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20 トレジャーハンター

第20話をお届けします。果たしてトレジャーハンターとは・・・・・・

 鍛錬は順調に進み、ロリ長、二宮さん、義人の3人は気を体内に循環させることによる身体強化の効果を実感していた。本当に勇者というのは嫌味なくらいに物覚えが良いよな。これが反則チート級の能力というのかな? 俺がこの呼吸法を会得するまで掛かった期間は丸3年だぞ! 子供だったこともあるのかもしれないけど、人が3年掛かる技術を瞬時に学び取るというのが勇者のみに許された特権なのかもしれないな。


 それに比べて・・・・・・


 歩美さんにも同じように教えたつもりなんだけど、彼女は気に関して全く何も感じ取ることができなかった。まあこれが普通なんだよな。平凡な人間は1つのことを成し遂げるまでに相応の努力が必要なんだ。


 でも物は試しに俺が彼女の肩に添えた手から気を流してみると『暖かくて気持ちが良いです~。肩凝りが解れます~』と全く緊張感のないゴロニャンした甘え声を上げながらうっとりと目を閉じていた。あの、歩美さん! これは鍛錬であって治療ではないんですよ。気を用いた療法というのもあるにはあるけどね。


 ところで歩美さん! 俺は真剣にあなたに問いたい! 肩凝りの原因はズバリ胸なんですよね! 平均よりもちょっと大きめのあなたのその胸が肩凝りの原因なんですね。俺が見る限りほかに原因は考えられません! 絶対に間違いないですよね!


 もちろん口に出すわけにはいかず、悶々とした気持ちを抱えながら俺は彼女の鍛錬(肩凝りの治療)に付き合うのだった。こうして肩に触れていると最初はドキドキしたけど、人間とは実に欲張りなものである。次は歩美さんのもっと別の箇所に触れたいという欲求が俺の頭の中で黒い渦のように巻き起こるのは真に自然な流れであった。肩に乗せた手が滑ったフリをして、ちょっと胸の方に手を伸ばしてみよう・・・・・・ って、そんなことできる訳ないだろう!!


 こんな時に思い出すのは返す返すも残念だった先日の実技実習のあの出来事だ。投げ技に失敗して俺の上に乗っかったあの時の彼女の胸の感触が、その後の金的攻撃ですっかり記憶から消去されてしまっているのだ。心地よい感触があったのは覚えているんだが、具体的にどんな柔らかさだったとか、その時感じたボリューム感などに関しては全く思い出せない。


 これは一生の不覚と言っても過言ではない! あんな幸せの絶頂をはっきりと思い出せないなんて・・・・・・ おっといかんぞ! 歩美さんをそのような不純な目で見るなんて失礼に当たるだろう。ここは心を鬼にして煩悩を払おう。色即是空、煩悩退散!




 こうして午前中の実技は終了して、午後の学科の授業も取り立てて何事もなく終わって放課後を迎える。生徒の中には放課後も残って訓練する者や部活動を行う者もいるが、俺たちはまだその辺は具体的には何も決めていなかった。それに俺にはダンジョンに潜るという日課とその後の我が家の道場での鍛錬という長年の習慣があるから、時間的な余裕が全くないのが実情だ。



 校門で駅に向かう3人とは別れて俺は反対方向の自宅に向かう。昨日までは1人で歩いていたこの道だが、今日は一緒に歩く相棒がいる。俺の弟子兼四條流に入門した義人だ。



「師匠、四條流の道場がどんな所か楽しみッス! 午前中の鍛錬だけでも気の使い方がすごくよくわかったッス! きっと道場では色々な技を教えてもらえるッス!」


「まあ行けばわかる。楽しみにしていればいいさ」


「楽しみッス!」


 それにしても義人のしゃべり方は舎弟根性丸出しだよな。まあ俺を師匠と認めているせいかもしれないけど。一応本人は敬語で話しているつもりなんだろうけど、何も知らない人には田舎のヤンキーと弟分の会話みたいに聞こえるだろうな。


 あっ、そうだった! こいつにはあの件をしっかりと口止めする必要があるんだった!



「義人、お前は俺の弟子だな」


「もちろんそのとおりッス!」


「これから俺が話すことは絶対に誰にもしゃべるなよ。もししゃべったら即刻師弟関係は解消する」


「絶対にしゃべらないッス!」


 よし、これだけ念押ししておけば間違いないだろう。俺はあの件を義人に切り出す。



「実は俺は入学式の次の日からダンジョンに潜っているんだ」


「師匠! 学園の規則ではまだ入っちゃいけないはずッス!」


「それがな、四條流の有段者は中に入る資格を持っているんだよ」


「さすがは師匠ッス! 段を持っているんスね」


「当たり前だろう! こう見えても入門して本格的な稽古を開始してから10年経つんだぞ」


「10年スか! やっぱり師匠は鍛え方が違うッス!」


 なんだかこいつとしゃべっていると調子が狂うな。どうもヨイショされている気分になっていくんだよな。まあいいか、話を続けよう。



「それから殆ど毎日ダンジョンに行っているんだ。だがこの件はクラスの連中にも、一緒に鍛錬している3人にも絶対にしゃべってはならないぞ」


「クラスの連中はわかりますが、何で3人にもしゃべってはならないスか?」


「鴨川さんが泣いて心配するんだ。特に彼女だけには絶対に知られてはならないと心してくれ!」


「わかったッス! 誰にも漏らさないッス! それにしても師匠は新学期早々隅に置けないッスね! 端から見ているとアツアツッスよ!」


「余、余計なことは言わないでよろしい。秘密だから絶対に漏らすなよ。それから俺は義人を門弟に預けたら今日もダンジョンに向かうから、そこから先はやつらの話をしっかりと聞くように」


「今日も行くんスか! 自分も早く中に入ってみたいッス!」


「義人は1学期の終わりまで待つしかないな。いくらなんでも今から段は取れないだろうし」


「仕方がないッスから、しばらく我慢するッス! 師匠は気をつけて行くッス!」


「おう、任せておけ! とまあこんな話をしているうちに到着したぞ! ここが我が家の道場だ」


「立派な門構えッス! 貧乏道場には全然見えないッス!」


 これ、そこはお世辞でも『立派な道場です』と言うべきだろう。俺自身が『貧乏道場』と言うのはいいけど、弟子から面と向かって言われたくはないぞ。実際には義人の言葉が正解ではあってもだ。



 空襲も受けずに昭和初期の昔からこの地にある我が家は敷地だけはだだっ広い。その分家の造りが古く、地方の旧家と言うのがピッタリと説明すればいいだろう。敷地の中には母屋と独立した建物の道場、そして住み込みの門弟が生活する離れが点在している。


 ひとまずは義人を両親がいる母屋に連れて行き、そこで正式な入門の手続きを行ってから道場に案内する。そこにはちょうど昨日入門したばかりの上野さんがいた。彼女は俺に気がついてニッコリと微笑み掛けてくる。



「師匠! あんなきれいなお姉さんがいるッス! 俄然やる気が出て気たッス!」


「ああ、あの人は義人よりも入門が1日早い先輩だから、失礼のないようにするんだぞ」


「わかったッス! 稽古が楽しみッス!」


 そして俺は彼を道場にいる門弟たちに預けて、自分の部屋に戻ってダンジョンに行く準備をする。今日は上野さんと一緒にダンジョンに行く約束をしている日だった。今までずっと1人で内部に入っていたから、誰かと一緒にダンジョンに行くのは楽しみなんだ。しかもその相手が上野さんとあれば尚更だろう。これは燃えてくるな。四條流の兄弟子として俺の良い所をその目に焼き付けてもらいたいぞ。



 もう一度道場に戻ってみると、上野さんはすっかり準備を整えて待っていてくれた。奥の方では・・・・・・ やってるやってる! 義人がすっかり門弟のオモチャになってポンポン放り投げられているぞ。我が四條流では受身は教えないんだ。投げられているうちに自然に身に着くからな。それに道場の床にはマットが敷いてあるからそれほどダメージはないだろう。あっ、首を固められて一瞬で義人が落ちた。これもいい経験だな。早く慣れてくれ。



「それじゃあ上野さん、出発しましょうか」


「若、私は妹弟子なんだから呼び捨てにしてもらいたい」


 妹弟子? そんな言い方あまり聞かないな。確か茶道ではたまに用いるらしいけどまあいいか。それよりも彼女を呼び捨てにする件だけどどうしようかな。せっかくだからミドルネームにするか。



「それじゃあカレンでいいか?」


「ああ、それがいいな。友達もみんなカレンと呼んでくれている」


 なんでだろうな? 歩美さんの名前を呼ぶ時は口から心臓が飛び出るくらいに緊張したんだけど、今回は上野さんの名前がすんなりと出たぞ。もしかして俺も成長しているのかな? それとも道場の関係者という気安さから来るものなんだろうか? ひとまずそれは横に置いて、俺たちはダンジョンに向けて出発する。徒歩5分の道で2人の話題はもっぱらダンジョンに関する内容だ。



「若、ところで何も打ち合わせをしないでダンジョンの中に入るのか?」


「ああ、そうだった! 1人でしか入ったことがないから忘れていたよ。お互いの特性とか戦闘フォーメーションなんかを確認する必要があるよな」


「それならば管理事務所の個室を借りよう。パーティーを組んでいる冒険者たちが直前の打ち合わせで使っている部屋があるんだ。会話が外に漏れないようになっている」


「そんな部屋があるんだ。せっかくだから一度見ておこうか」


 こうして俺とカレンさんは管理事務所に入って自販機で購入したコーヒーを手に打ち合わせ用の個室に入っていく。部屋の中はテーブルと椅子が置かれているだけの極めてシンプルな仕様になっている。



「なるほど、こんな部屋があるんだな。これから学園の仲間とここにくる時に使わせてもらおう」


「若、それよりも打ち合わせを優先しよう。若のレベルは私よりも高そうだけど、どこまで到達しているんだ?」


「俺は今レベル10だな。職業は武術家で近接戦闘が専門だ」


「やはり私よりも高いんだな。先日のあの戦いぶりはレベル10なら頷ける。私はまだレベル7だ。半年間ダンジョンに入っているが、戦闘はなるべく避ける方向で行動していたんだ。職業は『トレジャーハンター』だ。」


「へえ、初めて聞いた職業だ。そういう人は多いのか?」


「欧米では割とポピュラーな職業らしいが日本ではかなりレアみたいだな」


 そうなのか。トレジャーハンターと聞くと映画に出てくる考古学者のジョーンズ博士のようなイメージだな。戦闘を避けていたのはきっとダンジョン内の宝探しを優先していたからだろう。俺のようにレベルを上げること自体が目的で自分から魔物に仕掛けていくような真似をしなかったんだろう。



「トレジャーハンターって、固有のスキルはあるのか?」


「ダンジョン内の隠し通路や宝箱を探す『サーチ』や『スキャン』というスキルがある。その他にはマッピングや気配察知だな」


「へー、なかなか便利だな」


「あとは魔物を討伐した時のアイテムのドロップ率が2倍になっている。レアアイテムのドロップ率もほんの少し上昇しているらしいけど、残念ながら今までお目にかかったことはないな。高々3階層でレアアイテムなど出てくるはずはないから仕方がないだろう」


「本当に宝探し専用の職業なんだな。スキルもそちらの方向に全振りになっている感じだ」


「その分戦闘力が低いから1人で行動するには細心の注意が必要だ。いや、注意をしていてもこの前のようなことが起きる。ダンジョンでは一歩先は本当に何があるのかわからないんだ」


「確かにそうかもしれないな。まだ俺はそれほど危ない目には遭遇していないけど、そのうち命懸けの戦いもあるかもしれない」 


「それはその時になってみないと何とも言えない。それにしても若は職業が武術家だなんて、日常がそのままそっくり反映されているんだな」


「見てのとおり戦うしか能がない人間だ。魔物が出てきたら戦闘は俺が中心でいいのかな?」


「若に任せる。私はフォローとドロップアイテムの回収に専念する」


「ちょっとは手伝ってくれよ!」


「私が手を出す前に若が1人で片付けているはずだ。私も自分の身ぐらいは守れるから若は思いっきり戦ってほしい」


 まあ、俺は戦闘の専門職ですからカレンさんから見ればそのとおりかもしれないんですけどね。ということでフォーメーションは俺は前方の索敵をしながら前を歩き、カレンさんが後方の警戒と進行方向の指示などを出す役割と決定した。


 こうして俺たちは飲み掛けていた紙コップのコーヒーを一気に飲み干してから改めて装備の点検を済ませて、ダンジョン入り口のゲ-トに向かう。


 ゲートを通って転移魔法陣が設置されている場所に歩いていく。今日はお互いの連携を確認しあうために2階層の比較的弱い魔物を相手にしながらドロップ品を回収していくことで2人の話し合いがまとまった結果だ。



 魔法陣の光が収まるとあっという間に2階層に転移し終えている。もうすっかりこの奇妙な感覚にも慣れたな。互いに顔を見合わせるとカレンが1つ大きく頷く。こういうアイコンタクトもパーティーでは必要だよな。


 こうして初めて2人のパーティーとして俺たちはダンジョン探索を開始するのだった。




ダンジョンに入っていいった重徳とカレン、2人の行く手には・・・・・・ 続きは明日を予定しています。


評価とブックマークをお寄せいただいていありがとうございました。おかげさまでこの小説は安定のローファンタジーランク10位前後に留まっております。感想をお寄せいただいた方、大変参考になっています。本当にありがとうございました。


さて、前回の投稿でこの小説のタイトル変更についてお知らせいたしましたが、実は作者が心に秘めている真のタイトルがネタバレになってしまうためにまだ現段階では使用できません。今の主人公の行動に合わせてちょっとだけタイトルを変えましたが、本タイトルまでは当分このままで行かせていただきますのでご承知置きください。

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