に槍の穂先が付き、前面には鋭い剣の刃先が突出している。


大きさは長さ七十センチ、幅三十センチほど。



見た目よりも、ズッシリとした重みがあるなと椿は思った。




「………。」



山茶花は無言でその様子を見つめている。



時折、何か考えているように瞳が右上に動いていた。



「……変わった盾使ってるんだね。山茶花のオハンもけっこう変わってるけど。」



椿の手から茶夢の手にアダーガが返された。




「えっ?ああ、うん。そうだね……。」



「さっきからどうしたんですかい、姐ぇさん。えらいぼーっとしてるように見えやすけど。」



「ん……お腹空いたなって。」



「……って、もう七時半じゃん!辺り暗いし、帰らないと!」



公園の時計を見て、椿が早口に言った。




「姐ぇさん方が帰りやすなら、あっしもそろそろ行きやしょうかねぃ。トランプ四重奏の兄ぃさん方に報告に…ね。」



「じゃ、また。」



そっけなく挨拶し、山茶花と椿、茶夢がそれぞれの帰路につこうとした時。




「山茶花嬢!椿嬢!」



「山花ちゃーん!つき(つばきのこと)ちゃーん!」



月のある方角からそんな声が聞こえた。




「んっ?」



「あれって……」



「トランプ四重奏の兄ぃさん方……?」


一斉に振り返った三人の瞳に移ったのは、浮遊して公園に向かって来ているトランプ四重奏の三人の姿だった。




「えっ…三人……?」



「一人足りやせんねぇ?」



「えっと……」



首を傾げる山茶花と椿と茶夢の前に、三人は降り立つ。




「ごめん、山茶花嬢。君のテストが終わるまで来ないって約束…破ってしまって。」



一番先に降り立った黄涙が、両手を合わせて申し訳なさそうに言った。




「それはいいけど…何かあったの?」



「あのね、山花ちゃん!!白薙、見なかった!?」



紅羽が眉を下げて、切羽詰まったような声で訊く。




「来てないけど……。」



「白薙の兄ぃさんに何かあったんですかい?」



風でめくれるハンティング帽を右手で抑えた茶夢が、ズイと前に出て尋ねる。




「白薙が……失踪した。」



「し、失踪!?ど、どうしよ…警察に知らせなきゃ!!」



「……落ち着いて、椿。こっちの警察に知らせてもどうしようもできないと思うよ。」



ケータイ電話のボタンを押す椿に、山茶花が冷静に言った。




「……ああっ!間違えた!時報とかになっちゃったし!!」



「お約束の間違いでやすねぇ、椿の姐ぇさん……。心当たりは無いんですかい、兄ぃさん方?」



前半は椿に対して、後半はトランプ四重奏に対しての茶夢の発言。



「ジャンハンで心当たりのある場所は全て探した。残りは、ZOKKAの居るところかと思ったが…」



「山花ちゃんのとこにも居ないなんて……。どこ行っちゃったんだろー、白薙……?」



蒼影は眉を潜め、紅羽は今にも泣きそうな顔で答える。




「嘆いていても仕方ないさ……。もう一度手分けして探してみよう。」



「あたしと山茶花も探すよ!人数多い方が、見つかる確率高いし!」



「いや…気持ちだけでいいよ。これは、俺達の問題だから。それに……もう暗いから。」



黄涙に一蹴され、そう……としょげ顔の椿。




「代わりといっちゃあ何ですが、あっしが一緒に探しやすぜ!」



「よろしく頼むよ、茶夢。」



「サービス料はしっかりと頂きやすがねぃ。」



茶夢は左右非対照な笑顔を見せると、東方へ浮遊していった。




「我々も行くか。」



「……本当に私達は探さなくていいの?」



その場を去ろうとするトランプ四重奏の三人の背中に、山茶花が問う。



紅羽がくるっと振り返った。




「三花ちゃん達は、家に白薙が来たらオハンを鳴らして僕達に知らせてくれるだけでいいからー。」



「そう……うん、わかった。」



黄涙と蒼影は、振り返らないまま頷き合い、三人は西方向へと去って行った。




「……帰ろっか、椿。」



「でも、白薙は……?」



「明日になってから探そう。日曜だし、それまでにはあの三人が見つけてくれてるかも。」



椿はまだ何か言いたそうだったが、山茶花が帰っていくのを見て慌てて後を追いかけていく。




「我々も行くか。」



「……本当に私達は探さなくていいの?」



その場を去ろうとするトランプ四重奏の三人の背中に、山茶花が問う。



紅羽がくるっと振り返った。




「三花ちゃん達は、家に白薙が来たらオハンを鳴らして僕達に知らせてくれるだけでいいからー。」



「そう……うん、わかった。」



黄涙と蒼影は、振り返らないまま頷き合い、三人は西方向へと去って行った。




「……帰ろっか、椿。」



「でも、白薙は……?」



「明日になってから探そう。日曜だし、それまでにはあの三人が見つけてくれてるかも。」



椿はまだ何か言いたそうだったが、山茶花が帰っていくのを見て慌てて後を追いかけていく。



その様子を明るく照す三日月が、灰色の雲に覆われ始めていた………。












「嫌な天気だぜ……。」



同じ頃。


白薙は暗雲立ち込める空を、苦々しげに口を歪めて見上げていた。



彼の後ろには、立派な二階建ての家。


しかし、二階の部屋には明かりは灯っておらず、一階には白薙の目当ての人物の影は見当たらなかった。




「どこ行ってんだよ、茶花の奴……?俺様をこんな寒空の下、待たせる気かよ!!」



イライラを壁を叩くという仕草に出す白薙を、電柱の上から一人の女性が眺めていた。



暗いため、顔はよく見えないが銀色に光るバレッタが髪が長いことを示している。




「白ウルフちゃん…見ぃつけた!」



女性は至極楽しそうな声で言うと、フッと姿を消す。



そうして、数秒後に現れたのは、白薙の目の前。




「うわっ!?おまえは……」



「お久しぶり、白ウルフちゃん?」



「うっ!?」



小槌を構えようとした白薙の鳩尾に、ドスッと女性の手刀が入る。



白薙の手から小槌がコロンと転がり落ち、彼自身もトサッ…と地面に崩れ落ちる。



女性は小槌を拾い上げ、白薙の体を担ぎ上げると、




「ごめんね、白ウルフちゃん。あなたには悪いけど……私のゲームに付き合ってもらうわ。」



地面から十メートルほど跳躍し、明かりが消えていく街へと浮遊していったのだった……。
















-To be continued…-

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