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第9話 万能通貨(4)







 

 怖い……だけど、こんな時こそ冷静にならないと駄目だ。

 オークを前に動揺したけど、よく考えたら俺は一度オークから逃げれている。

 前回同様遮蔽物に隠れるように進めば……


「やる気出してるとこ悪いけど……!」


 逃げるが勝ちだ!

 前回の経験を活かすなら、気を付けないといけないのは、棍棒を投げてくる遠距離攻撃だ。

 暗くて判断できないけどこの山で棍棒を投げてきたオークと同じ個体ならその攻撃をしてくる可能性は十分にある。

 あの攻撃は避けにくい。

 前回避けれたのは、偶然もあったと思う。

 けど……油断は禁物だけど、今の俺には身体能力強化がある。

 俺は体の小ささを生かして、障害物を小回りして、縫うように駆け抜ける。


「GUOOOOOOOOOッ!!」 


 オークが地を震わせるのではないかと思えるほどの大声で咆えた。

 そいつは棍棒を大きく振りかぶると、こちらに――――え!?


「っうおおおおっ!!?」


 いきなり武器ぶん投げてきやがった!

 その行動は意外だった。

 確かに棍棒をぶつけるなら距離が近いほうが確実だ。

 けど、一回限りの攻撃を開幕直後から仕掛けてくるのはどうなのかね。

 何か考えがあるのか、それとも何も考えてないのか。


「っっとぉう!?」


 空を切り飛来してくる棍棒は俺の腕を掠めた。

 危なかったけど、間一髪避けれた。

 油断はできないけど、これで不安要素は消えたことになる。

 オークは悔しそうにこちらを睨んでいる。

 もう何もできないはずだ。


「……?」

 

 出来ない、よな?

 辺りは既に暗く、オークの行動までは見て取ることができなかった。

 けどオークは何かをしている。

 なんだ? 何してる?

 

 オークのシルエットのようなものだけがかろうじて見えている。

 そのシルエットが……振りかぶった?

 え、なんで? もう何も持ってないだろ?

 けど、悪い予感がする。

 俺の脳裏には悪いイメージが浮かんだ。

 そして、その悪いイメージは無情にも的中してしまう。



 ズドンッ!!



「――――っ゛!?」


 肩に衝撃が走った。

 それと同時に耐えがたい激痛が走る。

 これは……

 

「石つぶて……」


 ……肩が外れたかもしれない。

 地面に落ちたいくつかの石に視線を向ける。 

 これが当たったのか……

 棍棒と違って小さいから速いし、避けにくい。

 当たったのは拳よりも小さい石だよな? 威力が高すぎないか?


「スキル持ち……?」


 そういえば聞いたことがある。

 魔物は稀にスキルを持った奴がいるって。

 こいつが『投擲』スキルを持ってるなら、投げに拘る理由もわかる。


 そんなことを考えていると

 オークが再び吠え、シルエットが振りかぶった。


「くっそっ!!」


 木の後ろに滑り込むように隠れた。


 ズドドドドっ!!


 木が揺れてる……

 こんなの足に当たったらもう逃げられない。

 全回復は100Gだ。

 所持金が足りない今怪我したら完全に終わりだ……

 けど、だからと言って逃げられない。

 背中を見せたら、やられる。


「10G! 買えるもの!」




 石『10G』


 雑草『10G』


 木片『10G』


 ――――――


 ――――――


 ―――………




 適当すぎた!


 数は多いけど役に立ちそうなものがまったくない。


「けど、10Gで買えるのなんてこのくらいしか……」


 えーと、なんだ? なにがある?

 10Gで買えて、この状況で役に立つもの?

 スキルは無理だ。

 だけど石や雑草で逃げられるわけがない。


「魔物から逃げるのに役立つもの! 値段は10G以内!」


 最初からこうやって聞けばよかった。




 透明化5秒『10G』


 威圧1秒『10G』


 移動速度上昇5秒『10G』


 隠密5秒『10G』


 ―――――――


 ―――――――


 ―――――――


 ―――…………



「ロクなのがねえ!?」


 スキルに期待しすぎた。

 確かに役に立つことは立つ、けど。

 効果時間が短すぎる。

 透明化5秒はどうだ? いや、適当にでも投げられて当たったら終わりだ。

 威圧はほとんど一瞬だろう。


 相手の動きを止めれて、尚且つ姿を隠せるもの……


「なんだよそれ、なにがある!? 相手の動きを止めれて姿も隠せる10G以内の――――」




 ばきっ


 


「あ――――」


 木がついに限界を迎える。

 バキバキと音を立てて、倒された。

 暗闇の中、極限状態に研ぎ澄まされた感覚がオークの姿を認識する。


 時間……かけすぎた……


 まずい、もう購入するものを調べる時間がない。 

 遮蔽物がなくなり目前まで死が迫る。

 オークが石を手に持ち振りかぶる。

 やけにスローに見えるその光景を最後に――――俺は目を瞑った。





「明かりッッ!!!!」





 値段を確認している時間はない。

 出来るだけ強い光をイメージして、即座に購入を念じる。

 

「い、いけた……!? いけたかッ!?」


 恐る恐る目を開く。

 オークは目を抑えているように見えた。

 膝をついて動きを止めている。

 

「よっしゃああああーーーーーーーーっ!!」


 俺は後ろを振り返ることなく全速力で駆けた。

 もう透明化はない。

 物音も足音も気にせず、とにかく森の中を一直線に進んだ。













「ハァ、ハァ、ハァ」


 自分の家を前に、ようやく安堵する。

 呼吸を整えてバクバクと激しい音を鳴らす心臓を落ち着かせる。

 フラフラになりながらもなんとか家に入り、扉を閉めた。


 緊張の糸が切れるとその場に倒れ込んだ。


「う―――――お゛ぇええっ!!」

 

 胃の中身をぶちまける。

 たぶん色々と抑え込んでたんだと思う。

 怖いって感覚も途中から麻痺してた気がする。

 死にかけて、魔物と戦って、殺したり殺されかけたり……


「よく生きてたよな、ほんと……」


 色々あった。

 あんなとこもう行きたくない。

 それよりこのスキルは一体。

 借金はどうしよう。

 結局財宝はどうするのか。

 ほんとに考えることだらけだ。

 

 けど


 とりあえず今はあれだ。


「疲れた…………」


 俺の意識はそのまま暗闇の中に沈んでいった。








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