野営という名の野宿
こんばんは。
月明かりも美しい、まだ森の中なカリンです。月っぽいのが、いっぱいあるから月夜でも明るく感じます。
今は野営準備をしています。
やっぱり、私という、足遅いのが突然合流したためか、目的地の手前の町、今夜の宿泊予定地には辿りつけそうにないとのことでした。
申し訳ない。
野営地として、安全確保しやすいように魔獣避けの魔石(結界石っていうらしい)を設置した範囲内に魔馬と荷物を入れておいて、それぞれ準備しています。
私も微力ながら、お手伝いしようかと、ウロウロしてヨルンにイヤミな指導を受けてます。チー鱈あげないよ?と脅せば渋々教えてくれるので、最初から素直に教えたらいいのにと思う。これが、ツンデレ?デレ成分ないから違うか。
今日は、近くの野草らしいハーブを、小川で追い込んで取った魚と一緒に草焼き(ホイル焼きにちなんで命名)して、薬草茶でほっと一息。
昨日は、ラップで囲いを作りあげた後は疲れてパタリと倒れるように寝たので、何も頭に浮かばなかった。
今はまだ寂しいと感じないけれど、これからの事を考えたら、不安しかない。
白昼夢見ているかのように、現実味がない世界で、これからずっと過ごしていく?
考えにふければふけるほど、自分の足元の弱さを見てしまい、この世界から疎外感を感じる。そして、理不尽も。
身体を休めて、英気を養うのが今の最善と割り切ってエルマールさんの隣で寝てます。
でっかい葉っぱを下に敷いて、敷布を借りました。
ラップを謎葉っぱの間に挟んで寝ようか考えたけど、考え直してなるだけ火の近くで暖取るうちに、眠れるかと訝っていたのがおかしいくらい、疲れから即落ちしたようです。
図太くないと思ってたけど、ヨルンくんに「寝汚い、はよ起きれ」と身体をユッサユッサ揺らされるまで気づきませんでしたよ?うん、とりあえず、危機感とかの持ち合わせはないな私。
「ふぇ?お、おはよーございますぅ」
眠いし、寒い。あたりを見回せたらまだ暗いようだ。
「オハヨ。雑用兵は、早く起きるのも仕事だから起きなよね。さっさと朝の準備するよ!」
私はいつのまにか雑用兵に任命されていたらしい、昨日寝ている間に決まったのかな。雑用兵だから雑用一般する人でいいの?
「みなさんは?」
「結界石は小型魔獣には効果あるけど、大型では突破しちゃうんだよねー。ここには大型はいないとは聴いたけど、油断は騎士でも禁物だから、火の番を交代でしてるんだよ。僕たちは、起きてても、見張り役としては立たないし。出来ることを出来るだけするために、しっかり寝て朝は一番に起きて、まずは朝食準備だよ?」
「そうなんですね」
「んじゃ、早く起きて。まだ眠いなら、そこの桶に水汲んできて…ついでに顔洗ってシャッキリしてきなよ」
「はーい。ありがとうございます。すぐにお手伝いに戻ってきますね。一緒に洗ってくるものありますか?」
「んー…うん、特にないかな。洗い場の川に行く途中で、もし取る事が出来るなら、昨日教えたでしょ?薬茶とか食べられる野草を一緒に捥いできて」
「わかりました!」
イヤミな奴とか思ったけど、シッカリしてるんじゃない?見直したよ。
とにかく、朝だー、肌寒い。
キョロキョロ周囲を確認してラップをお腹に巻いて服を着直しました。
ちょっと暖かい………かも。私お出かけ着を着たきりなんだけど、相変わらず汚れてないな。不思議能力ありがとう。
「…あ、これ。昨日食べたのと同じ野草じゃないですか、早速発見!さい先いいね」
朝から気分も良好です。寝る間際のクヨクヨした物思いも朝日が少しづつ温かく照らして空気も柔らかくなってきたことで、心も浮上してくる。
ん?
あれは薬茶では?
とことこ、桶抱えながら、摘みまくる。
人があまり来ないのか、取り放題である。
昨日教えてくれた拡張バッグがあれば、もっとたくさん持ち帰られるんだけどな。
そういえば、拡張バッグ、簡易な自由人用のものなら、1万リルでギルド経由の購入が可能だそうです。
でさ、1リルっていくらよ?
質問したよ。私の無知っぷりに驚ろかれたけど。成人前の女子供ができそうな、お店の売り子さんとか食堂の給仕(お昼ご飯付き)で1日30リルだって、昨日聞いた時は円換算できなかったから、どのぐらいの値段なのか実感わかなかった。
1日だから9:00くらいから17:00ぐらいか?朝晩の賄いが付いてないから3000円ぐらい?お昼ご飯付で成人前だから主戦力外と考えたら、3000円くらいかな。
30リル3000円。1リル100円ぐらいとして、そこから換算したら…ええと、簡易拡張バッグって、んーと100万円くらい?
高いんだけど!
…やっぱり、簡易でも今は絶対買えないか。
じゃあ、昨日のエルマールさんの上級版は一体いくら?
騎士の年収相当だという高額な上級版バッグ。
なんでも、商売人や貴族が買うようなもので容量が大きいんだよね。
私一生いらないんじゃないの?昨日騎士団の寮に入れそうな事言ってくれたもんね?
騎士見習いの雑用係に高性能バッグいらないはず。
あと、こっちの時間の数え方は前と一緒でいいのかな?騎士の年収って、年間に稼いだお金って意味で合ってる?
年は日より大きな数ってことなのは、わかってる、日と月と年の概念は異世界言語補正かかって聞こえたんだから考え方は同じなんだよね?多分。
でも年齢がおかしかった。このままいったら私が80歳の老衰で死んでも、こっちは200でやっと成人なんだもん、若死決定なんですけど。それどうなの。
こちらでも、太陽が昇って日がさして、明るい間は活動して、暗くなったら家に帰り、後は寝てというような人の行動の基本は同じようですね。
ここの人たちは夜中に動く夜行性の生態ではないらしい。助かった。私には夜中に動けるような視力も能力もない。
寝てる時間も疲れが取れるほどには寝れたし、時間の経ちかたと一日の肌感覚は同じだと思うのだけど…。
うん、わからん。
無意識レベルで薬草取って戻って来てたようです。異世界カレンダーとか暦がわからない以上、年の概念なんて計りようがないし、考えても無駄無駄。上級バッグが欲しくても、年収がいくらかもわからない無銭で不安定な今の立場の把握が最優先ですね。
「ああ、ありがとう、たくさんありますね」
「おはようございますエルマールさん」
エルマールさんは濃紺の艶ある長い髪を、数珠みたいなひも状のもので緩く結んでました。きめ細かい、アラバスター並みに毛穴ない端正なお顔をこっちに向け朝から無駄な爽やかさです。朝から女子力で敗北感を味わうなんて。多少私が小綺麗にしても対抗出来る訳ない。
ううう。顔面偏差値の差が広過ぎ!
「カリン、寝れたか?腹減ったなぁ。な、朝飯にヨルン昨日の魚で量足りるか?」
食欲が行動原理に直結してる。ブレないわ、この人。
「うーん、多分大丈夫じゃないの。ディックが食欲抑えてくれるれば、ああ、無理?……そうだなぁ、パンをカサ増ししてみるよ」
「みんな起きてたのか、…おはよーさん」
団長は眠そうです。
「おはようございます!まだ少し出来るまで時間もありますので、休んでいらして下さい。用意が整い次第お呼びします」
「悪いな、じゃ、もう少し休むわ。火の番はやっぱ、年寄りには辛いな。怠いし眠い…あと頼んだなヨルン」
あくびしてボテボテ歩いていく姿は仕事疲れした前の上司と重なりました。
お疲れ様です。
「はい!」
元気な返事のヨルンくん。
ヨルンって団長好きよね?
わかりやすい。
「…あ、カリン」
カッコいいなぁ朝から団長もさ、疲れたサラリーマンだけど。
ここの人たち、みんなレベル高い。
もしかしなくても、私が下げてない?ここのキラキラ偏差値。
鏡見ないとわからないけど、自分が美少女になった感ない、この人達の扱いが普通だから?
美少女じゃないよね、多分私。
なんか雑な対応されてるし。
「はい、なんでしょう?」
「俺は、あの、なんだ、クラ、クラッカー?だったかを今日は3枚食べるつもりだから用意しといてくれ」
遠慮とか配慮とか、あんまりないね。美少女じゃないからか?
「昨日食べてから、体調本当に大丈夫なんですか?」
「眠いだけで悪くない、うむ、いつもよりずっといいな…んじゃ、頼んだ。朝食後に食べるか」
「…わかりました。用意しておきますけど、それ以上は駄目ですからね?」
普通のクラッカーのはずが不思議な効果が出て、持ってきた私もよくわからないファンタジー食品に変化を遂げてしまった持込食材。
今後どうなるか、全くわかりません。
外来種みたいなことにならないよね?
益獣が害獣に…、益食材から害食材?
私以外が触っても勝手に増殖しないならお腹でひとりでに増量したりはないはず、大丈夫だろう。
多分。
「カリーン、僕もチーズたら6本ね」
ヨルンくんは気分次第で呼び名を変化させてくるようになりました。
「私も同じで」
「じゃ、俺はくらっかー3枚だな」
「何か当然のように団長に便乗して言ってますが、何かあっても知りませんからね?魔力とかそうゆうのは、ないとこだったんで、その特殊効果についてまで責任もてませんからね」
「大丈夫だって!俺なんか今日は調子いいような気がするぜー?」
朝から無駄に声大きいよ。
気分で体調まで変えれるようなタイプだから、ただの思い込みなんじゃないのそれ。
「カリーン、あっちで火もらってきて、こっちでお水沸かしておいてね。僕あっちで魚焼いて、あとパン粥作っとくから」
「はい。他にも出来ることあるならしておきますけど」
「いえ、カリンさんは、私とお話ししましょうね。今後のこともありますし!」
にこりと微笑むエルマールさんは、朝から再度見上げて見てもやっぱり綺麗なんですが、研究魂は変わらない残念な感じ。今日も聞き取り調査に余念がない。
「カリーンはエルマールさんに付き合ってあげなよ」
ヨルンはさっさと行ってしまった。私も朝食準備班に混ざりたい。
「俺あっちで鍛錬兼ねて見回りしてくるわ。
1時間ぐらいで戻る。…腹減った…。水でも飲んで紛らわすか…」
ディクルトは厳ついけど情けない顔で歩いていった。
「では神に感謝と祈りを捧げて」
「感謝と祈りを捧げます」
みんなで朝食前のお祈り。
声を合わせた後に両手を軽く握って胸で交差し、軽く目を閉じること少し。
「では、いただこうか」
団長の言葉とともに朝食が始まりました。
朝はガツっと、昼はすくなめ、夕方早めにガツンと、夜は寝る前に寝酒と軽くつまめるもの、がスタンダードなんだって。
農民とか商売人とかはまた違うみたい。
今日も天気は快晴。
朝は寒いけど、雪とかないし、風もほとんどないから、太陽(多分)が暖かくて、穏やかで心地よい。
可愛いすすずめのような声が聞こえてきたので空を見ると体長1mぐらいで緑な派手鳥を遠目で確認したよ。聞こえる声から可愛いだろうなって期待を大きく裏切るその大きさと鮮やかさです。でかいんだよ!真緑赤ラインって、朝の澄んだ空気の空に全く馴染んでませんけど?
ディクルトがすかさず石を投げつけ、落としてました。どこの野生児やねん。
アンタ、どこでも生きていけるよ。
遠かったよねアレ。
どんな腕力だ。
そうかぁ?魔力乗せてるからな、ハッハッハって、褒められたと思ったのか、嬉しそうで何よりです。でもやっぱり声デカイ。
早速血抜きして、内臓取って処理しましょう。練習練習。
あらやだ、朝から血生臭い。
爽やかだったのに。
ところで、エルマールさん?
研究熱心は感心するけど、鳥の羽根を魔道具の素材にするなら静かにコッソリと後ろで処理しないで。鍋の熱湯を上から落としそうになったから!
振り向けば、座った羽根まみれ人がいたんだよ?血だらけだし。
鍋落としそうになったのは仕方ないですよ。
なんで側近くで突如始めるのか、危ないでしょ!研究職だからって、全部それで誤魔化そうとしてませんか?研究してるからって、危険なことしていい免罪符にはなりませんから。
「パン粥は身体が温まっていいですね」
エルマールさんに言われてまんざらでもないヨルン。
「うまいけど、すぐに腹減るんだよな、粥は。昼は何にするんだ?朝の鳥はもう使えるぞ」
ああ、石コロで落とした派手鳥のことですね。熟成とかいらないみたいで、派手鳥は意外に早く食べられるみたい。
「朝食べてる時に昼飯の心配か?食べ盛りのヨルンでもそれほど飢えてないぞ」
総団長が一番身体大きいから維持するのに食べる量も多い。でも、朝食べてすぐに昼食のことを頭に思い浮かべることは確かにない。普通はそうよね〜。
でもヨルンくんはもう成人してるから成長期は済んだんでは?えっと、もしかしてこっちは成人しててもまだ伸びるの?
「次の飯までの間に力使ったら、すぐ食べた腹の中のがなくなるんですよ、粥だし。それに今日落としたのは、結構美味いから好きなんです、団長も好きでしょ?」
「そうだなぁ、じゃあカリーン、ディックにクラッカー多目にあげたら?ディックはガタイ大きいから、枚数増やしてもいいんじゃないのー?」
え?
「女と男じゃ食べる量が全く違うし、いいかもな。どうするディクルト?自分が食べる分は本人に任せるが」
え?本人に任せて100枚食べるって言うたら用意するの?
なんですか、勝手に決まっていってませんか?所有者は私!
「じゃ、俺10枚くらいは最低食いたい。あれ食べたら調子いいような気がするんだよな」
「…だそうだ、カリン」
「なんだか勝手に決めてくれて、ちょっとどうかなとは思いますが…わかりました、用意してきます。
ただ、一度に食べるのは許しません!調子悪くなったら困るのは、結局皆さんなんですから。
朝に4枚昼4枚夕方2枚の合計10枚です。これは譲りませんから。
これなら、一度に10枚食べて具合が悪くなっても、極端な症状は出ないかもしれないでしょ?
異国の食材なんですからね、用心するのにしすぎることはないんです。
夜は寝るだけなんだから、食材で回復させるより、よく寝て休んでいただくのが一番ですよ」
異世界不思議食材ドーピングより自然回復の方がいいに決まってます。
「まー、わかった、そんでいい」
ディクルトの楽しみだなーと物語った笑顔が子供みたい。
「あ、それで、これ用意しておきましたよ。それぞれ、この紙に包んで、好きな時にお召し上がりください。ディクルトさんのは、後で追加で持っていくんで、とりあえずこれで朝は済ませてくださいね」
「ん?カリーン、これ、この紙すっごく綺麗な模様が書いてあるけど、いいの?もらっても」
「うわっ。すげーな、きれーな絵だな。カリンとこの国の絵か?」
絵?ペーパーナプキンの印刷のことですか?
「カリンさんのいた場所は、色々違ってますね、興味が尽きません」
ん?
「……、カリン…。後で話がある…」
団長が、諦めた顔でお茶を啜った。
あら?
そんなに驚くようなものですか?
お皿に敷いたペーパーナプキンも不思議仕様なので、 チー鱈とクラッカー取る時一緒に取れば何枚も出てくるの。
手づかみ、ハダカでクラッカー手渡しするより、紙に包んだ方がいいよね?ここでは手づかみで、渡すのが普通なの?こっちの布とかのが私には貴重品なんですけど。
私が持ってるもんなんて、あとはラップよ?
包んでしまったら見えなくなるから、ダメじゃない。
「ところでカリンさん、この絵はディクルトたちが持ってるものと全く同じ絵柄ですけど、複写魔法なんですか?凄い腕前です。これだけ正確にかつ透かし模様まで入れることが出来る使い手なら、王族お抱えの魔法使いになれます」
いえいえ、それ印刷なんですけど。私も印刷工場の人も魔法は使ってません。
「…そうなんですか?魔法とは縁遠い国にいましたので、そこら辺は全くわかりません。
紙はペーパーナプキンといって、安価でどこでも買えますし。
私は複写魔法なんて、技術も才能もありませんので、関係ないですね」
「これが安価?そうなんですか。この紙、絵画として売っても高値がつきそうですよ?
ヨルンの実家は領でも商売人10傑に選出される程の家なので、ヨルンから実家に引き取ってもらえればかなりの大金をいただけるそうですよ」
なんですと?
「本当ですか?生活費出ますか、本当に?
よかった、よかったー!それが本当なら、もうとにかくひもじい将来にはならない!」
バンザーイバンザーイ。
お金の目処がたったよ。飢え死にとか過労死とかの未来がなくなりそうで非常にうれしくて、感動していた私です。
「カリーン、僕の実家に連れてってもいいけど、団長から許可してもらってからねー?」
「はい!生活のために団長から許可もぎ取ってきますね。素人だから、ヨルンくん一緒についてきてもらっていい?
仲人、仲買人、マネージャー?として1割手数料支払うから、私がバカな取引した後にポイ捨てされないように手配してくれる?お願いします!」
ものすごい勢いで迫ってきた私にヨルンくんは引きつった笑いを浮かべてる。
ヨルンくんの実家だから、そこまで私を食い物にしようとはしないかもしれない。だけど商売上手な人に手のひらで転がされている未来しか私には見えない。
「わ、わかったよー?必死なことは?
とにかく、ここの常識を捨ててるカリーンの保護者を見つけてからね。アンタこのままほっといたら、何しでかすかわからないしー。このまま何にも知らないまま連れて行ったら、団長に叱られそうだし」
「実家には、いつご挨拶に伺いましょうか。
手土産いります?何にも持ってないから、ペーパーナプキン30枚ぐらいでいいかな」
「だ・か・ら、団長の許可取ってきてって言ったよね?」
聞いてんの?
ヨルンが団長の方に押し出しました。
団長はこっちゃ来いと手招きしてますよ?
「今行きまーす」
許可取るよ!!
生活かかってるもんね。
意気込みを感じさせる私の顔を見て、のっけから、団長にため息つかれたよ?
「…カリン、とにかくお前は非常に危なっかしい存在だとみんなの共通認識だ。
わかるか?その顔は、あまりわかってないのはわかっている。その色持ちで、漏れてる魔力とよくわからん魔道具だ。怪しいことこの上ない癖に、危機感ない上に懐疑心までほぼないな」
はぁ、やれやれと呆れてる?
ええ、そんなにダメ?
「どこまで治安維持が優れたとこか一度は見てみたいが、とにかく今のままでは、計算高い貴族階級取り込まれれば、二度と外に出て自由に生きるなんてできない。とりあえず、エルマールんとこで、勉強してからでなければ、一人歩き、持ってきたものを許可した者以外への配布、自分の事についての話なんかは全部禁止だ」
重々しく言われました…。
ええええええー、私の生活設計どうするの。
「でも私、こちらで働かないとご飯食べられない。ど、どうしたらいいですか?持ってる物を売りさばいてもダメ、働くにも黒髪が邪魔して制限あるし。知識もなければ、機転もない。体力ないうえに、要領もさして期待できないこの私。何も働かずに生きてゆけるんですかぁ?」
閃きました。
「……娼婦、娼婦なの?!他に売るものないから、体売るしか?!それだけは、お願いします!!
無理です!
そんなのは最後の最後に選択するでしょ?
まだ何にもしてないのに…。
根性もないし、技術もない。
話法もないし。
無理無理無理無理。売れっ子になれず、そのまま花街で萎れていくんですか?!
団長ーーーいやですーーーー!」
涙ながらにお願いしてます、必死ですよ。
「なんか俺が極悪非道な宣言したようだがな。…落ち着け…。盛り上がってきたとこすまんが、とにかく黙れ」
なんか俺がそんな雰囲気漂わせたか?どうしてか、こう勝手に妄想が突っ走ってるんだが、おかしくないか?団長に首捻られた。
「だって、だって、団長が、一人で勝手になんかするな、俺の言うこと聞いとけって」
薄っすら涙目で答えてます。
「俺はだな、ただエルマールとこで、常識学べと言ったんだ!…金ならエルマールが腐るほど持ってるから遠慮なく、たかるといい。
ちーずたら毎日ヤツに渡せば一生働かずとも暮らせるぞ」
「チー鱈には、そこまで魅力がありますか?ヨルンくんの実家でペーパーナプキン売りさばく方がまだ現実的ですよ」
「そんなことはありません!チーズ鱈もペーパーナプキンも私がいただきますよ!
カリンさんは心配しなくても、私が一生ちゃんと面倒見ますから安心なさって下さい」
イキナリ背後にエルマールさんがガシっと両肩に手を乗せ宣言しました。
「いつからいました?ビックリさせないでください!」
後ろからいきなり両肩をがっつり捕まれたらビクっとするよ。
そしたら、そのまま両肩捕まれ、さらにグルっとエルマールさんの正面にひっくり返され、両手を握られました。
「カリンさん、私が一生貴方を守りましょう。どうか、ずっと私と一緒に…」
私の前で真摯な輝く瞳を煌めかせておっしゃいます。
綺麗なお顔が今にもひっつきそうなほど近いです!
いやいやいやいや、近すぎだから!
「って、なんなんですか!求婚みたいな紛らわしい言い方しないでください!」
「私が一緒にいます。大丈夫です、私の力が及ぶ限り。頼ってください」
高らかに宣言したよ、この人!だから、常識学ぶのにチー鱈と当面の生活との物々交換だってのに紛らわしい!
「よかったねーカリーン。おめでとう」
「いいじゃねーか、エルマールはいいぞ!
上級魔法騎士の筆頭出世頭で、家も実力主義の一族だから、うるさい奴がほぼいないらしいしな」
ぱちぱち、おめでとうって、おいコラ祝福してくれてるのか?
「え、え、なん?何ですか、何なんですか。私は娼婦にならないけど、エルマールさんとこで居候するんですか?それ決定ですか?何にも私ないけど、大丈夫なんですか?!
犬猫みたいに、イキナリ捨てたりしませんか?」
「ハイ、決定です。今後ともよろしくお願いします」
「わたし、わたし、贅沢なんてしなくていいけど、ゆったりした人生送りたいんです。
知らない場所から来たんです、せめて最後は穏やかに生きていきたいです。
これ以上の波乱万丈は欲しくないです」
「…とにかく、俺はこれでもカネに困ってはない。だから、トンチンカンなカリンを裏に落とす予定はない……嵌めたあげく、どっかに売り飛ばしたり、どこかの黒髪信者のいる神殿放り込んだりする予定もない」
ハーとまた深いため息の団長は、涙目私をジーと見ながら、全くどこの犯罪者みたいな扱いなんだ俺はと呟く。
あれ、ごめんなさい?
「あとな。カリンは成人前にしか見えん。つまり、春売るとこでも、需要は見込めん。せいぜい下働きからになる。」
団長って、失礼よね?