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52 事情聴取

すみませんでした! 体調を崩して先週末の投稿を1回お休みしました。ということで、引き続き舞台は学園からスタートします。

 トントン!


 俺がドアをノックすると中から声が聞こえてくる。



「お待ちください」


 おや? ジジイの声ではないな。もっと若い女性の声が学園長室から聞こえてくる。しばらく待っているとその声の主が中からドアを開いて顔を出す。



「どうぞお入りください」


 20代前半の女の人が丁寧な物腰で俺たちを内部に招き入れる。なんだか様子がおかしいな。一介の生徒、しかも入学してまだ1ヶ月の俺たちに対してずいぶん丁重な態度だ。まるで待ちかねた重要人物がようやく来てくれたかのような表情を浮かべているぞ。


 だがそれよりも気になったのはこの女性から滲み出る無意識な気迫の方だ。物腰は柔らかなのに相当な手練だという感覚が俺の神経にビンビン伝わってくるぞ。俺の母親には及ばないにせよカレン程度の腕だと一捻りされそうだな。


 学園長室の中にはジジイとその女性の他に数人の男性がソファーに腰を下ろして俺たちを待ち構えていた。一体誰なんだろう? ズラッと並んでいる顔触れに全く心当たりがないぞ。なんだか居心地の悪さを感じるな。歩美さんは見知らぬ人間に囲まれて緊張した表情をしているし、なんだか困ったもんだ。



「久しぶりだな、四條重徳。それから鴨川歩美だな。そこに掛けてくれ」


 ジジイ! なんだか上から目線で偉そうだな。まあ学園長だから偉いんだろうけど。ひとまずはジジイの勧めに従って俺と歩美さんは空いているソファーに腰を下ろす。



「さて、両名は今回の危機において生徒の救出に尽力してくれた。学園長として礼を言うぞ。このワシでさえ一時は学園長として責任を取らねばならないと腹を括った緊急事態であったからな。生徒たちが無事にダンジョンから脱出出来たのはそなたらのおかげじゃ」


「特に礼を言われるようなことをしたつもりはないぞ」


 歩美さんは黙っている様子なので俺が代表して返事をする。彼女は誰にでも優しいから聖女たちを守るために神力を行使したんだろうけど、俺は歩美さんを助けるついでに色々とやってきただけだ。実際俺にしても歩美さんにしても神様からもらった力を行使しただけで、そんなに大したことをしたという意識は持っていなかった。逆にクラスの女子たちからエラい勢いで持ち上げられて絶賛戸惑っている最中でもある。



「まあよいであろう、全く浮かれないその態度がいかにもそなたらしい。さて、この場に居るのは昨日の事件に関して改めて事情を聴きたい関係者じゃ。各々自己紹介をしてもらえるかのう」


 ジジイが視線で促すとソファーに掛けている男性が俺たちにあからさまな興味を示しながら自己紹介を始める。



「はじめまして、私はダンジョン管理局局長の細野です。お二方の活躍を耳にして本日はこうして学園に押し掛けて参りました。忙しいとは思いますが事情聴取にご協力ください」


「私は防衛省ダンジョン対策室の神山です。昨日ご提供していただいた魔族の死体と巨大な魔石は大変ありがたいサンプルとなりました。研究材料として有効に活用させていただきます。それから謝礼はダンジョン事務所宛に振り込んでおきましたから、後程受け取ってください」


 どうやらダンジョン管理局の一番偉い人と防衛省の人が揃ってこの場にやって来たらしい。それぞれが部下なのか秘書なのかわからないけど2人ずつ引き連れているから、部屋のソファーは定員いっぱいになっている。それはそうとして、魔族の死体と魔石の謝礼が受け取れるのか。これは悪い話ではないな。



「どうぞ」


 自己紹介が終わるタイミングで、さっきドアを開けた女性が俺たちにお茶を出してくれる。この人はもしかしたらジジイの秘書なのか? いい年をしやがってこんな若いきれいな人を秘書にしているなんて、このジジイは上手くやっていやがるな。もしかして愛人だったりしたら、このジジイは死んだら絶対に地獄に落ちるだろうな。今俺が地獄に叩き落しても構わないが、どうせあと10年もしないうちに勝手にお迎えが来るだろうから、この場は見逃してやるか。



「さて、我々は君たち2人がどうやって1000体を超えるゴブリンと魔族を倒したのか興味があるんだ。今後の参考までに何か話せることがあれば教えてもらいたい」


 どうやらこれが本題らしいな。俺は歩美さんと顔を見合わせる。彼女は目で俺に任せると合図を送っているので俺が対応するしかないな。



「どうやって倒したと言われても、普通に倒したとしか言いようがないです」


「普通に1000体以上のゴブリンを倒したというのかい? おまけに魔族まで! そんな馬鹿な話はないだろう。君たちは何か特別な方法を用いたのではないかと我々は考えているんだよ」


「特別な方法と言われても特に何もありません」


 俺たちの力の詳細などおいそれと明かせる筈ないだろう。はいそうですか、教えますよ! なんてお手軽なものじゃないんだぞ! 俺の口が堅いと考えたダンジョン管理局の偉い人は今度は話の矛先を歩美さんに向ける。



「鴨川さんは生徒を守るために信じられないレベルの魔法障壁を展開したとこの学園の教員が証言しているけど、それは具体的にどのような力なのか教えてもらえるかな?」


「残念ですがお答えできません」


 俺と同様にキッパリとした口調で回答を拒否している。普段は穏やかな人柄なんだけど、こういう芯の強さも持っているんだな。神社の娘だから神様に関する秘密は絶対に守り通すという強い意志を感じる。



「ダンジョン管理局としては強力な力を持つ冒険者個人の能力を把握しておきたいんだが」


「冒険者の能力に関しては詮索しないのがルールの筈だ。敢えてそのルールを破ろうというのならこちらも考えなければならない」


 俺がちょっと強気に出ると、管理局の人はあっさりと引いた。代わって防衛省の人が口を開く。



「四條君が魔族の死体を持ち帰ってくれたおかげで異世界からの侵略が揺るがなき事実であると証明された。我々は世界中にダンジョンに魔族が現れたと公表する考えだが、当事者の君たちは同意してくれるるだろうか?」


「俺たちの名前を出さないなら公表しても構いません」


「もちろん名前は伏せる。ただし今回は目撃者が多数存在するから、君たちの活躍がどこかから漏れる可能性はある」


「それは仕方ないですね。マスコミが押し掛けて来るような事態は勘弁してもらいたいですが」


「その点に関しては私たちを信用してもらうしかない。君たちの能力は単にダンジョンに関する情報ではなくて、将来考えられる魔族との戦いに関する軍事機密に抵触する恐れがある。マスコミには君たちの件に関して厳重な情報統制を敷くから問題はないはずだ」


 俺たちは神様からもらった能力が判明しなければそれで構わないと考えている。それはそうとして、どうやら日本の政府はすでに魔族との戦争が開始されていると本腰を入れて準備しているようだな。全く準備をしないで様子見の態度を取るよりは、こうして臨戦態勢を構築してくれた方が俺たちも動き易いだろう。



「君たちの協力に感謝する。それから魔族の戦闘力を知りたいのだが、どの程度のものだったか教えてくれるかな?」


「やつらは全員が体に魔法障壁を展開しています。だから障壁を上回る威力の打撃や魔法攻撃を加えないと倒せませんね」


「君たちは倒したんだよね」


「5人のうち4人は下っ端の兵士だったので簡単に倒しました。とは言っても厚さ2センチの鉄板をぶち抜くくらいの威力がないと倒せませんよ」


 ちょっと大袈裟かなと思いながらも、俺は魔族の魔法障壁に関して事細かに説明をしていく。もちろん防衛省の人たちは目を丸くして聴いているのは言うまでもない。これが将来魔族に対する有効な兵器の開発に繋がるかも知れないからなるべく詳細に伝えないとな。それから結局は逃げられてしまった指揮官の装備についても話しておこうか。



「自動小銃で程度では全く役に立たないということだね。もっともダンジョン内の魔物相手でも効果がないから、我々にとってはこれは当然という受け止め方だよ。大型の兵器は狭くて持ち込めないし、頭の痛い所なんだよ。どのような武器が有効なのかをこれから考えていきたいんだ」


 なるほど、自衛隊の人たちがダンジョンに入り込めないのはこんな事情があったのか。確かにあの通路を戦車が進むのは不可能だし、ミサイルとか使用したら爆発の余波でこっちまで被害を受けそうだよな。結局使い勝手がいいから剣とか魔法が一番有効なんだよな。防衛省の皆さん、新しい兵器の開発どうか頑張ってください!



「最後にこれは私の執務室の直通番号だ。何か合ったら気軽に連絡してほしい」


 俺は1枚の名詞を手渡されると、そこには名前と電話番号だけが記載したあった。そうだ! あの隣の国の工作員がやって来るようなことでもあったら連絡すればいいのか。これはマジックバッグの中に保管しておこう。



「ありがとうございます。何かあったら連絡します」


「そうだね、たとえば隣の国の工作員が君たちを拉致しようとしているとかね」


 ああ、この人はあの件を知っているんだな。ヌシ様が境内を神域に変えたから直接現場を目撃されてはいないだろうけど。それでも工作員の動きを監視していたら神社から1人も出てこないし、乗ってきた車はその場に放置されたまま。状況証拠をつき合わせて、あとは想像力を働かせれば何があったかなど容易に正解に辿り着くだろうな。ただ工作員を尾行してたんだったら俺が手を下す前に止めてくれても良かったんじゃないのか? ちょっと嫌味の1つも言いたい気分だ。



「そうですね、次回は連絡しますよ」


「後始末ぐらいは任せてもらうよ」


 防衛省の人は片目を瞑った。全部わかっているというサインだな。まあ具体的な証拠がないから神社の境内で殺戮劇があったなんて証明出来ないんだけどね。それにしても防衛省の情報収集能力は中々侮れないもんだな。



 こうして事情聴取はようやく終わりを迎えて、俺たちが解放されたのは3時間目の授業の終わり頃だった。そのまま2人で教室に戻って午前中は座学の授業を受けるのだった。









 その日の昼の時間・・・・・・



「師匠! やっと授業が終わったッス! 自分は座っているのは苦手ッス! 腹が減ったから食堂に行くッス!」


「義人、座っているのが苦手なのは俺も同じだ。どれ、今日の食堂のメニューはなんだろうな?」


「ノリ君、お勉強もしっかりと受けないとダメですよ!」


 こうして歩美さんのお小言をいただきつつ、俺たちは学生食堂に向かう。いつものメンバーに加えて上条さんも行動をともにしているな。いつの間にかロリ長と仲良さそうに話をしているぞ。もしかしてロリ長ハーレム犠牲者第2号なのか? とまあこんな普段と変わりない様子で食堂に入った瞬間・・・・・・



「歩美ちゃん、ありがとう!」


「命の恩人が来たわよ!」


「歩美ちゃん、本当に可愛いんだから!」


「あの力の秘密を教えて!」


 歩美さんの姿を発見した上級生が一斉に彼女を取り囲んで、手を取って感謝を伝えている。その光景は街中にアイドルが突然姿を現したが如く、何十人もの人の輪がその場に出来上がっているのだった。



「あ、あの・・・・・・ その」


 突然の大歓迎振りに歩美さんは輪の中心でオロオロしている。そしてその同じ頃・・・・・・



「四條、感謝しているぞ!」


「一時は死を覚悟したからな。お前がゴブリンを片付けてくれて本当に助かった!」


「よくあれだけ大量のゴブリンを倒せたな!」


「本当に凄いヤツだぜ!」


 俺は3年生の先輩たちから肩や頭をバシバシと叩かれて手荒い歓迎を受けているのだった。いやいや、先輩方! そんな力を込めて叩いたら痛いでしょうが! それでも歓迎は一向に止もうとしない。俺の肩や背中には無数の手形がついているんじゃなかろうか。そしてようやく終わったと思ったら、俺の前には1人の先輩が立っている。



「四條、改めて礼を言う。俺は3年Aクラスの近藤だ。お前が道を切り開いてくれたおかげで俺たちはあの困難な状況から脱出出来た。心から感謝しているぞ」


「お役に立ててなによりです」


 俺は近藤先輩が差し出した右手を握ってガッシリと握手を交わす。ちょうどそこに見覚えのある顔がやって来た。



「四條、お手柄だったな! 俺が駆け付けた時には先輩たちがダンジョンから出てくるところだったぞ!」


「東堂先輩、そんな大したもんじゃないですから」


 先輩の前だから一応謙遜しておこうか。あまり手柄をひけらかすのは好きじゃないし。



「東堂、お前は四條と知り合いなのか?」


「近藤先輩、こいつとは訓練で一度打ち合った仲です。こうなるとたとえ一度でも四條に打ち勝ったのは自慢になるな。四條、近藤先輩は第1ダンジョン部のキャプテンだ。漢気に溢れた人だから困ったことがあったら俺同様に頼ればいい!」


「はい、ありがとうございます。近藤先輩、今後ともよろしくお願いします」


 そうだったのか! 近藤先輩が第1ダンジョン部のキャプテンだったんだ。すると次期キャプテンが東堂先輩なんだな。この2人は同じダンジョン部で気心が知れている間柄なんだろう。



「ハハハ! 実力は東堂の方が遥かに上だが、3年生という理由で俺がキャプテンを務めているだけだ。ところで四條はどこかのダンジョン部に入っているのか?」


「はい、第8ダンジョン部です」


「そうか、それは残念だったな。我ら第1ダンジョン部は超有望な新人を取り逃がしたのか。それは今更仕方がないから、今後は互いに切磋琢磨していこう!」


「こちらこそよろしくお願いします」


 すでに第8ダンジョン部に入部をしている俺の立場を思い遣って、敢えて勧誘しないところが近藤先輩の度量の広さだろうな。タイプとしては東堂先輩とよく似ている印象だ。今回の事件をきっかけにして興味を惹かれる人と知り合いになれたな。


 こうして先輩の歓迎を終えて、俺は歩美さんたちが待っている席に向かうのだった。

 



重徳を巡る人の輪が次第に広がりつつあります。次回は久しぶりにダンジョン部の話になりそうです。

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