27 第8ダンジョン部
第8ダンジョン部に勧誘された重徳、今回はその続きです。
さて、止むにやまれぬ事情で入部するとは言ってしまったけど、ダンジョン部というのはどんな活動をしているのか聞いておく必要はあるよな。当然こうしてパーティーを組んでダンジョンに来ているんだから、ダンジョンの探索がメインなんだろうけど。
「稲盛先輩、第8ダンジョン部というのはどんな活動をしているんですか?」
「当然ダンジョンの探索だ。私たちは授業とは別に放課後週2回こうしてダンジョンに潜っているんだ」
困ったな、週2回もこの人たちと一緒にダンジョンに入るとなると、カレンと活動する時間が削られてしまうぞ。パーティーを組んだのはカレンが先だし、当然俺は彼女を優先するつもりでいるんだが。
「ああ、四條君は常に私たちと活動する必要はないよ。必要がある時だけ応援の手を貸してもらえれば構わない。君にも自分のパーティーがあるんだろう」
「はい、今は俺とカレンでパーティーを組んでいます」
「私たちもこの5人で差し当たっては不足を感じていないんだ。だから自分のパーティーを優先して構わないよ」
なんだ、そうなのか。俺は今までと変わりなくダンジョンで活動できるんだな。カレンに顔を向けると一安心という表情をしている。彼女にとってもダンジョンでの活動を左右される話だったから、気になって当然だろう。というよりも彼女の意見を聞かずに入部を決定してしまったのは申し訳ない話だよな。あとで謝っておこう。
「四條君はクランという組織を知っているかい?」
「クラン? 何ですか、それは?」
「同じ目的を持った集団を意味する言葉だよ。語源はどこかの氏族を表すんだったかな。現在はオンラインゲームのプレーヤーが集まって作ったグループを差す場合が多いね。ダンジョン部は内部に複数のパーティーを抱えるクランだと思ってもらえればいい」
「そうなんですか、複数のパーティーが集まって何をするんですか?」
「主な目的はダンジョンの情報の共有だね。人数の多い部になるとアタックするパーティーに応援者をつけたり、選抜メンバーで臨時のパーティーを作って階層ボスに挑んだりしている。あとは装備の共同購入とかもしているのかな」
ふむふむ、話を聞いて段々わかってきたぞ。要するにダンジョンを効率よく探索するための互助会だな。第8ダンジョン部もおそらくそういう組織なんだろう。
「だが現在、我ら第8ダンジョン部に所属しているのはここにいる5人だけだ! 発足した当時は30人近い部員を抱える大所帯だったのだが、パッとした成果を上げられなくてこのような事態に陥っている。華々しい成果を挙げたクランにパーティーごと移籍してしまう者が後を絶たなかったんだよ」
「生存競争が厳しいんですね」
「ゆえに存続の危機に立っているこの第8ダンジョン部の救世主が四條君だ! どうか頑張ってほしい!」
はーー、なんだか期待されちゃっているよ。要はダンジョンで何らかの成果を挙げろということだよな。コボルトキングを倒してマジックバッグをゲットしました! なんて口が裂けても言えないし・・・・・・
「わかりました。ひとまずはこれからどうしましょうか?」
「そうだな・・・・・・ まだ君の実力がわからないから、その辺で魔物を倒してみてくれ」
魔物を倒すのか、別に俺は構わないけどカレンはどうかな? 彼女の方に視線を送ると、俺の手を引いてセーフティーゾーンの奥に連行していく。なんだろうな、先輩だちの前では話しにくいのかな?
「若、彼女たちに協力するのは構いませんが、若の戦いを見せるのは少々危険ですぞ。あの戦闘狂ぶりは彼女たちには刺激が強すぎるのではないかと危惧します」
「カレン、真顔でしゃべり方まで変わっているじゃないか! そんなに俺の戦いってヤバいのか?」
「どこの世界の高校1年生がゴブリン亜種3体を10秒で倒しますか! 若の実力は現時点で飛び抜けているという自覚を持ってください」
「かといって自分から戦いのリズムを崩すような真似はしたくないしな・・・・・・ どうしようか?」
「心持ち手を抜くしかないでしょう。それでも彼女たちには十分衝撃的だと思いますが」
「それで行こうか、まあやるだけやってみるよ」
こうしてカレンとの打ち合わせが終了して、俺を先頭にして全員がセーフティーゾーンを出発する。4階層南エリアのだいぶ奥まで進んでいるので、転移魔法陣がある場所に戻る道を辿って進む。タイミング的にはソロソロだろうと思っていると、やはり予想通りに魔物の気配が前方から感じ取れる。
「若、登場したぞ」
「ああ、もう気配は掴んでいるから問題ない」
実はカレンもレベル10に上がった時点で気配察知のスキルを獲得していた。俺と彼女はほぼ同じタイミングで魔物の気配を察知していた。戦闘力はまだまだだけど、俺にとってカレンは本当に頼りになるパートナーだ。
魔物の足音が次第に近づいてくるので、俺は左腰のホルダーから1本バールを引き抜いて戦闘体勢に移行する。だがその姿を後方から目撃した稲盛先輩が驚きの声を上げている。
「四條君、まさか君はそのバールで戦うつもりなのか?」
「そうですけど」
「だってそれはただの工具だろう」
「いいえ、立派な俺の相棒ですよ」
稲盛先輩に軽く振り返ってから、俺は後続を戦闘に巻き込まないように単独で10メートル前進していく。それにしても前方から迫ってくる魔物のシルエットがデカいな。身長170センチそこそこの俺よりも頭一つ大きいぞ! これはもしかして・・・・・・
「若、あれはオークだ! 注意してくれ!」
「カレンさん! 何を言っているんですか! 四條君1人でオークを相手にするのは危険すぎます! 全員で戦いましょう!」
「まあ、黙ってここで見ているといい。骨のありそうな魔物が出てきて若が気合を漲らせている。邪魔をすると私が怒られるからな」
「カレンさん、何で四條君を『若』と呼んでいるんですか?」
「四條流の跡継ぎだから門弟の私から見れば若なんだよ」
「そうなんですか・・・・・・ じゃなくって! 四條君は本当に大丈夫なんですか?!」
「見ていればわかる」
カレンは四條流に入門してからまだ日は浅いが、彼我の力量差がわかる程度には成長しているようだな。さすがなのは彼女の指導に当たっている水谷さんだ。門弟の中でも最古参の達人だけあるな。あの人の傍に居るだけで所作の一つ一つが本当に勉強になるんだ。カレンが一人前の遣い手になる日は意外と早く来るかもな。
さて、ノシノシと前から迫ってくるオークがだいぶいい感じの距離に接近してきたな。近くで見ると二足歩行の豚というよりもイノシシを擬人化したような風貌をしている。頭がイノシシで体が剛毛に覆われた人に近い姿だ。口の両側から伸びた牙と筋肉が盛り上がっている両腕のパワーには注意を払ったほうがいいな。
「ブモーー!」
雄叫びを上げながらオークは俺に襲い掛かってくる。両腕を伸ばして掴み掛かってくる感じでその巨体が迫る。どれ、レベル12まで上昇した俺のパワーがどこまで通用するのかまずは試してみるか。
オークの両腕が届く前に俺は足首に角度をつけて勢いよく右足を振り上げる。その足は狙いと寸分違わずにオークの鳩尾に突き刺さっている。
「グボボッ!」
自らの突進の勢いまで加わった強烈な鳩尾への爪先蹴りを食らってオークの体は硬直した。どうやら体の構造は人と変わらないようだ。息が詰まって声にならない叫びを上げて動きを止めている。それにしてもレベル上昇の恩恵はデカいな。右足1本でオークの突進を止められたんだから、自分の力を計る上では上出来だろう。
「それ、おまけだ!」
「ゴブカッ!」
体をくの字にして鳩尾を押さえながら上体を前に倒しているオークの顎下に掌打を決める。肘を曲げた状態で手の平を上に向けて、曲げた肘を自分の膝で蹴ると下から突き上げる掌打の破壊力が一気にアップするんだ。これはカンフーの技術を取り入れた技だよ。危険だから良い子は絶対に真似をしないようにね!
顎の下というのは脳に直接衝撃が伝わる急所、そこに俺の掌打を食らったオークは脳震盪を起こして膝を付く。体の自由が利かなくなって力なく俺に向かって手を伸ばそうとするだけだ。さあここからは相棒のバールの出番だぜ!
左手を振り上げるとオークの脳天に向かって容赦なく振り下ろす。何しろ我が家の道場にはお腹を空かせた門弟が待っているのだ。お前に恨みがある訳ではないが、彼らにどうか肉を献上してくれ!
ガキンという骨を砕く手応えがバールを通して左手に伝わる。オークは白目を剥いて体を痙攣させているな。膝を付いている巨体を蹴り飛ばして地面に寝かせると、最後は踵を落として首の骨を砕いて終了だ。オークの体は粒子になって消えていく。
おお! 肉が落ちているぞ! それも骨付きのモモ肉の一番美味そうな部位だ! 地面に置いてあるけどなぜか泥なんか付いていないきれいな肉をゲットしたぜ! しかもこれって10キロくらいあるんじゃないのか! 持ち上げるとずっしりという重みを感じるな。よーし、このままマジックバッグにしまっちゃおうか。あれ、魔石も落としてくれている。中々サービスが行き届いているぞ。
俺はドロップアイテムを回収してカレンや稲盛先輩が待っている場所に戻っていくと、カレンを除いた先輩たちの様子がなんだか変だな。視線を虚空に向けてブツブツ何かを呟いているぞ。
「ま、まさかオークを1人で・・・・・・」
「信じられない物を見てしまった・・・・・・」
「オークを秒殺だなんて・・・・・・」
「ヤバい、あれはヤバ過ぎる・・・・・・」
「私は何も見ていない。そう何も見ていないんだ・・・・・・」
先輩たちが揃いも揃ってガクブルしているけど、何かあったのかな? ちょっとカレンに聞いてみようか。
「カレン、先輩たちはどうしたんだ?」
「若、だから私が事前にあれほど注意したのに。何もオークを秒殺する必要はなかったでしょう!」
「あっ! ついつい夢中になって本気で倒しに掛かってしまった!」
「若、やはりあなたの戦闘狂の血はもう後戻りできないところまで来ているようです。もうすでに手遅れですよ」
「いやいや、俺はそこまで重症ではないはずだ! ちょっと戦いに夢中になる性格なんだよ」
「それを戦闘狂と呼ぶんです!」
おかしいな・・・・・・ カレンは俺をよほど戦闘狂扱いしたいのかな? まあいいか、それよりも先輩たちに早く元に戻ってもらわないといけないよな。
「先輩方、大丈夫ですか?」
「「「「「ヒーー!」」」」」
俺は優しく声を掛けたつもりなのに、怯えたような返事が返ってきたぞ。なんだか解せんな。しばらく様子を見ていると、ようやく稲盛先輩が現実の世界に戻ってくる。
「四條君、君のレベルはいくつなんだ?」
「ああ、今のオークとの戦いの後でちょうど1つ上がりましたから、今は13ですね」
「「「「「「13だとーーーー!!!」」」」」
あれれ? 俺は何かおかしなことを言ったのかな? カレンを見ると彼女は両手を軽く広げてヤレヤレというポ-ズを取っている。
「四條君、君はダンジョンに入ってどのくらいの期間になるんだ?」
「入学式の2日後からですから、まだ10日も経っていません」
「一体どんな戦いをすればそこまでレベルが上がるんだ?」
「えーと、ゴブリンを100体倒すまでは帰れまテンとか」
「まさに戦闘狂だな。言っておくが私たちはレベル8~9だよ。これでも2年生としては標準的な部類だ」
「えー! だって東堂先輩は14だって言っていましたよ! 俺も早く先輩に追いつこうと頑張っただけです」
「バカも休み休み言え! あの怪物東堂だって1年間掛けてようやくレベル14まで達したんだぞ! それをお前は10日かそこらで追いつこうとしているんだ! どの口が自分を一般人だなんてほざけるんだ?!」
「そう言えばそうでした。自分もウッカリしていました」
「ウッカリでレベルを13まで上げるんじゃない!」
おかしいな、どこで計算を間違えたんだろう? ついついレベルが上昇するのが楽しくて毎日ダンジョンに通っていたけど、こうして改めて指摘されると自分の行動の非常識さ加減が理解できるな。でもこれからも毎日ダンジョンには入っちゃうけどね。おや、カレンが口を開きかけているぞ。どうやらフォローしてくれるみたいだな。
「さて、MBGのお嬢さん方も若の常識外れっぷりが理解できたかな? 安穏とした日常を一気に引っ繰り返してくれるのがここにいる若だ。かく言う私も今までのダンジョンという概念が若と行動をともにして崩れ去った1人だよ。もしこれから一緒に行動するとなったら相当な覚悟が要求されるが、お嬢さん方にはそれがあるのかな?」
カレン、長ゼリフの割には全然俺に対するフォローになってないぞ! むしろ俺の異常さを強調しているじゃないか! そこまで言われる程俺がカレンを酷い目に遭わせた覚えはないんだけどな。
「そうね、私たちは東堂君並みの怪物を、いえ、将来的にはそれ以上の怪物を仲間に引き入れてしまったのね。でも現状の我が部の実態を省みると背に腹は代えられないわね。多少の事には目を瞑って、四條君をダンジョン部の後輩をして受け入れるわ」
なんだかしぶしぶ認めているような響きを感じるのは俺だけだろうか? 俺としてはダンジョンに入っている件を黙っていてもらえるならば、入部の件を辞退しても構わないんだけど。
「真由美、手の掛かる後輩が出来たってことで、これから第8ダンジョン部のために一緒にやっていきましょう」
「そうね、多少問題はあっても仲間が増えるのは悪いことではないし」
なんだか部内での俺の扱いが微妙だな。まあしょうがない、決まってしまったことには従おう。こうして俺たちは4階層の転移魔法陣に向かっていくのだった。
先輩たちにドン引きされる程いつの間にか強くなっていた重徳でした。次回はまた学園のお話に戻ります。投稿は水曜日を予定しています。たぶん大丈夫だとは思いますが、事情によっては予定通りに投稿できない可能性があるのをご了承ください。
先週1週間家族の事情で投稿をお休みしたせいなのか、この所ランキングが30位前後をウロウロしています。もうちょっと上位には入れればもっと多くの読者の目に触れる機会が増えるのですが・・・・・・
そこで皆さん、どうか評価とブックマークをお寄せください! 再びベストテンを目指す勢いで頑張っていきたいです。いっぱいほしいお!




