表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

-始動-

死神のお仕事を読んでない方でも、気軽に楽しめる小説です(・ω・)/










「それで…親方は何って?」



三十階建てビルの屋上。



黄色い髪に小さなドクロの帽子を被った青年が訊いた。



年は二十代前半頃だろうか。



服装は、英語で言葉が書かれたTシャツに黒いベストを羽織り、青っぽいジーンズ姿。



茶色い瞳が、青い月を鮮やかに映していた。



口元には、わずかに笑みが浮かんでいる。




「『おまえ達には、ほとほと愛想がつきた』って言葉から始まって、延々と一時間お説教。その後は、特別指令が出されたんだよ、黄涙キルイー。」



燃え盛る炎のように紅いサラサラ髪を持つ少年が答えた。



こちらは小柄な体格で、歳は十代後半ほどに見える。



山吹色の大きな瞳は、黄涙というらしい青年を真っ直ぐに見つめ返している。


右目のすぐ下にホクロがあった。



白いポロシャツに茶色いベスト、ラフなズボンというスタイルが、少年のあどけなさとミスマッチしている。




「特別指令?」



「そうだよ。えーっとね…」



「俺様達“トランプ四重奏カルテット”ってチーム名とかけた、ふざけたゲーム。日本に行って、トランプを集めろってよ。」



頭の後ろで腕組みをして座り込んでいる青年が答える。



無造作にはねたオレンジ色の髪と、桃色の瞳が特徴的だった。



革ジャンに黒のカーゴパンツという服装から、歳が十代後半ではないかと思われる。



耳には、親指大ほどの長さの銀色の輪ピアスが付けられていた。




「もう!僕が説明しようと思ったのに…横入りはダーメだよ、白薙シロナギ!」



「おまえの説明は、“あー”とか“えーっと”とかが多くて時間かかんだろうが、紅羽クレハ。」



「うー…まあ、いいけどー。今度からは気を付けてよね…。」



白薙に言い負かされ、紅羽は体育座りで口ごもった。




「なるほどね…少しは退屈しのぎになりそうかな。」



「…いいのか?我々三人だけで、勝手に承諾してきたが。」



月が一番よく当たる位置に立っている青年が訊く。



顔の左半分を覆い隠すほど長い漆黒の髪と鋭い青の瞳が、青年がクールな性格であることを物語っている。



緑色のパーカーに紺色のチノパンツ…彼もまた十代前半ほどだろうか。



ズボンのポケットから耳にかけて、何かイヤホンのようなコードが伸びていた。




「構わないよ、蒼影アオカゲ。断ったら、破門とでも言われたんだろ?」



「うん、そのとーり!破門されちゃったら、僕達行くとこ無くなっちゃうからねー。それにね、クリアできたら、一年間の自由行動と三年間の統率者権がもらえるんだって!」



これはやるっきゃないよねーと、紅羽がガッツポーズをしてみせる。




「俺様は自由だの、統率者権だの、どうでもいいんだけどよ…独断行動しても破門って脅されちまったからな。嫌々ながら、やってやるぜ!」



そう言って、白薙はスッと立ち上がる。




「すっかり本音が出ちゃってるね、白薙。」



「へっ!こんな高ぇ所に居りゃ、誰も聞こえやしねえよ!」



「ふふっ…そうかもね。じゃ、そろそろ行こうか…日本へ。」



黄涙は誘いかけるように言うと、右手に携えた片手剣でシュッと空間を斬る。



斬られた空間には、人一人が通れるほどの裂け目が生じた。




「面白くなるといいねー。」



裂け目を作った黄涙よりも先に、紅羽が空間に入る。




「腕が鳴るぜ!」



次に、白薙。




「………先に行くぞ、黄涙。」



「どうぞー。」



そのまた次に蒼影。




「さてさて…どうなることやら…ふふっ。」



最後に黄涙が裂け目に入る。



四人の姿を呑み込んだことを確認したかのように、空間は自然と裂け目を修復し…やがて元の空間へと戻ったのだった。










2095年、日本。




「ねえ、山茶花サザンカ…。今朝のニュース見た?」



今時珍しい、木造建築の学校。



頭の上で髪をおだんごにまとめた少女が、隣の席の少女に話しかけた。



髪の色は紫、瞳の色は黒。



歳の頃は、十代後半ほどか。



一辺のシワもないほどきれいに着こなした制服の胸ポケットには、生徒手帳がしまわれていた。



机の横にかけたバッグには、猫のキャラクターのキーホルダーがつけられている。




「…どのニュースのこと言ってるの、椿ツバキ?」



山茶花と呼ばれた少女は、冷めた瞳で見返す。



右目は黒、左目は緑…オッドアイだった。



焦げ茶色の髪は、後ろでポニーテールにまとめている。



先の少女と同じ服装で、年も同じに見えた。



左手の袖口から、白色の天然石ブレスが見え隠れしている。




「どのニュースって…駅のホームでまた廃人見つかるってニュースだよ!」



「ああ…あれね。」



山茶花は、今朝のニュースの映像をぼんやりと思い出した。



午前七時、駅のホームに座り込む四十代後半ほどのサラリーマンの男性。


目は落ち窪み、インタビューに返した言葉は『ア…クマ…が来た…』という一言だけ。



体全体がだらんと弛緩し、着ていた服は悲惨なほどにあちこち敗れていた。




「やっぱり…本当なのかな、あの都市伝説…。」



「ハートブレイカー…ねえ。彼らに心を壊されたら廃人になってしまう…嘘くさいけど。噂じゃ、美少年四人組だとか。」



「なんだか…怖いよね!一ヶ月ぐらい前には、うちの学校の子が被害に遭ったらしいし…いやー、本当もう怖すぎ!」



「…なんか、楽しんでない?」



一人でキャイキャイはしゃぐ椿に対しての、山茶花の質問。




「やっだなー、山茶花。いくら、あたしがオカルト好きでもそんな不謹慎な…」



バンッ!



突然響いた衝撃音が椿の言葉を遮る。




そして、




「うわっ!?」



「きゃあ!?」



ガシャーンと凄まじい音を立てて、黒板に一番近い窓ガラスが割れた。




「な、何…?」



「何なの!?」



山茶花や椿、それからクラスの全員の視線が割れた窓に集まる。



そこには…




「見つけたぞ、ZOKKAゾッカ。」



ボロボロの灰色の布を身に纏った、血色の悪い男性が居た。



白い髪はボサボサにはね、黒い瞳は限界まで拡張されている。



右手には棍棒。


これで、窓ガラスを割ったのだろう。



彼は、まるで地面があるかのように宙を歩くと、教室内まで足を踏み入れた。




「う、浮いてる…?人間じゃねえよ…化け物だー!!」



「きゃああ!!先生ー!!」



「逃げろー!!」



クラスメート達は悲鳴を上げ、慌てて教室から出て行く。



しかし、山茶花と椿は逃げなかった。


逃げようにも、椿が腰を抜かして座り込んでしまったため、山茶花も逃げられなかったのだ。




「あ、あなた…何なの…?」



「ZOKKAさえ来れば、後の奴は要らん。…来い。」



「えっ…!?」



椿の問いかけを無視し、男性は山茶花の腕をとりフッと飛び降りる。




あまりの行動の速さに、山茶花は抵抗する余裕も無く、なすがままになった。




「山茶花ー!」



椿の叫びを上方に聞きながら、山茶花の体は地面へ近づいていく。




「離して…!」



「お、おい!暴れるな………あっ!」



「えっ…ええええっ!?」



悪いことに、彼女は暴れてしまったため、男性の手が離れてしまった。



教室は三階。



既に二階の高さまで落ちていたため、スピードは更に加速する。




(叩き付けられる…!?)



下は固いアスファルト。



山茶花はもうダメだと観念して、両目を閉じた。




…地面まで、あと二メートル弱。



と、その時。




「させるかっ!!」



そんな大声がして、山茶花は地面にぶつかったのとは違う柔らかい衝撃を背中に受けた。




「んっ…!?」



「生きてっかよ、ZOKKA?」



驚いて目を開けた彼女の瞳に、不敵にニヤリと笑う青年の顔が映る。



無造作にはねたオレンジ色の髪が、風の抵抗で逆立っていた。



山茶花は自分がその青年に抱きとめられているらしいということを、すぐに理解した。




「よっ…と!」



足がつく距離までゆっくりと降りていくと、青年は山茶花を地面に下ろす。




「あっ…ありがと…」



「おっと!礼は…こいつを片付けてからな!しゃがめ!!」



青年は早口に言うと、山茶花の頭上に向かって、茶色い小槌を横向きにひゅっ…と振る。




「わっ!?」



山茶花は反射的にしゃがみ込む。




「ぐはっ!?」



真上から、先ほど山茶花を攫おうとした男性の声が聞こえた。




「いっちょ、あがりーっと!」



青年の声と、ドサッと男性の体が地面に倒れる音が重なった。




「君って…一体、何者…」



「ギリギリ間に合ったようだね、白薙。」



オレンジ髪の青年の背後から、ドクロの小さな帽子を被った黄色髪の青年の姿が見えた。




「へっ、このくらい朝飯前だぜ!そっちは、片付いたのかよ、黄涙?」



黄涙と呼ばれた青年は二人に歩み寄りながら、にっこり笑って後方を指差す。



灰色の煙に包まれてよくは見えないが、人が三人ほど折り重なって倒れているのが見えた。




「カードは?」



「一枚だけ。ハートだったから、紅羽が預かってるよ。それより…彼女がそうなのかな?」



黄涙に訊かれ、白薙というらしい青年は、たぶん…そうだろうぜと答える。



「ふうん…なかなかかわいいお嬢さんだね。」



「な…何か…?」



黄涙にジロジロ眺められ、山茶花は警戒するように身を引いた。




「ひとまずは…良かったかな。これで、ゴツい男とかだったら守る気も起きないからね。」



「あの………何の話?私は、ZOKKAって名前じゃないし、君達二人のこと知らないんだけど…。」



「…あっ、そっか。こっちの人間には、その名前じゃ伝わらないんだね…。改めて…初めまして、JOKKERジョーカーのお嬢さん。」



黄涙は敬意を表すように、帽子を外してペコリと礼をした。




「えっ…あ、初めまして。」



「…って、それでも伝わらねえだろうよ、黄涙。とりあえず、蒼影と紅羽が来てから、自己紹介して…それからだろ?」



白薙が、困ったような呆れたような顔で、頬をかきながら意見する。




「山茶花ー!!」



涼原すずはらー!!」



「………んっ?」



自分の名を呼ぶ声に振り返ると、椿とクラス担任の教師が走って来ているのが見えた。



二人はかなりの猛スピードで駆けており、あっという間に山茶花のところまでたどり着いた。




「…っ…はあ…はあ…だ、大丈夫、山茶花…?」



「涼原…はあ…ケガは無いな…?」



「…そっちこそ、大丈夫?」



荒い息をつき、膝に両手をつく二人に対し、山茶花は反対に訊き返すほど余裕があるようだった。




「クラス委員の…はあ…箕輪みのわから聞いて…っ…会議から抜け出して…走って来たんだぞ…はあ…。何でも…っ…不気味な男に…攫われかけたそうじゃないか!」



「はあ…まあ、そうなんですけど。今、隣に居る人に助けてもらって…って、あれ?」



ふと見回すと、隣に居たはずの白薙も前方に居たはずの黄涙の姿が無い。



灰色の煙もいつの間にか風に流されており、倒れていた三人の姿も無かった。




「誰に…助けてもらったの、山茶花?」



「オレンジ色の髪の人に助けてもらったんだけど…居なくなったみたい。つい数秒前まで居たのに…おかしいな。」



首を傾げる山茶花に、無事ならいいんだと教師が安心したように微笑んだ。




「涼原の無事も確認したところで、香川かがわも教室に戻るぞ。ほら、二人とも早く歩く。」



「わわっ!急かされると、転びますってば、宝山ほうざん先生!」



駆け足で学校内へ戻っていく二人の後ろを歩きながら、山茶花は後ろを何度も何度も振り返った。



けれど、黄涙と白薙の姿は一度も見えなかったのだった…。













「まったく…何を考えてんだよ、親方は!?」



赤い月が辺りを照らす、夜の路地裏。



白薙は、覆面を被り忍びの格好をした男に対し、問いただすように言った。



眉はつり上がり、今にも噛みつかんばかりの勢いだ。




「何のことですか、白薙。」



男は動じた風も無く、いたって冷静に問い返す。




「特別指令じゃ無かったのー、闇正ー?」



「俺達以外にも、カードを狙っているハートブレイカーが居るのはなぜか…白薙はそう言いたいんだよ。」



白薙の言葉を要約して、紅羽と黄涙が言った。




「そのことですか…。簡単なことです。あくまでも“特別指令”であって、“其方達だけに出された指令”ではないというだけの話です。」



「なっ…ふざけた言い回ししやがって………このっ!!」



「やめろ…白薙!」



小鎚を振り上げた白薙の手を、蒼影がガシッと掴む。




「止めんなよ、蒼影!!」



「…闇正に罪は無い。手を出したところで不利になるのは、我々の方だ。」



「………わーったよ。」



蒼影に諭され、白薙は渋々ながら手を下ろす。



その間に闇正というらしい男性は、そそくさとどこかへ去って行った。




「うんうん、よく我慢したね、白薙。」



「…さりげなく頭撫でんじゃねえよ、黄涙!俺様は納得してねえ…」



「えらい、えらい!僕も白薙になでなでしてあげるー。」



「しなくていいっつの!!」



よしよしと頭を撫で回す黄涙と紅羽の二人に、小槌を振り回し追っ払おうとする白薙。




「我々だけに出された指令ではない…か。それ故に、奴らはZOKKAのあの娘を手中にしようとしたのだな。」



「俺達に出された指令と同じ指令を受けたんだろうね。“ZOKKA”を守りつつ、トランプを集めろ”って。」



黄涙は二メートルほど跳躍し、トッ…と白薙の小鎚の先端に乗っかった。




「うわっ、乗っかるなよ、黄涙!!…ゲームってわけかよ。自由と統率権をかけた壮大な…。」



「わあ、黄涙…すっごーい!僕も乗っかるー!!…僕も黄涙と同じで、あの子なら守ってあげてもいいかなー。」



「黄涙の真似すっとろくな大人になんねーぞ、紅羽。…って、だから乗っかんなよ!!」



大騒ぎする白薙と、楽しそうに小鎚の上でバランスをとる二人を、蒼影は遠い目で眺めているのだった…。










-To be continued…-


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ