7 豪剣
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翌日・・・・・・
今日も学校から帰って即ダンジョンに入って3時間が経過している。スライムのエリアは素通りして、ゴブリンが出没する1階層の奥の方へと進んで彼此30体程討伐している。出現するゴブリンは馬鹿の一つ覚えのように俺を発見すると飛び掛ってくるから、サッと避けてバールを振り下ろすだけの簡単なお仕事だった。
すでに頭の中で3回も例のレベルが上昇するピコーンという音を確認しているから、現在の俺のレベルは6に達している。確かこのくらいのレベルまでは比較的簡単に上昇するって管理事務所の人が話していた。レベルが上昇すると体力がそれに見合った数値になるから、最初よりも簡単にゴブリンに止めを刺せるようになっているな。
こうしてダンジョンに入る冒険者は強くなっていくという訳だ。もちろんレベルだけじゃなくて、魔物と対戦する経験の積み上げも重要だろう。特に初見の魔物に対してはより慎重に当たる必要があると思う。攻撃の特性をしっかりと観察する必要があるからな。
そういえばさっき倒したゴブリンが初めてドロップアイテムを落としたんだ。小さな緑色に光る石と角が1本地面に置かれていた。魔物図鑑に書いてあったけど、上の階層に登場してくるレベルが低い魔物のドロップ率は微々たる物だそうだ。ゴブリン相手だと出てきたらラッキーくらいに思っていて間違いないだろうな。これらは事務所の買い取りカウンターでお金に替えられるから、ひとまずはリュックにしまっておこう。
俺は経験値獲得が目的でドロップアイテムにはそれほど興味はないが、せっかくくれるというのなら小遣いに充填しようか。いくらになるのかは全然知らないけど。
今日も予定の時間が経過したのでダンジョンを出て行く。昨日はゲートを抜けて真っ直ぐに戻ったんだけど、今日は事務所の買い取りカウンターに用がある。せっかくのドロップアイテムだから、すぐに買い取ってもらおうという訳だ。
「すいません、買い取りをお願いします」
「はいはい、お待ちください。おや、誰かと思ったら四條君じゃないか! 連日ご苦労様だね」
「あっ、どうも」
いつもの人でした。って言うか、俺はこの事務所の職員はこの人しか見掛けていないぞ。どんな零細企業なんだ! お役所が管轄しているから企業じゃないけど。それはともかく、俺はリュックから取り出したゴブリンの魔石と角をカウンターに置く。
「ああ、ゴブリンのドロップアイテムだね。魔石が700円で角が1300円、合計で2000円だね」
顔馴染みの職員さんがスーパーのレジみたいな機械に何かを打ち込むと自動的に2000円が出てくる。しょぱい金額だな、ホームセンターで購入した装備品に遠く及ばないぞ。それにしても一体こんな物を買い取って何に使うんだろうな? ちょっと聞いてみようか。
「この魔石と角は何に使われるんですか?」
「ああ、魔石は魔力の研究用だね。これは見ての通り小さくて魔力が少ないから安いけど、大きな物だと数十万から数百万の値段がつくよ」
「ひょえー! そんなに価値があるんですか!」
数百万だって! 高校生の俺からするととんでもない金額だな。いや、あまり上を見るのはやめておこう。今の所は2000円が現実的だ。欲を掻くと碌な事がないし俺の目的はレベル上げが第1だ。
「魔力はまだ十分に解明されていないから研究の余地が大きいんだ。だから魔石の需要はうなぎ登りだよ。それから角は粉にして強壮剤にする。あっちの方がギンギンになる凄い効果があるんだ。君も飲んでみるかい?」
「これを飲むんですか!! ちょっと遠慮しておきます」
驚いたよ。漢方で鹿の角とかを用いるとは聞いていたけど、ゴブリンの角が強壮剤になるんだ。それにしても一番最初に飲んだ人は勇気があるよな。そこまで追い込まれている何らかの事情でもあったんだろうか? あと職員さん、『ギンギン』はこんな公の場で口にしちゃダメでしょう。俺しか居ないからどうでもいいけどね。
それにまだ高校生の身で強壮剤なんかのお世話になったら、右手が忙しくてしょうがないだろう! おっとこれは男子だけの内緒のお話だ。だが待てよ! もしこれを女の子が飲んだらどうなるんだろう? 潤んだ瞳で俺を見て迫ってきたりして・・・・・・ いや、これ以上深く追求するのは止めておこうか。童貞の悲しさでここから先の想像がつかない。煩悩退散、色即是空、心頭滅却・・・・・・
家に戻って一風呂浴びて、俺はベッドに寝転びながらステータス画面を開いている。ロリ長に教えてもらうまでは興味がなくて一度も見なかったんだけど、こうして自分のレベルが上昇すると数値がどうなっているのか気になってくるのが人情だ。ちなみにレベル6になった俺のステータスはこんな具合だ。
四條 重徳 レベル6 男 15歳
職業 武術家
体力 123
魔力 44
攻撃力 112
防御力 105
知力 57
保有スキル 四條流古武術 身体強化 気配察知(new!)
注意事項 新たな職業はレベル20になると開示されます。
とまあ、こんな感じだな。レベルが1つ上昇すると知力以外の数値が4パーセントくらい上がるようになっている。たった2日間で俺の身体能力が25パーセントも上昇したんだ。これは画期的な出来事だな。苦しいトレーニングや鍛錬を繰り返さなくても魔物を倒すだけで各種数値が上昇するんだから。
とは言えまだロリ長の半分程度だ。そう考えると勇者っていうのは本当に恵まれているんだな。何しろ同じレベル1の段階で2.5倍の開きがあった。この差を埋めるのは中々大変だけど、いつか追いついてあいつを驚かせてやりたいな。
しかし俺は全く油断をしないぞ! ステータスの数値に頼るんじゃなくて、今まで以上に自己鍛錬をしていくつもりだ。体に染み付くまで何度も繰り返した稽古は絶対に俺を裏切らない。それに現時点で俺が勇者たちに優っているのは格闘技術、つまり四條流の技だ。勇者たちが何か技を身に着けたら、俺はさらにその上を行く技を会得してやる。それこそが俺があのクラスで生き残っていくための生命線だと思う。でもなんだか校長のジジイにうまくノセられているような気がしてくるな。俺ってもしかしたらお人好しなのかな?
ところで素朴な疑問だけど、俺はどのくらいまでレベルを上げていけばいいんだろう? 一年後に勇者たちはどの程度の成長をしているかが鍵になるんだけど、うーん、個人差もあるからちょっと予想がつかないな。明日ロリ長に聞いてみようか。待てよ・・・・・・ ピコーン! いいアイデアが浮かんだぞ! 早速実行してみよう!
翌日の学校・・・・・・
俺が通っている聖紋学園の時間割は一日おきに午前と午後のどちらかが実技実習に当てられている。本日の午前中は一般教科を学習する時間割となっている。現代国語、数学、化学Ⅰ、英語の順に退屈な授業が続く。その2時間目が始まる前の休み時間に俺がロリ長に声を掛ける。
「信長、次の時間俺は具合が悪くなる予定だ。先生には保健室に行っていると伝えてくれ」
「四條、早速サボるのか?」
「数学は中学の時に2次方程式で躓いた。それ以来俺にとっては非常に残念な科目と成り果てている」
「わかったよ、バレないようにしろよ」
面と向かって名前を呼ぶ時にはロリ長ではなくて、ちゃんと信長と呼んでやっているんだから感謝しろよ! そもそもお前がいきなりあんなしょうもない勇者としての野望を明かすから、俺の中での評価が地の底まで下がったんだぞ。とまあこんな具合にその場はロリ長に後を託して教室を出て行く。向かう先は実技演習場だ。この時間上級生が演習場で訓練している頃合だ。
2年A組は第1演習場にいるはずだ。俺がわざわざ授業を抜け出してこうして上級生の実技実習を見に行くのは、うちのクラスの勇者たちが1年後にどのくらいの成長をするか知っておくためだ。上級生はそのためのサンプルとして非常に役立つと踏んだ俺は、こうして2年生の勇者クラスの様子を見学に出向いているのだった。
おお、やってるな! 演習場の外まで響く木剣で打ち合う甲高い乾いた音が聞こえてくるぞ。ちょうどいい時間に当たったな。内部は高い壁で外から見えないようになっているので、俺は入り口からそのまま演習場に入っていく。横にはベンチが置いてあるから、邪魔をしないようにここで見学しようか。
男子20人が2人一組で剣を打ち合っている。どの組を見ても当たり前の話だが、俺のクラスの勇者たちとは格段に技量の差がある。今の俺が目で追えるギリギリの速さで鍔迫り合いから派手な打ち合いまで様々な攻防が繰り広げられている。これはちょっと予想外にレベルが高いぞ。
「おい、そこに座っているのは新入生か?」
急に後ろから響いた野太い声に俺が振り向くと、そこには堂々とした体躯の上級生が肩にタオルを掛けて立っている。
「はい、1年A組の四條重徳です」
「ほう、お前があの問題児か。俺は2年A組の東堂 重三郎だ。この学校の風紀委員を務めている。委員会でもお前の話題は最重要項目で取り上げられていたぞ」
ハハハと豪快に笑いながら自己紹介をするこの人は東堂先輩というらしい。それにしても体格といい声といい、その風貌といい、なんとも豪快な人に思えるな。風紀委員会で取り上げられているくらいだから俺が勇者クラスに混ざっている一般人だと知っているはずなのに、全く気にも留めていないようだ。
「で、四條、ここで何をしているんだ?」
「はい、上級生の実技実習を見学しようと思って」
「ほう、中々いい心掛けをしているな。どれ、せっかく来たんだから見学だけでは物足りないだろう。俺が相手をしてやるから怪我をしない程度に打ち合え」
「いいんですか? 授業の邪魔になりませんか?」
「気にするな、早く準備しろ!」
俺の危惧など全く気にしない様子で東堂先輩はタオルをベンチに置いて自分の木剣を手に取っている。ただの訓練用の木剣だけどそれを手にするだけで東堂先輩からは紛れもない強者の香りが漂ってくる。うちの両親をはじめとして道場には同じような雰囲気を漂わせる化け物みたいな人間が居るけど、この人も十分その一角に入って伍して戦うことができそうだ。
「自分は剣を扱えないので木刀でお願いします」
「ほう、刀か。いいぞ、好きな物を選べ」
四條流は基本的には無手の技術を高める武術の流派だ。でも一通りは刀を振るう訓練も行っている。それは刀を持つ相手の技術や考え方、攻撃の特性を学び取るためだ。現にクラスの実技実習ではロリ長や二宮さんとも打ち合っている。力では押されっぱなしで何とか技術で致命傷を免れているレベルだけど。
俺は演習場の端で東堂先輩に木刀を向けて構える。それにしてもこの人はこうして目の前で対峙してみると圧倒的な迫力があるな。上背は185センチくらいで横幅もはるかに俺を上回っている。相当鍛えているようで分厚い胸板と腕の太さは特筆すべきだ。ぶっとい首の上に乗る角ばった顔と引き締まった表情は力の勇者という表現が一番しっくり来るな。まるでそこに岩が立ちはだかっているような落ち着き払った重厚な闘志を感じる。
「いい構えだ。好きなタイミングで掛かって来い!」
「お願いします!」
俺は木刀を振りかぶって踏み込んでいく。わざと大振りな動きを見せておいて、東堂先輩が合わせに来る一瞬の隙を突いての小手狙い一択に決めている。俺のパワーと技術ではとてもあの分厚い壁を破れそうもないと判断したから、基本は防御を固めて隙を見せないようにしながら小技を繰り出すしかない。
ダメだ! 狙った小手は簡単にかわされて東堂先輩の斬撃が襲い掛かる。懸命に反応してやっと追いつくレベルだ。こんな速度の剣は過去に経験がないぞ。しかも重たいから腕がビリビリと痺れてくる。こちらから攻撃を繰り出す暇などない防御一辺倒で完全に押し込まれていく。たぶんレベルが上がっていなかったら一撃で吹き飛ばされていたはずだ。
嵐のような先輩の攻撃を何とか受け流しつつ隙を伺う。フェイントなど一切ない全てが止めを刺しにくるような豪剣を辛うじて食い止める。そしてその機会がようやく巡ってきた。珍しく繋ぎのあまり力が篭っていない一振りを東堂先輩が俺に向けてきた。俺はその剣を強めに弾いて後方に大きく跳んで一旦距離を取る。
”カラン”
俺の剣が地面に落ちて乾いた音を立てる。
「どうした? もう降参なのか?」
「いえ、先輩とまともに戦うとなったらこの木刀は邪魔になると判断しました」
「刀を捨てて無手で戦うというのか?」
「それが俺の本職ですから」
「ますます面白いやつだな。無手だからといって手加減はしないぞ!」
「無用です」
こうして俺と先輩の第2ラウンドが開始されるのだった。
次回、先輩に素手で向かっていく主人公の戦いぶりはいかに・・・・・・ 投稿は明日を予定しています。どうぞお楽しみに!
それから現在ローファンタジーランクの17位であと一息で日間総合ランクにも顔を出しそうです。皆様の応援本当にありがとうございます。こんなに順調にポイントが伸びているのは初めてなので、大きなプレッシャーを感じていますが、重圧に負けないように面白い話にしていきたいと思います。引き続き応援してください。