43 対人戦
尾行されていることに気が付いた重徳たちは神社に入ります。そこではどのような・・・・・・
普段よりも時間が取れない状態で何とか間に合わせたので、誤字が多いかもしれません。ご指摘いただければ助かります。
俺が敵を迎え撃つ決意を固めた神社の鳥居の外では、黒塗りのワゴン車が何台か止まる様子が目に入ってくる。一斉にドアが開くと車内からは黒い服とサングラス姿の男たちが神社の境内に侵入を開始する。その後ろからは俺たちを尾行していた連中も一緒になって境内に姿を現す。
男たちの様子に注意しながら歩美さんたちが退避した方向を一瞥すると、俺が初めて神様と話をした縁側まで下がって不安そうにこちらを見ているな。二宮さんは相変わらず神威に当たって目眩を起こしたような状態で縁側に寝かせれている。その周囲をどうやらスッポリと薄い幕のような物が覆っているけど、あれはもしかしたら歩美さんのスキルである神壁絶隔かもしれないな。初めて見たよ。
でもこれなら彼女たちの安全は確保されているだろうから、俺は安心して侵入者への対処に当たれる。さて全部で何人いるんだろう? 1,2,3・・・・・・ 15、16人か! どんな用件か知らないけど、ずいぶん大掛かりな人数で押し掛けて来たもんだ。そのうち両端の2人と真ん中の1人が拳銃を俺に向けているよ。敵意ありありの態度だな。他人の家を初めて訪問するんだったらそれなりの作法というものが存在するだろうに。ましてやここは神社だぞ! そんな物騒な物を振りかざしていたら神様から罰が当たるからな。あとで泣いても知らないぞ。
「大人しく我々に付いてこい! 抵抗すると痛い目に遭うぞ」
おや? 俺に向かって上から目線で投降を呼び掛ける男の言葉は日本語ではないけれど、話している内容が正確に伝わってくるぞ。
(ピコーン! 言語理解スキルを手に入れました)
俺の頭の中でレベルが上昇する時と同じ音が鳴ったと思ったら、新たなスキルを入手したというアナウンスが入る。どうやらダンジョンでレベルを上げるだけではなくて、日常の何かの切っ掛けでもこうやってスキルを入手できるんだな。もっとも今回のような切っ掛けなんて全然歓迎したくはないけど。
「一応聞いておくぞ。俺たちを連れて行ってどうするつもりなんだ?」
「何も知らないで連れて行かれるのは気の毒だから教えてやろう。お前たちは我々の本国に送られてひたすら奴隷のようにダンジョンの魔物と戦うのだ。安心しろ、お前たちの家族も素直に言うことを聞かせる人質として一緒に連れて行ってやる」
ほう、これはずいぶん香ばしい話をしてくれるじゃないか。これでこいつらの有罪が確定だな。罪状は拉致監禁、誘拐未遂といったところかな。あとは銃の不法所持も追加してやろう。
「自分の国のダンジョンくらい国内の人材で何とかすればいいだろう。わざわざ他所の国まで押し掛けて不法行為を働くなんて効率が悪すぎるだろうに。素直に俺の忠告に従って退去するんだったら見逃してやってもいいぞ」
「これだからガキというのは現実がわかっていないと言われるんだよ。これだけの人数を相手にしてお前たちに勝ち目があると思っているのか?」
どうやら俺の暖かい思い遣りは無駄だったようだ。折角無傷で家に帰してやろうと思って提案してやったのに、みすみす自分からその機会をポイッと捨てちゃったな。先週までの俺だったら、さすがにこの人数でしかも銃まで所持している敵と遭遇したとあらば、命を捨てる覚悟で臨む必要があっただろう。でも今の俺のレベルは100に到達している。この程度の人数を相手にしても何とかなるだろうという自信はそこそこにはある。でももう少し時間を稼ごうかな。ひょっとしたら騒ぎを聞きつけたお巡りさんとかが駆け付ける可能性もあるし。
「勝ち目があるかどうかなど関係ないな。守りたいものを己の手で守るのは男としての矜持だ。人数が今の10倍だろうとしても俺の態度は変わらないぞ」
「その生意気な口がいつまで続くか試してやろう。おい! 奥に居る女2人の身柄を押さえるんだ。裸に剥いて頭に銃を突きつければ、このクソ生意気なガキも素直になるだろう」
どうやら俺と話をしている男がこの誘拐グループのリーダーらしい。そいつの指示で両翼から3人ずつのおとこが俺の手が届く範囲を大きく迂回して、左右から縁側に居る歩美さんたちに向かおうと動き出す。彼我の距離は約20メートル、仮に片方のグループに俺が襲い掛かってとしてももう一方が彼女たちに殺到する手筈のようだな。
「スキル同時発動! 神足、神速、隠形!」
俺は昨日得たばかりの3種類のスキルを同時に発動する。実は午前中の実技実習の時間にロリ長、二宮さん、義人の3人に並んでもらって、20メートル離れた場所から瞬時に3人の裏側に回りこむという練習をしていたんだ。気配に敏感な勇者3人を相手取って、全く気付かれないまま俺は彼らの裏側に移動していた。それも僅か瞬き1回のほんの短い時間に。
(ピコーン! スキル縮地1段を手に入れました)
縮地だと! 中学時代の友達の家にあった武道を題材にしたマンガで見た記憶はあるけど、こうして実際にスキルとして手に入れられるとは思っていなかったぞ! 学園で試した時にはスキルとして得られなかったのは、もしかしたらこうした実戦の場で発動する必要があるのかもしれないな。
「なんだと!」
向かって俺に左側を走っていた3人組は急に目の前に現れた俺の姿に驚いた表情を浮かべている。そりゃあそうだろう、十分な間合いを取って俺の横を通り抜けようとしていたのに、まだ走り出して3歩もしないうちに俺が目の前に現れたんだから。勇者が3人掛かりでも気付けなかったんだから、如何に訓練を積んでいようとも普通の人間には気配を察することすら不可能だろう。
さて、こいつらの処分はどうしようか? 銃を所持して明確な敵意を持って俺たちを拉致しようとすれば、これは当然正当防衛が成立する事案だよな。もし手加減をして重傷を負わせたとしても、銃を持っていたら指が動かせるだけでも戦闘力が残っていると判断せざるを得ないだろう。ということは一番安全に処理する必要があるよな。何が一番安全かって? それは間違いなく殺すことだろうな。
俺は今まで人をこの手に掛けて殺した経験はさすがにない。その一歩手前までならちょくちょくあったけど。だが、状況に応じてはいつでも躊躇いなく人を殺す覚悟は出来ている。それこそが俺が学んできた四條流の教えそのものだからだ。効率良く人を殺す戦場での無手の武術、それが四條流の真の姿だ。一子相伝で800年受け継がれてきた流派の真髄こそ機械のように冷徹に人を殺す精神に他ならない。
縮地によって3人組の男たちの前に姿を現した俺はまず手近な1人の延髄に手刀を叩き込む。ダンジョンの謎のフロアーに出てきたウルフの変異種は、俺のレベルの上昇によって最後の方はこの手刀の一撃で絶命していた。当然人間はあのウルフよりもはるかに脆弱な体をしている訳なので、その一撃でバキッという音を立てて延髄が破壊される。
呻き声すら上げる暇なく1人目が倒れると、俺は次の相手に横合いから側頭部に手刀を叩き込む。頭蓋骨が陥没するグシャっという手応えが右手に伝わってくるな。両手に嵌めている炎神雷神の篭手は金属製にも拘らず手先の感覚を正確に伝えるんだ。おかげで四條流の繊細な投げ技や極め技も篭手を嵌めたままで十分可能だ。今はそんな物には拘らないで敵の殲滅を優先して大雑把に力を叩き付けているだけとなっているのがちょっと残念だ。
2人目を倒してもまだ姿を現した俺に反応できない最後の1人には胸部に掌打を叩き込む。胸骨と肋骨をまとめて全て破壊してその余波で心臓と肺まで潰された男は血を吐きながら後方に吹き飛ばされていった。
さて、左翼を片付けたら歩美さんたちに向かっている残った右翼の3人だな。先程と同じように縮地で一気に背後に姿を現すと、後頭部や首に手刀を叩き込んでお仕舞いだ。5秒もしないうちに左右の合計6人を失った男たちは次はどう出てくるのだろうか。
「撃て! 殺しても構わない。銃であの化け物の動きを止めるんだ!」
男たちが一斉に懐から銃を抜いて俺を目掛けて発砲を開始する。10人が手にするトカレフ型の拳銃から容赦ない銃弾が俺に襲い掛かる・・・・・・ と思ったんだけど、スキルを発動している俺の目には飛んでくる銃弾がキャッチボールをしているスピードにしか映らないな。避けるのは訳ないけど、俺の背後にあるご神木や社殿に傷が残るのは不味いだろう。
俺は飛んでくる銃弾を次々にキャッチしていく。左手でキャッチしながら右手で投げ返していくと、俺が投げた銃弾が次々に男たちに体にめり込んでいく。
(ピコーン! スキル投擲1段を手に入れました)
あっ、そう。またスキルが増えたのか。おかげで両手でキャッチしながら両手で投げ返すという器用な真似が可能になったぞ。銃弾でキャッチボールが出来るのは広い世の中でも俺くらいのものだろうな。飛んでくる銃弾を投げ返すたびに男たちは1人ずつ地面に沈んでいく。自分が撃った弾丸が戻ってくるんだから、やつらは信じられない物を見る表情で次々に蹲っていった。
約5秒間の銃撃戦の結果、この場に立っているのは俺だけとなる。チラリと背後を見ると歩美さんがホッとした表情を浮かべているな。きっと俺が無事かどうかここまで気が気ではなかったのだろう。あとからまたお説教を食らう可能性が大だな。これはもう決定事項といっても差し支えない。その前に倒れている連中にきっちりと止めを刺しておこうか。
俺は男たちの近くに行くとさながら倒れているゴブリンの如くにその首に踵を落としていく。ゴキッという音を立てて首の骨が折れると、男たちは体を痙攣させながら息絶える。うん、いつもダンジョンで見掛ける光景と一緒だな。どうやら相手が人間であっても命を奪うという行為に対して忌避感が麻痺しているようだ。ある意味では彼らが口にしていた『化け物』という俺に対する認識は正解なのかもしれない。
「神様、全員死んだぞ。こいつらはどうしようか? 警察に届けるのか?」
「ほほほ、防人に相応しき見事な腕よな。片付けくらいはワシに任せるとよいぞ。そなたもこちらに参れ」
神様との間には引き続き念話の回路が構築されている。その指示に従って俺は縁側まで歩いていく。
「なに、証拠を隠滅すれば事件などなかったも同然じゃよ。黄泉醜女出てまいれ」
神様が宿るネコからその念話が発せられると同時に、鳥居横の空間にパックリと黒い洞窟のような穴が開いて、そこから黄泉醜女が姿を現す。その姿はその名のとおりに表現できないような醜悪さに満ちているかと思えば、次の瞬間には絶世の美女に見えてしまう摩訶不思議な存在である。数人の黄泉醜女は引き連れてきた黄泉の鬼に命じて倒れている16人の男たちを黄泉の世界に引き擦り込んでいく。
全員の死体が空間に出来た黒い洞窟に引き込まれると、黄泉の世界の住人たちは自らその中に身を躍らせて消え去った。ここに男たちが来たという証拠は地面に落ちている拳銃と路上に放置されている黒塗りのワゴン車しか残っていない。それにしても分体とはいえこちらにいらっしゃる神様の力は恐ろしいものだな。イザナミの神ですら従わせるのも不可能であった黄泉醜女を呼び出しちゃって手足のように使役しているよ!
「拳銃は拾って裏の地面にでも埋めておけば良かろう。そなたとの戦いはワシの神域の内部で起こった故に、誰も見聞きはしておらん。放置されておる車は不法駐車として警察に引き取ってもらえ」
俺は神様のお言葉に従って拳銃を回収してから神社の裏手に穴を掘って埋めておく。ここに埋めた証拠の品が見つからない限りは完全犯罪だな。正当防衛だけど、警察の事情聴取をいちいち受けなければならないのは俺としても面倒だ。ああ! あいつらの死体をマジックバッグにしまってダンジョンに置いてくるという手もあったか。でもよほど深い階層に置かないと誰かの目に触れる可能性もあるし、それに死体を俺のマジックバッグに仕舞うのも嫌だし。この方法が一番良かったのかもしれない。
「ノリ君は凄く強かったんですね! 自分の目で見ていたのになんだか信じられない気がします!」
「歩美は俺が人を殺したのが気にならないのか?」
「以前だったら色々と心配したかもしれないんですが、神様の巫女になって私も精神的に強くなりました」
「そうなのか! てっきりまた心配を掛けたといってお説教を食らうと覚悟していたんだけど、今回は大丈夫だな」
「それとこれは全く別のお話ですから、ノリ君には私の話をしっかりと聞いてもらいます」
どうやら歩美さんからお小言はいただかねばならないようだ。まあ1つ大きな危険をこうして乗り越えたんだから、そのくらいは仕方ないだろう。甘んじて受けるとしよう。
「それよりも梓ちゃんをこのままにはして置けませんので、気が付くまで客間に寝かせてあげましょう。案内しますからノリ君は梓ちゃんを抱えて付いてきてください」
俺はまだ意識が朦朧としている二宮さんを抱え上げると、歩美さんの後を付いて客間に向かうのだった。
次回、神様との話しにようやく辿り着く重徳、そこで語られるのは・・・・・・ 投降は土曜日を予定しています。
それから実はまた新しい小説に手を出して連載を開始しました。今回は高2の女の子が主人公の物語です。タイトルは【非公認魔法少女が征く ~話はあとで聞いてやる、ひとまずこのこの拳で殴らせろ!】(N1294FN)となっております。緩い日常とハードな戦闘が売りのこの小説とは一味違う出来に仕上がっていますので、興味のある方はタイトルを検索するか、作者のページの作品一覧からアクセスしてみてください。




