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47 巫女様の力

ダンジョン内で無数のゴブリンに取り囲まれて孤立した聖女たち一行は・・・・・・

 ゴブリンが大量発生しているダンジョン内部では・・・・・・


 先輩聖女の皆さんが展開している障壁ですが、魔力の消費とともに次第に維持していくのが苦しくなってきたようです。もう展開を開始してから30分が経過しているので、2,3人が地面に膝を付いて、それでも自らが内包する魔力の最後の1滴まで搾り出そうと懸命に障壁に魔力を送り込んでいます。



「勇者は魔力切れが近い聖女と代わって障壁を展開しろ! 今はこのまま救援を待つしかない。絶対に障壁を維持するんだ!」


 近藤先輩の指示が飛んでいますね。どうやら3年生の勇者の中では一番指導力がある人らしいです。私の力を公にする前に何とか救援が間に合わないかと思って様子を見ていましたが、勇者の皆さんまで魔力切れになったら戻るための血路を切り開く人がいなくなります。どうやらこの状況では私の力の一端を明かすしかないですね。



「近藤先輩、勇者の皆さんの魔力は温存してください。聖女の皆さんも休ませて魔力の回復に努めてください。後は私が引き継ぎます」


「鴨川さんだったね。君は一般人で魔法障壁など展開出来ないはずではないのか?」


「はい、表向きはそうなんですけど、実はすでに私が壁を作って魔物の侵入を防いでいます」


「そんな信じられない話があるのか?」


 近藤先輩は私の話を疑っている表情ですね。頭からこの荒唐無稽な話を信じるよりも、むしろその方が安心しますけど。


 先輩聖女の魔法障壁は魔力で縦2.5メートル、横4メートル程の薄いガラスのような壁を作って、その両端を隣の聖女と重ね合わせることで魔物の侵入を防ぐ安全地帯を作り出しています。集団で協力しなければならない高等技術で、ここまでゴブリンの侵入を阻んできたのはお見事と言う他ありません。


 それに対して私の神壁隔絶は高さ3メートルの円筒形の壁を作り出して生徒全員の周囲を覆っています。わざと天井付近を空けてあるのは空気と魔力の流入のためです。完全に外と遮断することも可能ですが、魔力が常に流れ込む環境にしておいた方が少しでも補給がし易いのではないかと考えた結果ですね。それに神壁の内部が酸欠なんて状況は好ましくないですから。



 私の言葉が信じられない勇者の皆さんは魔力切れが近い聖女の先輩と場所を代わろうとしています。でもそれが間に合わないうちに、交代の準備をしている反対側でバタンという音を立てて1人の聖女が意識を失って倒れました。我慢強い人のようで、弱音も吐かずに最後まで魔力を使い切ったようです。



「不味い! 障壁の穴を埋めるんだ!」


 近藤先輩の指示が飛びますが、誰もがそんな急に動けるわけではありません。倒れた聖女を後方に下げてそこに勇者の先輩が駆けつけるまでには僅かなタイムラグが発生しますが、ゴブリンは何かに阻まれたように依然として侵入してくる様子がありません。聖女1人分の障壁が失われたのにその間もゴブリンの侵入が依然として阻まれている奇妙な現象に、近藤先輩をはじめとした勇者や教官が首を捻っています。



「鴨川君! まさか本当に君が障壁を展開しているのか?」


「先程からそのように申していますが」


「安藤、魔法を止めて下がってくれ」


「いいわ、もう限界が近いから助かったわね」


 同じパーティーとして先程ご挨拶をした安藤先輩に声を掛けると、近藤先輩は彼女が抜けて穴が空いた筈の障壁を確認しようと手を伸ばします。そして、目を丸くして驚いた表情を浮かべました。



「驚いたな、本当に障壁があるぞ! 鴨川はいつの間にこんな代物を作り上げていたんだ?」


「それは秘密です」


 神様の巫女ですから・・・・・・ なんて話はここで打ち明けられませんよね。もうすでに色々とバレているような気もしますが、隠し通せるのならそれに越したことはありませんからね。近藤先輩は尚も隣の聖女を下がらせて、私の神壁が生徒全員を取り囲んでいるのを確認しているようですね。



「本当に全員を障壁が取り囲んでいるぞ! 1人でこんな巨大な障壁を作り上げるなんてどれだけの魔力を所持しているんだ?!」


 近藤先輩だけではありません。3年生と教官全員が私を驚愕の目で見ていますね。1年生にはまだ実感がなくて、何がなんだかわからないようです。かく言う私も今まで神社の境内でヌシ様に頼んで創り出してもらった神域の内部で練習しただけなので、これがどのくらい凄い力なのかわかっていませんでした。でも周囲の反応からすると、どうやら盛大にやらかしているという現状を辛うじて把握しました。これでは毎日のように色々とやらかしてくれるノリ君を責められませんね。



「それで、この障壁はどのくらいの時間保てるんだ?」


「丸1日くらいだったらたぶん大丈夫ではないでしょうか」


「助かったな、それだけ時間があれば救援の到着を期待できるぞ」


 もう近藤先輩は驚くのを止めています。普段の冷静さを取り戻して、今後の見通しを考えているようですね。この辺は私のクラスの勇者とは大違いです。2年間の経験というのは本当に大きいんですね。現時点では梓ちゃんや信長君も敵わないかもしれません。ああ、ノリ君は比較の対象にはなりませんね。何しろレベル100を超えていますから、もしこの場に居たらこうなる前に違う対応策を取っているでしょうね。それは恐らく周囲のゴブリンを全滅させるという最も過激な方法で。それが可能なだけに頼もしいといえば頼もしいのですが、その行動に至る考え方が毎度の無茶に繋がるんですよね。


 でも私の勘によればたぶん真っ先に駆けつけるのはノリ君に違いないです。というよりもこの夥しい数のゴブリンを短時間で排除できるのはあの人しか居ないでしょうから。


 やや落ち着きを取り戻した1年生と大量の魔力を消費した3年生の聖女を神壁の中央に集めて、その周囲には教官と男子の先輩が剣を抜いて警戒するように外側を向いて立っています。内部に侵入してくるゴブリンが居ないかと目を光らせているんですね。その時・・・・・・



「おい、ゴブリンが障壁を登っているぞ!」


「もし内部に侵入してきたら一大事だ!」


 ゴブリンたちは神壁を叩いたり引っ掻いたりしていましたが、魔物とはいえ多少の知恵が働くようです。仲間の体を踏み台にして上から神壁を越えようとする者が現れました。天井との間には50センチくらいの隙間を作ってありますから、ここから侵入されるのは確かに不味そうですね。仕方がありませんからもう少しだけ私の力を披露するしかありません。



「先輩方は出来るだけ中に入ってください。魔物は私が片付けます」


 もう誰も私の言葉を疑う人は居ないようです。教官を含めて全員が内部で一塊になってくれました。これなら危険はなさそうですから、軽く私のスキルを使用しましょうか。



神雷導墜しんらいどうつい!」


 私は神壁に向かって稲妻を発生するスキルを放ちました。威力を最小に留めた稲妻は内側から神壁にぶつかって横に広がっていきます。もちろん神壁の外側にも電流が広がるように設定してありますから、壁に触れているゴブリンを感電させながら、神壁全体が高圧電流に覆われてすぐに元に戻りました。たぶん電流は地面に流れ込んで行ったのでしょうね、外側には感電したゴブリンたちの姿だけが残されています。


 実はこのようなスキルの使い方はノリ君が考えてくれたんです。ただ神壁で守っているだけでは魔物の攻撃を防ぎ切れないかもしれないから、どうせならば攻防一体の形も試してみろというアドバイスをしてくれたんですよね。練習の時は自分自身を神壁で取り囲んで稲妻を纏わせて、襲い掛かってくる土蜘蛛を真っ黒焦げにしたんです。どうやら今回も上手くいきましたね。感電して命を落としたゴブリンたちは煙のようにその姿形が消え去っていきます。これはノリ君のアイデアに大感謝ですね。


 おやおや、私の頭の中でピコーンという音が6回鳴りましたね。これはもしかしてノリ君が話してくれたレベルが上昇する時の音かもしれませんね。今の攻撃で一度にゴブリンを20体くらい消し去りましたから、まとめてレベルが上がったのでしょう。


 ゴブリンたちは生物の本能で神壁に迂闊に触れると生命に危険が及ぶと悟ったようです。少し距離を置いて私たちの隙を伺っていますね。でもこれだけ大量のゴブリンに取り囲まれているのはいくら神壁があるとはいっても精神衛生上あまりいい物ではありません。特に1年生のクラスメートたちの緊張の糸がいつ切れてしまってもおかしくはない状況ですから、周囲に集まっているゴブリンを排除するしかなさそうです。こういう広範囲に広がっている魔物の群れを一気に倒すのに適したスキルがありますからね。実はこのスキルを使用する可能性も考えて、神壁と天井との間に隙間を作っておいたんですよ。



神水霧断しんすいむだん!」


 神壁の外側に濃い霧が広がっていきます。私の視界に映る全ての範囲に神敵を滅する霧が音もなく広がります。土蜘蛛相手に練習した時には霧の内部に真空の刃を展開しましたが、今回はもっと簡単な氷の刃を無数に準備します。氷の刃の方が霧との相性が良くてより大量に作成できるので、多くの魔物を一度に倒すには使い勝手がいいんですよ。これも練習の時にノリ君からアドバイスをもらったんです。ノリ君は普段は私にとっても優しいのに、訓練の時には厳しい表情で一切手を抜かずにあらゆる可能性を考えて指導してくれました。その成果が今現れているんですね。こうして先輩方やクラスの人たちを守るためにとっても役に立っていますから、ノリ君には大感謝です! 奮発して今度何か美味しい物でも作ってあげましょう! そ、それともキスの方が喜んでもらえるでしょうか・・・・・・


 一瞬だけ妄想の世界に入り込んで1人で身悶えしている間に霧の中ではゴブリンの断末魔の叫び声が響いているようですが、内部がどうなっているのかは此処からでははっきりとは見えません。どの道直接目にしない方が精神的にはいいでしょうね。相当スプラッターな光景がそこら中で巻き起こっているのでしょうから。やがて霧が少しずつ晴れてきます。敵が居なくなった合図ですね。1体も残さずにゴブリンは消え去って、私の頭の中では連続してピコーンという音が鳴っています。いちいち数えていなかったので、自分のレベルがいくつになったのかはステータスを開かないとわかりませんね。あとで1人になったら確認しておきましょうか。



「おい! あれだけたくさん居たゴブリンが消えたぞ! 今が脱出のチャンスなのか?!」


「近藤先輩、目に見える範囲のゴブリンを倒しただけですから、まだ迂闊に動くのは危険です。入り口方面の安全が確保されるまでしばらくは此処から出ない方がいいでしょう」


「そうか、ゴブリンが全て居なくなった訳ではないんだな。ならばこのまま待機するしかないか。それにしても今の霧は一体なんだ? ゴブリンを全て消し去るなんて、どんな威力を秘めているんだ?」


「残念ながら一切秘密です」


「そうか、ならば仕方がないな。俺たちがこうして無事でいられるのも鴨川のおかげといっても差し支えない。敢えてこの場では何も聞かないでおく」


「そうしていただけると助かります」

 

 近藤先輩が何も聞かないと言ってくれたので、この場に居合わせる教官も口を噤んで何も追求する様子を見せないようですね。たぶん色々と聞きたいのは山々なんでしょうけれども、今はこの危機を脱するのが先決ですから。


 目に見える範囲にはゴブリンの姿がなくなって、クラスの生徒たちも先程までよりは多少の落ち着きを取り戻しているようですね。そこに上条さんが立ち上がって私の近くにやって来ました。



「恐れ入ったよ! 鴨川さんのおかげで私たちは命を救われたも同然だ。本当にありがとう」


「私のことは歩美と呼んでください。それからまだ危機が完全に去った訳ではないですから、気を緩めてはいけませんよ」


「歩美の前では聖女などという肩書きなど簡単に消し飛びそうだな。わかった、油断しないように指示に従う。クラスの女子たちにも伝えておくから、無用なパニックなどは起こさないだろう」


「お願いします。危機が迫った時に一番気をつけないといけないのは内部から瓦解することだとノリ君が言っていました。必ず皆さんを連れて外に出ますから、もう少し辛抱していてください」


「その意見には同意する。クラスの女子は私が何とかまとめるから、歩美は自分が良いと思った行動を取ってくれ。私たちはおんぶに抱っこで申し訳ないが、この場は歩美に任せる」


「はい、ありがとうございます。どうか私に任せてください。ちょうど時間は3時を回りましたから、そろそろ外部から動きがあると思います。あと少しの辛抱だと皆さんに伝えてください」


 こうして上条さんは元々居た場所に戻っていきます。今は自分が私の邪魔しないように行動するべきだと弁えていてくれて助かります。どうやらクラスの女子にあと少しで外に出られる希望が出てきたと呼び掛けてくれているようですね。それを聞いた彼女たちの表情が見る見る明るくなってきました。


 とはいっても総勢80人を引き連れてこの場を脱出するのは私1人の力では中々難儀です。入り口から此処までの安全を確保してもらえないと、全員を無事に外に出すのは厳しいですね。だからこそ私はノリ君に期待しているんです。きっと一番に私たちの前に掛け付けてくれる筈です。


 どうかノリ君、早く来てくださいね。その思いが届くように目を閉じて、心の中で祈る私でした。


 


ついに実戦で歩美のその力の一端が披露されました。この続きは土曜日に投稿します。



それから新しい小説連載開始の宣伝です。今回は高2の女の子が主人公の現代日本が舞台で、タイトルは【非公認魔法少女が征く ~話はあとで聞いてやる、ひとまずこのこの拳で殴らせろ!】(N1294FN)となっております。緩い日常とハードな戦闘が売りのこの小説とは一味違う出来に仕上がっていますので、興味のある方はタイトルを検索するか、作者のページの作品一覧からアクセスしてみてください。すでに13話まで投稿しており、皆さんのおかげでローファンタジーランクの56位になりました。もっと上を目指して、頑張りますので応援お待ちしています!

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