初めて異世界の町に来ました。ギルド登録しました。
「ここは、辺境、最東の町。ラーレバッハにようこそ!」
ロールプレイングゲームでありそうな台詞じゃないですか?
町には門衛なんていうのはいなくて、ラーレバッハって看板が突き刺さって立ててあるだけです。
心の中でさっきの言葉は呟きましたよ、テンプレですから。
さて、初めて人が作った町に着きました!
建造物が並んでるよ…。動物以外に人がいるよ。山ウサギでも、派手鳥でも、森蛇でもない生き物がいる。ニワトリっぽいのが、遠くにコッコッコ言いながら歩いてるのが数羽見える。
放し飼い?
近くには、豚らしき物体もウロウロ。
肥の匂いがそこはかとなくするけど、酷くないからある程度上下水道は整っているようだ。
建物は木造ではなく、煉瓦造の建物が中道添いに並んで建てられてるんだけど、煉瓦の色が少しづつ変えられていて、個性が出てる。扉も同じ形で同じ高さぐらいで同じような玄関アプローチなのに、扉が各戸の壁面とマッチするようなデザインと色使い。絶妙な配置で、ミニチュアハウスのようにキチンと並んでいるところが大層かわいい。
積雪の季節があるのか、屋根の勾配が急でそれもアクセントになっていてこれにもそれぞれに味わいがあった。
店舗か住宅か扉のデザインで分かるようにデフォルメされて載せられいて、店舗は商品が玄関先の階段の両端に並べて置かれてお客を待ってる。
道を逸れるとすぐに家畜や田畑が現れて、この町の時間がゆっくり流れているようです。
私の将来こんなとこに住みたいな?ランキングで上位入賞圏内な、のどかな町である。
冬に積雪ありそうなのがネックかな。
ところが、知識人エルマールさんが言うには、ここの町は魔の森の中にあるので、住民になるには単独で魔獣を狩れる腕がないと認めてくれないという戦闘住民が住むところだそうです。
なんですと?
魔石と薬草が豊富な魔の森は冒険者の稼ぎ場所だから、ここは小さい町なのに、冒険、商業ギルドがどちらも入っている冒険者御用達の町なんですって。
冒険初心者でもユックリ休めるように結界石が大量に使用され、下手な冒険者よりも手練れな住民が、たまに結界石を突破してきた大型魔獣を寄ってたかって退治するから安心安全。町から近い森は小型魔獣、深い森では大型魔獣と希少な薬草。幅広い層に対応する、まさに冒険者を育てるためにある冒険者のための開拓地。
飼育しているニワトリっぽいのも羊っぽいのもあくまで、いつ湧くのかわからない魔獣の
襲来のため籠城用(籠町用?)の非常食。
いつでも、ブラッディカーニバル、血祭り歓迎な町という、ある意味、私が望む平穏な生活とはどこまでも相容れないとこでした……。
こんなに可愛いのに、詐欺ですよ。
ところで、朝から、プロポーズまがいの後見人宣言をかましたエルマールさんと、今後の私取り扱いについて、話し合い。
最終的に意見の一致はみられないものの、お互い妥当点をみつけ、折り合いました。
多分…。
「では、決めた通り、私は町長に挨拶してくるから、魔獣の討伐部位の提出と不足の買い出しと宿の手配な。前と同じとこでいい。
カリンが泊まるとこは、俺の並びか扉前の部屋にしといてくれ」
「食事はどうしますか」
あなたは基本そこが最重要ポイントだね。
「ディックは、あと他も、待たずに先に済ませてかまわん。俺は、町長に呼ばれて時間にうおっては夕餉を一緒にと言われつかもしれんしな」
「カリンさんは、先にギルド登録済ませておきましょうか」
「…そうだな。ギルドで、余計な事話さないようにエルマールはしっかりと見といてくれ」
ちょっと待って。子どもじゃあるまいし、ちゃんとしてます!
「私、大人しくしてますよ?」
「常識が足りないんだから、カリンは何にも話さず、俺が考えた通りにして全部任せておくのが今お前にできる最善の行動なんだ」
……団長はベースが基本的にやっぱり失礼だよね?
朝の話しで、私はギルドに、その中でも商業ギルドに登録することになりました。
ギルドは他にも冒険者ギルドとか職人組合ギルドとかもあるそうです。冒険者ギルドも職人ギルドも私には何の技術も技量もありませんからね、今のところ関係ないです。
ペーパーナプキン、ラップ、チー鱈、クラッカーを売ってなんとか生計を立てていくつもりなので、と話したら、商業ギルド登録がいいっていうことになりました。
新参者なので、ギルド登録料と保証金がいるそうですが、暫定後見人のエルマールさんが支払うと言ってくれたので、甘える事になりました。代わりにチー鱈30本でいいそうです。ただの物々交換ですね。
エルマールさんが、有り余るお金を持ってるのは本当だそうですが、チー鱈獲得の機会があれば、すかさず狙ってくるところが……どんだけ魔力回復の研究に行き詰まっているのか。
この町は大きくないので、ギルドは全てまとまっているそうで、一番大きなカウンターが冒険者ギルドで、同じ横長カウンターの端に冒険者が採取した素材や魔獣の買取カウンターがあって、別カウンターとして設置されているお隣が商業ギルドの受付カウンターです。商業ギルドは冒険者ギルドと違って素材鑑定と価格算定仕事との兼務みたいですね。
その他のギルドカウンターは別のカウンターでまとめて受付していて、ファンタジー小説でのお約束、討伐依頼は正面入口左側壁一面のボードに貼ってあります。
受付と入口の間に申請書類や届出書なんかを記入するための台とペンが設置されてました。
もう昼過ぎだからか、人もまばらで閑散としていますね。入口右手には、食堂兼酒場もあるけど、今は休憩時間のようで、携帯食料だけが入口テーブルに置かれ、物品販売だけしてるみたい。
「こんにちは。受付お願いします」
エルマールさんが商業ギルド受付で、仕事バリバリして、書類バッサバッサさばいてる女の方に話しかけます。
「初めての登録ですか、それとも更新ですか?」
声音は落ち着いていて、しっかりした発音で聞き取りやすい。
「初めて登録します。私が推薦人で、この子が今日登録予定ですが、お願いします。」
商業ギルドの登録は冒険者ギルドと違い、誰でもという訳ではなく、ある程度の資金又は経験、例えば露店での売買経験を1年以上とか通算の売上高が決まった一定水準に届いているかなどの基準が設けられているんだって。ちなみにお店は露店、屋台、小店、中店、大店とステップアップします。
商業ギルド支部で発行された商業ギルド員登録証があれば、直接素材の仕入れ交渉ができるようになるため、交渉内容次第では卸値価格で安く購入出来るようになるかもしれません。登録制度は市場の混乱を防いだり、一般人が素材を格安で手にするためだけの目的にするような、にわか商人を減らすためなんですって、エルマールさんは博識です。
ところで受付の方は、年齢不詳な女性ですね。うん、綺麗で可愛い系ではなない。ですが説明は簡潔でわかりやすいです。
素材買取とかに美人の受付係は必要性ないですもの、当然、効率優先でいいですね!
受付はギルドの顔だし、花形席では?というのは聞きません。可愛くて、若々しい受付嬢なんて想像上の産物なんですよ。理想で仕事は回りません。
ファンタジー上の胸でか、可愛い、若くて、気さくなんて受付は、よっぽど専業化が進んでなければ、本当にファンタジーだと思う。
なんで荒くれ冒険者(まだ会ったことないけど)と対等にやり取りが出来る上に、オールラウンダーな業務を経験浅い若い女の子が出来るのか。無理だし。
あんな受付嬢は絶対に長寿のエルフか幻影魔法の遣い手のまやかしに違いない。
私の長い事務員経験からすれば、間違ってないはず。決して仕事もできる若い可愛い子への僻みじゃないからね。
前の自分の年齢層に近いようで親近感わく、受付ギルド職員さん。内心はこのちびっ子200前が登録するの?と思っていてもおくびにも出さずに薄汚れた登録票みたいなのを出して差し出してきます。
もちろんエルマールさんに。
「では、こちらの書類にご記入の上、保証金と一緒にご提出をお願いします。基本的な活動範囲は、この領土内となりますが、よろしいでしょうか?」
国外まで売買する場合、今までの実績を確認できるものの提出が必要になるんだって。
「はい、それで結構です」
「取引先が広がるにつれて、店舗拡大を要する場合、商業ギルドで審査の上、取引範囲の拡大許可、納税義務の課税率変更などがあります。
他の詳細な説明にはあちらに備え付けしております説明書とギルド規約がありますので、一読してください。用意している説明書でわからない場合には、日を改めて頂けると、音声案内又は別途料金が発生しますが通訳などを用意できますので」
「はい、ありがとうございます」
にこっとお返ししました。
「緊急時に救済処置や人道支援の一環で魔薬や食料品などを売ることは国外、領土外でも許可なくとも大丈夫ですが、後日改めて届け出ることは必要です。ただし仕事として継続する取引の場合に許可がないままでいれば、ギルド法違反となります」
「わかりました。人道支援は許可はいらないけど、仕事として利益を出していくなら許可が必要という事ですね」
笑顔は基本です。にこ。
「だいたいはその通りですね」
笑顔はスルーされましたが、口調が柔らかくなりました。私、ここで生き抜くために、売り上げ向上に努めます!頑張るぞ。
「カリンさん、決意は握った拳でよくよくわかりましたから。ここに名前書いてもらっていいですか?書けますか?」
受付のお姉さんから借りた、昔あったペン先をインク瓶に入れて使うようなのを渡されました。
ドキドキしますね?
文字は不思議能力で読めるけど、字は書けるのかな?
そっと、ペンを握って名前欄に日本語で署名したら、こっちの名前に手が動きましたよ。
すごいよ、書けましたよ名前!日本語で書いたのに。これぞ異世界不思議体験。カリンとだけ書いて、くーーーっと感動に打ち震えてました。
それにそれに、このペンというか、このインクすごいんですよ。書いたものを生活魔法の清浄魔法で書いた文だけを消せるそうです。
すごくない?
紙の再利用ですな。
書かれた等録内容の保存をどうしてるのかは知りません。エルマールさんが、前に複写魔法があるみたいなこと話してたし、なんかあるんでしょ。
生活魔法かぁ、憧れるわ。
掃除が簡単、いいわぁ。
何回も再利用してるから、この紙薄汚れてるのね。やっぱり、完璧には汚れは落ちないのかな?
「よかったですね、キレイに記入できてます。後見人に立ちますので、名前はカリン・デ・グロタンディークしておきましょうか。
…ああ、隠れ里出身の方が今後、誤魔化しがききますね。
そうですね…カリン・ダ・シャンラにしましょうか。
カリン・デ・シャンラ…、どちらかにしましょうか…」
「?で、しゃんら?」
「隠れ里出身のカリンという意味があります。両親のどちらかの出身地を普通は名乗りますが、隠れ里は少数でいて、独自の文化を持っていることが多いので、カリンさんの行動次第ではそのようにしておくことが、今後を見据えれば安全かもしれません。
ちなみに『デ』は貴族、『ダ』は平民が使うというのがここの国での習いです。
カリンさんは隠れ里出身とするなら、貴族でも平民でも調べようがないので、とりあえず貴族ってことにしましょう……ああ、物知らず…いえ失礼、少し非常識なんで平民枠にしておきます?
平民枠の方が多少、貴族とは異なる奇天烈な行動をしても、異国人だから、蛮族だからとバカにしてくるだけで、言い逃れできますし」
微笑付きで言いましたが、それって私が何かしら物知らずで、やらかすこと前提ですかね?無視しとこう。
「ええと、露天からのスタートだから、こっちに署名っと。…住所、住所欄、どこにしましょうか」
「そこは私が今住んでいるところにしておきましょうか。騎士団寮に入ってもらう予定ですが、すぐに住めるかどうか、帰ってからでないとわかりませんし。では、ここだけ私が住所書いておきますね」
サラサラと書いた字は、研究職って、ミミズはった字って言われる人が多いけど美しいものでした(多分)。
異世界能力で読みやすいと私は思うけど、現地人にとってじゃどうなのかわかんないからね。顔も美しいのに、金持ちだっていうし、これで字まで綺麗って恵まれ過ぎじゃない?
「では、ギルド証発行までにお時間いただきますので、明日昼以降に再度お越しください」
「はい、よろしくおねがいします!」
「カリンさん、私は余った薬草と、鳥の羽根で作った魔道具を買取ってもらうので、その間にギルド規則読んでおいて下さい。その後は、ディクルトたちと合流して買い物の続きにしましょう」
鳥羽根の魔道具って、あの熱湯かけそうになった時のアレ?
あんな短時間で魔道具作って小金稼ぎ出来るなんて、羨ましい…。
「はーい。あっちですね?座って読んでいるので、声掛けて下さーい」
「他の人に話しかけられても、ついて行ったらだめですよ?勝手にさっき書いた名前以外のことを話すも厳禁ですよからね?」
「私は子供ですか?!」
あ、こちらでは成人前の子供か。190だし。
「大丈夫ですか?信じてますよ?」
なんだか、本気で私が知らない人でも、お菓子くれる人にホイホイ着いていく幼児かなんかと思ってません?私の実年齢はもっと上だってこと忘れてませんか、その疑いの目が、不本意なんですけど?
「すぐそこにいるのに、大丈夫ですから!」
この後見人、心配しすぎ。見えるとこにいるんだから、大丈夫です。
ギルド規則は、細かなことが書かれてました。
前の世界ではいつも、もらった取扱説明書を読まず片付けて、とりあえず触っていじって、やりこなす実戦派な私にはキチっと箇条書きで長い文章が辛いです。ただ、ここで生き抜くためには大切なので、しっかり確認していきましょう。
そうして私なりに熱心に読み込んで、頭に書き込んでたんですね。そうこうするうちに、発見しました、異世界言語能力ありがとうございます。商業ギルド規約は全部で5ケ国語ぐらいあったけど、全部読めることが判明しました!それに流石に同じ内容5回読めば、規則内容も理解出来ました!
何で異世界語がわからないのに5ケ国語あったのかがとわかるのかって、最初のページにわかりやすく国名と注意書きがあるからですよ。
これで、翻訳と通訳の仕事は出来そうじゃない?知識ないから無理?
買取終わったエルマールさんが、私が5ケ国語ギルド規約集を読破してるあいだ、横で暇なのか報告書を隠しポケットから出してきて内職始めてます。
その隠しポケットいいですね。やっぱり、お金にあかせて買った拡張バッグですか?
突然いろんなものがいっぱい出てくるからビックリしました。