39 ダンジョン5階層と階層ボス
タイトルが新しくなって2回目の投稿です。歩美の家から戻った翌日の重徳は・・・・・・
翌日・・・・・・
昨日は歩美さんの自宅で夕ご飯をご馳走になって帰ってきた。歩美さんの母から泊まっていくように強く勧められたが、その誘惑を辛うじて振り切って家路に着いたのだった。だってお母様の言葉の端々に『神社の跡取りが欲しい』とか『早く孫の顔が見たい』というフレーズが飛び出して来るんだよ。
もちろん俺は歩美さんと将来を誓ってはいるが、歩美さんのお母さん! いくらなんでもそれはちょっと気が早過ぎないでしょうか。それにまだ彼女が十分に回復していないのもあって、ゆっくりと休ませる意味で俺は戻ってきたのだ。惜しいことをしたという思いはあるが、昨日の自分の行動は間違ってはいないと自信を持って断言できるだろう。『据え膳食わぬは男の恥』という格言もケースバイケースなのだ。
そして俺は早朝からダンジョンを目指してすでに自宅を出ている。昨日この目にしてしまった歩美さんのステータスは衝撃的だったからな。彼女自身とその秘密を守るためにはまずは俺がもっと強くならなければならない。そのためならばここ最近忘れ掛けていた修羅になる決意を秘めて、この日俺はダンジョンに向かっているのだった。
「カレン、おはよう!」
「若、いや、四條君、今日は早朝からダンジョンに入るんですか?」
土日のバイトでカウンターに座っているカレンに声を掛けると、彼女が業務マニュアルに従って言葉遣いを改めているな。別に今更気にしなくてもいいのに。同じパーティーだというのは事務所の中ではすでに周知の事実なんだから。でも彼女の言葉遣いが素に戻るのはあっという間だった。
「今日は5階層を攻めてみようと思っているんだ。なかなかレベルアップしないから時間があったらもっと先に進んでみようと思っている」
「若、知っているとは思うが、並みの冒険者にとって単独行動が可能なのは5階層までだぞ。5階層を抜けるためには階層ボスを倒す必要があるんだ」
「ボスはゴブリンキングだろう」
「そのとおりだ。並みのゴブリンとは桁が違うぞ」
「コボルトキングよりは弱いんだろう」
「そうではあるが・・・・・・ いや、これ以上は止めておこう。若に何を言っても突っ走るのを止めようがないからな」
「安心しろ。十分警戒しながら進むから。いつものように安全第1で確実に攻略するよ」
「若の安全第1というのは他の冒険者にとっての無謀に匹敵するのだがな。とにかく片腕くらいなくなってもいいから這ってでもここに戻ってきてくれ」
「どこも失わないで戻ってくるから安心して待っていろよ。戻るのは夕方の予定だけど、場合によってはもっと遅くなるかもしれない」
「わかった、幸運を祈っている」
こうしてカレンの心配を他所に俺はダンジョンに入っていくのだった。
転移魔法陣を通って一旦4階層に出ると、真っ直ぐに5階層に向かう階段を目指して通路を進んでいく。すでに階段の位置は把握しているから、登場してくる魔物をいつものように瞬殺しながら歩いていく。気配察知のスキルのおかげで近付いてくる魔物がすぐにわかるから、ある程度の警戒をしていれば問題はないな。
1時間掛かってようやく階段が見えてくる。ここまですでに10回以上バトルを繰り返して、仕留めた魔物は30体以上に及んでいるけど、相変わらずレベルが上がる気配はないな。やはり4階層ではすでにレベル上昇の限界を迎えているのかもしれない。俺は意を決して階段を降りていく。
5階層・・・・・・ そこは見た目は4階層と同じ通路が左右に伸びている場所に過ぎない。だがより魔物の気配を濃厚に感じてくるな。危険度が跳ね上がっていると俺の直感が告げている。
そしてこの階層で一番最初に俺の歓迎に出向いてきたのは2体のオークだった。4階層でも何度もオークと出会ったけど、いずれも単体だったことに比べるとこれはかなりの注意が必要になってくるな。
通路の正面から左右に分かれて襲い掛かってくる2体のオークを相手にして俺は右に体を寄せて、まずは一体の迎撃に取り掛かる。腕を伸ばしてくるオークに対しては蹴り技が有効なんだよな。狙いはもちろん股間の急所一点! 伸ばしてくる両腕をバールでカチ上げてから前蹴りを決めると、オークは地面に崩れて悶絶している。知っていたけど、どうやらこいつはオスだな。
寝転がっている1体は後回しにしてもう一体の迎撃に取り掛かる。俺が横に動いたおかげで襲撃のタイミングを外された形となったオークは、崩れ落ちたもう1体の陰から急に現れた俺に慌てて飛び掛ろうとする。だがその攻撃はすでに後手に回っているんだよ。もう俺のバールが全力で振り下ろされている途中だからな。
ミシリという音を立てて右手のバールがオークの頭蓋骨に食い込んでいる。緑色のゴブリンの血とは違って人間と同じ真っ赤な血が脈拍に合わせて規則正しく噴き出しているな。オークの体内の循環器は人間とほぼ同じという証明だ。どこかで聞いたけどブタの臓器は人間に近いらしいな。そういう意味ではオークも実は人間に近い存在なのかもしれない。
だがダンジョンでは人間を襲う魔物として討伐される存在だ。そして俺の実家の道場の門弟に肉を供給している貴重な資源でもある。今更情けなど無用だ。こうして俺は股間を蹴られて悶絶しているもう1体にも止めを刺すと、最初の接触から10秒以内で討伐を終えた。
ドロップアイテムは魔石が1、牙が1、あと肉が一塊だな。魔石は1個1500円、牙は1200円だ。それよりもありがたいのは肉だよな。キロ当たり卸売り価格で3000円として、5キロはあるから〆て15000円分の肉だぜ。このくらいの量は門弟の腹に簡単に収まってしまうんだけど、我が家の財政に大いに役立ってくれるのは言うまでもない。
こうして俺は自分で地図を確認しながら5階層の東エリアの探索に取り掛かる。こちらの方向が一番北にあるダンジョンボスの部屋には近道になっているのだ。西側に向かうとかなり大回りをするというのはすでに地図で判明している。それにしても分かれ道が出てくるたびに地図と睨めっこでルートを選択する作業というのは中々馬鹿にならない仕事だ。普段はカレンに丸投げしているだけに、こうして自分でやってみると大変だというのが良くわかる。
もっとも俺は肉体労働向きだから、こうして頭を使う仕事はどちらかというと苦手な分野だ。仮に通路にトラップがあっても気付かずに踏み入ってしまうだろうな。やはりカレンは俺にとってはなくてはならない存在だ。
さて、この5階層に現れる魔物は今のところはオークが一番多いのかな。ゴブリンも偶に現れるけど、全て剣を手にしたジェネラルばかりだな。たかがゴブリンといえども剣を手にした3体を相手にするのは中々気を遣うよな。とにかく囲まれないように牽制しながら、1対1の局面を作り出さないといけない。時には片手と片足で同時に2体に攻撃を加えるなんていう器用さも求められる。
こうして通路を進んでいくと、計10回少々のバトルを重ねたところでようやく俺の頭にレベルが上昇する音が響いた。やったね! これでレベル14に到達したぞ。ちょうど目の前にセーフティーゾーンがあるから、自分のステータスを確認してみようかな。
四條 重徳 レベル14 男 15歳
職業 武術家
体力 159/169
魔力 60/60
攻撃力 153
防御力 145
知力 57
保有スキル 四條流古武術 身体強化 気配察知
注意事項 新たな職業はレベル20になると開示されます。
体力が減少しているのは疲労の影響なのかな。せっかくだから水分を補給して体を休めておこうか。それにしても昨日確認した歩美さんのスキルに比べて貧相な数字が並んでいるな。スキルも変化が見られないし、この分では俺が彼女を守るのではなくて、彼女に守られてしまうかもしれないな。
少なくとも彼女の足手まといにならないように、今の俺に出来るのはひたすらレベルを上げることだけだ。ステータスの注意事項にある新しい職業が開示されれば、そこから新たな道が広がるかもしれない。まずはレベル20を目指してこうして修羅の道を歩んでやる。魔物ども、俺の成長の糧にしてやるから待っていろよ! 全ては歩美さんを守るためだ。侵略してくる異世界ごとこの俺が吹っ飛ばしてやるぜ!
そこから休憩を挟みながら5時間を掛けて俺は5階層のボス部屋の前に立っている。この先に待っているのはゴブリンキングだ。図鑑では確認しているが、本物を目にするのは初めてだな。魔物図鑑によると討伐推奨レベルは10~12の4,5人のパーティーとなっている。それに比べて俺はレベルこそ若干上回っているが、仲間の援護がない単独アタックだ。余程心して掛からないと苦戦は免れないだろうな。
さて、水を一口飲んでから俺は扉に手を掛ける。うん、平常心で新たな戦いを迎えられるな。よし、行くか!
開いた扉の先には教室の4倍くらいの空間が広がっている。そこにウッソリと立っている体長は2メートルに届き、横幅は力士を上回っている存在がどうやらゴブリンキングのようだ。これは油断できない相手が登場したなと、俺は一層気持ちを引き締める。
開いていた扉は俺が室内に入ると自動的に閉じていく。これはコボルトキングを相手にした時と同様だ。ここを突破するには立ちはだかるボスを倒さなければならない。
「よう、機嫌はどうだ?」
せっかく挨拶をしてやったのにゴブリンキングは唸り声を上げるばかりで返事をしないな。最初から返事なんて期待していなかったけど。
さて、敵の戦力分析だ。力はその体格からいってコボルトキングと同じくらいに考えておいていいだろうな。武器は刃渡り2メートル近い大剣か。攻撃範囲もコボルトキングと同様と考えたら間違いはないだろう。あとはスピードがどの程度かだな。もっとも俺とカレンがコボルトキングと対戦したのはまだレベルが12の時だったから、そこから2つレベルアップしているというのは有利な要因だろう。
両手のバールの存在が頼もしく感じてくるな。睨み合った姿勢で双方とも動かないままに数瞬が過ぎていく。そして短い沈黙を破るようにして戦いの火蓋が切られる。ゴブリンキングはニヤリとした笑いを浮かべると、突進しながら手にした大剣を頭上に振り被る。だがその動作は俺から見ると然程早くはないな。むしろもっと刃渡りが短い剣を素早く振るう方が脅威に感じたかもしれない。
剣の軌道は読めたぞ。俺の頭上目掛けてやや斜めに振り下ろしてくる剣の外側に身をかわすと、俺はバールを振り上げてゴブリンキングの顎を狙う。だがその狙いはどうやら読まれていたようだ。やつは頭の角度を僅かに変えて頭部を覆う金属製の兜で防ごうとする。その間にやつの振り下ろした剣が下方向から斜め横に薙いできやがるな。
カキンという音を伴って俺のバールとゴブリンキングの兜の頬の部分がぶつかった。多少の衝撃はあったかもしれないがほぼノーダメージだと考えていいだろう。その間に斜め下から薙いでくる剣を俺は身を屈めて回避する。バカめ、最初からこの姿勢に持ち込むのが俺の狙いだったんだよ。顎を狙ったのはあくまでも牽制だからな。
身を屈めた俺はゴブリンキングの脚の爪先に力一杯バールを振り下ろす。
「ギャーーー!」
本当に知能が足りないやつだな。何で頭の先から胴体までスッポリ兜や鎧で覆っているのに、膝から下だけ裸足なんだよ! もしかして腰巻一丁というゴブリンの伝統に従っているのかな? ゴブリンの亜種も揃って裸足だったからな。さて、タンスの角にぶつけただけでも涙が出てくる右足の小指を潰された感想はどうかな? 弱点から確実に潰していくのは四條流の基本だからね。
爪先の痛みでゴブリンキングの動きは確実に悪くなっているな。体の方向を変えようとするたびに痛みで呻いているぞ。俺はゴブリンキングの剣が届く範囲の外を左右に動きながら何度か牽制すると、やつは踏み込まずに剣を振り回して威嚇してくるだけだ。
それじゃあ追撃と行こうかな。左手のバールを一旦ホルダーに戻した俺はゴブリンキングの右に回り込むフェイントを掛けてから素早く左に回っていく。予想通りにフェイントに引っ掛かったやつの剣は右に振られているな。俺は余裕を持って左後方に回ってバールの隣に差してある小型ナイフを引き抜くと、それをゴブリンキングのアキレス腱に突き刺す。
「ウギャーーー!」
絶叫に似た悲鳴を上げているが、ここから先はお前の苦痛に満ちた叫び声のオンパレードになるからな。覚悟しておけよ!
両足を負傷したゴブリンキングはすでに後ろ側に居る俺に正面を向けるのが困難になっている。というかアキレス腱を負傷して左足が完全に使い物にならなくなっているのだった。小指が痛む右足を軸にしてなんとか立っているのがやっとという状況に追い込まれている。まあこうなるのを予想して追い込んでいったのは俺だけどね。
片手で大剣を操って後ろ側に居る俺を攻撃しようとするけど、もうそれは無駄な足掻きも同然だ。力なく振るわれる剣をバールで弾き飛ばすと、俺はゴブリンキングの右足の膝の裏に蹴りを食らわす。その結果やつは膝がカクンとしてバランスを失った。アキレス腱が切れている左足でその体重を支えるのは最早不可能。地面に倒れていくしか残された道はない。
俺は剣を握っている右手を足で踏み付けて制してから、兜と革鎧の間にバールを振り下ろしていく。ゴブリンはもがき苦しみながら血を流して次第に弱っていく。俺のバールを握る手も緑色の血に塗れているな。
30回くらい振り下ろしたら、ついにゴブリンキングは細かい粒子になって消え去っていった。それにしても防具で身を固めている相手に止めを刺す威力がどうやら不足しているな。慣れ親しんだバールもそろそろ限界が近づいているのかもしれない。
こうして階層ボスを倒した俺は、ゴブリンキングが最初に立っていた場所の背後に現れた階段を6階層に向かって降りていくのだった。
無事に5階層を突破した重徳は引き続き6階層に向かいます。果たしてそこには・・・・・・ 次回の投稿は日曜日の予定です。
さて、新たなタイトルはいかがでしょうか。今までヒロインがチートな存在であるのを伏せるために仮のタイトルでしたが、これがこの小説の本タイトルとなります。
それではタイトルを一新したところでいつもの一言を・・・・・・
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