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担任「このクラスで勇者は手を上げてくれ」━━えっ! 俺以外の男子全員の手が挙がったんだが、こうなったらもう開き直るしかない!  作者: 枕崎 削節


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45 聖女

舞台は2週間ほど飛んだ学園に移ります。

 2週間ほど過ぎて、4月末の1年Aクラスの昼休みのこと・・・・・・



 私は上条かみじょう 彩夏さやか、聖紋学園1年A組に所属しているいわゆる聖女だ。入学して約1ヶ月、ダンジョンを攻略するための訓練を続けてきたが、いよいよ明日から実際に内部に入って魔法の練習が始まるらしい。


 クラスの女子生徒たちは己の魔法がどのような効果を持っているのを知りたくて明日を心待ちにしているが、実地訓練を前にして私はどうにも気が重い状態が続いている。というよりも自らの聖女という肩書きそのものにいい加減嫌気が差しているのだ。


 小さな頃を振り返ると私はダンジョンでの冒険に胸をときめかせる1人の子供であった。冒険小説やアニメに夢中だった当時の夢は、自分が勇者になって異世界の侵略からこの世界を守ることだった。成長するにしたがってそれは荒唐無稽な話だと理解するようになったが、それでも一人の戦士として魔物を相手に活躍できるようにそれなりに体も鍛えてきたつもりだ。


 だが小学校を卒業する頃に私が得た職業は驚くことに聖女であった。確かに聖女もパーティーメンバーと一緒にダンジョンに入って神聖魔法や治癒の術を用いて攻略に協力する役割ではあるのだが、それは私が求めていたものと根本的に違うような気がする。私は戦いの最前線に立ってこの手で魔物を屠りたいのだ。メンバーに守られながら万一に備えて後方で待機する役割など真っ平ご免だ。


 もしも私の職業がB組のワルキューレやD組の一般戦士だったらどんなに良かったことだろう。そうだとしたらば私は誰に気兼ねすることもなく最前線に立てただろう。そして剣を手にして魔物と戦うという子供の頃からの夢を実現していたはずだ。だがなんとも皮肉なことに私は聖女になってしまった。世間の常識から言えば聖女は憧れの職業であり、私が心に抱く夢など小さなワガママなのかもしれない。与えられた職業に忠実に従ってパーティーを支える役割を果たしていくと割り切れればきっと楽なのだろうとは思う。


 聖紋学園に入学して約1ヶ月、学園の授業で教えられるのはやはり後方から支援する役割としての聖女の姿であった。最前線に立つなど以ての外で、常にメンバーから守られながら後ろをくっ付いて歩けと言われている。確かにそれも正解なのだろう。聖女がいれば誰かが怪我をしても治癒魔法で治せるのだ。余程重篤な怪我や命を落とさない限りは短時間で戦線に復帰出来る可能性が高い。だが治癒魔法もけっして万能ではないのだ。聖女の実力を上回る怪我への対処は困難を極めるし命を落とせば蘇ることは絶対にない。これこそが聖女の魔法の限界でもある。


 だから私は守られる立場に甘んじたくはないのだ。もっと一緒に戦いたい。仲間を守るために魔物を倒したいと心から願っている。とはいっても体力や攻撃力が戦闘職に比べて恵まれていないという現実が立ちはだかっている以上は、いくら私に夢を実現したいという願望があっても現実には逆らえないのである。この夢と現実のギャップに私の気持ちは重たく沈んでいるのだった。



 そして私の気持ちをもう1つ重たくさせていく問題がある。それは同じクラスの女子たちの考え方であった。彼女たちの頭の中は勇者の誰とパーティーを組むかというどうでもいい思考に囚われ過ぎているのではないだろうか? 自らの実力を高めてより希望に叶う勇者や他のメンバーとパーティーを組めばいいだけなのに、彼女たちが現実に行っているのは醜い足の引っ張り合いとしか表現出来ない。


 聖女同士の実力争いで火花を散らすのならばそれは大いに歓迎すべき事態なのであろうが、現実に行われているのは派閥作りだったり、派閥間の抗争といった愚にも付かないことだらけだ。こんな女子同士の世界に身を置きながら様々な問題に嫌気がさしているのが今の私だった。



 こんなどうしょうもないクラスではあるが、私の目には眩しく映る存在がある。それは新学期早々一般人だと担任から明らかにされた四條という男子生徒を中心にした5人のグループだ。彼らは身の置き所に困って窮屈な思いをしている私とは対照的に、ノビノビと学園生活を送っているように私の目には映っている。


 新学期早々の時期は勇者でもない一般人ということで小バカにした目を向けていたクラスの生徒たちであったが、あの四條という生徒は模擬戦でその実力を示して周囲の雑音を完全に捻じ伏せていた。私は興味があって彼の全ての試合を見学したが、勇者を悉く圧倒するその力には目を見張るものがあった。そして3人の勇者を加えた彼らはいまやクラス内に大きな影響力を持ち始めて、口煩い聖女グループからも一目置かれ始めている。


 だがそんな彼らにも現実的な弱みが存在する。それは5人のうちの1人である鴨川歩美という女子生徒の存在だ。彼女も四條同様に一般人ということで、聖女の授業カリキュラムから除外されたのが原因でどうやら仲が良くなったらしい。そのあたりの経緯はよく知らないが、女子たちの噂話を総合するとそうなのであろう。


 私自身は一般人と呼ばれる2人に対して悪い感情は持っていない。むしろ聖女の職業が邪魔をして身動きし難い私よりも遥かに自由で羨ましく思っているくらいだ。出来るなら立場を代わってもらいたいくらいだ。


 そんなことを考えている私の席に、わざわざうるさ型の奈良なら 康代やすよという生徒が近付いてくる。彼女も自分の派閥作りに熱心なタイプで、私をその仲間に引き込もうとこれまでも盛んにアプローチをしてきたという過去がある。



「彩夏さん、ご機嫌はいかがですか? 明日からいよいよダンジョンでの実習が開始されますわね」


「奈良さん、今はそれ程機嫌が良いという訳ではありませんね。それでもダンジョンの中では何があるかわかりませんから、どうぞよろしくお願いします」


 あまり関わりになりたくないという気持ちを込めてわざと素っ気無い返答をする。そもそもそれ程仲が良くないのに、人を名前で呼んで欲しくはないものだ。だからこそ私は必要がある時には彼女を姓で呼んでいる。その私の態度が気に入らない様子で、こめかみの辺りをピクピクさせながら更に彼女は言葉を続ける。



「実は私と仲の良い葉月さんには鑑定のスキルがありますのよ。彼女があの女子の一般人のステータスを鑑定したところ、驚くべき結果が出ましたの。なんと彼女の職業は料理人らしいですわ。いくらなんでも一般人にも程がありますわね。本当にこのクラスには相応しくない存在だと思いませんか?」


「料理人だろうが漫才師だろうがこのクラスの所属と決まったのを今更覆せるとは思えないし、彼女の職業に対して特に感想も浮かばないな」


 本当にどうでも良いから私の前ではいい加減止めてほしいな。それよりも他人のステータスを覗き見ることが可能な人物が居る方が大問題だ。私のステータスも丸裸にされる可能性がある。いずれ何らかの対策を立てないと容易に足を引っ張られる危険があるな。相手の各種数値が事前にわかっていれば敵に回した際には対策が取り易いだろうし、それでは弱みを握られているのも同然だ。このクラスの聖女どもというのは揃いも揃って性格が悪い女ばかりだな。



「あなたの態度は良くわかりましたわ。それではご健闘をお祈りしますの」


「何がわかったのかは敢えて聞かないでおく。精々頑張ってくれ」


 全くなびく様子を見せない私に愛想を付かした表情で彼女は私の席から離れて自分の派閥の生徒たちが待っている場所に戻っていく。鴨川歩美の職業をわざわざ私に教えて何がしたかったのだろう? 彼女に同調して非難すれば良かったのか? それはあまりにバカらしい行為だな。なぜなら私は彼女も含めた5人のグループが羨ましいのだ。あのくらい無理やりに己の意見を押し通せれば、窮屈な状態を強いられている私から見れば羨ましく映っても当然だろう。今や彼らには担任でさえ何も言えないのだから。



 こうして昼休みは終了して、私は午後の学科の授業の準備に取り掛かるのだった。







 帰りのホームルームでは・・・・・・



「明日の実習から聖女はダンジョンで実際に魔法の訓練に入る。各自は準備を整えるように。それから一般人の鴨川歩美にも特別に聖女との同行を許可する」


 担任からの事務連絡の際に歩美さんの名前が唐突に出てきたぞ! 実習の授業は聖女たちのグループから排除したくせに、何で急に一緒にダンジョンに入らせようとするんだ? どうせ良からぬことを企んでいるんだろうな。俺は歩美さんに視線を向けるとあまりに突然のことなので、他人事のようにポカンとした表情を浮かべている。


 さて、どうしたものかな。担任に捻じ込んで歩美さんの同行を取り止めにさせてもいいんだけど、まずは本人の意向を確認しないといけないよな。歩美さん自身がどう考えているかしっかりと確認しよう。そもそも彼女が裏ステータスを発動したら、1階層のゴブリン程度は簡単に蹴散らせるはずだし。






 ホームールームが終わると俺の所に事態をようやく認識した歩美さんが駆け寄ってくる。



「ノリ君、急にダンジョンに入れと言われました」


「歩美はどうするつもりだ?」


「言われた以上は入らないと色々と不味いような気がします」


 そこへ二宮さんやロリ長が加わってくる。特に二宮さんは幼馴染の歩美さんが心配でならないような表情で眉間に皺を寄せている。あんまりそんな顔をすると皺が取れなくなりますよ。俺の母親の実体験ですからね!



「たぶんこれは担任の嫌がらせだろうな」


「信長君、何のための嫌がらせですか?」


 ロリ長の意見に歩美さんが首を傾げている。彼女自身は担任から嫌がらせを受ける心当たりがないからだ。



「鴨川さんに対する嫌がらせじゃなくって、間接的に四條に対する嫌がらせだと思うな。それに僕たちを分断しようとする意図も透けて見えるよ」


「これは信長が言うとおりかもしれないぞ! 歩美、すまない。俺が担任から嫌がらせを受ける理由は掃いて捨てる程ある。むしろ心当たりしかない。どうやら俺のせいで歩美を巻き込んでしまったらしい」


「ノリ君、気にしないでください。私は見学ついでにダンジョンに行ってきます。これで私は部活動とは関係なしにダンジョン内部に入れるようになりますから、いつでもノリ君と一緒に探索できます!」


 ああ、そうだった! ダンジョン部に入部すれば先輩の付き添いがあれば1年生は5月から探索が可能になるんだったけど、学園から許可が出た歩美さんは1人でも内部に入れるという訳か。このことに気が付いたから先程とは打って変わって表情が明るいんだな。



「歩美、それで本当に大丈夫なのか? それから四條と一緒にダンジョンに入るというのは何のことだ?」


 そうだった! ロリ長と義人には教えてあるけど、二宮さんは俺が1人でダンジョンに入っている件は何も話していなかったんだ。仕方がないから彼女にも事情を打ち明ける。



「なんだと! 四條はそんな手を使ってダンジョンに入っていたのか! それで貴様のレベルはいくつなんだ! どうも最近目に見えてパワーアップしていると思ったらそんな理由が隠されていたのか! さあ、正直に吐くんだ!」


 俺の胸元を掴んで首をガクガク揺する二宮さんが居る。そんなムキになって勇者の力全開で俺を揺さぶらないで欲しい。表側のステータスでは俺はレベル20で、体力の数値はまだ二宮さんやロリ長に追い付いていないんだぞ。



「二宮さん、どうか落ち着いてください! 今の俺のレベルは20ですから!」


 ようやく胸元を掴んでいる手を緩めてもらって俺は返事が可能となった。天然勇者の馬鹿力は恐ろしいな。でも確かに最近は木刀を手にした打ち合いでもそこまで力負けはしていないから、二宮さんも何か秘密があるとは薄々勘付いていたようだ。



「「「レベル20だと(ッスカ)!」」」


 いつの間にか話しに加わっている義人も交えて驚きの声が上がっている。すでにお互いの裏面の実態を知っている歩美さんは特に表情を変えなかったけど。何しろ本当の通算レベルは神様の手違いのおかげで100まで達しているからな。歩美さんに打ち明けてからも何回かレベルアップしているから正確にはもう少し上だけど。



「呆れたな、四條はたった1月で20もレベルアップしたのか!」


「梓ちゃん、そうですよ! ノリ君は凄いんですから!」


 歩美さん、そんなに俺を持ち上げないでください! むしろ本当に凄いのはあなたの方ですからね! あの巨大な土蜘蛛をスキルの一撃で倒せるのは歩美さんだけですから! なんでもここ最近は神社の境内でヌシ様にお願いして毎日スキルの習熟に努めているそうだ。それも主に威力を抑える方向で訓練していると言っていた。あの威力では俺が知っているダンジョンの最深部である6階層でもオーバーキルなのだ。トラップに引っかかって飛ばされた謎のフロアーでも楽々攻略できるレベルだ。



「こんな所で話していてもしょうがないね。明日に備えてダンジョン部に行こうよ」


「それがいいッス! 師匠、自分も明日からダンジョンに入るのが楽しみッス!」


 こうしてロリ長と義人に背中を押されて俺たちは第8ダンジョン部の部室に向かうのだった。


 

突然現れた上条彩夏という女子生徒、彼女は一体どのように絡んでくるのか・・・・・・ この続きは土曜日に投稿します。どうぞお楽しみに!



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