表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/53

18 様々な出会い

第18話をお届けいたします。弟子志願者の高田君はどうなるのでしょうか・・・・・・

「何で俺に弟子入りしたいんだ?」


「俺のスラッシュはまだ未熟ッス! あっさりと師匠に破られたッス!」


 困ったなと思いながらも、俺は土下座しながら頼み込んでいる高田の目の光を観察している。こいつとしゃべったのは初めてだけど、中々良い目をしているじゃないか。そういえば模擬戦が始まる前も対戦相手の俺と視線を真っ直ぐに合わせていたな。こいつは結構見所があるのかな?



「まだ師匠と呼ぶな! 弟子にすると決めたわけではないからな」


「お願いします、師匠! 勇者ダ○にはアバ○先生が、ドラゴンボー○では○仙人が師匠として技を教えてくれたッス! 俺は独学でここまで必死に勇者を目指してきましたが、1人で修行する限界を感じていたんです。どうか俺に様々な技を伝授してほしいッス!」


 ほう、ここまで1人でやってきたんだ。ということはこの高田は努力型の勇者という訳だな。確かロリ長がそんなタイプの勇者がいると言っていたぞ。どうりであの養殖の連中とは目の色が違うわけだ。こうして話をしてみると結構面白い存在に感じてくるけど、そのアニメの例えはわかりにくいぞ。俺はマンガを読む暇もなく修行に明け暮れていたからな。さて、これだけ熱心に頼み込んでいるのを無碍に断るのもなんだし、ちょっとくらいは四條流の手解きをしてやろうか。



「わかったから顔を上げろ。四條流の技を教えてやるよ。月謝は毎月1万円な」


「月謝を取るッスか?」


「我が四條流は爺さんの代から由緒正しき貧乏道場だ! 苦しい台所事情を察してくれ。その代わり我が家の道場でも稽古できるぞ。この学園から徒歩10分だ」


「それは願ってもいないことッス! わかったッス! 正式に四條流に入門するッス!」


 こうして俺は学園内で門弟を1人確保するのだった。やったね! 上手くいけばこの学園であと何人か門弟を確保できるかもしれない。本格的に勧誘活動を開始しようかな。高田には明日の実技実習から稽古を開始すると申し渡して今日は帰した。


 そのまま俺は控え室で防具を外して外に出ると、そこには歩美さんが1人で待っていた。ここは演習室の裏側に当たる場所で、対戦者と精々付き添いくらいしかこの通路にはやって来ない構造になっている。



「金曜日もノリ君を待っていようと思ったんですけど、梓ちゃんに強引に手を引かれて帰ってしまったので、今日はこうして待っていました。ノリ君はとっても格好良かったです」


「わざわざここまで来てくれてありがとう。中々面白い試合だったよ」


 相変わらず『ノリ君』の破壊力は抜群で、再び俺の脳はトロトロ状態に陥っていく。歩美さんはちょっと上目遣いで俺を見上げながらしゃべるから、こうして会話をしながらトロトロ具合がさらに加速する。本当に可愛いよな。上目遣いというその仕草は反則だろう!



「ところでノリ君、最後の試合の最中に何かを避けようと左右に飛んでいましたけど、何をしていたんですか?」


「あれはだな、高田が放ってくる勇者の必殺技を避けていたんだよ」


 さらに追撃を加えてくる歩美さんの『ノリ君』攻撃によって、俺の脳は液体から気体に変化して口から白い煙が立ち上っている。もうダメ! 完全にギブアップです! 降参です! 白旗でございます!



「そんな危ないことをしていたんですか! ノリ君が本当に心配です!」


 不味いぞ! 危険なことはしないという約束を以前にしたのもあって、歩美さんは再び涙を滲ませ掛けている。本当に俺のことを心配してくれる彼女の心情が嫌と言う程伝わってくるな。さすがに現在トロトロの上に更に強力な涙攻撃まで食らったら、もう俺は失神TKO確実だろう。これは何とかご機嫌を直してもらえる上手い手段はないだろうか?・・・・・・ そうだ!



「あ、歩美! よく聞いてほしい」


 涙を浮かべかけていた歩美さんは名前を呼ばれてはっとした表情になっている。俺の名前呼び捨て攻撃も捨てたもんじゃないぞ。両手を頬に当てて左右に首を振りながらイヤンイヤンの仕草になっている。こうしてよくよく観察すると意外と歩美さんは単純なのではないだろうか? そしてその顔は次第にトロンとした表情に変化しているな。ここは畳み掛ける千載一遇のチャンスだ! 



「あれは確かに危険な攻撃だった。だからこそしっかりと避ける必要があるんだ。避けないでまともに食らったらもっと危険だからな」


「確かにそのとおりかもしれないです。でも出来るだけ危ないことはしないでくださいね」


 ヨッシャー! 上手く丸め込んだぞ! ついでだからもうちょっとサービスしちゃおうかな。涙を滲ませ掛けたのは忘れて、この上機嫌をぜひとも長く保ってほしいからな。



「あ、歩美、そ、その、良かったら手を繋いで歩こうか。人がいない場所だけな」


「ええ! いいんですか! とっても嬉しいです!」


 断られたらどうしようかとちょっと心配だったけど、歩美さんは二つ返事でオーケーしてくれた。俺に向かって手を差し伸べてくる彼女はサクラ満開オーラを発しているぞ。俺如きと手を繋ぐのがそんなに嬉しいのかな? 


 彼女の手を握ってリードするように誰もいない通路を歩き出す。こうして女の子と手を繋ぐなんてたぶん幼稚園以来の出来事だよな。中学の時の体育祭で行われたフォークダンスではパートナーの子が強面の俺に対してビクビクしながら手を出していたっけ。確かにあの頃の俺は修羅とも羅刹とも呼べるような雰囲気を身にまとっていたからな。



「ノリ君、あと少しで通路が終わってしまうのがとっても残念です」


「それじゃあ今度の休みの日に一緒に公園でも散歩しますか」


「本当ですか! とっても楽しみです! 次のお休みが早く来ると良いですね。私、張り切ってお弁当を用意します!」


 しまった! 土日はダンジョンに入る予定だったけど、歩美さんとの散歩という行事が強制的に組み込まれてしまったぞ。でも言い出したからには仕方がないから、ダンジョン攻略はどちらかの日に集中して実施しよう。でも歩美さんが作ってくれるお弁当というのも中々魅力的な提案じゃないか。なんだかすごく楽しみだ。



「ノリ君、そういえばまだ携帯の番号とアドレスを聞いていませんでした。ぜひ教えてください」


「番号はいいけど、メールのやり方がわからないんだ」


「でしたら私が教えますね。簡単ですよ。いつも護身術とか四條流の技を教えてもらっているお礼です」


「そうしてもらえると助かるな」


 そんな話をしながら2人して教室に戻るとロリ長と二宮さんが待っていた。彼らも満更知らない仲ではないから、俺たちを待っている最中話をして時間をつぶしていたようだ。



「なんだと! 四條はまだメールのやり方を知らなかったのか! 現代に生きる化石そのものだな」


「逆にスマホやパソコンを使いこなす四條というのは僕には想像がつかないよ」


 二宮さんからアナログな俺に対する痛烈な批判とロリ長からの皮肉が混ざった感想が俺に向けられる中で、歩美さんは俺のガラケーをせっせと操作している。通話以外何も使い方を知らないからメールの設定も全部彼女にお任せ状態だ。



「はい、これでいつでもメールが使えますからね。ついでに私の番号とアドレスをホルダーに登録しておきました。ノリ君の携帯の登録者第1号ゲットです」


「「ノリ君?????」」


 メールの設定を終えた歩美さんが俺に携帯を手渡す際のその一言に対して、ロリ長と二宮さんの声が美しいユニゾンを奏でる。君たち2人もある意味大変気が合っているんじゃないのか。同じ天然勇者なんだし。



「えーと、こ、これはですね」


「そ、そのなんというか」


 今度は俺と歩美さんがしどろもどろになる番だ。2人してこの場をどう切り抜けようかと目を見合すが、どちらにもいい案は浮かばなかった。ロリ長は何かを察したような表情をしているのに対して、二宮さんの俺に対する不信感がこもった視線が最高強度になっている。このレベルは最早視線だけで人を殺せそうだろう。



「なるほど、2人は名前で呼び合う関係というわけだな。さて、歩美、先程の話の続きだぞ。私に何を隠しているのか素直に白状しろ!」


「ダメです! ここでは絶対に言えませーーん!」


 こうして二宮さんから脅迫まがいのあの手この手の追求が俺と歩美さんに向けられるのだった。当然2人とも完全に黙秘を貫いたけど、胃に穴が開くレベルの恐ろしい尋問だったという記憶しか残っていない。



 こうして4人で教室を出て下校する。歩美さんはチラチラと俺に視線を向けてくるけど、他の2人がいる手前、なんだか彼女とは話しにくい雰囲気を感じて俺が自重しているせいだろう。校門を出た所で俺だけは反対方向なのでようやく解放される。歩美さん、あとは1人で頑張ってください。




 こうして家に戻った俺は本日もダンジョンへと向かう。模擬戦やらその後の二宮さんの追及やらで出発がすっかり遅くなってしまった。今日も3階層を探索するぞ! まだフロアー全体を回りきれていないからな。



「四條君、今日も精が出るね。気をつけて行ってくるんだよ」


「ありがとうございます。いってきます」


 事務所でいつもの係の人に見送られて俺は入り口のゲートに向かう。転移魔法陣の使い方をすっかりマスターしたので、今日も直接3階層に向かうのだ。


 魔法陣に入って光に包まれると次の瞬間に転移は完了している。ここは土曜日以来現在の俺の活動場所となっている3階層だ。実は今日1つの目的がある。弟子となった高田のスラッシュを打ち破った俺の気が、果たしてゴブリンメイジの魔法に有効なのかを確認しておきたいんだ。


 いきなり実戦で試すのもどうかと思うが俺には勝算がある。勇者の必殺技を敗れるんだったら、ゴブリンの魔法如き屁でもないだろうという全く根拠のない自信だ。このダンジョンで対戦するのは人間が発する気ではなくて魔物の魔法というのも承知の上で、それでも尚且つ試してみたいという強固な思いに駆られているのだった。




 転移魔法陣はフロアーの中央部に設置されている。俺はまだ3階層で足を向けていない北の方向に歩き出す。通路を歩き出して30秒で気配を捉え臨戦態勢に移行、出たきたのはゴブリンソルジャーだ。こいつじゃないんだよな、早くお目当てのやつが出てこないかな。


 その後数体のゴブリンソルジャーやゴブリンジェネラルを相手にして戦うこと約40分、ついに俺の前にお目当ての魔物が姿を見せてくれた。例の神父のような服を着て手には杖を持っているゴブリンメイジだ。魔物の姿を発見すると、俺は即座に呼吸法を開始して体に気を循環させる。よーし、これで準備は完了したぞ! いつでも来い!



「&%M!?&&%#」


 ゴブリンの口から呪文の言葉が唱えられて、体の前にかざした右手から予想通り火の玉が飛んでくる。俺はすでに気を集中している右手をやや引き気味にして構えをとる。



「ハッ!」


 気合諸共右手を打ち出すと、俺の手から放たれた気がゴブリンの魔法と衝突する。火の玉は飛び出した気の勢いに飲み込まれるようにして四方に飛び散って消滅した。よし、これで第1段階は無事にクリアーしたぞ。


 俺は更にあらかじめ気を集めておいた左手をゴブリン目掛けて打ち出す。距離は約20メートル、このくらいなら何とかなるだろう。



「ハッ!」


 シュゴーという音を発しながら俺の気がゴブリンに飛んでいく。さて、どのくらいの威力があるのか楽しみだな。そしてバシュンという音を立ててゴブリンの体に真正面から着弾する。



「ギギャー!」


 ほほう、これは中々の威力だな。演習場のラバークッションに穴を開けた高田のスラッシュを少々下回ってはいるが、これは剣を振るのと掌打を打ち出すのとの初速の差だろう。それでもゴブリン相手ならば十分の威力だ。まともに衝撃を受けた魔物は後ろに引っ繰り返って中々起き上がろうとしないぞ。


 俺はすぐにダッシュして腰のバールを引き抜いて止めを刺す。これで魔法を使ってくる魔物相手にも五分以上に戦える目処がついたな。


 


 こうしてまた1つ収穫を得た俺はフロアーの奥を目指して更に歩いていく。おや、今度は普段と違う気配を感じるぞ。なんだか争っているような物音が俺の耳に入ってくるんだ。これはもしかして他の冒険者が魔物と戦っているのかな。


 極力足音を立てないようにそっと接近して曲がり角の陰から様子を伺ってみると、そこでは若い女性の冒険者が1人で3体のゴブリンソルジャーと1体のゴブリンメイジ相手に戦っている場面だった。


 不味いぞ! 接近戦を挑んでくるソルジャーに気を取られて後ろから魔法を放とうとしているゴブリンメイジに全然対応ができていないじゃないか! 俺は即座に壁の陰から飛び出すと右手に気を集める。それと同時に左手に握るバールを一番手近なゴブリンソルジャーに振り下ろしていく。



「ギギャギャーー!」


 断末魔の声を上げて倒れていくゴブリンだが、今はそれどころではない! もう魔法が撃ち出される寸前なんだ。



「伏せろ!」


 俺はもう1体のソルジャーにバールを振り下ろすと、その女性に向かって大声で叫ぶ。彼女は突如現れた俺に驚いたような表情を向けるが、対峙している1体から距離をとってその場にしゃがみこむ。よし、これであの魔法に対して俺の気をぶつけられるぞ!



「&%M!?&&%#」


 呪文とともに飛び出した火の玉に向かって俺は気を放つと、空中でその魔法の火を飲み込んで散り散りに消し去っていく。行き掛けの駄賃で残っているソルジャーにもバールを叩き込んでから、更に右手に気を集めてゴブリンメイジに向かって撃ち放つ。引っ繰り返った魔物を見て、これで何とか危険は去ったなと一息つく。


 ふー、とはいえ危ないところだった。引っ繰り返ってた状態から起き上がろうとするゴブリンメイジに止めを刺すと、俺はようやく立ち上がった女性の所に向かう。



「大丈夫ですか?」


「危ない所だった。助けてくれてありがとう」


 おや? この人はどこかで見た覚えがあるぞ。うーん、どこで見たのかな・・・・・・ ピコーン! 土曜日に管理事務所のカウンターにいたきれいなお姉さんじゃないか!



「ああ、君は確か土曜日の朝早くに事務所に来た男の子だね」


「四條重徳です」


「私は上野・カレン・智代ともよという。ミドルネームがあるのはアメリカ人の血が4分の1入っているからだ」


 なるほど、そうなのか! 日本人にしてはなんだか目鼻立ちがはっきりしていると思ったんだよ。人目を引く顔立ちといい、服の上からでもはっきりとわかる大層ご立派なお胸はきっとアメリカ人の血の影響なんだな。ここはひとつ手を合わせて拝んでおきたいところだが、面と向かって拝みだすと怒られそうだから心の中でこっそりとやっておこう。大変素晴らしい目の保養をさせていただきましてありがとうございました。ナムナム・・・・・・


 こうして俺は思わぬ場所できれいなお姉さんこと上野さんとの再会を果たすのだった。




親密さを増している鴨川さんに続いて今度はダンジョンでの偶然の出会いが・・・・・・ 続きのお話は明日投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ