38 歩美のステータス2
歩美の母にキスをしている場面を目撃された2人は・・・・・・
「み、見られちゃったな」
「見られちゃいましたね」
「やっぱり不味いかな?」
「大丈夫だと思いますよ。お母さんは羨ましがっていたし」
確かに歩美さんの母は『若いって良いわね』とは言っていたものの、果たしてあれは本心なのだろうかという疑問が湧き上がる。大抵の親ならば自分の子供のあんなシーンを見ればショックを受けるはずではないだろうか。それとも俺の考えが古いのかな?
「実は私の両親は高校1年の時に同じクラスで知り合ってお互いに一目惚れして、それから8年後に結婚したんです。だから私たちを見て自分の当時の思い出が蘇っているんだと思います」
「そうなんだ、ご両親は高校生の時の恋が実ったんだ!」
「そうなんです。だから私も両親を見習ってノリ君のお嫁さんになりたいです」
「だから3つ目の夢なんだな」
「もちろん両親の影響もありますが、今は私が本心で望んでいるんですよ」
こうして面と向かって告げられるとなんだか照れるな。でも歩美さんは至って真面目な表情で俺に打ち明けてくれている。彼女の純真な気持ちに俺も応えないといけないな。
「いつかそういう日が来ると良いな。俺は必ず歩美を幸せにしてみせるぞ!」
「ノリ君、嬉しい・・・・・・」
おやおや、歩美さんがまた涙ぐんでいるな。そうだ! あの話をまだ伝えていなかったんだ。
「それに神様が『2人は深い縁で結ばれている』と言っていたから俺と歩美が将来結ばれるのは運命だと思うんだ。だからこれから先ずっと長い間よろしく頼む」
「まあ、神様がそのようなお告げを! ノリ君、どうぞよろしくお願いしますね」
歩美さんの母に見られたのは大きなハプニングだったけど、こうして話をしていると2人の間の絆が深まっていくような気がするな。こういうのを『雨降って地固まる』と言うのかな? あれ? ちょっと違うような気がするけどまあいいや。
「それじゃあ歩美のステータスを改めて詳しく見ていこう。俺が手を貸すからまずは職業の欄をクリックしてみようか」
「はい、ノリ君にお任せします」
まだ力が戻り切っていない歩美の手に俺がそっと手を重ねて、彼女のステータス画面の職業欄に触れてみると解説する文言が出てくる。
【天比売巫女・・・・・・ 神の言葉を伝え、時には自身の体に神を降ろして神憑りとなる特別な存在。その身を守るために様々な能力を与えられている】
「やはりさっきの神様の話と一致しているな。歩美は神様に選ばれた存在なんだ」
「どうしましょうか? 心の準備が全然出来ていないです。一応この神社の巫女としての修行は積んでいますが、何か特別なことをした方がいいのでしょうか?」
「神様は特に何も言っていなかったな。そうだ! 『わからないことがあったらあの白ネコに聞け』と言っていたぞ。何でもあの神様の眷属として遣わされたらしい。神様の分体は普段はあのネコに宿っているんだ」
「そうだったんですか! 物分りのいいネコちゃんだと思っていましてけど、神様の眷属だったのですね。私が元気になったらお話してみましょう」
ひとまずは歩美さんの職業が明らかになったな。どおりで今まで隠されたままだったはずだよ。こんな職業が大っぴらになったらとんでもない騒ぎになるぞ。だからこそ表向きの職業は〔料理人〕で、本物は人目につかないように裏に隠してあるんだな。
「それじゃあ次によくわからないのはこの〔神力〕だな。魔力とどう違うんだろう?」
「確かにそうですね。聞き慣れない言葉です」
再び歩美さんの手を取って画面をクリックする。
【神力・・・・・・ 霊力とも呼ばれるこの世界で神の業を実現する力。与えた神の位によってその効力が左右される。天地創造から神敵の討伐までその用途は幅広い】
「えーと、これは直接神様の力をもらったという理解でいいのかな?」
「魔力とは別の物のようですね。それにしても天地創造なんて大袈裟ですよね」
「確かにそれは大袈裟な気がするな。でもさっきの神様は『八百万の神々の祖』と言っていたから、神様の位的には相当上のような気がするけど」
「おそらくはこの国にいらっしゃいます神様の中では最上級のお方ではないかと思います。遥かな昔に一線を退かれているとはいえ、数多の神々の元になったお方ですから」
はいはい、歩美さんはその一番偉い神様から神力をもらっちゃたんだね。それも数値にして5000を超えているよ。俺の使い方がわからない魔力が2桁である点と比較して、相当優遇されているのは明らかだな。その他の数値に関しては特に問題はないようだ。知力が俺よりも高いのは真面目に授業を受けている証だろう。そして問題のスキルだよな。なんだか知るのが怖いぞ。
「それじゃあ、スキルに移っていいか?」
「はい、お願いします」
歩美さん自身は仰々しい表記で記載されているスキルの数々にまだそれ程ヤバい感覚を抱いてはいないようだ。でも俺の本能が警報をガンガン鳴らしている。ここに書かれているスキルはヤバ過ぎると。そしてその結果がこうなった。
【神威霊縛・・・・・・ 神の威厳によって相手の肉体と魂を一時封じることが可能となる。1回につき神力を10~1000消費する】
【神雷導墜・・・・・・ 天の雷を空から落とすことが出来る。空がない場所では自らの指先から放つことも可能となる。1回につき神力を10~2000消費する】
【神炎猛爆・・・・・・ 天の炎を相手に浴びせることが可能となる。炎を凝縮すると爆発を引き起こすことも可能となる。1回につき神力を10~2000消費する】
【神水霧断・・・・・・ 天の水を霧状の薄い刃に変化させて相手を断つことが可能となる。広範囲に展開すれば一度に多数の神敵を滅するのが可能となる1回につき神力を10~1000消費する】
【神氷槍刺・・・・・・ 天の氷を鋭く尖らせて槍状にして飛ばすことが可能となる。複数生成すれば一度に多数の神敵を滅するのが可能となる。1回につき神力を10~1000消費する】
【神光断罪・・・・・・ 神の怒りそのものを光に変換して神敵を滅する。1度につき神力を500~∞消費する】
【神癒霊療・・・・・・ 神の力で傷を治癒する。神力を大量に注ぎ込めば魂すら修復する。1回につき神力を200~∞消費する」
【神壁絶隔・・・・・・ 神の力によって形作られる障壁で、その強度は使用した神力によって変化する。1回につき神力を100~5000消費する】
【獲得経験値3倍・・・・・・ 魔物を倒した時に得られる経験値が優遇されている】
ああ、これは所謂チートというやつだな。攻撃から守備まで全部網羅されている上に回復まで用意されているんだから、もう文句のつけようがないぞ。これだけ揃っていれば歩美さん1人でダンジョンを攻略できるんじゃないのか? しかも全てのスキルが神様謹製とあらば、おそらくその威力もとんでもないものになっているんだろうな。巫女様の能力怖すぎじゃないだろうか。
俺の驚きを他所に当の歩美さんはまったく実感が湧かない表情でポカンとしている。俺と違ってダンジョンでの戦闘はおろか、他人と喧嘩した経験すらなさそうだから、自分が神様から与えられた力の恩恵の素晴らしさを理解していないんだろうな。
「ノリ君、これってどうなっているんですか?」
「歩美は神様から凄い力を与えられたようだな。実際にこの目にしてみないと断定できないけど、おそらく勇者や聖女なんか目じゃないだろう」
「ええーー! 私がそんな力をもらっちゃたんですか?! どうしましょう、困りました」
もし他の人なら大喜びするんだろうけど、これだけの能力を得て困ってしまうところがいかにも歩美さんらしいな。こういうおっとりとした平和な性格の人なら、この危険な能力を悪いことには使用しないだろうという神様の配慮かもしれないな。
「歩美、よく聞いてくれ。このステータスに記載されている力はとっても危険なんだ。絶対に他人にはバレないように普段は表のステータスで生活するんだ。俺と一緒に居る時以外は裏ステータスを封印してくれ」
「わかりました。ノリ君の言うとおりにします。表ステータス!」
歩美さんの声とともにステータスが切り替わった。これで安心安全で料理が得意ないつもの歩美さんに戻ってくれた。下手をするとダンジョンごとふっ飛ばしかねないようなあんな能力は、どこかでしっかりと訓練する必要があるだろう。それからじゃないとダンジョンでも怖くて使えないから、しばらくは封印しておくに限る。
歩美さんがステータスを閉じるとちょっと疲れた表情を見せている。まだ体に力が入らないのに無理をさせちゃったかな?
「歩美、また横になるか?」
「はい、ノリ君、お願いできますか」
俺は彼女の背中に挟んでいたクッションを退けて、両手を添えてそっと彼女をベッドに横たえる。まだ横になっているのが楽なんだな。でも歩美さんは手を俺に差し伸べようとしているぞ。不安だから握っていて欲しいんだな、このくらいはお安い御用だ。そのまま歩美さんの手を握りながら話をしている時に、ドアをノックする音が響いた。
「歩美、少しは良くなったかしら? そうだわ! 四條君はぜひとも夕ご飯を食べていってちょうだい。今準備しているからもう少し待ってね」
「ありがとうございます。歩美さんがもう少し回復するまで傍に付いています」
「お母さん、手伝えないでごめんなさい」
「いいのよ、気にしないでね。それじゃあ2人っきりでどうぞごゆっくり」
「もう、お母さんったら!」
寝たままでなにやら抗議する声を上げている歩美さんにニッコリと微笑んでから、彼女の母はドアを閉めて去っていった。なんだか全然さっきのシーンを気にしていないみたいだな。むしろ『ごゆっくり』なんて、何を期待しているんだ?
「ノリ君、お母さんが変なことを言うからとっても恥ずかしいです」
「それよりももうちょっと寝た方が良いんじゃないのか? 無理をして起きているといつまでも体が動かないぞ」
「ノリ君がこうして傍に居てくれるのに寝てしまうのはもったいないです。でもおやすみのキスをしてくれたら目を閉じます」
「それじゃあこれでおやすみなさい」
軽いキスをすると歩美さんは頬をピンクに染めている。表ステータスのいつもの歩美さんは俺にとっては神様が遣わしてくれた天使だからな。元気になるまでずっとこうして傍に居るぞ。
「ノリ君、それじゃあおやすみなさい」
こうして目を閉じた歩美さんはすぐに寝息を立て始める。きっと体を起こしただけでもかなりの疲労だったんだろうな。それでも眠りながら俺の手を絶対に離さないようにギュッと握っている。空いている手でそっと彼女の頬に触れてみると、優しげな温もりが伝わってくる。早く元気になるといいな。
それから2時間くらい眠っていた歩美さんは7時近くなってようやく目を開ける。窓の外はすっかり日が暮れて、電気をつけていない部屋の中は真っ暗になっている。
「ノリ君、真っ暗で何も見えません。電気をつけてもらえますか」
「ああ、気が付いたんだな。ちょっと待ってくれ」
証明が照らす光に眩しそうな表情を浮かべる歩美さんだが、さっきよりもずいぶん元気になって顔色も良くなっている感じがする。
「ノリ君、すっかり良くなりました。もう立ち上がれるかもしれません」
「そうか、無理をしないようにまずは体を起き上がらせるか」
歩美さんは俺に向かって両手を伸ばしてくる。さっきまでは全然手を上げられなかったから、ずいぶん回復したんだな。その手を取ってゆっくりと体を起こしてあげると、歩美さんは自分でベッドから足を下ろす。再び手を貸すと彼女は自分の足で立ち上がることが出来た。
「ノリ君、まだ足元が覚束ないので手を貸してくださいね」
「ゆっくりと歩くぞ。せーの」
こうして一歩一歩踏みしめるようにして俺たちは部屋を出て行くのだった。
巫女さん恐るべし! この作品の最強キャラかも知れません。重徳が成長したらもしかしたら追いつける可能性があるのかな。それは当人の頑張り次第でしょう。この続きは金曜日に投稿します。
次々に新しい作品が登場してこの小説のランキングは現在40位台まで下がってしまいました。ちょっと寂しいですが挽回するためには内容で勝負するしかありません。楽しく読んでいただけるように頑張りますので、皆様の応援をどうぞよろしくお願いします。
それではいつもの一言を・・・・・・
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