22 相棒
第22話の投稿です。果たして隠し通路に現れたコボルトキングとの決着は・・・・・・
俺は右手にバール、左手にカレンに借りた特殊警棒という組み合わせで再びコボルトキングに向かっていく。やつのメイスは力任せで大振りだが、一撃の破壊力は想像以上だった。メイスが振り下ろされた石畳の床を簡単に叩き割っているんだから、これは相当に警戒しなければならない。
呻りを上げて真正面から俺の顔面を目掛けてメイスが突き出される。俺は左に避けながら右手のバールを引っ掛けて下向きに力を加える。支点と力点と作用点の問題だ。コボルトキングが握っているのはメイスの根元、対して俺がバールを引っ掛けているのはメイスの先端部分。力ではやつが圧倒的に上回っているが、こうして頭を使えば武器を自由に扱えないようにある程度封じるのも可能だ。
「ガアアアアーー!」
俺が一瞬封じたと思ったメイスだが、雄叫びを上げながら筋肉で盛り上がった両腕に力をこめたコボルトキングによって力尽くでバールの戒めを外されてしまった。単純な比較ならば、やつは俺の3倍以上の腕力がありそうだな。さすがは7階層の階層ボスを務めるだけのことはある。だがな、腕力だけで勝負が決まるとは限らないんだぞ。
再び襲い掛かってくるメイスの殴打を俺は足捌きと右手のバールでかわしていく。時々バールで先程と同じようにメイスを押さえ込んだりしながらコボルトキングの隙を伺うが、こいつは疲れというものを知らないのだろうか? 対戦が始まった時と全く変わらぬ勢いでメイスを振り回している。
このままでは時間がかかりそうだな。やつが隙を見せるか、俺が回避に失敗してメイスの一撃を食らってしまうかの勝負になりそうだ。さっきまでは左右の手に持ったバールで自在に対処していたけど、今左手に持っている特殊警棒はバール程の強度はないから、直接メイスと打ち合う訳にはいかなかった。その分先程までのような余裕がなくなっているもの隠しがたい事実だ。
ブオーンと風を切る音を立ててメイスが俺の頭を掠める。今のはかなり危なかったぞ! ヘルメットの上部を掠っていったかもしれない。衝撃こそ感じないものの額に一筋に冷や汗が流れる。いくら俺でもこんな猛攻を立て続けに回避していくのはさすがに神経を使うな。こんなまさに薄氷を踏むような戦いを繰り広げている最中に、後方にいるカレンから声が飛ぶ。
「若! 私にも何か手伝えることはないか!」
俺があまりにもギリギリで避けているから心配になってきたんだろう。よし、その心意気は四條流の妹弟子としては頼もしいぞ! せっかくだからこの際彼女に陽動役を務めてもらおうか。
「カレン、ナイフを抜いて後ろに回りこむ素振りを見せろ! 素振りだけでいい! 絶対にやつの攻撃半径には入るな!」
「わかった!」
俺の背後でカレンが動き出す気配が伝わる。右回りでコボルトキングの後方に回り込む動きを見せているようだ。俺は引き続き大振りで振るわれてくるメイスを回避しながら、やつの視線に注意を払っている。コボルトキングは俺の後ろで動き出したカレンが気になるようで、その動きに合わせて僅かに眼球が動いているのだ。
そしてカレンがコボルトキングの右側の死角に大きく回りこんで入ろうとしたその時、ついにやつはその方向に首を向けた。その僅かな一瞬、荒れ狂う暴風のように動き回っていたメイスが動きを止める。
「もらった!」
俺は特殊警棒のスイッチを入れて素早くメイスに当てる。高圧電流が金属でできたメイスを通じてコボルトキングに流れていく。
パチンという音とともに一瞬だけメイスに流れた電流がスパークする火花を散らす。
「ガガガガギヤーーーー!」
よーし! 作戦大成功だ! 叫び声とともにゴトンという音を立ててコボルトキングはメイスを石畳に落としてた。素手で握っていたから恐らく両腕も痺れているのだろう。感覚を取り戻そうと何度も振っている。でも残念でした! お前と対戦しているのはこんな絶好の隙を見逃すような甘い相手ではないんだよ。
俺はバールを手にして自分から飛び掛っていく。その様子に気がついたやつは慌ててコブシを握り締めて殴り掛かろうとする。バカなやつだな、バールで襲い掛かったのは俺が仕組んだ罠だよ。四條流を相手にして迂闊に殴り掛かったらどうなるのか教えてやろう。
俺はその場にバールと特殊警棒を捨てて、コボルトキングが殴り掛かって来る腕を取るとその手首を握って外側に捻る。手の平が上に向くようにしっかりと手首を極めたらやつにはくるりと背を向ける。そのまま肘の辺りを肩に乗せて、勢いよく極めた手首を下に引き下ろす。ここまでほんの0.3秒くらいの流れるような動きだ。コボルトキングには自分の腕がどうなっているのか気づく暇も与えないぞ。やつの怪力にも拘らずこうも鮮やかに技が決まったのは、電流の影響でまだ腕が痺れているせいだろうな。
ミシミシ、ゴキリ
「ガガガガガガルーーー!」
これぞ四條流肘挫き。テコの原理で逆手に取った肘を折る技だ。腕一本もらったから今後の戦いがぐっと楽になるぞ。俺がブラブラになったやつの腕を更に引っ張ると、大声で喚きながら反対の腕で殴り掛かって来る。同じ技じゃ面白味がないから、今度はその腕を取って四條流担ぎ投げだ。コボルトキングの巨体は美しい弧を描いて石畳に叩き付けられる。
石畳に背中を強かに打って息が詰まるのは人間も魔物も一緒なんだな。口をあけて喘ぐように空気を求めるコボルトキングな哀れな姿がそこにはある。さて、止めはどうしようかな。そうだ、せっかくカレンに借りたんだからあれを使おうか!
俺は先程床に落とした特殊警棒を拾い上げて、その先端を大口を開いているコボルトキングの口内に突っ込む。そしてスイッチオン!
ジジジジジジジジジジジジジ
やつの口の中で高圧電流がスパークしている。電流のせいで体が麻痺して全く無抵抗のままに高圧電流を流し込まれて、すでに白目を剥いて体が痙攣を起こしているな。そのまま容赦なく電流を流し続けると、眼球や耳から白い煙が上がってくる。そしてコボルトキングの巨体は次第に粒子になって消えていった。
これで勝ったんだな・・・・・・ 安堵に包まれたその時、俺の頭の中にレベルが上昇するピコーンという音が立て続けに2回鳴った。そしてスイッチから手を離して振り向くと、そこには・・・・・・
「若! やりました!」
両手を広げて俺に駆け寄ってくるカレンがいた。そのまま俺に向かってジャンプしながら抱きついて彼女の両手が俺の頭を力をこめて包んでくれる。そして俺の顔はというと・・・・・・
カレンの大層立派なお胸の真ん中にガッチリと挟み込まれていた。フカフカの感触が俺の顔前いっぱいに広がっている。視界の全てがカレンの推定Gカップはあるオッパイに埋め尽くされているのだ! もしかしてこれはコボルトキングを討伐した最高のご褒美か! フカフカ万歳! もうずっとこのままでもいいや!
だがその幸せは長くは続かなかった。カレンが感激のあまりに腕を強く抱えすぎて、彼女のお胸に圧迫された俺は呼吸ができないのだ。それほど彼女のフカフカオッパイは弾力に満ちて俺の顔全体を包み込んでいた。
いいか重徳、冷静に考えるんだぞ。息が止まって気を失うまでの時間をしっかりと見極めるんだ。あと少なくとも30秒は我慢できるな。男なら最大限にこのチャンスを生かすんだ! わかったな! あと20秒、だいぶ苦しくなってきたぞ。だがまだいける! あと10秒、ちょっとヤバいか? なんとなく意識が遠のいてきたような気がする。 5,4,3,2,1 はい、タップします! もうとっくに限界を超えているから!
俺の左手が彼女の腕をタップすると、はっとしたようにようやくそのガッチリと組んだ腕を解いてくれた。これは四條流の必殺技にはない新たな固め技だな。相手が男ならば確実に仕留められるぞ。『お胸固め』とでも命名しようか。あるいは横文字で『オッパイホールド』とかどうかな?
「い、息が・・・・・・ 死ぬかと思った」
「若、取り乱してすみませんでした。あんな大物を若が討伐したのを目の当たりにしたら嬉しくてついつい」
酸素を求めてゼイゼイ喘いでいる俺にカレンが申し訳なさそうに頭を下げる。いえ、男の意地のために無理をして楽しんでいたのは俺の方ですから頭を下げないでください。それよりも今のオッパイの感触は忘れないようにしっかりと保存しておこう。中学の時に友の家でエロいDVDを見たけど、本物はやっぱり違うよな。特にカレンの大迫力のお胸だから尚更だろう。このリアルな感触こそ本物のオッパイだ!
「カレン、もう大丈夫だ。それよりもよくあいつの目を引いてくれたな。おかげで大きな隙ができて助かったよ」
「若、私は何もしていません! 全ては若のお力です」
「カレン、誤解するなよ。パーティーというのは止めを刺す者が居れば、縁の下の力持ちも居る。全員が力を合わせるのがパーティーなんだ。大将ばかりいても軍はまとまらないんだぞ。役割をしっかりと分担できてこそ本当のパーティーだ」
「若! 素晴らしいお言葉です! 一生の宝にします」
なんだかカレンが感動に満ちた表情を俺に向けてくるな。今のはあの校長のジジイが言っていたのをちょこっとばかり変えただけなんだけど。ああ、そうだ! 一生の宝で思い出したぞ! どこかにお宝は転がっていないのか?
「カレン、それよりもあんな大物を仕留めたんだから、何か宝でもないのか?」
「はっ! 若の熱戦に気を取られてすっかり忘れていました! これではトレジャーハンター失格です! ちょっとこの部屋の中を探してみましょうか」
カレンはそう言うと隅々まで真剣な表情で調べだす。きっとスキルを使用しているんだろうな。それにしてもコボルトキングとの戦いの前後でカレンの俺に対する言葉遣いが変化しているのは気のせいだろうか? なんだかずいぶんと俺を尊敬したような物の言い方になっているけど、前の方が良かったような気がするぞ。
「若! こちらに来てください! 宝箱があります!」
「なんだって!」
ご大層に宝箱ときたよ! これがもしかしたら通路発見とコボルトキング討伐のご褒美なのか? すでにカレンに思う存分ご褒美をいただいてはいるが・・・・・・ ま、まあもらえるのならせっかくだしいただいておこうか。
「若! これを見てください!」
カレンの声がする方に行ってみると、奥の柱の影に確かに宝箱が置いてあった。海賊が活躍する映画に出てくるのと全く同じような作りで、一抱えくらいある大きさをしている木製の宝箱だ。装飾等は一切ないとてもシンプルな作りをしている。
「もしかしてこの中に宝石とか金貨がぎっしりと詰まっているんじゃないよな」
「中に何が入っているかまだわかりませんが、罠は仕掛けられていないようです」
「罠なんかあるのか?」
「宝箱のフリをしたミミックという魔物だったり、開いた瞬間に魔法が作動したりすることがあります」
「だ、大丈夫なのか?」
「これは間違いなく普通の宝箱です。私のスキャンのスキルで確認しました」
なるほど、カレンのスキャンというスキルは宝箱を調べられるんだな。いかにもトレジャーハンター向きのスキルだな。
「若、どうぞ開けてみてください」
「いや、カレンが開けてくれ。こういう仕事こそカレンがやるべきだろう」
「それでは」
カレンは慎重な手付きで宝箱の留め金を外すと、ゆっくりと蓋を持ち上げていく。そしてその中から出てきたのは・・・・・・
麻のようなゴワゴワした繊維で出来た2枚の袋だった。手にとって広げてみると、大きさは俺のリュックくらいかな。それにしても宝箱だからかなりの期待をしてみれば、なんだか拍子抜けするような物が出てきたな。ガッカリした気分でカレンを見ると、なぜだか彼女はワナワナと震えて驚愕の表情を浮かべている。こんな麻袋が一体どうしたというんだろうな?
「若! 大変です! これはもしかしたらトレジャーハンターの間で噂されている伝説の秘宝、マジックバッグかもしれないです!」
「マジックバッグ? なんだそれ?」
「袋の大きさとは関係なくあらかじめ決められた容量まで何でも収納できる便利な入れ物です。しまった物は重さも感じなくなるので、この袋1つに水や食料を詰め込めば1週間でも2週間でもダンジョンを探索できるんですよ!」
「なるほど、そんな話を聞くと便利かもしれないな」
カレンが興奮気味に捲くし立てるのに対して、俺はいまひとつ実感が湧かないせいか感動が薄い。どうせなら金貨とかの方が良かったくらいに考えているのだった。
「若! 冷静な態度ですけど、以前マジックバッグが発見されたと騒ぎになった時には、大企業の研究機関が数億の値段で引き取ったそうです」
「すすすすす、数億だってーーーーー!!!」
どうしよう? この汚い麻袋が数億円だって! 一気に億万長者の仲間入りか? 年末ジャンボ宝くじ一等レベルの途轍もない金額になるぞ!
「若! 私からの忠告ですが、この袋は絶対に売るべきではありません」
「ええ、だって何億円も入ってくるぞ」
「この品は先々若がダンジョンを探索するのに絶対に役立ちます。所持していることすら誰にも明かさないで自分で使うべきです」
「そうなのかな。まあカレンがそう言うなら自分で使うことにするよ。ああ、もう一枚はカレンの物な」
「私がこれをいただけるんですか?!」
「当たり前だろう! パーティーの収穫なんだから均等に分けるべきだろう」
「ありがとうございます! 大事に使わせていただきます!」
「試しに何か入れてみようか?」
「そうですね、まだ本物という確証がないのであまり高価でない物を入れてみてはどうでしょうか」
「そうするか・・・・・・ このバールにしてみよう。どれ、入れてみるぞ」
俺は腰のホルダーから抜いたバールを麻袋に入れてみると、その瞬間袋の中のバールの姿が消える。あれ? どこに行っちゃったのかな? 開いた袋を覗き込んでも何も見当たらないぞ! 相棒のバールを返せ! 俺は袋を逆さにして振ってみるが、やはりバールが出てくる気配は全くなかった。
「若! 聞く所によると取り出したい物を思い浮かべて中に手を突っ込むと取り出せるそうです」
「そうなんだ! それじゃあやってみようかな」
俺はバールを頭に思い浮かべて袋に手を突っ込むと、その手にはしっかりと握られたバールの感触が!
「本当だ! このとおりちゃんと取り出せたぞ」
「若! どうやら正真正銘のマジックバッグのようです!」
こうして俺とカレンは大層貴重な品であるマジックバッグを手に入れたのだった。やったね! ダンジョン初の大収穫だよ!
転移魔法陣で入り口の近くに戻った俺たちは事務所に立ち寄って隠し通路の報告と買い取りカウンターでドロップアイテムをを清算してもらってから外に出た。時間はとうに夜の8時を回って空には宵の明星が煌いている。
「若、今日はすごい収穫でした! おまけに私のレベルが10まで上昇しました」
「それは良かった。一日で3つも上がるなんてやっぱりあのコボルトキングは相当レベルが高い魔物だったんだな。それよりもカレン、俺に対する敬語はやめてくれないか」
「若の気に障りましたか? あんな凄い魔物を倒した四條流の兄弟子として、尊敬の気持ちをこめているつもりなんですが」
「気に障ったわけじゃないけど、元の対等な関係の方がなんかしっくり来るんだよ。だって俺たちはパーティーだろう」
「そんなことを言ってもらえるなんて感激です! それでは改めて、若、これからも仲間としてどうぞよろしく!」
「ああ、こちらこそよろしく!」
こうして俺たちは道場に戻っていくのだった。初めて組んだパーティーだったけど、カレンとならばうまくやっていけそうだ。これからも頼んだぞ、俺の相棒!
予想外の物を手に入れた重徳とカレンでした。次回のお話の舞台は再び学園に戻ります。投稿は明日の予定です、どうぞお楽しみに!
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