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第51話 パーティ(4)






 またやらかしてしまった気がする。

 冷静になると気まずかった。

 街を行き交う人たちの間を歩きながらクレアを横目に見る。


「あー……クレア?」


「ん? なに?」


 と、あっけらかんとした顔のクレア。

 あれ、意外と気にしてない?

 それなら無理に蒸し返すことでもないのだろうか?

 いや、駄目だ駄目だ。

 それこそ駄目だろ。

 せめて一言言わないと……俺はクレアの方を向いた。


「さっきの」


「失礼、少し宜しいでしょうか?」


 む、遮られた。

 見ると初老の執事服を着た男性が話しかけてきていた。

 皆に合わせて立ち止まる。

 仕方ない、謝るのは後だ……と、そう思っていると……

 どこかで……見たことある? ようなないような?


「私セルバスと申します。失礼ながらそちらの従魔……シルバーウルフとホワイトリーバーではないでしょうか?」


 クレアと顔を見合わせる。

 なぜここで種族名を聞かれたのだろうか?

 というかなんでこの人は従魔だと……いや、街中に魔物がいて言うことを聞いてたら普通はそう思うか。

 なんにせよここはクレアに任せることにした。


「そうね、確かにこの子たちの種族はそれで合ってるわ」


 すると執事服の男は目尻を下げながら深く頷いた。


「それはよかった。絶滅が危ぶまれているシルバーウルフとホワイトリーバー、この目で見たのは初めてですがとても美しい毛並みですね」


「ありがとう。毎日ブラッシングしてるからね」


 クレアは自慢気にそう言った。

 胸を張って自慢の友達なのだと……だけど、俺は相手の言葉に何か嫌な予感を感じていた。

 

「私の主であるレイオス様はその2匹を大層気に入られたご様子でして……もし宜しければ譲って頂けないでしょうか?」


 レイオス……?

 どこかで聞いたことあるな……どこだったか……って、思い出した!

 ギムルで殴ってきた貴族!

 同じ名前でもない限りあいつだろう。

 よく見ればこの執事もあの時の男だった。


「勿論お礼はさせて頂きます。どうでしょうか?」


 相変わらず好き勝手やってるな。

 クレアを見ると眉根を寄せていた。

 すると彼女は毅然とした態度で言い放つ。


「この子たちは私の家族よ、お断りするわ」


 その言葉にセルバスは驚いたように目を見開いた。

 何を言われたのか理解できてないみたいな。

 クレアが「行きましょう」と、背を向けると慌てた様に言ってくる。


「お、お待ちください!」


 クレアが不機嫌そうに振り返るとセルバスは少しだけ安堵した笑みを浮かべた。


「申し訳ありません、少し言葉が足りなかったようですね。レイオス・ギル・リリオン様は領主様の御子息です」


「それが?」


「金貨30枚でどうでしょう? 頷いて頂けるなら今この場でお支払いを……」


 クレアが金貨の入っているであろう袋を見せてきた男の言葉を遮る。

 先ほどよりもはっきりとセルバスに言った。


「聞こえなかったみたいだからもう一度言うわね」


 強く苛立ちを見せるクレア。

 怒りの感情と共に―――


「お断りするわ」  


「な―――ッ!?」


 再び背を向けるクレア。

 そのまま俺たちに「行きましょう、皆」と声をかける。

 不機嫌そうな態度を隠しきれていなかった。


「ま、待て! 貴族だぞ!? お前のような小娘の」


 俺はクレアに追い縋ってきたセルバスの腕を掴んだ。

 

「な、なんだ貴様は!」


「こっちの台詞ですね。断ってるんだからもうこの話は終わりでしょう?」


 セルバスは必死に俺の腕を振り払おうとしている。

 けど、いくらもがいても抜け出せない。

 しばらくすると諦めたようでこちらに矛先を向けてきた。


「ふざけるな! 貴族に逆らえばお前のようなガキの首なんて簡単に」


 俺は周囲に視線を向けた。

 セルバスは分かりやすいその動きに気付いて周りを見た。

 そこでようやく気付いたようだ。

 いくら貴族に仕える者でも……いや、貴族に仕える者の発言だからこそ問題があるということに。

 街を行き交うラムールの人間たちが何事かとこちらを見ている。

 状況を理解している何人かがセルバスを非難するように顔をしかめていた。


「……ッ」


 再び腕が振り払われる。

 今度はこちらから力を抜く。

 少し距離を取るとセルバスは言ってくる。


「覚えていろ小僧! 特にそこの小娘! 後悔することになるぞ!」


 そんな捨て台詞と共に去っていった。

 クレアがため息を一つ。 


「助かったわベル、ありがとね」


「いいよ、パーティ仲間なんだから当然だろ?」


 「む……」と、クレアが照れたように顔を赤くする。

 

「そ、そうね……そっか、仲間だもんね」


 うんうん……と、頷く。

 そんなクレアを見ながら先ほどのセルバスの発言を思い出す。

 確かに向こうの頼み方が良くなかったとはいえ貴族だというのは間違いない。

 断る以外の選択肢がなかったとはいえ、こちらはそれをその場で断ったのだ。

 貴族の面子とやらもあるだろうしこのまま終わるとは思えなかった。

 またシャルとルーシー目的で接触してくるかもしれない。


「クレア、しばらくは気を付けた方がいいかもしれない」


「ん? なんで?」


 クレアからは能天気な言葉が返ってきた。

 んー……と少し悩んでミアを見る。


「ミア、俺たちの借りてる宿って従魔用のスペースあったっけ?」


 あった気はするけど一応確認。


「はい、確かありましたよ」


 確認を取ると俺はクレアに提案する。


「しばらく俺たちの泊まってる宿にこないか?」


「えっ、ど、どうして?」


 何かあれば近い方が対処しやすい。

 杞憂だとは思うが念のためだ。


「無理にとは言わないけど、そっちのほうが仲間っぽくないか? 待ち合わせとかも便利だし」


「……そ、そうね、確かにその通りだと思うわ」


 と、満更でもなさそうなクレア。

 ミアの方にも確認の意味を込めて視線を送った。


「……ご主人様は年上好きだった……? そ、それなら……いや、私も一応年上……ですし……で、でも以前は妹だと……ど、どうすれば……」


 なんかぶつぶつ言ってて怖かった。

 





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