49 原因
ゴブリンの大量発生の原因を究明するためにダンジョン内部を進む重徳たちは・・・・・・
「ノリ君、それにしても次から次にゴブリンが現れますね。普段の1階層ってどうなっているんですか?」
「今起きているのは明らかに異常事態だからな。いつもはもっと静かだよ」
「そうなんですね! 私はダンジョンの内部を全然知らないので、色々と教えてもらえると助かります」
「普段の1階層はゴブリンは単体でしか現れないんだ。それが今日に限ってこの有様だからな。絶対に何らかの原因があるはずだ」
俺と歩美さんは並んで歩きながら、押し寄せてくるゴブリンの群れを次々に薙ぎ払っていく。交代交代に俺が篭手から稲妻を放ったり、歩美さんが神水霧断で群れごとまとめて討伐しながら通路を進んでいる。だがこうして100体単位でまとめて討伐してもゴブリンは通路の先から次々に現れてくるのだった。
「ノリ君、その原因をどうやって突き止めるんですか?」
「こうしてゴブリンが現れてくる方に向かっていけば、いずれは発生している場所が突き止められるはずだ。川の源流に向かって遡るような物さ」
「そうだったんですか! アテもなく適当に歩いているんだと思っていました」
「さすがにそこまで無策じゃないぞ」
歩美さんは巫女様として人智を超越する力を持っている。とは言ってもつい2週間前にその力が発現したばかりで、言ってみれば巫女様界では初心者マークだ。元々が人と争うのが苦手な性格だったので、魔物の発生原因の調査と言われても何をすればいいのかさっぱりわかっていない様子だし。この辺はこれからもっと戦いを経験していけば自ずと掴めてくるんじゃないかな。でもこんな穏やかでのんびりとした性格だからこそ、彼女は俺にとって最上の癒しを与えてくれる存在なんだ。俺を差し置いてガツガツダンジョンを攻略する歩美さんではさすがの俺もドン引きしてしまうかもしれない。
「さすがはノリ君です! 私にはそこまで思い当たりませんでした!」
「いや、この程度で褒められてもダンジョンを探索する者としては全然嬉しくないから。ほら、またゴブリンが集団で現れたぞ! 今度は俺の番だな。それっ!」
「ノリ君お見事です! えへへ・・・・・・ それにしてもこうしてノリ君と並んで戦えるのがちょっと嬉しいです」
「そうなのか? 歩美はこういう戦いに不向きな性格だと思っていたけど」
「確かに争い事は好きではないんですが、私はノリ君に守られるだけではなくてこうして横に並んで一緒に戦いたいんです。それに一緒に居ればノリ君の無茶も止められますから」
何だろう、俺の隣に居る歩美さんが可愛過ぎるぞ! こうして彼女に引き逢わせてくれた神様に大感謝しよう! ・・・・・・でも確かにそうだったな。入学当初は運動神経は人並みにも拘らず、一所懸命に四條流を練習して汗を流していたよな。あれは俺と一緒に戦いたかったから歩美さんなりに努力していたということなんだな。まあ今では巫女様になったおかげで、俺でさえも敵わない能力が身に着いているんだけど。ああ、でも巫女様になる前の金的攻撃は最強の威力だったと付け加えておこうか。あれは今では俺にとって大きなトラウマになっているんだ。
「さて、どうやら左側からゴブリンがやって来ているようだな。歩美、もし反対側からも現れるようだったら対処してくれ」
「わかりました! まだ神力は十分に余裕がありますから私に任せてください!」
こうして俺たちはゴブリンが湧き出てくる場所を目指して1階層の通路を奥へと進んでいく。討伐数はかれこれ1000体に迫っているんじゃないだろうか。いくらゴブリンでもこれだけ数がまとまるとそれなりに経験値を得られる。俺は本日の討伐開始からすでに2回レベルアップしているし、歩美さんに至っては群れをまとめて消し去るたびにレベルが上昇して、今は自分のレベルがいくつになっているのかわからないそうだ。引っ切り無しにゴブリンが現れる状況ではステータスを見ている暇もないから、無事にダンジョンを出てからゆっくり確認しよう。
こうして俺たちは1階層の中央部に向かって通路を進んでいく。中央部は他の階層だと転移陣が設置してある広場なのだが、この1階層には入り口付近に戻って来る時専用の転移陣があるので、そこは本来ならば体育館くらいの開けた場所だけがある筈だった。だが現在は通路同様にゴブリンたちがびっしりと群がって、四方に伸びる通路に次々と雪崩れ込んでいるようだ。それと同時に背が低いゴブリンに混ざって、広場の真ん中辺りには人と似ているのものの、どこからどう見ても異形の存在の姿をした連中が何か儀式のようなことをしている様子が視界に飛び込んでくる。
「歩美、どうやらこの場所に発生原因があるようだ。あそこに人のような姿をしたヤツが居るし、アホみたいに大きな魔石が置いてある。たぶんあの魔石がゴブリンを生み出していたんだ」
ゴブリンを生み出す原理は恐らく俺が飛ばされた謎のフロアーで祭壇に置かれた魔石を壊すまで後から後からウルフが湧き出て来たのと一緒だろうな。一体何の目的でこんな悪さをしていたのか時間を掛けて吐かせたい所だけど、ひとまずはこの異常事態を食い止めるのが先決だろう。
「歩美、この広場を埋め尽くす魔物を一気に討伐してほしい。可能か?」
「このくらいの範囲でしたら少し多めに力を込めれば大丈夫です! それでは神水霧断!」
歩美さんの体から大量の神力が湧き上がり瞬く間に霧へと姿を変えると広場を包み込む。その内部からはゴブリンの断末魔の絶叫が聞こえてくるが、すでに何回も聞いている叫び声なので俺たちは気にも留めていない。やがて魔物たちを包み込んでいた霧が晴れるとそこには・・・・・・
憎しみの炎に見開いた目を爛々と輝かせる5人の男が立っていた。どうやら何らかの方法で神水霧断を回避したんだな。それなりに力がある連中だと考えていいだろう。
それにしてもダンジョンの内部で魔石を使用して大量のゴブリンを召喚していた点や、人間と比べて青白い顔と先が尖った長い耳を鑑みるに、もしやこいつらがこの世界の侵略を企てている異世界の連中だろうか?
そんな疑問を抱いていると、俺と歩美さんが現れた通路を睨み付けるようにしてそのうちの1人が口を開く。その表情は自分たちの邪魔をされた忌々しさと広場を埋め尽くしていたゴブリンが一瞬で消された驚愕に満ちた複雑な感情を顕にしている。
「よくも我々の邪魔をしてくれたな! ふん、どのような大軍が登場したのかと思えばたった2名でこの場に現れるとは全くを以って笑止なこと! この場で討ち倒して魔物どもの餌にしてやるぞ!」
俺たちが2人しか居ないのを知って、今度は残忍そうに表情を歪めているな。こいつはどうやら俺たちを侮っているようだ。大軍でゴブリンを始末するよりもたった2人で消し去る方が脅威の度合いが高いと思うんだが。まあいいか、ナメられているくらいの方が相手側に隙が出来るから戦い易いしな。さて、ちょっと挑発してやろうか。怒らせた方が我を見失って色々としゃべってくれるかもしれないぞ。
「何者かは知らないがちゃんと飯を食っているのか? ずいぶんと顔色が悪いぞ! 貧血でも起こしているんじゃないだろうな」
「貴様は我ら栄えある魔族を愚弄するつもりか! これが我らの正常なる姿だ!」
はいはい、正体を明かしてくれましたよ。こいつらは魔族なんだな。ということは魔王の手下という訳か。ダンジョンで魔物と対峙した経験は多々あるものの、こうして魔族に出くわすのは初めてだな。軽く挨拶でもしてやろうか。
「そうか、お前たちが魔族なのか。わざわざ俺たちの世界までこうして出張ってきてご苦労だったな。どうせ魔王の手下とは言っても使いっ走りの下っ端なんだろう。無理をしないでこの場から逃げた方がいいぞ。無駄に命を散らせる必要はないだろう」
「栄えある魔王様の親衛隊たる我らを下っ端と抜かすとは忌々しき者であるな。我らを愚弄するその舌を引き抜いて目玉を繰り抜いてやるぞ!」
なるほど、魔王直属の精鋭なのか。まあ本人曰くだから話半分に聞いておけばいいかな。たぶん今しゃべっているのが小隊の指揮官で、残りはどうでもいい下っ端なんだろう。
「その魔王親衛隊がご苦労なことにダンジョンの1階層に現れたというのか。大方将来の脅威を取り除こうと企んだんだろう。お前たちから見ればこちらの世界に大量に存在している勇者や聖女は脅威だろうからな」
「我が魔王様は何者だろうが恐れぬわ! 我らはたまたま偵察と相手の力を計ってこいと命じられたのだ」
ふーん、俺の当てずっぽうはそこそこ正解に近かったようだな。いわゆる威力偵察というやつで、敵と実際に戦闘を行ってその戦力を把握しておこうという意図だったんだな。聖女とその護衛だけだったらこいつらの意図通りに威力偵察は成功していただろうけど、そこに歩美さんというイレギュラーな存在が加わったせいで目論見に齟齬が生じたようだ。ザマー見ろと声を大にして言ってやりたい気分だな。
「それじゃあ聞きたいことはもうないから、そろそろ始めるとするか」
「良い覚悟だ! むざむざとこの場に屍を晒す用意が出来ているのだな。者ども、我らを愚弄した罪は重い! なるべく残忍な方法で一寸刻みにして殺すのだ!」
「「「「応!」」」」
4人の魔族兵が一斉に腰の剣を引き抜いて俺たちに向かってくる。さすがに白兵戦は歩美さんにはまだ早いから、この場は俺に任せてもらうしかないな。
「歩美、神壁展開! しばらく身を守りながらやつらの戦い方を観察しているんだ!」
「ノリ君! 私も一緒に!」
「今はまだ早い! 却って俺の足を引っ張る可能性が高い! この場は大人しくしているんだ!」
「わかりました。ノリ君、気をつけてください! 神壁絶隔!」
こうして歩美さんの体は神壁に包まれる。これで彼女を一旦横に置いて目の前の戦闘に集中出来るな。必要に応じて歩美さんから援護してもらえば、5対1の数的不利は何とかなるだろう。
「神足、神速、隠形、身体強化、神眼、発動!」
有りっ丈のスキルを自分に掛けると、正面から向かってくる魔族を回りこむようにしてその背後に立つ。相手はどうやらこの動きを目で捉えていないようで、急に姿を消した俺を探して右往左往しているな。それじゃあ手近な1人目から順番に行ってみようか!
後ろ側に回り込んだ俺の存在に気がついていない魔族兵の後頭部に向けて俺は拳打を放つ。相手の体に当たる直前にガラスが割れるようなパリンという手応えが右手に伝わるが、そのままを拳打を思いっきり振り抜いていく。
ゴガッ!
あれれ? さぞかし手強いのかと警戒していたら、体勢を崩してやろうと思って放った拳打1発でそいつはダンプカーに衝突したような勢いで吹き飛んで行ったぞ。地面に落ちた衝撃で首が曲がっちゃいけない方を向いているな。そのまま体を痙攣させて全く動かなくなっているじゃないか。なんて貧弱な体なんだ! 魔王の親衛隊というのはまともに訓練を積んでいるんだろうか?
・・・・・・そうだった。俺の通算レベルは110を超えていて、攻撃力は恐らく13000くらいに到達しているんだ。拳打が体に当たる前に手に伝わったパリンという手応えは、魔族が体の表面に何らかの障壁を張っていたと考えて間違いないだろう。でも俺の攻撃力が障壁の防御力を上回った結果、魔族兵はたったの一撃であの世に旅立ったんだな。本日は大変ご愁傷様でした、ナムナム・・・・・・
おっと、俺の存在に気づいた別の魔族が剣を振り上げて襲い掛かってくるな。でもスキル全部掛けしている俺の目にはコマ送りのように映っているぞ。神速全開で横に回りこむと側頭部に拳打一閃! はい、これでもう一丁あがりだ! 呆気ない程にその体は吹き飛んでこれまた首と右手が曲がっちゃいけない方を向いて地面に横たわっているな。
さて残りの兵隊は2人か。おやおや、そのうちの1人が神壁に囲まれた歩美さんに向かっていくぞ。大方俺が手強いから彼女を人質に取ろうとでも考えたんだろう。だがそう簡単にいくのかな? 俺はもう1人を手早く片付けながら、どうなるかその行方を見ているだけだ。
「女の方を先に片付けてやる! 食らえぇぇぇぇぇl!」
歩美さんに向かって振り上げた剣を思いっきり叩き付けているが、当然神壁に阻まれて魔族の剣は彼女の体の遥か手前で停止している。
「これは魔法障壁か! ならばこの剣で打ち破るのみ!」
魔族はなおも繰り返し剣を叩き付けるが、アメノミナカヌシ様から授けられた歩美さんの神壁はビクともしない。それでも魔族の最後の一兵は諦め悪く剣を叩き付けている。歩美さんが小声で何かを呟くと今度は神壁全体にチリチリと小さな火花が散り始める。だが肩で息をしながら力の限り剣を叩き付けていた魔族兵はその変化に気が付かないままに再び剣を振り下ろす。その結果として、広場には絶叫が響いた。
「ギャァァァァァァァ!」
歩美さんは神壁に電流を流していた。それに気付かないままに金属製の剣を振り下ろした魔族は盛大に感電して体中から黒い煙と断末魔の声を上げながら痙攣している。ヌシ様は神力は魔力よりも上位の存在だと教えてくれたな。魔族が体に張っていた魔力による障壁の存在を無視して電流をその体に流し込んだのだろう。巫女様さすがです! 俺は歩美さんにサムアップすると彼女はニッコリ笑いながら手を振って応える。ここまで攻守に隙がないと、俺から見ても歩美さんは無敵の存在に映るよな。
さて、残っているのは指揮官らしき1人、こいつも手早く片付けるとするか。俺は敢えてゆっくりとその男が立っている方向に歩き出す。
「我が直属の部下たちを一蹴するとはそれなりに力を持つ者と考えてよかろう。我は魔王様親衛隊第3部隊隊長アイザック=フィルレオーネだ」
「今から故人になるヤツの名を聞いても大した意義を感じはしないが、礼儀だからこちらも名乗ってやろうか。俺は四條流第58代伝承者(予定)、四條重徳だ」
スラリと剣を引き抜いたフィルレオーネと両手に篭手を嵌めただけで自然体で立っている俺の睨み合いが続く。さすがは指揮官だけあって、兵隊たちとは身にまとうオーラが違うな。ゴブリン討伐の先にまさかこんな楽しそうな相手との対戦が待っているとは思わなかった。
「尋常に勝負せよ!」
「どこからでも掛かってきていいぞ!」
早く来いという意味を込めてクイックイと手招きをしながら俺はフィルレオーネの出方を伺うのだった。
魔族の指揮官との戦いの行方は・・・・・・ 次回の投稿は土曜日の予定です。
それから新しい小説連載開始の宣伝です。今回は高2の女の子が主人公の現代日本が舞台で、タイトルは【非公認魔法少女が征く ~話はあとで聞いてやる、ひとまずこのこの拳で殴らせろ!】(N1294FN)となっております。緩い日常とハードな戦闘が売りのこの小説とは一味違う出来に仕上がっていますので、興味のある方はタイトルを検索するか、作者のページの作品一覧からアクセスしてみてください。すでに13話まで投稿しており、皆さんのおかげでローファンタジーランクの56位になりました。もっと上を目指して、頑張りますので応援お待ちしています! もちろんこの小説も頑張っていきますよ!




