表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/53

5 ちょっと見学のはずが・・・・・・

遅い時間ですが第5話の投稿です。

 俺が鴨川さんを伴って勇者の皆さんが集まっている場所に向かうと、訓練担当の教官が呼び止める声が聞こえてくる。



「おい、そこの生徒たち! お前たちは勇者ではないから別の場所に行くんだ!」


 はいはい、またもや一般人を格下に見るアホ教官が出現しましたと。俺は何しろ校長から『兵の意地を見せてくれ』と言われているから、こんな下っ端教官に何を言われようと素直に従う気なんて小指の先程も持っていない。



「別に俺たちがどこで訓練しても構わないじゃないですか。まだ場所も余っているようだし」


 いきなり波風を立てるつもりはなかったから俺は意識して普通の口調で答えたつもりだ。だが教官に向かって口答えすること自体がどうやらこの相手には許せない行為だったらしい。激高して俺に掴み掛からんばかりにこちらに向かってやって来る。



「貴様は一般人の分際で何を一人前の口を利いているんだ! その腐った根性を叩き直してやる!」


「止めといた方がいいですよ。ついさっき同じような態度で俺に掴み掛ってきた生徒指導の先生を投げ飛ばしたばかりですから」


 あーあ、鴨川さんには上手く誤魔化したあの一件を自分で暴露しちゃったよ。言わんこっちゃない、鴨川さんは目を白黒させているじゃないか。でもどうやら俺の制止はそれなりの効果があったようで、教官は驚いた表情で立ち止まる。ああ、そうだ! この学校では座学やホームルームでは『先生』と呼んでいるが、実技実習の時だけは『教官』と呼ぶのが慣わしとなっているそうだ。



「まさかお前が熊沢先生を投げただと! あの人は柔道5段の腕前だぞ!」


「柔道が何段だろうが、俺に投げられた事実は変わりませんよ。そんなに疑うならクラス担任に聞いてください。目の前で目撃していましたから。それから俺が勇者4人を叩きのめした話も知っていますよね。なんでも2人は病院送りになったと聞きました。強い者を優先するなら剣技の基礎も知らないような生っちょろい勇者よりも俺を優先してもらえますか」


 ははは、ぐぬぬ…という表情でこの教官は何も言えなくなっているぞ。勇者だからこの場を独占して使用するんじゃなくて、この学校の仕組みは強い者が優先なんだよ! これは先程校長のジジイから入れ知恵されたんだ。勇者を4人ブチのめしているんだから、当然演習場を使用する資格くらいはあるだろう。そういえばどうでもいいけど、あの生徒指導担当の教師は熊沢というのか。確かに熊みたいな体格をしていたな。



「あ、あの・・・・・・ 四條君、教官と揉めるのは色々とマズいんじゃないでしょうか?」


 まったく言わんこっちゃないだろうが! 俺と違って常識人の鴨川さんが気の毒にも怯えているじゃないか! 言っておくが俺は一般人だけど決して常識人ではない! 自分が納得できない理不尽な屁理屈には徹底的に反抗するからな。あのジジイのように物分りが良ければ俺も敢えて事を荒立てようとは思わないけど。



「好きにしろ! ただし勇者の訓練の邪魔をするな!」


 悔しそうな表情で捨てゼリフを吐き付けて来る教官、俺に言い負かされてさぞかし無念でしょうな。ねえ、今どんな気持ち? しかしながら正義は俺に味方しているのだ! ジジイからこっそりと聞いちゃったからな。『この聖紋学園では強い者こそ正義だ!』と。ハッハッハ、ならば俺流の正義を押し通してやろうじゃないか! おっと、いかんな! 俺の中の暗黒面が顔を覗かせている。鴨川さんの前でこれ以上ヤバい姿を見せるのはナシにしておこう。


 さて、教官殿が寛大な心で演習場の使用を許可してくれたから、俺は堂々と勇者たちの中を鴨川さんの手を引いて突っ切っていく。目指す場所はロリ長がいる所だ。あいつは面白そうな表情で俺と教官のやり取りを見ていた。俺が近づいて行くと、クイッと右手を上げてサムアップをする。



「ずいぶん楽しそうに教官と話をしていたな。それはそうと四條はあの4人だけじゃなくて生徒指導担当の先生まで投げ飛ばしているとは傑作だね」


 ニコリと笑っているその表情は泰然自若とでも言うのだろうか、多少の物事には全く動じなさそうな正真正銘の勇者の風格があるな。ただし心に抱いている大義が残念すぎるけど。エルフだけならまだしも、幼女を舐め回すって・・・・・・


 

「鴨川さんが聖女たちから仲間外れになっていたからこっちに連れて来た。邪魔にならないように2人で護身術の簡単な練習でもやっているから、信長は自分の訓練に専念してくれ」


「ほう、護身術か! 僕は剣に関してはそこそこ訓練を積んできたから自信はあるけど、素手での格闘は何も知らないんだ。良かったら教えてもらえるかな?」


「ああ、構わないぞ。仲間は多い方がいいからな。それじゃあ3人で四條流の基礎からやっていこうか」


「よろしくお願いします」


 こうしてロリ長も交えての基礎訓練が開始されるのだった。






 この日の放課後、俺は一緒に校門を出たロリ長、鴨川さん、二宮さんと別れて家路に着く。3人は電車で通学しているので駅へと向かう。俺の家とは全くの反対方向だ。入学して2日目の本日も中々盛りだくさんの内容だったなと、一日を振り返りながらのんびりと帰宅する。春の柔らかい日差しがそろそろ西に傾いて、風がやや冷たく感じる時間だ。


 結局四條流の護身術講座は途中から参加した二宮さんも交えて4人で午前中をかけてみっちりと行われた。勇者の2人は理論立った体の捌きにしきりに感心していたな。闇雲に体を動かすんじゃなくて『こうすればこうなる』とわかっていれば、動きの無駄がなくなっていくんだ。当然それは剣を扱う時にも十分に役に立つ。それにしてもあの2人の覚えの良さは異常だよな。教えた側から体が俺と同じように動くんだ。これは俺もウカウカとはしていられないぞ! 2人だけじゃなくて他の勇者も同じように覚えが良いとしたら、現時点で俺が持っている技術的なアドバンテージなんてあってないような物だ。


 勇者たちに遅れをとらないように俺自身がもっと強くなっていかなければならないよな。ジジイとも約束したし。何か良い方法はないかと思案することしきり・・・・・・ そういえば昼休みにロリ長がダンジョンの話をしていたな。


 なんでもダンジョンの中にいる魔物を倒すとレベルが上がるらしい。レベルが上昇すれば、身体能力や攻撃力もアップする仕組みになっていると言っていたな。いずれは生徒同士がパーティーを組んでダンジョンに入ると担任も言ってた。この際だから今のうちにちょっと見学だけでもしておこうかな。果たしてどんな場所なのか知っておいて損はないだろうし。


 ダンジョンは学校から家に帰り着く最後の曲がり角の反対側の道を100メートル先に進んだ場所にある。元々その場所はお寺だったんだけど、ダンジョンが裏山に出来て移転したんだよな。ランニングコースなのでほぼ毎日その前を通っているけど、中がどうなっているのかは今まで全然知らなかった。でもレベルがアップするなら、利用しない手はないんじゃないかという考えが俺の中で鎌首を擡げ(もたげ)始めている。



 家とは反対方向に曲がるとすぐにダンジョンが見えてくる。自動小銃を手にした自衛隊員が入り口の両脇に立って、その奥には装甲車まで止めてある物々しい警備状況だ。入り口に近づいていくと、ちょうど中から出てきた男性が俺に気が付いた様子で立ち止まる。その人はニコやかに俺に声を掛けてくる。



「おやおや、聖紋学園の生徒だね。まだ制服が新品ということは新入生かな? どうやら君が今年の学園の新入生で登録第1号のようだね。さあ、こちらに来なさい」


「はあ」


 登録? はて何のことでしょうか? 訳がわからないままに俺は男性の手招きに従って入り口の門を潜って行く。警備をしている自衛隊の方々は俺が中に入るのを完全にスルーしている。かつてはお寺のだった名残がまだ残っていて、池や清め所がまだそこに面影を忍ばせる。子供の頃はセミを採りによく境内に入った記憶が蘇って来るな。そのまま俺は敷地の中にある建物に通された。見た感じは2階建ての事務所のような造りだな。確かここは本堂があった場所だ。



「さて、登録第1号の君を歓迎するよ。例年よりも1ヶ月くらい早いね。ここはダンジョン管理事務所、異世界風に言えば冒険者ギルドかな。君はどこのクラスだい?」


「1年A組です」


「おお、勇者のクラスじゃないか! それはますます頼もしいな」


 ありゃりゃ、この人は俺が勇者だと勘違いしちゃったかな? それにしても管理事務所はわかるけど冒険者ギルドって何だ? 例の異世界からの侵攻という話も入学して初めて聞いたし、俺はこの件に関して全く無知同然だな。どうせならここで詳しい話を聞いておこうか。家に帰っても稽古しかすることはないし、それは午前中に2人の勇者を相手にして結構やったからな。



「すみませんがダンジョンってどんな場所なのか話を聞かせてもらえますか。あまり知識がないものですから」


「そうかね、いやいや勉強熱心だね! ここは大山ダンジョンと言われている首都圏では唯一のダンジョンだよ。そのほかに日本国内には、旭川、恐山、、富士、熊野、阿蘇の合計6箇所のダンジョンが確認されている」


「そうなんですね。勉強になります」


「話を続けるよ。そもそもダンジョンとは何かという話だが、実のところ急にこのような物が出来上がった理由が正確にはわかっていないんだ。ただし、内部にいる魔物は絶対にこの世界のものではない。しかも魔物は年々強力になっている点から言って、異世界からの力が強まっているとしか考えられないんだ」


「年々魔物が強くなっているんですか?」


「そのとおりだよ。出来た当初はちょっと体力に自信がある者だったら誰でも内部に入って魔物を倒せたんだけど、今は専門的な訓練を受けた人間でないととても歯が立たないんだよ。だから君たちのような生徒が訓練するための学校が各地に設立されたんだ」


「その学校というのはダンジョンの近くにあるんですか?」


「ああそうだよ、ダンジョンの近辺でないと時間をロスするだけだろう。授業でダンジョンに入る実習も近い程それだけ探索する時間が取れる」


「そうなんですか! よくわかりました。それで中の様子はどうなっているんですか?」


「現在判明しているのはこのダンジョンは25階層までは確実にあるということだね。その先に行った者はまだ誰もいないよ。内部は洞窟のようになっている箇所や、フィールドダンジョンといって森のようになっている階層もある。そしてそこには人を狙って襲い掛かってくる魔物が存在するんだ」


 魔物か・・・・・・ 俺のイメージが貧困なせいか、クマとかイノシシみたいな動物しか浮かばないけど、どんなやつが相手になるのかしっかりと聴いておいた方が良いな。



「魔物の種類にはどんな物があるんでしょうか?」


「うん、感心感心。登録の時にそこまでしっかり話を聞こうとする生徒さんは中々いないんだよ。みんな説明を端折って登録だけして帰るからね。さて、魔物の種類だったね。まずは入り口を入った1階層目に出てくるのはスライムとかゴブリンなどだね。両方とも比較的倒しやすい魔物だけど油断は禁物だよ。特にスライムには物理攻撃が効果がないんだよ」


「それじゃあどうするんですか?」


「魔法による攻撃が有効だね。君のような勇者には魔法のスキルがあるからそれで倒すんだよ」


 やっぱりこの人は俺を勇者だと勘違いしているみたいだな。実は勇者クラスに在籍する一般人なんだけど・・・・・・ まあいっか!



「一階層では魔物が単体で出てくるけど、2階層以降では1度に複数現れるケースがあるんだ。そのために中に入る冒険者はパーティーを組む。その方が効果的に魔物を倒せるからね。でもデメリットもある。魔物を倒した後に得られるドロップアイテムや経験値が当然頭割りになる。だから大抵の冒険者は多くても5,6人でパーティーを組んでいるんだよ」


 なるほど、パーティーか! 確か担任がそんなことを言っていたな。でもドロップアイテムとか経験値って何だろうな? 聞いてみようか。



「ドロップアイテムは討伐された魔物が落とすご褒美みたいなものだよ。隣の買い取りカウンターに持ち込めば所定の金額で買い取ってもらえる。経験値はレベルを上昇させるために必要なんだ。一定の経験値が貯まると次のレベルに上がるんだよ」


 質問する前に先に言われた! でもこの人は本当に親切に何でも教えてくれるな。学校の先生はいかにも『そんなことは知っていて当たり前』という態度だけど、俺みたいに何も知らない人間だっているんだぞ!



「そういう仕組みになっているんですね。じゃあたくさん魔物を倒すとすぐにレベルが上昇するんですね」


「ところが中々そういう簡単な仕組みにはなっていないんだ。確かに初期のレベル7,8までは思いの他簡単に上昇するんだけど、次第に次のレベルまでに必要な経験値が増えていくんだよ。だから高いレベルを目指すためにはより強い魔物を倒す必要があるんだ。1体倒しただけで経験値をたくさん得られるからね」


「結構意地の悪い仕組みですね」


「真にそのとおり! だからスライムだけ倒しても上昇するレベルには限界があるんだ。更に上を目指すには必然的に深い階層まで進まないとならない。だが深い階層は危険性が増してくるのは当然だ。自分の現状の力をしっかりと把握して、適切なレベルの階層で活動しないと痛い目を見るよ」


「よくわかりました。ありがとうございました」


 一通り話を聞き終えて、俺はその場でダンジョン内に入っていくための登録を済ませる。聖紋学園の学生証を見せるだけの簡単な手続きだった。登録を終えるとプラスチック製のカードを手渡される。これがダンジョンの通行証になるらしい。ついでに新入生登録第1号のご褒美として写真解説入りの魔物図鑑をもらった。出現する階層とか攻略法が丁寧に解説してある優れ物だ。よし、これでしばらく魔物の攻略法を学習しよう。


 こうして俺は丁寧に頭を下げて、ダンジョンを後にするのだった。

次回は四條重徳いよいよダンジョンにアタック! はしないと思います。彼は戦闘に関して意外と用意周到なタイプで、色々と準備を開始する予定です。投稿は明日の予定です。なるべく早めの時間を予定しています。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ