44 巫女様のスキル
無事に誘拐犯を退けた重徳は・・・・・・
二宮さんを無事に客間の布団に寝かせた俺と歩美さんは再び縁側に戻っている。ついさっき俺たちを狙った誘拐犯と大立ち回りを演じたとは思えない程に、神社の境内はシンと静まり返っているのだった。もっとも猫の中に宿る神様が神域化して誰の目にも触れないようにしていたから、あの騒ぎに気付いた人はいない。
さてと、神様に俺のレベルの件を聞きたいんだけど、その前に歩美さんに色々と正直に話さないといけないよな。お互いに隠し事は良くないとわかっていたんだけど、ダンジョンの件は彼女に心配を掛けないように今まで打ち明けていなかった。でもやはり神様に聞く前に歩美さんにちゃんと教えておくべきだろうと、夕べのうちに決めていたんだ。本当は真っ先にこの話をするはずだったのに、誘拐犯のせいでお預けになっていたからな。
「ノリ君、危ないところを本当にありがとうございました。もしノリ君が居なかったら私と梓ちゃんは連れ去られていたかもしれません」
「そんなことはないだろう。歩美だってその気になればあの程度の相手は一撃で排除出来るんだから」
「そう言えばそうでした。すっかり忘れていました」
あれだけの力を神様から与えられていながら、それを忘れていたとケロッと言い放つ歩美さんは人間としての器が別格なのかもしれないな。それとも実際に力を行使した経験がないから実感が湧いていないのかな?
「身を守るために大きな力を授けられているんだからいつでも使えるようにしておいた方がいいぞ。でも今回は相手が人間だったから歩美の手が血で汚れなくて良かった」
「私たちを守るためにノリ君に危ない橋を渡らせて申し訳なく思っているんですよ。その気になれば自分でも何とかできたのに」
「いいんだ、気にするな。それに俺も神様のおかげで歩美に匹敵する力を手に入れたから」
「私に匹敵する力? どういうことですか?」
「実は・・・・・・」
俺はダンジョンに入っている件を包み隠さずに彼女に打ち明けた。当然レベルが100に到達したことが含まれているのは言うまでもない。
「ノリ君、お話しなければならないことが大幅に増えましたね」
「できれば説教は勘弁してもらいたいな」
「やはり私が一緒に居ないとノリ君は無茶ばかりします」
「何の申し開きも出来ません」
「でもそのおかげで私たちを守ってもらえたので今回だけは許してあげます。もう危ないことはしないでください」
「ところがそういう訳にもいかないんだよな。ほら、神様の話を覚えているだろう。俺たちが何もしないと魔王のせいで地球ごと滅ぼされてしまうから、戦わないという選択肢は存在しないんだ」
「そう言われてみればそうでした。私は直接神様から聞いた訳ではないのでどうもその件に関して実感が薄いんですよね。わかりました! それではノリ君が危ない目に遭わないように私も一緒に戦います」
一緒に戦ってくれるという歩美さんの申し出は嬉しいけど、どんなに優れた力を持っていてもそれを行使する精神が伴っていないと宝の持ち腐れだ。彼女の場合は性格が優し過ぎてその辺に大きな不安要素が残る。俺のように人を殺しておいて良心の呵責を一切感じていないのもどうかと思うが、いざ戦闘場面で彼女の優しさが裏目に出る危険性を考慮しておくべきではないだろうか。
「歩美、無理はしなくていい。俺が守るから歩美は戦う必要はない。それこそが俺に与えられた役割だ」
「ノリ君の気持ちは本当に嬉しいのですが、私は守られてばかりの存在で満足はしませんよ! ノリ君は私が全く役に立たないと思っているようですね。初めて明かしますが私は父に習って退魔の術の修行もしているんですよ。実際に怨念や悪霊を調伏した経験はありませんが」
「そうだったのか! さすがは神社の娘だな」
「父は宮司であると同時に陰陽術の術者なんです。その道では結構有名なんですよ。子供の頃から全然才能がなかったから心構えと簡単な基礎だけしか教えてもらっていませんけど、ダンジョンで魔物を倒す時にはきっと役に立ちます」
そうだったのか! 全然知らなかったぞ。歩美さんは陰陽術の基礎を習っていたのか。その当時は才能がなかったというのは、たぶん裏ステータスが発動するまで封印されていたせいだろうな。あんな恐ろしいスキルを物心つかない子供が行使したらとんでもない被害を撒き散らすだろうからな。表ステータスの職業は戦いとは無縁の料理人だし、おそらくは神様を体に受け入れて初めて真の力が行使できるように予め定められていたに違いない。
「それじゃあ歩美がダンジョンに入れるようになったら活躍してもらおう。今はその件はまだ先の話として、実は俺のステータスについて神様に聞きたいことがあるんだよ。ちょっと呼んでもらえるかな」
「無用じゃ! わざわざその娘を介さずともすでにそなたはワシの言葉を聞いておるであろう」
歩美さんが返事をする前に俺の頭の中に神様の念話が響いてくる。それは歩美さんも同様で、何が起きたのかと周囲を見回している。そして俺たちの目の前にはあの白ネコが鎮座しているのであった。
「神様、いつの間に姿を現したんですか!」
「ヌシ様はいつでも急に姿を見せるんですよ」
どうやらこの白ネコは歩美さんによって『ヌシ様』と命名されたらしい。たぶんアメノミナカヌシの最後の二文字をいただいたのであろう。俺と歩美さんは目の前に現れたヌシ様の姿を発見して、慌てて縁側を降りて地面に並んで立つ。ヌシ様は当然のような表情で縁側のタタキの石の上に陣取る。神様なのだから高い位置で話すのは当然だ。
「そなたは不信心の輩の討伐大儀であったぞ。してワシに何用じゃ?」
「実は俺のステータスのレベルが急上昇しまして、一体どうなっているのかその理由を知りたいと思いまして」
「そなたのレベル? どれどれ・・・・・・ これは! 僅か1日2日の間に一体どうしたことじゃ?」
神様には俺がわざわざステータスを見せなくともレベルがどうなっているのかわかるらしい。そりゃあそうだろうな、ステータスを作り出した張本人だし。
「そなたは何をしたのじゃ? 通常そこまで急激にレベルが上昇するはずはないのじゃが???」
「ダンジョンでトラップに引っ掛かって飛ばされた場所で、手強い魔物と連続バトルを繰り広げました」
「うーむ、それにしても腑に落ちぬな。そこまで急激にレベルが上昇する設定にはしていないはずじゃ。どれ、実際に作った者に問うてみようか。これ、オモイカネは居るか?」
「アメノミナカヌシノ大神様、お呼びでございますか?」
俺の頭の中に神様同士の念話が伝わってくる。というよりもこれでは神様の楽屋話がダダ漏れじゃないか! 俺たちのような人間風情がこんな会話を聞いていていいのかな? 逆に俺の方がちょっと不安になってくるぞ。
「こやつのステータスはそなたが担当したと記憶しておるが間違いはないか?」
「大神様、相違ございません」
「このように急激にレベルが上昇する設定にはしておらんであろう」
「裏のステータスに関しては、レベル上昇に必要な経験値を一律に3000にせよとの仰せでございました」
「はて、確か3万にせよと申したはずじゃが?」
「いえ、確かに3000と申されました」
「ああ、思い出したぞ! 確かオモイカネに申し付けた時分はワシは20年ぶりに昼寝から目を覚ましたばかりじゃったな。少々寝惚けておったのやも知れぬ」
「このままで宜しいでしょうか?」
「修正できるのか?」
「すでに発動しているステータスを修正するには、その者を一旦死なせて再び新たなステータスを与える必要がございます」
「それでは時間が掛かり過ぎるか。仕方がない、この者についてはこのままにしておくしかなかろう」
「御意、それでは失礼したします」
なんか神様同士の会話で俺を一旦死なせるとかいう物騒な話が出たぞ! そんな神様の都合でいちいち死んでいたら堪ったもんじゃないな。俺の都合にももうちょっと配慮してくれよ!
「どうやら少々手違いがあったようじゃが、仕方がないからそなたは現状のままでレベルを伸ばしていくがよいぞ」
「レベルアップに必要な経験値が一律3000のままですか?」
「そうじゃな、それとも1度死んでから正しい姿でやり直すか?」
「ぜひともこのままでお願いいたします」
何これ! 思いっ切りバグキャラじゃないか! それも神様が寝惚けてウッカリ桁を間違えた超バクッたとんでもない状態じゃん! だって必要な経験値が10分の1になっているんだぞ! 歩美さんでさえ獲得経験値3倍という設定なのに。しかも一律3000だから、どんなにレベルが上昇しても上がり難くならない。仮に討伐経験値を3万持っている階層ボスとかを倒したら、俺のレベルは一気に10も上昇してしまう訳だ。これはとんでもないことになったぞ! いやすでに俺の通算レベルは100に達して、現実にとんでもない状況が発生しているんだけど。
「話はそれだけか?」
自分のレベルが急上昇した理由が理解出来て俺は一応納得した。その原因が神様が寝惚けて間違えたというところにもうひとつスッキリしない点はあるにせよだが。だがこの話を俺の横で聞いているだけだった歩美さんが声を上げる。
「アメノミナカヌシ様、私は巫女として大きな力をいただきましたがその使い方がわかりません。ご教授いただけると助かります」
「そうであったのう。どれ、それではこの場でワシの巫女に伝授してやろうか。再びこの場を神域とする故、好きなだけぶっ放すがよいぞ。的も準備してしんぜるから遠慮は要らぬ」
神様がその力で境内を不可侵の神域にすると、地面が盛り上がって体長5メートルくらいはある魔物が現れる。その姿はクモのような胴体にハサミがついた大ムカデの胸から上をくっつけたような姿をしているのだった。
「あれは土蜘蛛ですか?」
「さよう、あまり弱い妖怪では巫女の力を試せないであろう。ステータスを開いて巫女のスキルを順に試していくがよい。心の中で念ずるか声に出せば簡単に発動するようにしてある」
「わかりました」
魔物じゃなくて妖怪なんだ。土蜘蛛というのはどこかで聞いたことがあるぞ。歩美さんは陰陽術の修行をしていたからすぐに正体がわかったようだな。おっとこうしている場合ではないぞ! 土蜘蛛はハサミを振り上げて俺たちに突進してくる。何かあったら大変なので、俺は両手にお馴染みのバールを握って即座に臨戦態勢に移行する。だがどうやらその備えは無駄だったようだ。
「神威霊縛!」
歩美さんの一声で突進していた土蜘蛛は停止してその場に硬直している。妖怪の表情はわからないが、何かに怯えているかのような態度を示している。たったの一声で妖怪を怯えさせているのは歩美さんの体から発する神の威厳だ。眩い光のように広がるその力は土蜘蛛の動きを完全に封じているのだった。
「効果があって良かったです」
「凄い神力だな! レベルが上がる前の俺だったら身動き出来なかったかもしれないぞ」
当然俺に対しても歩美さんの神威が影響を及ぼしているが、そこはレベル100の力で強引に捻じ伏せている。こんな力をダンジョンで使用したらたった1度でフロアー全体のゴブリンがショック死しそうだな。
「土蜘蛛が動けなくなったので、順番にスキルを試してみますね。最初に神雷導墜!」
歩美さんの声とともに雲ひとつない空から一筋の雷が土蜘蛛に落ちてくる。カマキリのような形状の脳天を直撃すると、その体を駆け巡った高圧の電流がその場に立っていたはずの土蜘蛛を真っ黒焦げの無残な姿に変えていた。
「ちょっと威力が強過ぎたかもしれないです」
「物凄い音と閃光だったからな」
「次はもう少し威力を弱めてみますね」
動きを止めた的に試し撃ち状態だから、歩美さんは至極のんびりとした口調でスキルの効果を振り返っているな。土蜘蛛はその威圧感からするとおそらくコボルトキングよりも上位の存在だと思う。それをたったの一撃で黒焦げの残骸に変えるとは巫女様のお力恐るべしである。もう1体の土蜘蛛に威力を弱めた稲妻を落とすと、今度は原型を留めたままで地面に崩れていく。
「神力の加減がわかってきました! 次は神炎猛爆!」
歩美さんが土蜘蛛にかざした手の平から1メートルくらいの火の玉が飛び出して、土蜘蛛の巨大な体を炎に包みながら爆発する。その威力は凄まじく、燃えたまま土蜘蛛の体は方々に四散している状況だ。ダンジョンのゴブリンメイジが放ってくるファイアーボールのざっと100倍くらいの威力かな。歩美さん、全然力の加減がわかっていませんよ!
こうして4体登場してきた土蜘蛛は歩美さんの手に掛かってあっという間に倒されていく。まだ全てのスキルを試していないので、神様にお願いして追加の土蜘蛛を召喚してもらっている。さすが陰陽術の修行をしていただけあって、土蜘蛛を前にしても歩美さんの態度は全くブレないな。どうやら俺は彼女の精神面を過小評価していたようだ。
「神水霧断!」
今度は土蜘蛛が立っている周辺を霧が包んだかと思ったら、細かな水の粒子が薄い刃を形成して強固な外殻に身を包んだ土蜘蛛を両断していく。これは相当にヤバいスキルだな。目に見え難い霧が刃になって襲い掛かってくるんだから回避はまず不可能だろう。しかもまとめて何体も倒しているから、霧に包まれた範囲内にはいくつもの刃が形成されているんだろうな。
「神氷槍刺!」
今度は長さ3メートル以上はある氷の槍か。見事に突き刺さっているな。それも一体に5本くらいまとめて刺さっている。数で空間を制圧するからこれは避けようがないだろうな。
「神光断罪!」
今度は歩美さんの手から眩い光が飛び出していく。その光は土蜘蛛の体を瞬時に消し去っていった。その名のとおりに神に背く不逞な輩を消滅させる光のようだ。ダンジョンのアンデッドたちもこれでイチコロだろうな。
こうして一通りの攻撃スキルを試した歩美さんはなおも土蜘蛛を繰り返し召喚してもらって、習熟訓練に時間を掛けていくのだった。俺はその圧倒的な威力を前にしてただ見ていることしか出来なかった。
圧倒的なスキルを持つ巫女様の能力がついに日の目をみました。次回は少し時間が飛んで舞台は学園に戻る予定です。投稿は水曜日を予定していますのでどうぞお楽しみに!
それから新しい小説連載開始の宣伝です。今回は高2の女の子が主人公の現代日本が舞台で、タイトルは【非公認魔法少女が征く ~話はあとで聞いてやる、ひとまずこのこの拳で殴らせろ!】(N1294FN)となっております。緩い日常とハードな戦闘が売りのこの小説とは一味違う出来に仕上がっていますので、興味のある方はタイトルを検索するか、作者のページの作品一覧からアクセスしてみてください。クオリティーはこの小説以上と自信を持ってお勧めいたします!




