33 先輩パーティーと
先輩たちを追ってダンジョンに出向いた重徳は・・・・・・
俺は急いで仕度を整えるとダンジョンに向かう。事務所を通過してゲートの手前でヘルメットやプロテクターを身に着けてから、転移魔法陣に飛び込んでいく。頭の中で4階層と念じればそこに運んでくれる謎の技術は本当にありがたいな。
「到着したな。さて、先輩たちは何処だろう?」
独り言を呟きながら気配察知のスキルで周囲を探ると、30メートル離れた辺りに複数の気配がある。あまり動いていないところを見ると、おそらくは俺の到着を待っている先輩たちだろう。真っ直ぐに進んで角をひとつ曲がれば行き会うはずだ。
「おお、四條君じゃないか! ずいぶん時間が掛かったな。ここで君を待っている間にもう魔物と3回ぐらい遭遇したんだぞ」
「お待たせしてすみませんでした。1年生の仲間を実家に連れて行ったものですから」
「ああ、そうだったのか。君の家はこのすぐ近くらしいな。そのうちにダンジョン部の溜り場になるぞ」
「広さだけは十分にあるので問題ありません。先輩方もダンジョンの帰りに寄ってみますか?」
「そのうち挨拶をさせてもらおう。さて、それでは本格的に探索を開始しようか。四條君はどうするんだ?」
「先輩方のフォーメーションの邪魔になりたくないので、最初は後方から様子見します」
「いいだろう。後ろから見て気が付いたことは意見してくれ」
こうして俺は先輩の後ろから付いていくような形でダンジョンの通路を進んでいく。先日初めて先輩たちと会ったのは4階層の南エリアだったが、今日は西エリアを探索するという話だった。
「ところで稲盛先輩、このパーティーのMBGという名称は何の略ですか?」
「なんだか当ててみろ」
そう言われても急には思い付かないよな。ダンジョンに関係することかな? ひょっとしてMは魔物という意味かな?
「わかりました! M(魔物)B(ぶっ殺し)G(ガールズ)ですね!」
「違ーーーう! 何で君の発想はそんなに物騒なんだい? 本当に意味がわからないよ! 正解はM(モテモテ)B(ベッピン)G(ガールズ)だ! ガールズしか合っていないじゃないか!」
「・・・・・・」
「四條君、確認しておきたいが、なぜそこでリアクションがないのかな?」
すいません、先輩方。けっして意図してリアクションを取らなかった訳ではありません! 弩ストレートに安直すぎて言葉に詰まっただけです。そうは言ってもなんだか先輩たちから立ち上る空気が不穏な感じになっているな。ここはひとつ皆さんを持ち上げて機嫌を直してもらおう。
「そりゃあそうですよね! 先輩方は美人でモテモテですよね! もちろん彼氏とか居るんでしょうね。羨ましいなぁ」
「「「「「・・・・・・」」」」」
あれれ? 先輩たちから立ち上る空気が一層険悪になっているように感じているのは俺だけか? これはもしかして地雷を思いっきり踏み抜いたというやつだろうか?
「四條君、君は入部したての1年生でありながら中々の根性をしているな! ここに居るのは彼氏ができなかったり、ついこの間フラれたばかりの5人だよ」
「デスヨネー!」
「何が『デスヨネー』だ! しかも思いっきり棒読みをしているじゃないか! 人の心をそこまで鋭く抉って君は満足なのか!」
稲盛先輩が涙ぐんでいるな。きっと最近失恋したばかりなんだろう。お可愛そうに、せっかくパーティー名どおりに可愛いのにな。ここはしっかりとフォローしないと益々雰囲気が悪くなってしまうぞ。
「大変失礼しました。先輩方は皆さんとってもきれいな人ばかりなので、てっきり決まった人が居るのかと思い込んでいました。それにしてももったいないですね! こんなきれいな人を放って置くなんて」
「そうだろう! やっぱり四條君は私たちが見込んだとおりの人物だ! 寂しい女心もちゃんとわかってくれる」
なんだ? 急に稲盛先輩が立ち直っているぞ。女心なんてそんな複雑怪奇なものは俺如きにわかって堪るか! それがわかれば俺だって歩美さんの気持ちをだな、もっとこう・・・・・・ いや、今はこれ以上は止めておこう。
「それでは四條君の厚意に甘えて、私たち5人は君を都合のいい彼氏代理に任命してあげよう。本物の彼氏ができるまでは、寂しい私たちを慰めるんだよ」
「先輩、さすがにそれは勘弁してください」
「あれだけ人の心を傷つけておいて拒否するつもりなのかな?」
「無理だから! 絶対に無理ですから!」
「ハハハハハ、冗談だよ。こんな話にホイホイ乗ってくる男のほうが信用できないだろう」
冗談で良かったよ! 稲盛先輩以外の方々が堪え切れない様子で一斉にプッと吹き出している。どうやら俺はからかわれたらしい。それにしてもあそこで『はい、わかりました』なんて返事をしなくて本当によかったよ。ちょっと待ってくれ! 笑い声に紛れて誰か絶対に『チッ!』と言ったよな。まあ聞こえなかったことにしておこう。この先輩方を相手にして、いちいち気にしたら身が持たない。
さて、ここで第8ダンジョン部所属のパーティー、MBGのメンバー5人を紹介していこうか。
稲森真由美 リーダー、片手剣と小型の盾を使用、職業は戦乙女。明るくてさっぱりとした性格で、このパーティーと第8ダンジョン部の要となっている。レベル9
里中ひかり 前衛担当、短槍を手にして魔物に直接攻撃を加える。職業は槍士で、あまり多くを語らないタイプ。レベル8
谷口 藍 後衛でサブリーダー。魔法使いで得意魔法は氷属性と風属性。冷静に戦況を把握しながら後方から指示を出す。レベル8
青井 洋子 後衛担当、魔法使いで支援系の魔法を用いる。防御結界を構築したり、味方の攻撃力アップを司る。家庭的で柔らかな雰囲気を持っている。レベル8
野田 弘美 斥候、ガイド担当。短剣を持っているものの攻撃力は低い。戦闘中は後方に下がって周囲の警戒に務めている。少々お調子者である点が玉に瑕。気配察知のスキルを持っている。レベル8
これが先輩たちから教えてもらった戦闘時の役割と、あとは俺の主観が入った彼女たちの印象だ。通路を歩く時は野口先輩が一番前で気配を探り、その後ろに稲盛先輩と里中先輩が並び、最後方を魔法使いが固める布陣を取っている。今日はその後ろに更に俺が居る形だ。
「真由美、前方に魔物の気配だ! 2,3体居そうだ」
「オーケー! 弘美はすぐに退避、後方もしっかりと注意を配って! 藍は魔法の準備を! ひかりはいつでも飛び出せるようにして!」
「オーケー!」
「魔法は中央にぶち込むわよ!」
「真由美に攻撃力強化の魔法を掛ける!」
「お願い!」
普段から一緒に活動しているだけあってこうした息は合っているな。各自が自分の責任を果たすべくきびきびと動いている。彼女たちが迎撃の準備を整えたその時、通路の先から現れたのは剣を手にしたゴブリンソルジャーが3体だった。ゴブリンは性欲が旺盛と言われている。そこに女性ばかり5人現れたとなると、欲望剥き出しの表情で襲い掛からんと迫ってくる。
「壁際に退避! 藍、魔法を撃って!」
「いくよー! アイスアロー!」
藍先輩の右手から1メートルくらいの氷柱状に先が尖った槍が生み出される。アイスアローは中央を突進してくるゴブリンソルジャーの腹部を貫いて、この時点で3体のうちの1体が戦闘から脱落した。
「ひかり、いくよ!」
2体となった魔物に対して真由美先輩とひかり先輩が得物を手にして切り掛かっていく。だがそれは一撃で決めるような剣や槍ではなくて、ゴブリンの突進を押し留めるのが目的のようだ。前衛の2人が魔物を釘付けにしている間に魔法で止めを刺すというのがこのパーティーの戦法らしい。剣と剣、剣と槍がぶつかり合う音が通路に響いて火花を散らしている。
ふむふむ、真由美先輩やひかり先輩の技術は安全第一で魔物の剣を受け止める方向に特化しているな。レベルにも因るだろうけど女性の腕力ではゴブリンソルジャーを圧倒するのは中々困難なことだろう。だからしっかりと剣を受けてから相手の隙を作り出した上で、最後の止めは魔法という流れになるんだな。
洋子先輩の支援魔法がひかり先輩にも掛けられたようだな。はっきりと見て取れる程に動きが良くなっているぞ。互角の打ち合いだったのが、勢いを増したひかり先輩が押し気味に進めているな。
「ひかり、退避して!」
藍先輩の声が飛ぶと、先程と同じようにアイスアローが飛び出していく。見事にゴブリンソルジャーの腹を突き破っているな。これで前衛が2人に対して魔物が1体か。圧倒的にこちらが優位になって最後は後ろからひかり先輩の槍がゴブリンの背中に突き刺さり3体全てが討伐された。戦闘開始から3分近く経過しているか。その間剣と槍をずっと振り回していた前衛の2人は肩で息をしている。
きっとこのようなやり方で魔物を倒すのが一般的な冒険者パーティーなんだろうと思う。俺とカレンのパーティーとは手法がだいぶ違うよな。もっとも俺のやり方を最初に見た時にはカレンも呆れていたけど。ともあれ、学園のメンバーとパーティーを組んだ時の参考になるのは間違いない。
ペットボトルの水を飲んで息を整えた真由美先輩が俺に声を掛けてくる。息は整ったもののまだ額には汗が滲んでいるな。
「四條君、私たちの戦い方について意見はないか? 後ろから見て気が付いたことをありのままに話して欲しい」
「そうですね、安全第一の戦い方で堅実だとは思いますが、前衛のお2人は連戦になるとキツくないですか?」
この4階層では魔物が5分に1回のペースで現れてくる。つまりこうして疲れを癒すインターバルは2分しかないということになる。
「その点が私たちの一番のネックになっているんだ。したがって戦いの最中でも常にセーフティーゾーンの位置を気にしてそこに飛び込んで休む時間が必要になってくる」
やはりそうなのか、一度の魔物との戦いであれだけ息が上がってしまうと、少なくとも20分くらい休まないと次に備えられないよな。セーフティーゾーンを上手に使うのもダンジョン攻略の1つの方法だな。
「前衛が1体仕留めるのに時間が掛かりすぎるのが難点なんですよね。だったら手が空いている人が手を貸せばいいんですよ」
「このパーティーに手を貸せる人員は居ないぞ」
「いえ、弘美先輩が余っているじゃないですか」
「戦闘力が低い弘美に短剣で加勢しろと言うのか?」
「何も短剣だけが武器ではないですよ。もう少し遠距離から牽制出来る物がいいと思います。弓は狭いダンジョンでは扱いにくいし技術が必要だから、スリングショットなんかどうでしょうか?」
「「「「「スリングショット?」」」」」
先輩たちは頭に???を浮かべているな。もうちょっと詳しく説明しようか。
「通称パチンコと呼ばれるゴムを使った簡単な投擲機ですよ。市販されている物でも威力は十分だし鉛玉も売られていますから、ゴブリンの注意を引くには十分なはずです」
「なるほど、弘美が魔物の注意を引いてその隙に前衛が仕留めることも可能になるのか。それはいいアイデアだな。弘美はどう思う?」
「練習してみたいわね。外に出たら早速調べてみようかしら」
話を聞くと先輩たちも以前弘美先輩に何らかの武器を持たせるのを検討したそうだ。一番良いのはピストルだったが、これは法律で禁止されているので手には入らない。しかもダンジョン内の狭い通路では警察や自衛隊すらも跳弾や同士討ちの危険を考慮して使用を躊躇しているそうだ。その他に弓等も候補に挙がったのだが、さすがにスリングショットは子供の玩具という認識しか持っていなかったそうだ。
この他にもスリングショットのメリットはある。それは伸ばしたゴムの反発力で威力が決まるので、使用者のレベルや体力に関係なく一定のダメージを魔物に与えることが可能な点だ。最近では玉をセットする箇所に磁石が付いた物まであって、散弾銃のように複数の玉を飛ばせるそうだ。
「弘美先輩が牽制して足止めをすれば、そのまま魔法で仕留めるのも可能になるかもしれないですよ」
「さすがは戦闘の専門家だけあるな。四條君の意見を聞いて良かったよ。さて、私たちはしばらくお疲れなので、今から30分間通路に出てくる魔物は君に任せるからよろしく頼む」
絶対にウソだ! このままでももう1戦くらいなら魔物と戦えそうな表情なのに、真由美先輩は俺に丸投げを決め込んでいる。要はちょっと楽をしたいんですね。仕方がないから俺が先輩方のために一肌脱ぎましょう! せっかくダンジョンに来て何もしないのももったいないですからね。
そこからきっかり30分、俺のワンマンショーが開催された。ゴブリンだろうがコボルトだろうがオークだろうが、登場してくれた魔物はバールの一振りで薙ぎ倒していく。それはまさに秒殺の連続だった。
「何度見ても四條君の戦いぶりは絶対にまねできないな。その恐ろしいまでの手際の良さはレベル13の恩恵なのか?」
「レベルは単にパワーアップに貢献しているだけですよ。俺の戦いのベースは全てが四條流の技術ですから」
「そうか、道場の息子は伊達ではないということだな。せっかくだからもう少し私たちの用心棒を務めてもらおうか」
「わかりました」
こうして先輩たちの間では俺のニックネームが用心棒君と決定するのだった。ああ、直後に稲盛先輩が1ヶ月ぶりにレベルアップして大喜びしていたぞ。せっかくなんだから他の先輩たちにしたように俺に抱きついてくれれば良かったのに、ハイタッチだけで終わったのはちょっと残念だったな。
これからも時々登場する2年生パーティーMBGをどうぞよろしくお願いします。次回はこの物語の中でも大きなイベントが発生する予定です。投稿は明日の予定です、しばらくお待ちください!
さて、それではいつものお約束のセリフを言わせていただきます。いいですか、よく聞いてくださいね! 1回しか言いませんよ! それでは・・・・・・
ブックマークと評価、いっぱい欲しいお!




