緊急面談。年齢詐称はいいですよね?だって非常時だし。
こんばんは、こんにちは。
異世界常識知らずな、日本育ち生粋のジャパニーズピープルな40代、桂花梨です。
「…で?お前どっから来たんだよ?
そのカッコ、旅人舐めてんのか?」
…いきなりケンカ越しです。
平和主義な自分の意見を声高に主張しない日本人な私にはおっかなすぎて、ガタガタ震えるばかりです。
「ふ…ふぇ……わ、私、ふぇぇぇん」
やっと地面から、放せた手で顔を覆って大泣きです!!
緊張し過ぎてもう何が何やら。
「わ、わ、わた、わたしだって、こ、ここがどこか、な、何か何やらどうしてこんなとこに……わかんない!ココドコよ?私だって、ききたいわよ!ココどこよー?」
泣く子には敵わない。散々聞かれても、わからないとしか答えられず。
そして同じような、やりとりが続きまして、理性を放棄した私が号泣。
やれやれと呆れた様子を隠しもせず
「ディクルト、貴方取り敢えずは口開かないでもらえますか?さっきから、質問しても、泣いてばっかりで前に進みません」
「な、なんで俺が?!…別に脅してないだろ!聴きたいこと話してるだけだろうが!」
「貴方の力自慢なお友達と同列にするから、さっきから、どうにもこうにもなってないんでしょ?」
貴方失格ねと顔に書いて指で退場を指示する黒髪サラサラ魔法使い。
背高いな。金髪もデカイから首痛い。顔は泣きすぎて、もっと痛いけど。
「申し訳ないですね、アレはどうも仕事柄、荒事多いとこにいるためか言葉遣いがなってなくて。人柄は悪くないんですよ?態度も話し方も頭も悪いけど」
ニコッと話してくれるけど…これディスってるよ?笑っとけばいいの?微妙に相槌をしてみる私…。
「私の名前はエルマールといいます、辺境騎士団の正魔法騎士ですね。この外套の色を見てあまり反応がないにで本国、隣国ではないのはわかるのです。ただ、貴方が持つこのような色合いの組み合わせは珍しくて…」
「外套の色に何か意味があるんですか?それに私って、ここらへんの方たちとは違う色合いを持ってるんですか?」
「……それに、この国では当然の社会的な習いも、ご存知ないこともわかりました」
「無知で申し訳ないのですが、私も本当にホントに困っているのです。眠って起きたら、いつの間にかここにいるんです。家で寝ていて気づいたら、ここなんです。どうしたんでしょう?私に何が起こったんでしょう。魔法とかで、サクっと帰れる方法あるんでしょうか?」
「これは、こういった事は、ここの国では、よくあるんでしょうか」
焦りまくりですよ。訳がわかりません。
「あ、ごめんなさい!私の名前は桂花梨といいます!教えてください!お願いします!」
必死です。
頭も深々と下げました。
「申し訳ございません。私にも、あなたがどうゆう事でここに移動させられたかはわかりません。そうですね、少し落ち着いてから、じっくり話しましょうか?」
暖かさをまとった穏やかな口調で、私の手をとり立ち上がらせてくれました。
そのまま手を、ゆっくり甲冑男の方へ案内しようとしてます。
「喉も乾いてませんか?ヨルンがお茶の用意が出来たようなので、団長と一緒にお話を伺っても?」
「だんちょう…?」
「エトムント様のことです。エトムント様はここハーラルシュタット領の総団長でいらっしゃるので」
「そうだんちょう…。(相談長?)」
総務部長的な?
「なんか、コイツゼッテーわかってないぞ」
「お茶出しますよー。旅先なんで、そこらへんの薬草も混ぜた野趣溢れた健康茶ですがいいですかー?」
「他にあんのか?」
「水ならどうぞ。他にあるわけないでしょ?何くだらないこと言ってんですか。」
「じゃあ、いいかどうかもないだろ?!」
「温かいのが、旅先でどれだけ大事なのかであって、細かいことはどうでも良いんですよ」
「ちげーだろ!じゃ聞くなよ無駄だろ!」
「そこ、煩いですよ?静かになさい。」
抑制のきいた口調の正論で諭され、口をつぐむ二人。
いつもこんなんだろうなぁ、そうだんちょうはゆっくり甲冑の隙間からお茶飲んでる。器用だな。そうだんちょうはもちろん二人のじゃれあいに参加していない。大人なのかな?年長者の落ち着きか。
「えっと、改めてまして桂花梨といいます。昨日の夜に寝ていて起きたら、ここにいました。日本という国で働いています。独身です。長く一人で暮らしていたため、ある程度料理掃除ぐらいは出来るかもしれませんが、こちらの事情が全く…滅亡的に……ホントどうしましょう?」
俯いてキュッと手を組む。その両手が震えていたのを初めて知った。
「…そうですか、私は先程申し上げましたが、ここハーラルシュタット領の上級魔法騎士のエルマールといいます。団では副団長として今は在籍しています。団長は騎士団の総団長で上級騎士官を統括する最高責任者ですね。私は魔法騎士で三等上級魔法騎士です」
長い!
それにその自己紹介が頭に入らないです。
まほうきし…?
さんとうじょうきゅうまほう…何ですかねその職種。
「俺は同じとこの二級下級騎士な」
そうですか、わからないけど。
副団長で上級だから下級のが下っぽい。
「僕は雑用兵兼衛生兵。正騎士になったばっかり、五級下級よろしくー」
なんか別の職種出てきた。雑用兵?雑用兵って何かな!先頭に立たない後方部隊かな?
「私は、ここの団長エトムントだ…。今は、…ちょっとした任務中で、少数精鋭で動いてた所だ」
喋った!
甲冑から声出たよ。やっぱし、落ち着いてるのね。
「……で、ディクルトがさんざん聞いて、同じ返事してたのは聞いた。お嬢さんはニホンから来たらしいが、私の知る限りでそのような国はない、んむ、ないはずだな。多分な」
落ち着いた声音だけど、内容は落ち着かないものだった。日本がない?一応経済大国なんですけど。でも、甲冑と大剣持ち歩く国とか知りませんね私だって。
「ニホンではなくとも、同じ色合わせの国とか、人とかご存知ないですか?ほかの方も全くご存知ないのでしょうか」
「そうですね。………こちらの国では、そのような色持ちの方を拝見したことはないかとと。留学生として外に出た時に、同じ色を持っている人たちを見たことは、あるかも…しれません。魔法騎士総会では、確かお見かけしたかと。騎士団総会ではどうでしたか、団長?」
エルマールさんが私の髪やら瞳やらをじっくり見て言ってきますが、緊張します。
「エルと違うんで、関係ないとこまでは覚えてないな。いたかもしれんが、忘れたな。一緒に見習と騎士連れってるから、そっちなら覚えるかもな」
「確かにニホンという国名はないですね、というか、統一表記表にはそのような国名での登録はありません」
統一表記表?
国名とかを、統一した表?かなぁ。
「俗称であったり、国交自体をしない、若しくはできない程の規模の国、遠方すぎて未知の国ならば、わかりかねます」
「エルマールが知らないなら、全員知らねーよ」
「…だって、でも本当に寝てただけなんです!ほんとです。なんで、……私一人だけ、誰も知らない場所にいるのか」
認めたくはないですが、異世界確定です。
昨日から、そうだろうと思ってたけど。
でも、とにかく現状把握が一番大事です。
「色持ちって何でしょう。日本人なら、だいたい同じ黒い瞳、黒い髪、黄味がかった肌の組み合わせの色合いなんです」
「ほう、ニホン人はそんなに濃い色を持つ者が多いのか」
団長さんが聞いてきますが、ここでは違うの?そういえば、みなさん魔法使い以外は白人系で薄めな色合いですよね。
「濃い色ですか?ほぼ同じ色合いですよ、みんなが。国外だと皆さんと同じ色の髪を見かけます。でも、もっと黒い髪、目、肌の色まで濃い方達もいましたよ」
隣の大国とか入れると、私の色合いって元世界で一番多いと思う。
「…全然こっちと違うな……」
団長ため息つきましたけど、私の方がため息ですからね?
「そういえば、歳いくつなの〜?僕270だよ多分」
「?!…に、にひゃくななじゅ…?」
「やっぱりー?僕若く見えるみたいで、200超えなんてとっくに済んでるのにさ〜」
違うから。驚いてるとこ違うから!
270も200もありえない年齢だから驚いてるんです。
「キミは200超えてるようにみえないけど、僕みたいに、誤解されるの?面倒なんだよね、酒場じゃ深夜になれば帰宅しろとか言ってくるオッサンが説教してきてさ。成人だっつーの!」
「に…ひゃくで成人ですか。…他の方々は、お幾つですか?」
えっと40歳というのは、言っていいのかな?
年齢の刻みがおかしい。地球と違う。
「私は350あたりですね、ギルドの登録証で確認できますが、350の歳記念メダルを最近もらった記憶があります」
エルマールさんは25歳ぐらいの見た目年齢?
350で25歳ぐらいだったら、えっと見た目年齢15、16倍ぐらいしたらいいの?
あれ?私の200前って、じゃ14歳ぐらい?
若くないか?
いやいや、200歳(多分14歳)で成人って早くないの?
あれ?200歳なら早くないか。
「あれな!オレも300ぐらいだから、あと50だなぁ。次の記念メダルはチョーカーにするかな」
ディクルトは20歳ぐらいか。血気盛んだし、妥当かな。首に当てられた刃物は本気で怖かった。
「私は…600過ぎだな。家人が前に内輪の祝いをしてたからな」
年齢15倍説(カリン命名)からするなら、団長は40歳。
私より若いとか地味にショック。
いやいや違うから。彼600歳だから。
私40歳代。こっち換算で、超絶若いから。
地球年齢で約4歳。
それは若すぎ、戻りすぎ。
「…ということは、私は何歳ですか?ええと、何歳にすれば、違和感ないでしょうか」
「ん?カリンは自分の年齢知らないの〜?見た限りでは、裕福な家の子供みたいに見えるけど、覚えてないの〜?」
「いえ、覚えてます。でも、前のいた国では私は40歳でした。社会人として働いてましたし、お酒も飲んで大丈夫でした。結婚するにも保護者の許可はいりませんでした。
…こちらでは200歳が成人なんですね」
薬草入りお茶は、地味に苦い紅茶っぽいものでした。緑がかった茶色です。
あんまり、美味しそうではないです。
それでも暖かいお茶は乾いた喉に優しく滑っていきます。
「40!ないわ!」
ディクルトさんは、ノリがいい。
間髪入れずに突っ込んできます。
「40だと、まだ赤子…幼児ぐらいか…?まだ言葉もたどたどしく、小さいな。俺の腰に届くかどうかか?」
団長は190センチほどに見えるので、こっちの40歳は5歳児相当なのか?
15倍説どうなった?ちょっと合わない。
身体がみんな大きいから、発育いいだけなのかな。わからない。
「見た目で判断すると、カリンは働いていたということと、結婚可能ということなら200は超えてますが、せいぜいヨルンの見た目年齢くらいだな」
何の情報もなければ、成人前の子供だなって、それ私の体型見て言いませんでした?
団長、ちょい見る目なくない?
そこでウンウン頭を縦に振った残りも、どうなの?
胸とか腰だけが、判断基準じゃないでしょうが!
それに、それに……なんですと?!
この軽いにいちゃんと同じだと?!
見た目判断基準なら成人前の子供だとー?
どんだけ若返り。
だけどね、正直にみんなに若返ったと言ったとこで、何も立場は好転しないよね。
そういうことなら、たとえ、年齢詐欺でも、こっちで生活維持するのに今は本当に赤子同然。こちらの知識は現地の子供よりもない。
この見た目のうちに、成人前の子供の振りをするのは騙したうちに入らないんじゃない?。
若いっていうだけで許される失敗もあるし、再就職も若い方が有利よね。
さっき小川で自分の姿を眺めてみたけど、鏡みたいにはっきりと見えないので、正直よく分からなかった。
私が自分の状態がわからない以上、この人達の言葉を信じて、過ごそうか。
郷に入っては郷に従え。
こちらでの年齢詐欺も問題ないですよね、きっと。
「今は詳細に聞き取る時間もない。…この色持ちで婚姻可能な年回りだと連れ帰るにしても…面倒……ウム、問題か。いや差し障りはあるはずだな」
え?
ちょっと、私の黒髪とかは問題なの?
面倒とか差し障りとか言ったよ!
「仰る通りですね。私の見解としては190辺りでどうかと。成人前の方が何かと都合が良いと考えます。
親との旅路で襲われ、一人逃げてはぐれたということで。後で肉付けしましょう。
この珍妙、いや、この異国風の装いも強襲のため自分の国から着てきたものだけしかなかったと、誤魔化して言えますし」
190か。
サラっとエルマールさんが言う。
190歳って、さっき言ってた夜出歩いたら200前だから叱られるとかでしょ?
年齢詐称して未成年でいるのはいいけど、それだと保護者いるんじゃないの?
40歳半ばの中年女がどこまで歳を遡るのか。
流石に元の年齢の三分の一まで年齢詐称するつもりはなかったです。
とりあえず、仕事してもいい年齢なら未成年でもいいけど。
え?働いていいよね?