第7話 万能通貨(2)
「スキルを、買えるスキル……」
こんなの反則なんてレベルじゃない。
世界の理に反するような力だ。
「―――っ」
思わず体が震えてしまう。
それは不相応な力を手に入れてしまったことへの恐怖か、それとも――――
「…………」
落ち着こう。
今の状態ではとても冷静になれなかった。
もう少し確かめてみよう。
もっと具体的な何か……
欲しいもの……今必要なもの……
そうだな……地図とかがあればいいんだけど……
「現在地の地図」
地図さえあれば帰ることもできるかもしれない。
財宝のことは気になるけど、今はこっちが優先だ。
何より先ほど死にかけたばかり、さっきみたいなオーククラスの魔物が生息する山の中で一晩過ごすのは危険すぎる。
まだまだ分からないことだらけだったけど、それは家で考えればいいだろう。
ゴド山の地図『500G』
500G……今の俺にとっては大金だ。
やや考えた後、俺は別の方法を思いつく。
「現在地から家に帰るのに有用なスキル」
そして出てきたのは。
地図(1)『1000G』
500Gの地図と1000Gのスキル……
「こっちのほうがいいかな……?」
このスキルは確か、使用者を中心とした地図が表示されるはず。
普通の地図だとこの辺りしか分からず、現在地も分からない。
今後のことを考えても、スキルを選んだほうが有用に思えた。
値段の違いも確認でき、納得もいったため、迷うことなくそれを購入する。
―――――スキル『地図』を取得しました。
「覚えたのか……?」
声は聞こえたけど……なんだかあっさりしすぎている。
ともかく確認してみよう。
俺は鑑定スキルを使用した。
―――――
ベルハルト
スキル 万能通貨、剣術(1)、鑑定(1)、地図(1)
―――――
「ほんとに買えてる……」
あまりに簡単に購入できたことに、俺は驚いた。
だけど実際に購入したことで検証はできたことになる。
ありえないことではあるけど――――
これでスキルの購入も確かに可能だ。
俺は深く深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
スキルとその前に回復もしてるから、合計1100G使ったことになる。
残りは、1300G。
あとは、もしも魔物に遭遇した時のために……
「魔物から逃げるときに有利になるスキル」
逃亡(1)『1000G』
体術(1)『1000G』
身体能力強化(1)『1000G』
隠密(1)『1000G』
危機感知(1)『5000G』
―――――――
―――――――
―――――――
――――………
「結構あるな……この中から1個……いや、待てよ?」
別にスキルである必要はないかもしれない。
いざとなれば回復だってできることだし……
「一定時間見えなくなる、とか?」
こんなのもあるのか半信半疑で尋ねてみる。
透明化30分『100G』
「あった……」
本当になんでも買えるんだな。
改めて万能通貨というスキルの有能さに驚きながらもそれを購入する。
「透明化30分×3で90分か……急ぐか、『地図』」
これで手元のお金は半分以上使ってしまったことになるけど、死にかけた身としては四の五言ってられない。
ここで飢え死にあるいは魔物に殺されてしまったらそのお金には何の意味もない。
スキルを使用すると目の前に地図が表示された。
これは頭の中ではなく、視界的に目の前に表れるらしい。
「えーと、ここが現在地、かな? 方角的には……」
しばらくスキルの地図とにらみ合う。
それから俺は5分ほどで大まかな全体像を把握する。
地図の範囲は……半径1キロってところだろうか?
意外と狭いけどスキルレベル1ならこんなものだろう。
家への方向は……多分こっちだ。
不安はあるけど、進まなければ何も始まらない。
「よし、いくか」
立ち上がって手足の動作を確認する。
痛みもなく感覚も今まで通りに思えた。
そして俺は少し早足に歩き出した。
走ればまた怪我をするかもしれないし、物音を立てるのも危険だ。
透明化しててもそれで見つかっては元も子もないので慎重に移動する。
霧が立ち込め、視界の悪い森の中を進んでいく。
通れない場所を避けて、一直線とはいかないまでも順調に進んでいく。
だけどやっぱりそうすんなりはいかないようだ。
移動を開始してから30分ほどだろうか。
魔物と遭遇した。
透明化にはまだ半信半疑なこともあり咄嗟に物陰に身を隠す。
「ゴブリン……しかもあれ……亜種か?」
そのゴブリンの体色は青かった。
薄暗くなってきて見えにくいけど……
色違いは通常個体よりも強い場合が多く亜種と呼ばれる。
普通のゴブリンなら透明になってる分こっちが勝つだろう。
だけど相手は亜種……たぶん普通に戦えば勝ち目がない。
鉄の剣を鞘から抜いて相手の様子を伺う。
「気付いてない……」
倒せるかもと考えた俺は、『万能通貨』のスキルを使用する。
スキルの声が頭に響いたけど、ゴブリンには聞こえていないみたいだ。
俺は静かに頭を回転させる。
見えないのは大きなアドバンテージだけど、相手は亜種だ。
念のためもう一つ何かほしい。
(どうするか……)
俺はゆっくりとスキルの一覧を開いた。