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3 外道勇者

今日は時間は未定ですがもう1話投稿します。まずは第3話をお楽しみください。

「テメー、一般人の分際で偶然とはいえ良治をやりやがったな! 俺たちは中学の時は負け知らずで一般人は教師も含めて奴隷のように扱ってやったんだぞ!」


「俺たちから見れば一般人なんて価値のない生き物だ。女だって手当たり次第に好きにヤリ捲くってやったからな! 嫌って泣き喚く声が最高なんだぜ」


「おまけに俺の父親は政府の高官だ。多少の事件は揉み消せるから被害者は全員泣き寝入りさ。この学校でも面白おかしく過ごすためにまずはお前とあの女を奴隷にしてやる。そうだ! せっかくだからどっちが先に自殺するか賭けようぜ!」


「それは面白いな! 中学の時にもやったけど、あの女たちは2人で一緒にマンションから飛び降りたから賭けが成立しなかったな」


「俺は女が先だな。弱そうだし」


「そうだな、こいつはちょっとしぶとそうだから少しは抵抗するんじゃないのか?」


「なんだよ! それじゃあ賭けが成立しないぞ!」


「賭けを面白くするためにこいつをもっとハードにイジメるってのはどうだ?」


「よし、それでいこう!」


 好き勝手言っているけど、本当にどこに目を付けているのか問い質してやりたくなるな。俺のカウンターの肘打ちが偶然に見えるんだ。さすがにここまでレベルが低いとは思っても見なかったぞ。口振りからすると4人とも同じ中学校の出身なのか? それにしてもこいつらが在籍した中学校の周囲の生徒は気の毒だったな。校内で勇者の横暴が罷り通っていた訳か。教師の制止など歯牙にも掛けずに回りの生徒をイジメ捲くっていたんだな。勇者の名を借りた暴力団顔負けの悪逆非道な連中だ。自分たちが一番価値がないゴミ以下の存在なんだと全くわかっていない。力におぼれる畜生以下だ。


 こいつら4人は養殖で作られた勇者、つまりはお受験戦争を潜り抜けてきたボンボンだ。どうせ甘やかされて育ってきたんだろう。だから自分の欲求が全て押し通せると思い込んでいやがる。おまけに他人の気持ちとかには全く無頓着だから、言ってみれば頭から他人を見下す俺が一番嫌いな人種というわけだよな。お坊ちゃんらしくこんな所にいないでママの胸の中でぬくぬくとしていればいいものを、自分からこうしてわざわざ怪我をしにくるんだから救いようがないな。まあ自業自得なんだから観念するんだな。


 さて、これは俺のためだけじゃなくて鴨川さんの安全を守るためにも少々きつい教育が必要だ。命までは取るつもりはないが、しばらくは病院のベッドでの生活を余儀なくされる程度のペナルティーを与えてやろう。



「くだらないおしゃべりは終わったのか? しょうがないから俺もその賭けに乗ってやるよ。次に死ぬのはお前たち3人のうちの誰かだ。ほら好きなタイミングでかかって来い!」


「ゴミの分際でナメるなよ!」


「良治の隣の地面に這い蹲らせてやる!」


「お前を素直な奴隷にしたら次はあの女の番だぜ!」


 どうやら俺の足元で体をピクピクさせているのは良治という名前らしい。名前とは違ってやっていることはちっとも良くないぞ! ほれ、もう1発お仕置きだ。俺が肋骨が折れた箇所に軽く蹴りを入れると、声にならない呻きを上げて足をバタつかせている。そりゃあ痛いだろうな、肋骨2本は確実に折れているからな。



「どうするんだ? 早くしないとこいつが余計痛い思いをするだけだぞ」


 これは『人の痛みがわかる人間になれ』という俺からのプレゼントだ。まずは痛みとはどのような物かを理解しないと、他人の痛みなんかわからないからな。この程度でお前が過去に犯した罪が消えるとも思えないけど。


 まだバタバタする元気があるみたいだからもう1発入れてやろう。おや、なんだ呆気ないな。痛みに耐えかねて白目を剥いて気を失ったか。全く最近の若者は軟弱で困るぞ。この程度の怪我なんて実家の道場では毎日当たり前の光景だ。むしろ門弟の誰かが怪我をしない日の方が『何か不吉な前触れではないか』と皆がうろたえるくらいだ。 



「なんて汚いヤローだ! これだから一般人のゴミってやつは救いようがないな。素直に俺たちの奴隷になっていればいいのに無駄な抵抗をするだけ苦しむんだぞ!」


「こいつは良治を人質に取っているつもりなのか? 本当に極悪非道なやつだな」


「良治の分まで死んだ方がマシなくらいにボコボコにしてやる! しつけは大切だからな」


 おいおい、どこから突っ込んでいいのかわからないぞ! どこの誰が汚いやつだって? よくもまあ自分たちがやっていることをそうやって棚に上げられるな。その甘ったれたクソガキみたいな精神構造を一度病院で診てもらうのを勧めるぞ。ぜひともお薬は多めに出してもらうのを忘れないようにするんだ!



「なんだ、やっぱり勇者なんてものは所詮は口ばかりなんだな」


「殺してやる!」


 はい! 俺の挑発にバカがもう1人引っ掛かりました! コブシを握り締めて俺に殴り掛かろうとするけど、バカの1つ覚えじゃないんだからもうちょっと気が効いた攻撃は出来ないのかと疑問に思うぞ。ああ、バカだから仕方がないのか。


 素人丸出しの大きなモーションで殴り掛かってくる2人目、その握り締めたコブシを俺に向かって伸ばした瞬間、ヒョイと右手で手首の辺りを左手で肘の手前を掴む。そのまま後ろ向きに体を翻して体重移動しながら腰を相手の懐に入りこませると、型通りの一本背負いの出来上がりだ。俺に殴り掛かったつもりだったのに、いつの間にか2人目の体が宙に浮いて背中と地面がもう少しでくっつくぞ!


 だがその瞬間俺の真横からもう1人が飛び掛ってくる。ちょっと待てよ! 今俺が手を離すと投げられているやつは頭から地面に突っ込んで首の骨を折るぞ。なんてタイミングが悪いやつだ! 仲間のためにあと0.5秒だけ待っててやれないのか? 仕方がないから俺は投げを打っている不十分な体勢から左足で迎え撃つ準備を開始する。



「オラーー! 喰らえー!」


 またもや殴り掛かってくる3人目だが、さあ単純な算数の問題だ。お前の腕と俺の脚ではどちらがより遠くまで届くでしょうか? ポクポクポク・・・チーン! 正解は俺の脚でしたー! 



「ゴワッ!」


「ゲフッ!」


 投げられて背中からきれいに地面に落ちた2人目と、腹のど真ん中に蹴りが入った3人目が同時にくぐもった声を上げて悶絶している。両者とも1人目と同様に自分が突進してきた勢いがそのまま俺の攻撃の威力に変換されているから、口から泡を吹いて気を失っているだろうな。相手の力を利用するのは四條流が最も得意とするところだ。どんなに防御力の数値が高くてもまともに食らったら一溜まりもない。


 だが不十分な体勢で片足を上げた俺も突進してくる3人目の勢いで真横に撥ね飛ばされた。養殖とは言っても勇者のパワーはそれなりにある。その勢いは体感的には150キロの力士の突進と同じくらいだった。飛ばされた俺は勢いに逆らわずに地面をゴロゴロと転がりながら減速してスタッと立ち上がる。やはりまともにぶつかり合うのは持っている体力差からいってどうしても俺が不利だ。



「死ねーー!」


 俺が立ち上がった刹那、どこから取り出したのかわからない鞘付の剣を振り翳して最後の1人が俺に迫ってくる。悪い判断じゃないな、得物が手にあるなら使うのは当たり前だ。だけど知っているか? 四條流の古武術というのは矢尽き刀が折れた際に無手で武器を持つ相手と渡り合うために発達したんだぞ。剣だろうが金属バットだろうが当たらなければ意味はない。そのための体の捌きは両親によって骨の髄まで叩き込まれている。もういつでも無意識に体が動くくらいに。



 ヒュンと音がする勢いで大上段から剣が振り下ろされるが、俺は体を左側に開いて皮一枚の差で避けていく。それにしてもこいつは剣の振りの基礎が全く疎かだな。振った剣はすぐに引き戻さないと隙だらけじゃないか。しかも全然腰が入っていない手振りだから、そのうち腕が上がらなくなるぞ。せっかく実戦に近い稽古が出来るからしばらくは付き合ってやるか。



「ハハハハハ! どうした、俺の剣が怖くて攻撃が出来ないのか? さっきから避けてばかりだぞ!」


 大笑いしながら表情を歪める最後の1人は俺が自分の鍛錬に有効活用しているとも知らずに盛んに剣を繰り出している。右からの横薙ぎ、袈裟斬り、下方向からの払い、再び袈裟斬りとずいぶん俺のために頑張ってくれているが、いずれも掠りもしないで俺によってかわされていく。すでにその剣筋は見切っているからこのままいくらでも避けていられるぞ。ほらほら、もっと頑張りましょうね! 一旦俺との間に距離を取って剣を構え直す4人目、その目は俺を捉え切れないせいで苛立った光を宿している。



「なぜだ? これだけ攻撃しているのになぜ当たらないんだ?!」


「俺が避けているからに決まっているだろう。さて、四條流に武器を向けてきたからには死ぬ覚悟があると見做していいんだよな。素手でのお遊びとは違うんだぞ」


 今までは俺から見ると本当の遊びの領域だった。だが武器を手にする相手となると多少本気を出さざるを得ないよな。その結果として死にはしないまでも相当な大怪我を負う可能性はあるぞ。



「当たりさえすれば俺が勝つんだ! 黙ってその場で俺の剣を受るんだ! 死ねーー!」


 苛立ちのせいでますます乱れた剣筋でもはや闇雲に振り回すレベルで剣を振り回してくる。こうなるとチェックメートまであと一歩だな。無駄な力が入っているから勢いがあるようには見えるけど、大振りで避けやすいんだよ。


 俺が余裕のある動きでかわしていると、次第に相手の剣が下がってくる。だから言わんこっちゃない! 腕の力だけで重たい剣を振るから限界が来ているんだよ。その証拠に剣先が僅かにブレ始めているぞ。しっかりと握れなくなっているから、まるでプルプル震えているようだな。さて、そろそろ遊びは終わりにしてやろうか。


 またもや左からの袈裟斬りが飛んでくる。だいぶ剣速が鈍っているな。俺はサッと左側にかわしてから相手が剣を持つ手首に自分の右腕を上から力を込めて重ねる。こうして力を加えると、持っている剣は簡単には持ち上がらなくなるんだ。戦闘が開始された序盤ならまだしも、疲れて腕に力が入らない状態でこれをやられるのは剣士にとっては非常に困るはずだ。



「このゴミが! 離せ! その手を離しやがれ!」


「うるさい口だな、黙れよ!」

 

 俺は空いている左手を軽く握って相手の鼻に向かって裏拳を放つ。この時に手を軽く握るのがコツだぞ。ギュッと握るよりも手首をムチのようにしならせた方が威力が増すんだ。



「ウゴボー!」


 本日2度めのゴキッという手応えが俺の右手に伝わる。当然鼻骨が折れるよな。大量の鼻血を撒き散らしながら4人目が蹲っているぞ。剣は手放してしまってカランという音を立てて地面に転がっている。最後はおまけで鼻を押さえている両手の隙間から顎にひと蹴り加えたらお仕舞だ。またもやゴキリという音を立てて、4人目を後方に引っくり返って白目を剥いている。たぶん顎の骨も折れているな。しばらくは流動食の生活が続くぞ。まあ頑張れ!



「一般人に負ける勇者か」


 そう言い残して俺はその場を去っていく。これだけやっておけばもう2度と俺に対してくだらないチョッカイを掛けてはこないだろう。それよりも鴨川さんが安全に学校生活を送れるのは何よりだ。こうして俺がリュックを取りに教室に戻っていくと・・・・・・



 ポツンと1人でロリ長が待っていた。



「四條、心配はしなかったけど結構時間が掛かったな」


「まさか待っているとは思わなかったぞ。時間が掛かったのは最後に剣を持った相手と実戦訓練をしたせいだ」


 こいつは中々いいやつじゃないか! さっき下方修正した評価を『義理堅い変態セクハラ勇者』に改めてやろうか。



「剣を持つ相手と実戦訓練? それは何の話だ?」


 俺が掻い摘んで4人との戦いの様子を話すとロリ長は呆れた様子で俺の顔をまじまじと見ている。俺の顔に何か付いているんだろうか? そんなに男に見つめられても嬉しくもなんともないぞ! いや、むしろウザいくらいだ。



「ということは四條はあいつらを利用して自分の訓練をして来たのかい? 養殖とは言っても勇者4人を相手にして?」


「まあそうだな。中学の時に金属バットを持った不良相手に腕を磨いた経験が生かせたな」


 あっけらかんと話す俺に対してロリ長はますます呆れ顔をしている。何でだろうな? せっかくのいい実戦訓練の機会なのに。



「まあいいか、それよりも僕の目が正しいことが証明された訳だし」


 ロリ長の目が正しいって何の話だっけ? こいつの考えがヤバいのは知っているけど。勇者としての崇高な目的がエルフの幼女だからな。



「目が正しい?」


「ほら、四條はこのクラスで5本の指に入る実力者だっていう話だよ」


「ああ、その話か。そうだな、俺も実際に相手をしてみて勇者というのは意外と大したことないと感じている」


「だから言っただろう。彼らは所詮は養殖だよ。勇者の資格を持つこと自体が目的だから、目的を達成したらそのあとは真面目に訓練なんかしないんだ」


 ああ、そういう訳なんだ。学校に入学するのが目的になって、入学してから何をするのか全く考えていないんだな。そんな連中が大半を占めているこのクラスは色々と前途多難だな。せっかく女の子と知り合いになったのに、果たしてその中で俺は上手くやっていけるんだろうか?


 そんな不安を抱えながら入学初日を終えて帰宅する帰宅する俺だった。


 



勇者とはいっても色々な人間がいるようです。果たしてこの件がどんな影響を及ぼすのかは次のお話で。今日中に何とか投稿しますのでしばらくお待ちください。


投稿初日に感想と評価をいただきました。本当にありがとうございます。読み応えのある作品にしていきたいと思いますので、どうか皆さん応援してください。

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