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10 天国から地獄へ直行するとは・・・・・・

明日の投稿を予定していた第10話が早めに出来上がりましたので投稿させていただきます。本日はお昼に第9話も投稿しておりますので、まだそちらをご覧になっていない方は先に9話に目をお通しください。

 本日の午前中は演習場で実技実習となっている。俺はロリ長や鴨川さんと一緒に準備体操をしている最中だ。軽く体を動かしている俺の耳に周囲から声が聞こえてくる。



「おい、模擬戦はどうするんだ?」


「当然初戦はしっかりと3ポイントを狙いに行きたいよな」


「となるとやっぱり狙いは一般人か」


「噂によると東堂先輩に一方的にやられたそうだぜ」


「無謀もいいところだな。一般人が東堂先輩を相手にして敵う訳ないだろう」


「俺は早速あいつに模擬戦を申し込むぞ」


 俺のステータスには気配察知というスキルが加わっていた。これは魔力とは関係なしに常時発動している能力らしい。おかげで視力や聴力が大幅にアップしているようだ。だから聞こえなくてもいい外野の声がこうして耳に入ってくる。


 それにしてももう昨日の先輩との打ち合いの話がクラス内に広まっているんだな。話の出所はあの対戦を周囲で見ていた2年生だろう。余程の目を持っていないとあの打ち合いのさ中にどんな攻防が秘められていたのかなんてわからないはずだ。だから見た目のままに俺が東堂先輩に圧倒されて打ち負かされたという話になって伝わっているんだと思う。


 もちろん俺は昨日の敗戦を潔く受け止めているから、負けた事実を否定するつもりはない。むしろ清々しいくらいに自分の力が東堂先輩の剣に撥ね返されたと思っている。だから昨日の敗戦は俺にとって非常に有意義なものだ。これから先の糧にすればいいんだからな。


 ただしクラスの勇者の皆さんは2つ程大事なことをお忘れじゃないだろうか? 確かに俺が東堂先輩に敗れたのは事実だけど、君たちは東堂先輩ではないんだぞ。更に俺は入学初日に勇者4人をボコボコにして、そのうち2人を入院させているんだけどな。人間というのは耳障りが良くて自分にとって都合のいい話には進んで焦点を当てるけど、反対に都合の悪い事実からは目を背けようとする習性があるから、まだ精神的に未熟な俺たちの年代ではこの受け止め方は仕方がないのかもしれないな。



「四條は大人気のようだね」


「出る杭は打たれるからな。俺は誰の挑戦でも喜んで受けてやるぞ!」


 どうやらロリ長にもクラスの連中の話が聞こえていたようだ。なんだか悪巧みをする悪代官のような表情で俺の肩に腕を回してくる。コラッ! 男に肩を抱かれても全然嬉しくないから離せ!



「四條君、一体何のお話ですか?」


「ああ鴨川さん、実はクラスの男子たちが挙って俺に模擬戦を申し込んでくるらしいんです。今あっちで順番の相談をしている最中ですよ」


「また四條君はそうやって危ないことするつもりなんですね! 昨日の私との約束を守る気があるんですか?」


「鴨川さん、模擬戦は授業の一環だからやらないと単位がもらえないんですよ。それに俺だけじゃなくって、鴨川さんもいずれは10試合こなさないといけないんですから他人事じゃないですよ」


「ええーーー! 私も模擬戦をやるんですか! 女子だから完全に他人事だと思っていました」


 鴨川さんはたぶん今朝の担任の話を誤って理解していたんだろう。一般人で女子だからという理由で模擬戦が免除されると思い込んでいたらしい。おっと、ここから先はロリ長が説明役を買って出てくれるようだ。



「鴨川さん、この学園で模擬戦が免除されるのは聖女と魔法使いだけですよ。彼女たちはダンジョンの中に入らないと魔法の力が発揮できないので免除されているだけです。だから鴨川さんも他の生徒に混ざって模擬戦を行う規則になっているんですよ。鴨川さんだけではなくて他のクラスの勇者ではない生徒も全く同じ扱いです。ダンジョンで魔物と他戦うために実戦に近い経験をしておかないといけないですから」


「わ、私はどうしたらいいんでしょうか?」


 鴨川さんはオロオロしながら涙目で俺に訴えかけている。止めてくれ! そんな目で見られると、どうしていいかわからなくなるじゃないか! でも鴨川さん、この学園はダンジョンで魔物と戦う人間を養成しているんだから、模擬戦程度でうろたえていたら先には進めないのも事実だ。何しろカリキュラムの半分近くがこうした実技実習に当てられているんだからな。



「四條のようにわざわざ勇者と対戦しなくても構いません。他のクラスの生徒の中から対戦相手を選ぶのも可能ですからね。相手がD、Eクラスの生徒ならば剣道の地区大会くらいのレベルですよ」


「それでも私にとってはレベルが高すぎます! 武術の経験が何もありませんから」


「四條がしっかりと教えてくれるから大丈夫ですよ。それにいざとなったら自分から棄権を申し出るという手もあります」


「な、なるべくなら棄権はしたくないので四條君どうか色々と教えてください」


 さすがに学園の決まりには逆らえないと覚悟を決めた鴨川さんが俺の手を取って決意した表情で迫ってくる。ちょっと顔が近すぎやしませんか? 俺はむしろ嬉しいんだけどね。



「わかりました、今まではちょっとした護身術でしたが、これからは四條流の技を学んでもらいます」


「どうぞよろしくお願いいたします」


 真剣な表情で俺に向かって頭を下げる鴨川さん、長い黒髪のいい香りが俺の鼻をくすぐる。な、なんだか女の子って本当にいいもんだな。この学園に入学して鴨川さんと知り合いになれた俺は実に幸せ者だ。



「そ、それじゃあ早速はじめようとするか」


 俺は心の底からもったいないという思いを抱えながら鴨川さんが握っている手を離す。まずは簡単に四條流の話をしないといけないから彼女と向かい合って立つ。



「四條流は、打つ、投げる、極める、の3点がワンセットとなって成り立っている武術なんだ。それぞれの技の特性をよく理解して身に着けてほしい。それから流派の最終奥義として『逃げる』という物が存在する」


「逃げるですか?」


 不思議そうな表情で首をコテンと横に傾ける鴨川さん、こういう仕草は小動物っぽくって本当に可愛いな。それは横に置いて俺は話を続ける。



「そう、逃げるだよ。敵わないと見たら戦闘領域を素早く離脱する。命があれば再びその相手と戦うことも可能だからね。危ない時には躊躇わずに逃げる、これをしっかりと守ってもらいたい」


「でも四條君はいつも逃げないで無茶ばっかりしていますよ」


「あの程度はまだ本当に命の危機を感じていないからだよ。自分の命が危ういと感じたら俺も即座に逃げるから安心していいよ」


「はい、わかりました。でも本当に四條君は程々にしてくださいね」


 また鴨川さんが泣くと俺が非常に困るから黙って頷いておく。俺と鴨川さんの間には命の危険に対する認識に相当な開きがあると感じている。この開きを埋めていくには並外れた努力を要する作業になりそうな予感だな。でもいずれは鴨川さんも模擬戦をしたりダンジョンに入ったりするから、身を守る術を身に着けておくのは本人のためだろう。それにちょっとでも四條流を理解すれば彼女の考え方が俺に近付いて来るかもしれないな。



「それじゃあまずは打撃の形から練習するよ。四條流では殆どコブシは使用しない。手の平か手刀を相手に当てる。打撃技は一発で決めるのが目的じゃなくて、あくまでも次の投げ技や関節技に繋いでいくための牽制や相手の体勢を崩すように打ち込んでいくんだ」


「なんだか難しそうですね」


「やっているうちに自然に体が動くようになるよ。それじゃあ俺の動きを真似しながらやってみよう!」


「はい!」


 こうして俺は基本の何種類かの打撃の形を見せて実際に鴨川さんにもやらせてみる。空手のように正拳突きを繰り返すんじゃなくて、基本の型を組み合わせた動きを流れに沿って練習していくんだ。この時の足捌きも重要なんだぞ。


 鴨川さんはお世辞にも運動神経が良いとは言えない。ごく普通の女子の能力しか持ち合わせてはいない。もちろん体力も同様だ。入試に運動能力検査があるこの学園になぜ取り立てて際立った能力がない彼女が合格したのかは俺には謎だ。それでも何かの偶然が重なって鴨川さんがこの学園で俺と一緒に居てくれるんだから、幸運な巡り会わせに感謝しよう。


 途中で足を縺れさせた鴨川さんが転び掛ける場面もあったが、何とか無事に打撃の形を終えて次は投げの形に移る。今度は俺を敵に見立てて、まずは型どおりに打撃を放って相手の体勢を崩してから投げに移行していく練習だ。



「掌打を放って相手が避けたら避けた方向の腕を取る。そこから一気に投げ技に移行していくんだよ」


「はい、頑張ります!」


 俺に向かって鴨川さんのヘロヘロな掌打が飛んでくると、わざと体勢を崩したフリをして大袈裟に体を右に傾ける。あとは右手を取って軽く下方向に引っ張り、足を掛けたら一番簡単な横投げの完成だ。この時のコツはまだ相手が避けている最中に更に踏み込んで、その体重移動を利用しながら最小限の力で投げるという点にあるんだぞ。更に上級編では掴んだ手首の関節をしっかりと極めるんだ。こうすると受身が取りづらくなって投げ技のダメージが大きくなる。



「えいっ!」


 鴨川さんは教わったとおりに俺の腕を取って足を引っ掛けてくる。この程度では我が家の道場では逆に返し技をあっさりと食らうレベルだけど、敢えて彼女の動きに逆らわないように俺は横に倒れこんでいく。相手の体が自分の投げ技によって飛んでいくという感覚を覚えるのも上達の近道なのだ。この程度のヘロヘロの投げでは全然ダメージはないけど、一応受身を取ってから俺が立ち上がる。そこに鴨川さんが心配そうな目を俺に向けてくる。



「四條君、大丈夫でしたか?」


「普段から投げられているから全然平気だよ。鴨川さんが俺を投げるたびに上達していくんだから、俺の心配はしないで遠慮なくドンドン投げるんだよ」


「はい、わかりました!」


 本当に優しい子だな。投げ技の練習をしているのに投げられた俺を心配しているんだから。それにとっても素直だから、俺のアドバイスを忠実に守っている。本当はもうちょっと応用が利いた方が良いんだけど、基本に忠実なのは悪いことじゃない。


 横投げの練習が終わったら次は担ぎ投げだ。腹を狙った掌打を相手が腰を引いた避けた時に腕を取りながら後ろ向きに懐に潜り込んで投げる、柔道では背負い投げとか一本背負いと呼ばれる投げ方の練習に入っていく。


 ヘロヘロと飛んでくる鴨川さんの掌打を腰を引いて避ける俺に対して、彼女は俺の左腕を取って背中を向けながら懐に潜り込んでくる。そのまま鴨川さんが体を前に倒せば投げが完成するんだけど、タイミングを取るためにその手前で寸止めにする所までをまずは練習する。何度も鴨川さんが俺にお尻を向けて迫ってくるが、むほほほほ! これは堪りませんぞ! 俺の体と彼女の背中から腰が密着しているのだ。ちなみに2人とも学園から支給されたジャージ姿だ。特に動いている鴨川さんは半そでのシャツ一枚という姿になっている。


 しかも柔らかいお尻が俺の股間のちょうどいい場所に当たって変な刺激を与えてくる。これ! 俺の息子よ! 立ち上がろうとするんじゃない! 訓練の最中なんだから今しばらく大人しくしているんだ! しかしこれは役得以外の何者でもないぞ! それに鴨川さんの髪の毛が俺の顔の間近にあって、いい香りが漂ってくる。クンカクンカ・・・・・・ 胸がいっぱいになるまで深呼吸したい気分だ!



「四條君、こんな感じでどうでしょうか?」


「大変結構なお手前でございました」


 俺は色々な意味をこめて鴨川さんに返事をしてしまった。いやいや、本当に堪能させていただきましたぞ。感謝の言葉もございません。鴨川さんの様子を伺うと全く気が付いていない・・・・・・ そうじゃない! 額に汗が滲んで息がだいぶ上がっているようだ。これはちょっと休憩が必要だな。ここまで結構なペースで練習したからだいぶ疲れているだろう。ついでに俺の下半身も静めておこう。



「最後に俺を一本きれいに投げてから休憩にしましょう」


「はい、それでは行きます!」


 今度は寸止めではなくて、俺が最後まできれいに投げられる番だ。鴨川さんは教えどおりに腕を取って俺の懐に潜り込んでくる。敢えて抵抗せずにそのまま流れに任せれば、きれいに投げが決まるはずだ。だがその瞬間鴨川さんの足元がふらついた。不味い! これでは投げが崩れる!


 俺は咄嗟にまだ地面に残っていた左足を強く蹴って、両腕を彼女の胴体に巻きつける。横に崩れていく投げで鴨川さんが下敷きにならないように先回りして自分の体が彼女の下に来るように持っていく。ふー、なんとか間に合ったようだ。先に地面に落ちた俺の体がクッションになって鴨川さんはどうやら無事なようだ。



「四條君、今のはどうなったんでしょうか?」


 俺の顔の間近に鴨川さんの顔がある。というか俺の上に鴨川さんが乗っかっている。俺の両手は彼女を胴体をしっかりと抱きとめているままだ。えーと、これはなんだかとってもヘブンな状態ではないだろうか。む、胸が・・・・・・ 鴨川さんのオッパイの感触がかなりダイレクトに俺に伝わってくるじゃないか! こんなに柔らかいものなんだとちょっと感動しているぞ。



「投げが途中で崩れそうになったから、俺が鴨川さんのクッションになったんですよ」


「すみませんでした。四條君は大丈夫ですか?」


「とっても幸せな気持ちです! ずっとこのままで居たいです!」


 俺の言葉の意味を理解できない鴨川さんは周囲をグルリと見渡す。そしてようやく自分が俺の体の上に乗っていることに気が付いた。見る見る彼女の顔が真っ赤に染まっていく。もうちょっとそのままでも俺は全然構わないんですよ! でも恥ずかしがって頬を染める鴨川さんも実に可愛いな。本人は相当にテンパッているみたいだけど。



「ええー! 本当にすみません! 今すぐにどきますから」


 慌てて降りようとして足をバタ付かせる鴨川さん、そしてその時俺に最大の悲劇が襲い掛かった。鴨川さんの膝が偶然俺の股間を抉るようにメリ込んでくる。



「ギヤーーーー!」


 悲鳴を上げた俺の脳を突き刺すように鋭い激痛とズーンと腹の底に響いてくるような鈍痛が同時に襲い掛かる。た、助けてくれ! これは男にしかわからない痛みだ! その中でも相当にヤバい部類に違いない。全身から一気に脂汗が噴き出してきた。なんだか嫌な悪寒も始まっているぞ。痛みのせいで目の前が段々暗くなっていく。そのまま俺の意識は一時的にブラックアウトするのだった・・・・・・




 ツンツン、ツンツン・・・・・・ 何か硬い物が俺の頭を突っついているな。なんだろう?



「おい、四條! 早く目を覚ませ!」


「四條君、大丈夫ですか?」


 ゆっくりと目を開くと二宮さんが手にする木剣で俺を突っついていた。その横では心配そうな表情の鴨川さんが俺を見下ろしている。なんだかちょっと記憶が曖昧だな。確か鴨川さんが俺の上に乗っかって・・・・・・ そうだった! 


 俺はゆっくり体を起こすと、女子2人を制して立ち上がる。そして彼女たちに背を向けて2つの玉が無事かどうかの確認をする。良かった、潰れてはいないみたいだ。まだ腹の底に疼くような痛みは感じるけど、どうやら男としての大事な物を失わずに済んだ。


 こうして鴨川さんの手によって地獄に突き落とされる一歩手前で何とか生還を果たした俺だった。  


 


次回はいよいよ開始される模擬戦の模様をお伝えするのかな? その辺はまだちょっと曖昧な部分があります。投稿は明日を予定しています。どうぞお楽しみに!


たくさんのブックマークをいただきましてありがとうございました。この調子で少しでも早めに投稿を進めていきますので、皆様の応援をどうぞよろしくお願いします。

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