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48 救出

ダンジョン内部に溢れ出したゴブリンに対して、ようやく事態を把握した学園では・・・・・・

 一方その頃、聖紋学園の1年Aクラスでは・・・・・・


 

「鴨川さんたち戻ってくるのが遅いな」


「予定では帰りのホームルームに間に合うはずなんだが全然戻ってくる気配がないな。四條、ダンジョンの1階層では何らかのトラブルが発生する可能性はあるのか?」


 ロリ長と二宮さんが中々戻ってこない歩美さんと聖女たちの心配をし始めている。かく言う俺もクラスの半分に当たる女子生徒が戻ってこないという事態にちょっとだけ心配になってきたぞ。とはいってもまだ予定よりも20分程度遅れているだけだから、そのうち何もなかったような顔で全員戻ってくる可能性もあるんだけど。



「ダンジョンでは何があるかわからない。ただし1階層はスライムとゴブリンが居るだけで殆ど何も起きない筈なんだけど」


 俺の返答に対して2人の不安そうな視線が交差するだけだった。









 その頃、学園の職員室では・・・・・・



「おかしいですね、何の連絡もなしにこれ程帰還が遅れることはなかったと思うんですが」


「ダンジョン内では通信機器が一切使えないとはいえ、ちょっと外に出ればすぐに連絡は取れるはずだ。念のために様子を見に行った方がいいだろう」


 こうして手の空いている教員が車を飛ばしてダンジョンに到着、そしてゲートを抜けてダンジョン内部に入り込むと・・・・・・



「なんだこれは!」


「ゴブリンの大量発生だと!」


 大量のゴブリンがダンジョンの入り口から延びる通路のこの世界とあちらの世界の境目ギリギリまで押し寄せてひしめき合っている悪夢のような光景が広がっていた。



「非常事態発生だ! すぐに学園に連絡を!」


「事務所にも連絡して冒険者全員を動員してでも生徒の救出を急げ!」


 こうしてダンジョンで発生した異常事態は明るみに出て、ダンジョン事務所と学園は対策に追われることとなった。









 再び1年Aクラスでは・・・・・・



「緊急放送! ダンジョンでゴブリンの大量発生が確認された。2,3年生は装備を整えてダンジョンに向かえ。1年生は内部に居る生徒の安否が確認されるまでその場で待機せよ」


 教室に設置してあるスピーカーから緊急の放送が流れるのと同時に俺は椅子が撥ね飛ぶ勢いで立ち上がる。ゴブリンの大量発生だと! これまで1ヶ月近く殆ど毎日ダンジョンに入っていたが、そんな兆候は全くなかったぞ。昨日も1階層は転移陣付近だけしか立ち寄ってはいないが、特に異常は感じられなかった。



「信長、義人、二宮さん、ダンジョンに行ってくる」


「四條、君1人が行ってもどうにもならないだろう」


「四條、歩美たちは無事なのか?」


「師匠、ご武運を祈るッス!」


 それにしても三者三様の反応だな。義人はさすがは四條流に入門しただけあって、ずいぶん肝が据わってきたじゃないか。僅か1ヶ月でここまで成長するとは先々が楽しみだな。



「信長、俺1人で行くのが最も適切な解決策だ。二宮さん、歩美が居る限り全員無事だから心配しなくていい」


 こうして俺はカバンを背負ってダンジョンへとダッシュするのだった。校舎の前には徐々に2,3年生たちが集まっているみたいだけど、そこは一切無視して校門を抜けて駆け出す。まだ裏ステータスは発動していないが、レベル20でもその快速は健在だ。5分もしないうちにダンジョン事務所に到着する。まずは情報収集が先だな。



「うちの生徒はどの辺りで訓練をしていたのか教えてください」


「ああ、四條君、ちょっと待ってくれないか」


 電話の対応をしているいつもの係員さんが俺に向かって顔を上げて返事をする。だが電話が長引いて俺はジリジリしながら待つのだった。そして5分くらいするとようやく電話が終わる。



「うちの生徒が訓練をしていた場所を教えてくれ」


「1階層の一番広くなっているこの場所だよ。ちょっと待ってくれ! 四條君は1人でゴブリンの群れに突入するつもりなのかい? 馬鹿な真似は止めるんだ! いくらなんでもあの数は無茶だ! 今他の冒険者や学園の上級生が集まってくるから、それまで待つんだ!」


「心配しなくてもいい、俺が片付けてくるから彼らは後からゆっくり来させてくれ。それじゃあ行ってくる」


「四條君、待ちなさい!」


 俺は係員さんの止める声を振り切ってダンジョン内部に入っていく。時間が惜しいから歩きながら装備を整えて、両手にはバールではなくて炎神雷神の篭手を嵌めている。バールは念のために腰のホルダーに収めて、ついこの間購入したての大型のサバイバルナイフもバールの隣のホルダーに差し込んだら準備は完璧だな。おっと、裏ステータスも発動しておかないと。さて、これで完璧だ! 糞ゴブリンども、待っていやがれ!



 ゲートを抜けて20メートル進むと、その先には通路を埋め尽くす大量のゴブリンの姿がある。これは確かに数の暴力だな。だがゴブリンたちはそこから入り口側には出てこないのがせめてもの救いだ。たぶんここを境にして入り口側の大気には魔力が含まれていないので、ゴブリンたちは出てこれないのだろうと俺なりに考えている。それとも他に何か明確な境界があるのかな?


 通路を埋め尽くしているゴブリンは目に見える範囲だけでも100体を超えているな。いちいち1体ずつ倒していても埒が明かない。ひとまとめにして効率よく倒す手段が必要だ。そのための両手に嵌めている篭手なのだ。実はすでに何度か歩美さんの家でその効果を試していた。ヌシ様が作り出した神域の中で土蜘蛛を一撃で倒した実績があるから、この篭手はゴブリン如きには過剰戦力なのだ。だが一度にまとめて倒すのにはもってこいの装備だともいえる。


 俺は右手の雷神の篭手に魔力を込める。裏ステータスが発動してから体内に宿っている魔力が気と同様に感じられるようになって、稲妻の放出のやり方もだいぶ上達している。さて、狙いはゴブリンたちの頭上30センチくらいの高さに稲妻を放出することだな。仮に1体に稲妻が直撃しても精々その周囲にいる何体かを巻き込むだけで大した効果が上がらない。でも通路にひしめき合っているゴブリンの頭上を高圧の稲妻が流れと果たしてどうなるか・・・・・・ まあやってみればわかることだ。



 魔力のタメはすでに完了している。ゴブリンは背が低いから胸の高さにコブシを構えればちょうどいいだろう。魔力が篭って発光している右手を僅かに引いて思いっきり前方に突き出していく。



 バリバリバリバリ!


 閃光とともに通路に轟音を響かせて一筋の稲妻が走り抜ける。さて、皆さんは誘電という言葉をご存知だろうか? たとえば落雷の時に直撃を受けなくても付近にいる人が感電する場合がある。高圧の電流は常に直進する訳ではなくて、その一部が付近にある電気が流れやすい物体に気紛れに向きを変えて流れ込むのだ。まして頭上30センチを何万ボルトもある稲妻が通り過ぎたとあっては、その範囲内に居たゴブリンたちはこの誘電によってほぼ全ての個体が感電して当然だろう。


 中には運よく生き残っているゴブリンも居るが俺が腰のバールを引き抜いて一気に襲い掛かると、直撃を受けた顔面がグチャグチャになって吹き飛んでいった。いまやレベル100を超えている俺のバールの一振りはゴブリンの脆弱な体では受け止めきれない威力がある、顔面がクラッシュするくらいならまだいい方で、中には首が捥げて飛んでいく個体もある。だが今がそんなことに構っている場合ではない。ひたすら効率よくゴブリンを排除するのみだ。


 それは当然一刻も早く歩美さんを救出しないといけないからだ。ぶっちゃけて言おうか。俺にとっては歩美さん1人が大切で、他の生徒はついでに助ける程度のものだ。だからもし歩美さんに万一のことがあったら、俺はそのままダンジョンごと滅ぼしてやろうかと物騒な考えを抱いている。もっとも歩美さんもヌシ様の監修の下でかなりの訓練を積んでいるから、ゴブリン程度を相手にして遅れをとる心配はまずないんだけど。



 稲妻は突き当たりの壁にぶつかって霧散したようだな。その曲がり角の先には引き続き夥しい数のゴブリンが待ち構えている。こいつらも同じように雷神の篭手の稲妻で排除していく。次の角を右に曲がって、もう一度左に曲がれば生徒たちが居る広場が見えてくる筈だ。比較的入り口から近い所に生徒たちが居てくれて助かったな。


 そしてようやく広場に足を踏み入れたと思ったら、俺の体を濃い霧が包み込んだ。不味い! この霧は絶対に歩美さんのスキルだ! 彼女の無事が確認出来たのは嬉しいが、周囲のゴブリンを排除しようという歩美さんの術の内部に気付かないうちに足を踏み込んでしまったらしい。これは相当にタイミングが悪かったな。


 俺は両手にバールを握りながら、神速と神足を同時に発動する。さらに気配察知を最大限動員して、霧の中から音もなく飛んでくる刃の僅かな手掛かりを探る。濃い霧のせいで殆ど視界が利かないので、空気の揺らぎと僅かな音だけが頼りだ。


 来たっ!


 ヒュ-ンという音を立てて無数の刃が俺に襲い掛かる。両手のバールで可能な限り振り払うが、360度全方位から襲い掛かってくるから、とても間に合わない。さすがは歩美さんのスキルだよな。神様から直々に授かられただけあって、威力と殺傷性は相当なものだ。しかも今飛んでくるのはどうやら氷の刃のようだな。練習していた時は真空の刃だったのに、こういう応用も利くんだとちょっと感心する。


 おっと、そんな場合ではなかったか! 神速と神足を最大限に発揮して位置を変えながら必死になって飛び交う刃を振り払う。だがこれはさすがにキツいぞ! 感覚的にはトラップに引っ掛かって飛ばされた謎の階層のウルフの変異種と対戦していた時よりも遥かにヤバい気がする。それだけ巫女様の力が強大だという証でもあるんだけど。


 体感的には5分くらいだろうか、飛び交う氷の刃との果てしない迎撃戦を繰り返している。相手は神力で出来た無機物だから、疲れなど知らずに執拗に俺に襲い掛かってくる。俺の体には無数の切り傷が出来ている。途中から致命傷や深手を負いそうな軌道を描く刃だけを振り払うようにしたために、ある程度の傷を受けるのは覚悟の上だ。だがさすがにそろそろ出血量が増えてきたな。仕方がないから最後の手を使おう。



「おーい、歩美! そろそろ勘弁してくれ! 助けに来たのに俺が殺されてしまうぅぅぅぅぅ--!」


 男の意地で彼女の術を打ち破ろうとしてきたがそろそろ限界だ。俺は大声で歩美に呼び掛ける。何とか声が届くといいんだけど・・・・・・



「大変です! ノリ君まで巻き込んでしまいました!」


 俺の耳に慣れ親しんだ声が聞こえたかと思ったら、突然霧が晴れて神壁を展開している歩美さんの姿とその中に収容されている生徒たちが視界に入ってきた。



「歩美! 全員をこっちの通路に誘導してくれ! 入り口からここまではゴブリンの姿はないからもう安全だ!」


「わかりました!」


 歩美さんは神壁を解除して、生徒たちを俺が立っている通路に誘導していく。生徒たちは血塗れの俺の姿を見てギョッとした表情を浮かべているが、ようやくこれで助かるんだという安堵の方が大きいようだな。歩美さんの霧のおかげで周辺にもゴブリンの姿はないから、落ち着いた様子で退避を開始している。もっとも1年生は死の恐怖からようやく救い出された安心感から泣き出している者も居るようだな。



「歩美、念のためにここに神壁を作り出してくれ」


「わかりました、これでゴブリンは入り口側には入り込めなくなりますね」


 入り口から広場に通じる通路を歩美さんが塞いで、俺たちはようやく一息つく。



「それよりもノリ君は体中に傷がいっぱいあります! どんな無茶をしたんですか?!」


「いや、この傷は全部歩美の神水霧断で受けた傷だ」


「そ、それは申し訳ありませんでした。霧の中のゴブリンが中々全滅しないと思って、力を多目に注ぎ込んだんです。まさか中に居たのがノリ君だとは声を掛けられるまで気がつきませんでした」


 歩美さんは申し訳なさそうに頭を下げながら神愈霊療を掛けてくれている。おかげで俺が負った無数の切り傷があっという間にきれいに治っているのだった。攻撃に防御に治癒にと巫女様は万能過ぎないか?! それにしても力を多目に注ぎ込んだって、どおりで途中から襲い掛かってくる刃が強力になった筈だよ。危うく同士討ちだったよな。



「一先ずは全員の避難が無事に完了したか見届けようか」


「はい、そうしましょう」


 通路を入り口側に進むと、すぐに生徒たちに追いついた。どうやら魔力切れからようやく回復したばかりの聖女が多数居るので、彼女たちに合わせてゆっくりと歩いていたらしい。彼女たちは両側から男子生徒に支えられて辛うじて歩いているのだった。相当厳しい篭城戦だったんだろうな。もし歩美さんが同行していなかったら全滅も有り得たのではないだろうか。今回はクラス担任の嫌がらせがどうやらラッキーな方向に働いたようだな。



 生徒たちが無事にゲートを抜けてダンジョンの外側に出たのを確認してから、再び俺は踵を返して内部へと向かおうとする。



「ノリ君、何処に行くんですか?」


「急にゴブリンが大量発生した原因を突き止めに行く。このまま放置しておけないだろうからな」


「それでは私もご一緒します。ノリ君1人では色々と心配ですから」


「わかった、巫女様の力を頼りにしている」


 こうして俺たちはダンジョン内部に引き返していく。まさかこの先にあんなとんでもないものが待ち受けていようとは、この時点では全く気付きもしなかった。




 

ゴブリンの大量発生の原因を突き止めようと再び通路を引き返す重徳と歩美、2人の行く手に待ち受けるのは・・・・・・ 次回の投稿は水曜日の予定です。どうぞお楽しみに!


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