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-遊戯-











「…ここに居ても、いずれは見つかる。奴を引き付けている間に、ZOKKA…お前は逃げろ。」



物置小屋のような建物の裏。



蒼影は、低く小さな声で傍らに立つ山茶花に言った。


額からは冷や汗が流れ、長い黒い前髪はぺとりと顔に張り付いていた。。




「いいの、蒼影?」



対する山茶花は、普段と変わらない冷めた表情で見上げて聞き返す。


右が黒、左が緑というオッドアイの瞳に、蒼影の姿が鮮やかに映っていた。




「…問答している暇は無い。では…達者でな。」



蒼影が走り出そうと右足を踏み出した時、




「見つけたぜ、蒼影、茶花!」



「あっ………。」



右横から、低いとも高いともつかない微妙な高さの声が聞こえてきた。




「白薙…。」



「二人まとめて、捕まえてやんよ!!」



白薙と呼ばれた青年は早口に言うと、元来た方向へ全速力で駆けていく。


耳に付けられた巨大な輪ピアスが、オレンジ色の髪の下からチラチラ揺れていた。




「くっ…ぬかったか!」



蒼影も、大急ぎで彼の後を追う。



前髪が風の抵抗で上方向になびき、隠れていた右側の瞳が見えた。




「二人とも…速すぎるよ。」



山茶花はやる気があまりないようで、マイペースな速さで二人を追った。


蒼影と白薙の姿は、もう五メートルほど前方にあった。




「速さで俺様にかなうわけねえよ、蒼影!」



白薙は呼吸を乱すこともなく、あっという間に目的地の公園に着いた。



後は、スチール製の空き缶を倒さないように足で踏みつけるだけ。




「うっし!ジ・エンド…」



「缶蹴ーった!!」



カーンッと鈍い音が辺りに響き、蹴られた空き缶は弧を描いて砂場に落ちる。



白薙は、やや呆気にとられて、ぽかんと口を開けていた。




「なっ…く、紅羽!?お前…!」



「えへへ…僕と黄涙も居ることを忘れちゃダメだよ、白薙ー。」



小柄な少年…紅羽は、片目ウィンクしてぐっと親指を前に出して言った。



反動で、紅い髪が下に流れ落ちるようにサラッと揺れた。




「ふふっ…白薙の負けだよ。これで八回目のオニになるけど…そろそろ代わろうか?」



ゾウ型滑り台の後ろから出てきた青年が、微笑しながら訊く。




「同情なんか要らねえっつうの!!次は、絶対四人共捕まえてやんからな!!」



「そう?それじゃ、次のオニもよろしく。今度は俺と山茶花嬢で組むよ。」



「くっそ…最悪でも、お前だけは捕まえて泣かせてやんからな、黄涙!!」



「俺を泣かせる?ふふっ…楽しみにしとくよ、白薙。」



黄色い髪と小さなドクロ帽子がチャームポイントの青年…黄涙は、にっこりと笑って返す。




「…急ぐまでも無かったか。」



白薙を追っていた蒼影も、公園に到着した。




「ママー、あのお兄ちゃん達、楽しそうだねー。千里も一緒に遊んで来ていい?」



「ダメよ、あんな野蛮な遊びしちゃ!ちぃちゃんは、こっちでブランコゆらゆらで遊ぶのよ。」



「おかーさん!あのお兄ちゃん達、何してるのかなー?」



公園で遊んでいた数人の子供達とその母親達が好奇の瞳で、彼らを見つめていた。




「はあ…やっと追いついた。」



のろのろ走って来ていた山茶花が、ようやく公園にたどり着き、ふぅと息をつく。




「あっ、山花ちゃん、お疲れー。」



「…うん、疲れた。まあ、それはいいけど…何かあったの、これ?」



山茶花の指差す“これ”とは、悔しそうに歯を噛み締めて睨む白薙と満面の笑みで返す黄涙のことである。




「よくわからんが…いつものことだ。気にするな。」



「うんうん、すぐ仲直りするから大丈夫だよー。」



「あ…やっぱり、ケンカしてる状態なんだ…。」



蒼影と紅羽の返答に、納得したように呟く山茶花。




「るせぇな、そこの外野三人!!もう一回やんぞ、缶蹴り!」



絶対泣かす…とかイライラするぜ…あの野郎とかぼやきながら缶を茂みの中に拾いに行く白薙。



そんな彼の後ろ姿を眺めながら、




「…そもそも、なぜに缶蹴り?トランプ集めは飽きたの?」



今更の質問を、他のトランプ四重奏のメンバー三人にぶつける山茶花。




「飽きてなんかいないさ、山茶花嬢。それに…飽きたなんて理由でやめられるもんじゃないよ、トランプ集めは。」



「息抜き中ってこと?」



「うーん、そういうことになるのかなー。」



さっさと始めるぞと白薙がわめく声が聞こえてきた。




「ふふっ…続きは次のゲームの後にね?そんな大声出すと、子供達や奥様方の迷惑だろ、白薙。」



前半は山茶花に、後半は白薙への返事をすると、黄涙は缶蹴り役を果たすため、白薙の元へ走っていく。




「えっ…ちょっと休憩したいんだけど。」



山茶花は、よいっと近くのベンチに腰掛けながら言った。



しかし、




「わっ!?」



「あっ…山花ちゃん!?」



「ZOKKA…!?」



それは安易すぎる行動だった。




「動くな!ZOKKAを傷つけられたくなくばな!!」



突然、背後に現れた男に羽交い締めにされてしまったのである。



男は、四十代後半ほどで灰色の髪で顔は日焼けして真っ黒。


服装は、黒ずんだカッターシャツと、ボロボロのジャージ。


地面からは数センチほど浮遊し、右手に持った小刀を山茶花の首元に突きつけている。


…人間ではなく、ハートブレイカーのようだった。




「よ、洋子!危ないから逃げるのよ!」



「怖いよ、ママー!!」



「わあああん!!」



公園で遊んでいた親子は皆、蜘蛛の子の如く散り走っていった。




「じゃあ、缶蹴るよ…って、山茶花嬢?」



「おわっ!?捕まっちまったのかよ、茶花!?」



「…気付くの遅すぎ。」



振り返って驚いたような声を出す黄涙と白薙に対しての山茶花の突っ込み。




「…要求は何だ?」



「はっはは!貴様達にもわかっているはずだ。持っているトランプカード…全て渡してもらおうか!!」



目を細めて問う蒼影に対し、男は豪快に笑いながら答える。




「なるほどー。僕達と同じでカード集めしてるんだねー。」



「そうだ!わかったら、早くカードを渡せ!」



「だったら、カード持ってるよね、おじさんもー。」



紅羽は、あどけない顔に似合わない不敵な笑みを浮かべて言った。



次の瞬間。




「ぐはあっ!?」



男の口から出たのは、低いダメージ声だった。



いつの間にやら男の後ろに移動していた黄涙が、クルタナがで男の背中をバシッと激しく打ったのだ。




「あっ…。」



男の拘束が緩くなり、山茶花の体は自由を取り戻した。




「山茶花嬢…ケガは無い?」



「う、うん…大丈夫。」



危険だからと山茶花を下がらせると、黄涙は男に向き直る。



男は少しの間地面にうっ伏していたが、やがて背中をさすりながら立ち上がった。




「くそっ…やりやがったな、ガキが…っ!?」



「えっへへ…つーかまえたー!」



そこに紅羽がボーラを投げ、男の体をぐるぐる巻きにする。




「は、離せ!」



「離さないよー。ボーラは獲物を生け捕りにする武器。生け捕りにした獲物は…ねー?」



「な、なんだ、その間は…ひいっ!?」



会話を中断させたのは、木製の矢。



ヒュンと唸りながら、男の左頬をかすった。


かすった部分から、たらりと一筋の鮮血が流れる。




「ま、待ってくれ…!俺が悪かった…い、命だけは!!」



「………命を取る気は毛頭無い。我々が欲しいのは…」



「お前が持ってるトランプだぜ!!はあっ!!」



白薙は言葉を引き継ぐように言って、打ち出の小槌をブンッと横薙ぎに振った。




「ぐほおっ!?」



小槌は男の胸部をドカッと直撃。



激しく打ち付けられた男は、直立姿勢のままばったりと後ろ向きに倒れた。




「へっ!ガキだからって甘くみっと痛い目に会うんだぜ!」



「ふふっ…俺はもう成人しているんだけどね。」



黄涙は左手でドクロの帽子の位置を直しながら、男に歩み寄った。



男の胸元からは、三枚のトランプカードが浮き上がっている。




「クローバーが二枚とダイヤが一枚…か。」



手にしたカードを見ながら、黄涙が呟く。




「…クローバーは、預かっておく。」



蒼影が小走りで彼の元へ来て、二枚のカードを黄涙から受け取る。




「ちぇっ…スペードは持ってねえのかよ…。最後決めたのは、俺様だっつのに…。」



「僕も頑張ったのになー。期待外れだよー。」



白薙は頭の後ろで腕組みをし、紅羽は至極残念そうに眉を下げた。




「期待外れって…。まさか、君達…このために缶蹴りしてたの?同じトランプ探ししてる人をおびき寄せるために…。」



「ふふっ、どうだろうね?」



トランプをポケットにしまいながら、おどけるように聞き返す黄涙。




「はあ…呆れた。結局、私はまた囮にされてたわけなのか…。」



山茶花は平然としている四人の顔を見比べた後、参ったというように額に手を当てる。




「まったく…椿の誘いをキャンセルさせられてやってたことがこんな茶番だったなんて…。椿に…」



「あれっ?山茶花…?」



「合わせる顔が無い…って、椿!?」



山茶花は声の方向に顔を向け、目を見開いた。



向かって右側、のぼり棒が設置されている方向の道路には、片脇に雑誌を携えた椿の姿があった。


椿も山茶花と同様に、漆黒の瞳を大きく見開いている。




「山茶花…こんなところで何してるの?それに…その人達は…?」



椿が指差した“その人達”とは、トランプ四重奏の四人のこと。


そのことを理解した四人は、誰だよと言いたげに眉を潜めて椿を見返している。



山茶花は瞳は見開いたまま、何と返すべきかと少し考えた。




「何って…その…えっと…」



「…親友の誘いをドタキャンしてまで公園で遊びたかったの?」



椿の目が悲しげに伏せられる。




「茶花の知り合いかよ?」



「親友って言ってたねー。悲しんでるみたいだよー。山花ちゃん、泣かせちゃダメだよー。」



「…二人とも、少し黙っててくれないかな。」



ピクピク引きつっている山茶花の口元を見て、これはやばいと紅羽と白薙は口を閉じる。




「ごめん、椿…。これには深いわけがあって…」



「………。」



黙り込む椿。




「怒ってるよね…。無理も無い…か。私のこと、思いきり怒っていいよ…。」



山茶花は、椿は当然怒って最低とか言われると思った。



しかし、次に椿の口から出た言葉は、予想外のものだった。




「なあんだ、そっか…そうだったんだ!」



「えっ…?何が…?」



「もう…山茶花も人が悪いんだから。こういうことなら、あたしも誘ってくれればいいのに!」



「こういうこと…?」



面食らって口をぽかんと開けている山茶花をよそに、椿はとびっきりの笑みを浮かべて続ける。




「そこのオレンジ髪の人…なんか知ってる気がするって思ってたら、山茶花を助けてくれたとか言ってた人でしょ?」



「オレンジ髪って…俺様のことかよ?」



一歩前に出て自分を指差しながら、白薙が訊く。




「そうそう、あなたのこと!それから考えるに…、山茶花は助けてくれたお礼とか何とか言ってデートしてたんでしょ、その人と!」



「それは違…」



「他の三人の人…ドクロ帽子の人と紅髪の人とイヤホンの人は、オレンジ髪の人の友達!二人のデートをつけてたけどバレちゃって、五人デートに切り替えた!…そうでしょ?ていうか、絶対そう!!」



「いや、だから…」



「照れなくてもいいよ、山茶花!言ってくれれば、あたしもアドバイスしたりするのに…水臭いなあ。」



山茶花に弁解する暇を与えず、話し続ける椿。




「盛り上がっているところ悪いんだけれど…お嬢さん。山茶花嬢の話も聞いてあげた方がいいんじゃないかな?」



見かねた黄涙が、山茶花の隣に来て口を出す。




「んっ?山茶花、何か言ってた?」



「うん…さっきからずっと。長くなるから、うちで話すよ。ここは目立つし。」



彼女の言う通り、周りにはいつの間にやら遠山の人だかりができ、ザワついていた。。


恐らく、トランプ四重奏の戦闘を見ていた誰かがケンカだと勘違いして、呼び回ったのだろう。




「なんだ…普通の人間じゃないか。浮いてなどいないぞ?」



「いやいや、さっきは浮いていて、武器も持っていたんですよ!」



「きゃあ!かっこいい四人組じゃないの!写真撮っちゃおっと!」



約二十人ほど集まった野次馬は、ケータイで写真を撮ったり、サイン色紙を突き出したりしていた。




「…人酔いしそうだ。」



「お、押し潰されちゃうよー!に、逃げよー!!」



紅羽の誘い声を合図に、トランプ四重奏の四人と山茶花、それから椿はその場から全速力で逃げ出した。




「あっ、待って!握手だけでもー!!」



「うっわ、ブレちゃったよ。もう一枚撮らせてくれ!!」



「ちょっと、誰なの!?今、私の足を踏んだのは!」



大混乱の渦の中から逃れた数名の野次馬が、彼らの後を追ってくるのだった…。












「ふう…えらい目に遭っちまったぜ…。」



黄緑色の絨毯にへたり込み、白薙が嘆き口調で言う。




「元々は君達のせいでしょ。」



「ごめんねー、山花ちゃん…。」



「…別に謝らなくてもいいんだけど。過ぎたことは仕方ないし。反省してくれれば、それでいいよ。」



申し訳なさそうな表情で頭を下げる紅羽に対し、山茶花はほんの少し表情を和らげて返した。



野次馬に追われていた彼女達六人は、山茶花の家に逃げ込んでいた。


母親は看護士で帰りが遅く、父親は単身赴任なため、咎めたり不審がる人は居なかった。




「これからは、軽率な行動は控えるから許してくれないかな、山茶花嬢?」



「…悪かった。」



わかればいいよと、山茶花は蒼影と黄涙にも和らかな表情で返す。




「はああ…。山茶花、モテモテなんだね…。」



「だから、違うって。」



「えっ、違うの?じゃあ、これは何の集まり?」



「…今からそれを話すんだけど。」



勘違いしたままの椿には、山茶花は少々呆れ顔だった。




「ふふっ…差し支えなければ俺から説明しようか、山茶花嬢?」



「そうだね…ややこしい説明は面倒だから任す。」



では…と、黄涙は椿に向き直る。




「まずは軽く自己紹介しておくね。俺は黄涙。トランプ四重奏のメンバーの一人さ。」



「黄涙ね!あたしは、香川 椿。…トランプ四重奏って、バンドのチーム名か何かなの?」



胸の前に両腕を構え、興味津々の表情で訊く椿。




「違うさ。最強のハートブレイカー四人組のチーム名だよ。」



「あっ、黄涙!そのことは言わない方が…って言っちゃったか…。」



「あれっ…どうしたの、椿嬢。」



ハートブレイカーと聞いて、きょとんとした表情で固まった椿に、黄涙が不思議そうに問いかける。




「ハートブレイカーって…都市伝説の…?」



「いや、あの…椿…それは…」



「す…素敵ー!!」



椿は目をきらきら輝かせ、立ち上がって叫んだ。


その声がとてつもない大声だったので、うるせぇと白薙は両手で両耳を塞いでいた。




「本物のハートブレイカーがあたしと山茶花の前に…!やばい…やばすぎるんじゃない、これって!!」



「やばい…?何が危険なんだ…?」



蒼影は、言葉の意味が分からないようで、両腕を組んで首をひねる。




「蒼影…そんなに悩むほどの意味は無いから。」




「蒼影?イヤホンの人の名前?戦国時代の人みたい!そっちのオレンジ髪の人は!?」



「オレンジ髪なんて呼ぶなっつうの!俺様には、白薙って名前があんだよ!!」



まだ耳は押さえたまま、白薙が抗議する。




「僕はねー、紅羽だよー。」



「白薙に紅羽ね!きれいな名前…やっぱり、異世界の人は違うなあ!」



「えへへ…そうかなー?」



椿に誉められて、紅羽はほんのり頬を赤らめて頬をかいた。




「それで?それで!?あなた達四人は何のために、山茶花と居るの?人間の世界を征服しに来たの!?」



「世界を征服、か…。それも悪くないけど…。俺達は、日本のパラレルワールド“ジャンハン”からトランプを回収するために来たのさ。ZOKKA…JOKKERである山茶花嬢を守りながら…ね。」



「へえ…いいなあ、山茶花!こんな素敵な男の子達に守られて!羨ましすぎるよ!!」



「…そう思うなら、代わってほしいんだけど。」



山茶花は全く嬉しくなさそうに、冷たく言葉を返した。



「………んっ?」



「な、なに、黄涙?急にまじまじ見つめて…。あんま見つめられると照れるかも。」



不意に黄涙に見つめられ、椿は多少たじろいだ。



数秒間、椿を見つめていた黄涙だったが、我に返ったのかハッと目を見開く。




「あ…ごめんごめん。何でもないんだよ…。それより…椿嬢。君も俺達と一緒にトランプ探しをしないかい?無料タダとは言わない…もちろん、お礼はするよ。」



「なっ…何、言いやがってんだ、黄涙!?ZOKKAを守るだけでも面倒なのに、これ以上荷物を増やす気かよ!!」



「面倒な荷物で悪かったね…。だったら、放っといてくれればいいのに…。」



皮肉げに山茶花が呟く。



黄涙は白薙に視線を向け、首を横に振った。




「そうじゃないよ、白薙。守られる者を増やすんじゃなくて、守る者を増やそうとしているのさ。」



「どーいう意味なの、黄涙ー?」



「…どういう意味だ?」



紅羽と蒼影がほぼ同時に尋ねる。




「他のハートブレイカーが襲撃してきた時、必ずしも俺達が山茶花嬢の側に居れるわけじゃないだろ?俺達が入れない場所だってある…。だから、そういう時に側に居れる確率の高い人間に、山茶花嬢を守ってもらえたら…」



「僕達もトランプ探しの方に集中できるってわけだねー!」



「察しがいいね、紅羽。」



それほどでもないよーと、紅羽は間延びした口調で返す。




「いいね、それ!あたしが山茶花のナイト…うん、悪くないかも!!」



「椿…そんなこと言うと本当に…」



「あたし、やるよ!やり方は全然わかんないけど、あなた達のトランプ探し手伝う!なんか、面白そうだし!」



「ふふっ…決まりだね。」



山茶花がダメだってばと訴えるのも聞かず、黄涙と椿は話を進めていく。


どうなっても知らねえからなと白薙はご立腹で、楽しそうだねーと紅羽はご満悦だった。




蒼影は…




「世俗の言葉はわからん…。」



と、眉間にシワを寄せて悩んでいた。




「他のハートブレイカーと戦うってことは…武器が要るよね!何か…武器になりそうなものは…」



「これなんてどうかな?」



そう言うと、クルタナをヒュッと縦に振り、空間を斬り裂く黄涙。


斬られた空間には無限の闇が広がっており、彼はそこから何やら一つの銃器を取り出した。




「銃…?うわっ、けっこう重たっ!!冷たっ!!」



一人で楽しそうに騒ぎながら、黄涙から銃器を受け取る椿。




「ふふっ…その銃は魔弾という名前さ。銃としての性能は抜群。ちょっと癖があるのが問題なんだけれど…。」



「癖って…暴発するとかじゃないよね?椿に危険な物は持たせない方が…」



山茶花の言葉を遮るように、バンッと銃声が轟く。




「つ、椿!?大丈夫!?」



驚いて椿に駆け寄る山茶花。


当の椿は銃口を窓に向けたまま、目を見開いて床に座り込んでいた。



発泡された銃弾は、窓をべっこりとへこませ、サッシ部分に落下していた。




「うおっ!?ビックリさせんじゃねえよ!」



「耳がキーンとしちゃってるよ…。」



冷や汗をかいて怒鳴る白薙と、耳を塞いで嘆く紅羽。




「…やはり、女性が持つには危険すぎるのではないか?」



「そのようだね…二十パーセントは高すぎるか。」



蒼影と黄涙は、それほど驚いてないようで、至って冷静に考察していた。




「二十パーセントって…危険すぎるって…何のこと!?椿がケガでもしたらどうする…」



「きゃあ!今の見た、山茶花?異世界の武器…最高すぎるよ!!」



「えっ…椿…?」



興奮して魔弾をぶんぶんと振り回す椿に、山茶花は呆気にとられた。




「椿嬢、喜んでいるところを悪いけど…違う武器をあげるからそれは返し…」



「あたし、この魔弾がいい!!呪われた武器…それを恐れないで親友を守るために使う女子高生…なんか、様になってない?」



「…魔弾が呪われた武器ってことを知ってて使ったのかい?」



魔弾に伸ばしていた手を引っ込めて訊く黄涙。



椿は、魔弾を突き立ててもっちろんと答えた。




「てやんでい…オカルトマニアの香川 椿の情報網を甘くみてもらっちゃ困りますよ、お客さーん?魔弾…どんな人間でも銃の名手にするけれど、使用者にとって最悪のタイミングで呪いを実行する銃器…なんでしょ?べらぼうめい!」



「…なんで、江戸っ子口調?しかも、使うとこ間違ってるし。」



「なんとなく。それで…二十パーセントっていうのは、その呪いが実行される確率…ってところかな。」



山茶花の突っ込みを軽ーく流しながら、椿は解説を終えた。



「…驚いた。詳しいんだね、椿嬢。」



「てやんでい!香川椿の情報網を…」



「…それはもういいから。」



山茶花に止められ、こほんと一つ咳払いをして居住まいを正す椿。




「黄涙…本当にあたしはこの武器でいいよ。てか、この武器がいいの!!他の武器を持つくらいなら、鞄で戦うから!」



「椿嬢がそこまで言うなら…致し方ないね。まあ、殺傷力の無い銃弾だし、イメージ的に君なら使いこなせそうだね。」



「おっ、物わかりがいいね!ありがとね、黄涙!」



(ああ…二人とも無茶苦茶だから変なところで気が合っちゃってるよ…。)



盛り上がる二人を遠い目で見つめながら、山茶花はそう思っていた。




「そこ!二人で盛り上がってんじゃねえよ!俺様はまだ納得して…」



「これでもまだ納得してくれないの、白薙?」



「こ、こっちに銃口向けんじゃねえよ!な、納得してやっから、どっか違うとこ向けろ!」



ありがとうと白薙に返すと、そっちの二人はどうなのと、銃口を蒼影と紅羽に向け替える椿。




「ぼ、僕ー?い、いいと思うよー。」



「うっ…おまえの勝手でいいのではないか…?」



たじろぎながら答える二人にもありがとうと言って、椿は銃を小脇に抱え込む。




「これで、みんな納得したね!あっ…ふと思ったんだけど…山茶花も何か武器持った方がいいんじゃない?狙われてる本人だし。」



「へっ…?そうかな…考えたこともなかったけど。」



「絶対持ってた方が安全だって!!ねえ、黄涙?山茶花には何か無いの?」



別にいいよと答える山茶花とは裏腹に、椿はかなりの乗り気だった。



その迫力に負け、そうだなあと黄涙は空間から何か平べったいものを取り出した。




「武器…ではないけど、これなんてどうかな?」



「………盾?」



山茶花が受け取って観察してみると、それは鋭い牙を携えた口の絵が描かれた盾だった。




「オハンだねー。」



「オハン…?盾の名前?それとも…この口のモデルの人の名前?」



「盾の名前だよー。使う人が危ない目に遭った時に、耳をつんざくような大声で吠えるんだー。ペットみたいでかわいいんだよー!」



「…かわいいのかな。」



疑問視する山茶花に、かわいいんだよーと紅羽は念押ししていた。




「へっ!俺様達が守ってやってんのに…武器とか防具なんか要らねえだろうが!」



「盾に焼きもち焼いているのかな、白薙?」



「なっ…んなわけねえだろ!小馬鹿にすんなっつうの、黄涙!!」



「ふふっ…図星なんだね。」



「違うって言ってんだろうが!!」



顔を真っ赤にして追いかけ回す白薙と、にやにやしながら逃げる黄涙を見ながら、




「何でもいいけど…人の家で暴れないでよね…。」



切実に願う山茶花だった…。
















-To be continued…-

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