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24 勇者の模擬戦 第1試合

いよいよ二宮さんが模擬戦に登場します!

 翌日の放課後・・・・・・


 これからロリ長と二宮さんの模擬戦が行われる第1室内演習室に俺たちはやって来ている。見学席のベンチに座る俺の左に歩美さん、右に義人が腰を下ろして対戦が始まるのを待っているところだ。



「ノリ君、梓ちゃんと信長君は大丈夫でしょうか?」


「2人ともそれなりの剣の技術を持っているから、どんな展開になっても大丈夫だろう」


 相変わらず歩美さんは心配性だな。両手を胸の前で組んで、試合前だというのにかなり緊張した表情を浮かべているぞ。いつかは自分も模擬戦をしないといけないんだけど、この調子で本当に大丈夫なのかな?



「師匠! 2人とも強いからきっと大丈夫ッス!」


「義人、それよりも道場の方は順調なのか?」


「相変わらず投げられっ放しッスが、昨日はしっかりと意識を保っていられたッス!」


「ほう、順調だな。2日目でそこまでいくとは、さすがは勇者だ」


「師匠! 照れるッス! でもただ投げられるだけで、反撃など一切出来ないッス!」


「それが我が家の道場では当たり前なんだよ。スパルタで門弟を育てるやり方だからな。あと1週間ぐらいすれば義人にも何かが見えてくるだろう」


「師匠の言葉は意味が深いッス! 自分も頑張るッス!」


 昨日の義人は自分の殻に篭りっきりでなかなか出てこなくて心配したけど、今日になってだいぶ吹っ切れたようだな。元々独学で勇者の必殺技を会得しただけあって、根性だけは人並み以上に備わっているんだろう。



 それにしても俺の模擬戦の時にはAクラスの生徒が30人くらいしか見学していなかったのに、今日は立ち見が出る程の人数が詰め掛けているぞ。それも圧倒的に女子生徒の数が勝っているな。反対側の正面には昨日の縦ロール女子が目をキラキラさせて座っている。あの髪の毛は染めているのかな、眩しいくらいの金色だからどこに居ても目立つんだよな。



 ざっと見渡してみても見学席の熱気がすごいぞ! 全員が今か今かというムードで対戦者の登場を待っているかのようだ。そしてついにフィールドに二宮さんと相手のBクラスの生徒が登場した。



「あずさ様ーー!」


「キャー! あの人が初の女性勇者なのね!」


「あずさ様、素敵ですぅーー!」


「私のお姉さまになってー!」


 見学席のそこいらじゅうから女子生徒の黄色い歓声が上がっている。二宮さんはどうやら昨日の縦ロール女子だけではなくて、学年中の女子生徒の憧れの存在らしいな。全然羨ましくないんだからね! お、俺にはこうして隣に居てくれる歩美さんが居るんだぞ! でもちょっとだけあの黄色い歓声を浴びてみたい。



「二宮梓―沢田彩の試合を開始する。両者中央へ!」


 審判が2人を集めて注意を行っているな。二宮さんは特に気負った様子もなく、冷静な表情で聞いているようだ。あの様子だったら普段の力をしっかりと出せるだろう。対する沢田という女子生徒は全く無表情でそこに立っているように映る。昨日食堂にやって来た時も同じような表情で一言も発せずに戻っていったし、元々感情を表に出さないタイプなんだろうか。それにしても対戦を前にしてあそこまで自分の感情を押さえ込めるのは中々出来ないぞ。これはひょっとするかもしれないな・・・・・・



「試合開始!」


 審判の手が振り下ろされて、両者は武器を構えて互いの出方を伺うような間が空く。見学席は先程までの歓声は影を潜めて固唾を呑んでフィールドの2人を見守るような空気に包み込まれる。


 二宮さんが手にするいつもの木剣に対して相手は木槍を構えている。武器が届く間合いは槍の方が有利だが、懐に潜り込んだら一転して二宮さんが有利になる対戦だ。開始線上の10メートルの距離で睨み合っていた両者は、互いに一歩ずつ距離をつめて、もうすぐ剣と槍の切っ先が届く位置まで接近している。



「ハーッ!」


 先に仕掛けてきたのは沢田さんだ。彼女は一歩踏み込んで槍を二宮さんの胸目掛けて突き刺そうとする。たった一歩の踏み込みと突き出された槍の動きだけでも十分わかるな。あれは相当な鍛錬を積んでいるぞ。おそらくはどこかの槍を操る流派の有段者、その中でも天才とか神童と呼ばれるレベルだ。これだけ見事な槍捌きは中々お目にかかれないだろう。



「甘い!」


 だがさすがは二宮さん、剣先を僅かに動かしてだけで槍による突きを左側に払い除けている。この最初の接触で火が付いたかのようにして、両者による剣と槍の目まぐるしい攻防が開始される。突いてくる槍を二宮さんが剣で払い除けては懐に飛び込もうとする。だが沢田さんもそれを許すまじと、払われた槍を横なぎに振るう。


 木がぶつかり合うカンカンという乾いた音だけがフィールドから響いて、見学席の全員が声も上げずに両者の技に心を奪われるかのような見事な打ち合いが続く。



「さすがは勇者、どうやら生身では倒せないようですね」


 盛んに繰り出していた槍を止めた沢田さんが一旦距離を取って気持ちを集中するような素振りを見せている。それにしても彼女がまともにしゃべるのを初めて聞いたぞ。やや下向きに視線を落とした彼女が再び顔を上げると、その体内から発散される気を感じ取れる。もしやこの人も自分の流派に受け継がれている気の扱い方を知っているのか?



「ハーッ!」


 先程よりも沢田さんの踏み込みが早く、そして強くなっている。どうやら俺の勘が的中したようだ。彼女も自分のやり方で身体強化を施している。どうやらこの学園では身体強化の技法は四條流の専売特許ではないようだな。



「何っ!」


 今度は二宮さんがギリギリで繰り出される槍を受け止めているな。さっきまでは互角だったのが、一気に形勢が不利になって押し込まれる。強化された槍の勢いに押されて徐々に二宮さんは下がり始めて、それを見て取った沢田さんはますます攻勢を強めて目にも留まらぬ速さで次々に槍を振るう。さすがに不利を悟った二宮さんは回り込むようにして相手との距離を開ける。



「中々面白いスキルを持っているんだな。だが自分だけが使えると思うなよ」


 一瞬のタメで二宮さんは身体強化を発動した。俺が教えた呼吸法を彼女なりに練習して短時間で発動するようになっていたのだ。ここは教えた俺がぜひとも一言言っておきたいぞ! 『ワシが育てた!』


 どうやら沢田さんは二宮さんが身体強化を発動したのを見て、まさか! という表情になっているな。この試合を通じて初めて彼女の表情に変化が見られた。もしかしたら勇者を甘く見ていたんじゃないかな? この俺が呆れるほどすぐに技を吸収してしまうのが勇者なんだぞ!



 再び互角の展開に持ち込んだ二宮さん、そして徐々に打ち合いの流れを支配し始めていく。強化された彼女の剣が槍をこともなく弾き飛ばしていく。



「ノリ君、一時はどうなるかと思いましたが、梓ちゃんが押し気味のようですね」


「そうだな、もうまもなく試合は終わるだろう」


 武術に関しては全く素人の歩美さんにも、試合の流れが変わったとはっきりとわかるくらいになっているのだった。おそらくは先に身体強化を掛けた沢田さんに限界が近づいているんだろう。一口に気を高めるとは言ってもそうそう長時間は続かないのが、このスキルの特性なのだ。今の彼女ならば3分~5分といったところかな。今の俺はレベルが上がった分15分くらいは持つけど(自慢)。


 そしてガックリと動きが悪くなった体を無理に動かしている沢田さんの疲労の色が濃くなってくる。身体強化が切れると本当に体が重たく感じるんだ。どうやら勝負あったな。



「これで終わりだ!」


 突き出された槍を大きく弾いて、その勢いのままに踏み込んだ二宮さんの剣が沢田さんの顔の手前でピタリと止まる。



「参りました」


 眼前に寸止めにされた剣を見て、沢田さんは自ら敗北を認めた。この勝負の分かれ目は身体強化を掛けるタイミングにあったな。沢田さんの猛攻に耐えて後から身体強化を掛けた二宮さんに軍配が上がった。



「勝者、二宮梓!」


 審判の勝ち名乗りに合わせて2人は互いに一礼する。二宮さんが歩み寄って何かを告げているようだ。どれどれ、強化された俺の聴力で何をしゃべっているのか聞いてみよう。



「結果的に私が勝ったが、勝負はどちらに転んでもおかしくないいい試合だった」


「改めて勇者というのは強いんだと理解しました。ありがとうございました」


 どうやら互いの健闘を称え合っているようだな。こういう爽やかな試合というのは良いもんだ。握手をした2人に見学席から歓声が沸きあがる。



「あずさ様ーー! 素敵ですぅ!」


「いい試合だったぞ!」


「あずさ様! こっちを見てぇ!」


「あずさ様! 格好いいですぅ!」


 なんだろうな、この圧倒的な女子からの人気は! 黄色い歓声に混ざって時々男子生徒の声も聞こえるけど、やっぱり女子生徒の声に掻き消される勢いだぞ。



「ノリ君、梓ちゃんは大人気ですね」


「女子からの人気を総ざらいしているな」


「師匠! 自分も女子からの歓声を浴びたいッス!」


「義人・・・・・・」


 俺は無言で義人の肩に手を置く。それだけで義人は色々と悟ったようだ。



「師匠! そこはウソでも頑張れよと言う所じゃないッスか?」


「すまん、俺はウソがつけない性格だ」


 義人、ガッカリするなよ! いつかはお前にもきっといい人が現れる! たぶん・・・・・・ ちょっと自信はないけど。



「師匠! 大丈夫ッス! 自分にはあのきれいなお姉さんが居るッス!」


「立ち直り早やすぎっ!」


 義人のめげない根性は見上げたものだな。こういう神経の太さも勇者には必要不可欠なのかもしれない。



「ノリ君、義人君が言っている『きれいなお姉さん』というのは誰なんですか?」


「きれいなお姉さんッス!」


「義人、それじゃあ説明になっていないだろうが! その人は最近四條流に入門した人だよ。カレンさんというんだ」


「そうなんですか! 義人君、頑張ってくださいね!」


「頑張るッス! まずはお話し出来るところから始めるッス!」


「義人、ずいぶん長い道のりになりそうだな」


 こんな会話をしているところに二宮さんが戻ってくる。控え室で防具を外したジャージ姿のままだ。彼女はスラリとしたスマートな体型の持ち主なのだが、胸の辺りが少々寂しいのが唯一の欠点だ。あれだけ食べているにも拘らず、オッパイにはまだ栄養が回っていないのかもしれない。現時点では将来に期待を賭けるしかなさそうだ。



「梓ちゃん、一時はちょっと心配しましたけど、無事に勝って良かったです!」


「ああ、中々手強い相手だったな。まさか身体強化まで使うとは思っていなかった」


「二宮さんの相手はおそらくどこかの流派でみっちりと槍を学んでいますね。身体強化もその流派のやり方を伝授されていたんでしょう」


「そうなのかもしれないな。四條に呼吸法を教えてもらって良かったぞ。感謝する」


 よっしゃー! 『ワシが育てた!』いただきました! まあ俺は気の循環方法を教えただけで、身体強化が使えるようになったのは二宮さんの努力だけどね。



「ノリ君、そろそろ次は信長君の登場ですね」


「そうだな、あいつがどんな試合をするのか楽しみだ」


 そう良いながら見学席を見渡してみると、さっきまで席を埋め尽くしていた女子の姿はすっかり消えている。ロリ長女子に人気無さ過ぎ! 二宮さんと同じく天然物の勇者なのに・・・・・・


 俺が心の中でロリ長のために涙を流していると、やつと対戦相手が登場してくる。さあ、本日の第2試合がまもなく始まるぞ! こうして見学席の俺たちはフィールドを見つめるのだった。




次回はロリ長君の模擬戦です! 投稿は・・・・・・ と予定をお伝えしたいのですが、実は入院している家族の容態が悪くなってしばらく投稿をお休みさせていただきます。落ち着いたら再開いたしますので、どうかしばらくお待ちください。


お休み期間中もどうぞこの小説をお忘れなく、時々思い出したように目を通していただけると幸いです。間は開きますが次の投稿をどうぞ楽しみにお待ちくださいませ!

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