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36 アメノミナカヌシノカミ

神様を目の前にしての話が始まりました。

 アメノミナカヌシノカミと名乗った歩美さんの体に入り込んだ神様は更に言葉を続ける。



「さて、これからワシが色々と話をする内容を、そなたは包み隠さずこの娘に話して聞かせるのじゃ。いきなりその体の中にワシが入ったために目を回しているであろうからな。なに、案ずることはない。何度もこうして神憑かみがかりを繰り返しておれば、そのうちに意識を保っていられるようになる」


 なるほど、今歩美さんは意識がない状態なのか。健康には害はないんだろうけどちょっと心配だな。それよりも俺が彼女に神様の声を伝える大事な役目を担っているんだな。なんだか体がガチガチに緊張してきたぞ。



「したがって、話の中でそなたがわからぬ点はその場でワシに聞くといい。わからぬままで伝えても無駄になるからな」


「わかりました」


「さてさて、この世界は現在大きな危機に直面しておる。そなたも知ってのとおりに異なる世界が重なり合おうとしているのじゃ。数多あまたの次元を抜けて漂流しておった別の世界がこちらに侵食を開始しているというのがその現在の姿じゃな」


「世界が丸ごと漂流するなんてことがあるんですか?」


「人の目には捉えられぬ神の目で認識する高次元に於いては稀にあることじゃ。ワシとしても迷惑な話だと思うておる。さて、2つの世界が重なり合うとどのような結果になるかわかるかの?」


「ごちゃ混ぜになるんですか?」


「ふむ、そのような場合も考えられる。要は重なる次元同士の相性のようなものが結果を大きく左右するのじゃ。有り体に言うとこの世界と異なる世界の相性は最悪といえる。この場合、完全に重なった時点で対消滅が発生する可能性が高い」


「対消滅?」


「1つの場所に2つの物が存在すると、互いに反発して双方とも消え去ってしまうことじゃよ。2つの世界が無に帰して何もない空間だけがそこに生じてしまうのじゃ」


「大変な話じゃないですか! それを神様は止めないんですか?」


 おいおい、そんな次元を超えた話など人間の手に負えないだろう。ここは神様に何とかしてもらわないとならないんじゃないのか?



「それが出来る時期はとうに過ぎてしまったのじゃよ。この世界の全ての神々の間で話がまとまるまでには50年程掛かったのじゃ。危機が迫っておるというのに仲の悪い神が相変わらずいがみ合っておったせいじゃな。そうしているうちにすでにダンジョンが出現して人は異なる世界の侵略が起きていると知ってしまった。この世界には国や民族ごとに異なる多くの神が信仰されておる。もしも今本当に神が具体的な力を発揮したならば人はそれを奇跡と見做すであろう。その結果としてどの神が奇跡を起こしたかという争いが人々の間で繰り広げられる結果を招くのが目に見えておる。宗教によって理性を失った人のその先にあるものは、最終的に核戦争によって滅びたこの世界に他ならないのじゃ。自らが信仰する宗教が絡むと人は盲目にってしまうからのう」


 ちょっと待ってくれ! それじゃあどちらにしてもこの世界は滅びないといけないのか? でも確かに今でもこの世界では宗教が原因の争いが起きているのは間違いではない。歴史の授業でもたびたび信仰が原因の侵略や戦争が起きたと習ったし。



「ワシがちょっと昼寝をしている間に、神々は自分らのまとまりがなく意固地な姿勢を棚に上げて、進歩しない人の愚かさを理由にしてこの世界には直接手を出さない決定を下すに至った」



 ちょっと昼寝って! おそらく100年単位で寝ていたんだろうな。神様だけあって時間の概念が人間とは違うんだな。いや、余計なことは考えずに話に戻ろう。



「それではどうするのですか?」


「ワシらとしてもせっかくこうして見守ってきた世界をむざむざ失う気はないからのう。自らが手を下す代わりに、人に力を与えて異なる世界の影響を退けることにした訳じゃ。その方策として皆に与えられたのがステータスじゃ」


「ステータスは神様が創ったものなんですか!」


「神が創らんでどうやって万人に行き渡る? 人が力を合わせて異なる世界を討ち果たす道具こそがステータスじゃよ。おのれの最も得意な分野を生かして異なる世界の侵攻を食い止めてもらいたい。ワシらにとって都合の良い言い方をするなら、これは人に与えられた神の試練じゃな。ぜひともそなたらの力を見せてもらいたい」


「でも次元が重なるなんて現象をどうやって止めるんですか?」


「なかなか良い問いであるな。さて、先程『漂流する次元』と申したであろう。の世界は自らの意思で他の世界を侵略するために空間を漂っておる。その意思の源こそが彼の世界を統べる神そのものじゃ。言い方を変えるならば、そやつこそが魔王であるな。もしくは魔神かのう。あちらの世界も消滅を恐れてこちらを滅ぼそうとしておる。その手始めがダンジョンじゃな。したがって魔王を倒す以外にこの世界を救う術はなかろう。しかる後にあちらの世界を消し去ればこの世界は救われる。我らから見ても悪しき世界に他ならぬ故に、滅するのは神として当然の務めであろう」


 なんだ、魔王を倒せばいいのか・・・・・・ って、相手は向こうの世界の神様でしょうが! そんな簡単に倒せるはずないじゃないか! しかも異世界を消し去るなんて、到底人が可能なミッションには思えないぞ! 天地創造に匹敵するような大事業だろう。



「あちらの世界を消すのは我々神が請け負う。これは人の目には捉えられぬより高次元の話であるから、異なる世界の神、魔王さえおらねば我らにとっては容易い仕事じゃ。したがって、そなたらにはどうにかして魔王を倒してもらいたいのじゃ」


「そんな簡単にいくものでしょうか?」


「まこと困難な道のりであろうな。だがワシは人の可能性に賭けてみたいと考えておる。そなたらが力を合わせてどうかこのいばらの道のりを踏破してもらいたい」


 この世界が危機に瀕しているのはよくわかった。でも果たして俺たちに魔王を倒すなどということが可能なのだろうか? たとえば1年間訓練したMBGの先輩たちはいまだにゴブリンの亜種を倒すのがやっとだ。大山ダンジョンだってまだ25階層までしか人が踏み入っていないので全容が判明していない。



「そなたが不安に感じるのは無理もないな。そこでステータスと職業について少々説明を加えようとするか。もちろんステータスはレベルが上昇する程個人が強くなっていく。職業はどのような方向に自らを育てていけば良いのかという目安じゃな。レベル上昇に伴って得られるスキルの選択に影響を及ぼしておる」


 なんだかゲームとそっくりな仕様になっているんだな。俺はやったことはないけど、中学時代に聞いたゲーム好きな友達の話と共通点が多いぞ。



「ほほほ、そなたがゲームに似ていると思うのも無理はないのう。ワシが配下の者にステータスを作らせたおりに、そやつは手を抜きおって〔おんらいんげーむ〕の仕様を丸パクリしおったのじゃ。よって、実際に人に与えられる職業も全く同様の仕様となっておる」


 なんだよ、単に面倒だっただけじゃないか! こんな調子で本当に大丈夫なのかな? 神様って意外といい加減なんだな。



「そなた、今ワシに対して失礼な考えを抱いたな」


 しまった! 神様は俺の考えが読めるんだったよ! これはあまり変な感想を抱かないほうがいいな。ここは素直に土下座をしておこう。



「神様、失礼したしました。どうか続きをお願いいたします」


「まあよいじゃろう。よって〔おんらいんげーむ〕に実装されておる職業は大抵が網羅されておる。もっとも異なる種族は除外しておるがな。そういえば人によっては子供の時分に自らの職業を選択する者もおったな」


 ああ、たぶんそれが養殖勇者や義人のような努力型の勇者なんだろう。その他の人たちは大方自らの適性に見合った職業を得ているんだな。俺が武術家なのも頷けるぞ。



「だがそれだけでは戦力として不足しておるでな。ワシ自ら憑代よりしろに最適なこの娘と8人の特別に力を与える者を選んだのじゃ。そなたは残念ながら最終選考から漏れたがのう」


 そうだったのか! 歩美さんが神様に選ばれた人だったというわけか! どおりで俺の目には時々神々しく映っていた訳だ。8人というのはおそらくロリ長のような天然勇者を指しているんだな。俺も最終選考に残っただと! 勇者なんて面倒な職業が与えられなくて良かったよ!



「それそれ、そなたのそのような考え方が落選した最大の理由じゃよ。殊に戦闘力に関しては他の候補者と比較してズバ抜けておったのじゃが、そなたの何物にも囚われない自由でありたいという信条が勇者とは成り得ない原因じゃな。もっともその信条こそが最大の武器でもあるのだが」


 褒められているのか貶されているのかもうひとつ判然としないぞ! 確かに神様の言葉通りに俺は何事も自由にやりたい。面倒な責任はこの際だからロリ長に背負わせておこう。



「ふむふむ、その開き直り方こそそなたそのものであるな。さて、ワシはこの娘と他の8人に特別な力を与えた。この娘に関してはそなたの口から伝えてほしい。ところでそなたのステータスには『新しい職業』という記述がなかったか?」


「はい、ありました」


 そうだったよ! 確かレベル20になると開示されるんだったな。どんな職業なのか楽しみにしていたんだよ。



「実はそなたにも特殊な力を与えておいたのじゃよ。そなたはこの娘が選んだ存在、深い縁で互いに結びついておったからな。この娘に感謝するがいいぞ」


 へー、あれが俺に与えられた能力なのか。それにしても俺と歩美さんが『深い縁で結びついていた』なんて神様から言われるとついつい嬉しくなってくるな。歩美さん、俺を選んでくれてどうもありがとうございました。



「これこれ、そのように浮かれずにしっかり話を聞くのじゃ」


 しまった! また神様に心を読まれた。平常心を保って話に集中しよう!



「そなたには特別に裏ステータスを設けておいたぞ。レベルが20まで到達したならば自動的に発動するから、それまではどのような物か楽しみにしておくのじゃ。細かな説明はステータスが表示するようになっておるから自分で調べよ」


 神様、口頭で説明するのが面倒になったんですね! そうなんですね!



「そなたは神に対してまことに失礼であるな。面倒なのではないわ! 今この娘の体を借りておるのはワシの分体じゃ。本体のワシは遠き宇宙空間を何千キロに渡って漂っておる。ただし分体とは言っても神そのものを体に宿すのは負担が大きいのじゃ。よって時間を短くするのはこの娘のためじゃ!」


「大変失礼いたしました」


 神様に対して本日2回目の土下座を敢行する。本当にすいませんでした! 歩美さんのためだとは気が付きませんでした!



「ああ、わしの話はこの娘以外は他言無用じゃからな。それではワシはそこに寝ているネコの中に戻るぞ。そのネコは元々ワシが眷属として地上に遣わした者じゃ。何か用事があればこの娘を通じて話し掛けてみよ。それからこの娘はそのままにしておくと倒れる故そなたが体を支えてやれ。それではさらばじゃ!」


「わかりました。ありがとうございました」

 

 こうして神様はネコの中に戻っていく。俺はゆらりと傾く歩美さんの体を抱きかかえて支える。それにしても彼女がまさか神に選ばれた人だとは思ってもみなかったな。短い時間だったけどこうして神様と話をするなんて天地が引っ繰り返るような事件だよ。



「忘れておったぞ!」


 げえーー! 急に俺が抱きかかえている歩美さんが目を見開いて、その口から神様の声が聞こえてきた。



「そなたはワシの話を伝えてから、この娘と契りを結ぶのじゃ! それこそが娘がそなたが選んだ証となるであろう」


 なんだって! 契りを結べだって? そ、それはもしかして・・・・・・ いきなり俺は童貞を失ってしまうのか! 急に言われたってこの家には歩美さんの家族もいるだろうし、それよりも俺の心の準備が全然出来ていないぞ! 第一歩美さんに『神様から言われたのでやらせてください!』なんて伝えられる訳ないだろうが!



「なにをそんなに慌てているのじゃ! この娘と口付けを交わせと言っておるのじゃ! 男としてそのくらいの根性を見せてみよ」


 なんだ口付けか・・・・・・ いやいや、待ってください神様! 俺と歩美さんがキスをするんですか? もちろん嬉しいけど、それはそれで相当ハードルが高い注文ですよ。



「それでは改めて、さらばじゃ!」


 こうして神様は歩美さんから本当に去っていった。そのあとには意識を失った彼女を抱えている俺が取り残される。そこに・・・・・・



「歩美? 帰ってきたのかしらね? なんだか縁側で声がしたような気がするけど」


 パタパタとこちらに近づいてくる足音が響いてくる。そしてその声の主は歩美さんを抱きかかえる俺の姿を見て立ち止まる。なんとも言えない沈黙の時間だけが過ぎていく。1秒1秒が永劫の時間のように感じられる。



「あなたはもしかして四條君かしら?」


「はい、こんな格好で失礼します。四條重徳です」


「まあまあ、ようこそいらっしゃいました。私が歩美の母です。娘がいつもお世話になっています。それにしても若いって良いわね。私もあの頃に戻りたいわ」


 良かったよ! こんな姿を見られていきなり怒鳴られるかと思ったら、歩美さんのお母さんはなんだかニヤニヤした表情を浮かべている。いやいや、それよりも娘さんの心配をしてくださいよ! 意識を失っているんだから!



「すいません、歩美さんが急に目眩を起こしたようで気を失っています。どこかに寝かせて欲しいんですが」


「まあまあ、そうだったのね。ちょっと勘違いしちゃったわ。それじゃあ歩美の部屋に運びましょうか」


 歩美さんのお母さん! 一体どんな勘違いをしたって言うんですか? それはどうでもいいから、早く彼女を部屋に運ばせてください。今は寝かせておくのが一番ですから。



「俺がこのまま運びます」


 グッタリしている歩美さんの体をお姫様だっこで抱えあげると、お母さんがビックリした表情をしているな。



「まあまあ、四條君は力持ちなのね。歩美からいつも聞かされていますよ。とっても頼りになる人だって。それではこちらですから付いてきてくださいね」


 お母さんはおっとりしていて、なんだか歩美さんと性格がよく似ているな。でも今は挨拶よりも先に娘を心配してくださいよ。



 こうして俺は彼女の部屋のベッドに無事に寝かせて、その傍らで目を閉じている歩美さんを見守っている。お母さんは『歩美が気が付くまで四條君にお任せしますね』と言って出て行ってしまった。


 まだ目を覚まさない歩美さんを見守りながら、俺は先程の神様の話をどのように切り出そうかと頭を悩ませるのだった。


 


なんだか壮大な話になってきました。重徳は果たして魔王を倒せるのか・・・・・・ その前に彼は目の前の課題を片付けなければなりません。この話の続きは明日投稿の予定です。


今回ちょっと時間に追われていたために特に神様の話について十分煮詰められませんでした。もし話の矛盾点などがありましたらご指摘ください。ツッコミも大歓迎です。


最後にいつもの一言を言わせていただきます。


評価とブックマーク、いっぱい欲しいお!

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