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第49話 パーティ(2)







 ラムールを出て街道を歩く。

 森へと向かう途中でクレアが悪戯っぽく言ってくる。


「別にミアだけでも良かったのよ?」


 それだとクレアの不戦勝になってしまう。

 俺は反論した。


「俺がミアをどう扱ってるか見たいんじゃなかったのか?」


「ああ、それはもういいわ」


「……? いいとは?」


 するとクレアは小さく笑って謝ってきた。


「さっきの見たらもうあんな風には思えないわよ。仲良いのね」


 クレアがうりうりと肘で突いてくる。

 あれ? でもそれならパーティを組む意味とは?

 そんな疑問を感じながらも照れ臭さに頬を掻き誤魔化すようにミアを見る。

 やたらと離れていた。


「ミア? なんでそんな遠くに?」


「いえ……私としてもそちらに行きたいのは山々なのですが……」


 ミアは恐る恐ると言った様子で近付いてきた。

 するとそれに目ざとく反応したシャルとルーシーが唸り声を上げた。

 それを見たクレアはなんて言っていいのか分からないみたいだった。

 俺も分からない。

 ミアが不憫すぎる。

 シャルとルーシーは俺とクレアをミアから守るように立ちはだかっていた。


「……さすがに、ミアが……」


「そ、そうね……私もなんとかしたいんだけど……」


「なんとかしてやれよ。クレアの従魔なんだし」


「うーん、確かにこれじゃあパーティとして支障が出るわね」


「もういっそ俺の不戦勝でいいんじゃないか?」


「なんでよ!」


 クレアと軽口を叩きあっていると後ろから強い視線を感じた。

 半泣きのミアだった。

 どうしたもんかなと頭を悩ませていると目的地が見えてくる。

 

「ハウリングベアってどんな魔物なんだ?」


「んー、ほとんど見た目は子熊ね。だけど声帯が発達してるからもたもたしてると遠吠えで仲間を呼ばれるわ」


 なるほど、ハウリングはそういうことか。


「依頼内容は?」


「10匹討伐だから先に5匹倒したら討伐証明部位を持ってここに集合でどうかしら? もし倒せなくても2時間後には必ず戻ること」


「了解」


 と、クレアが何かを渡してきた。

 なんだこれ? 鈴?


「ピンチになったらそれを鳴らしなさい! シャルとルーシーにだけ聞こえる音を出す魔道具よ。この辺りは魔物が多くて危険だから気を付けてね?」


「……危険なことさせてる自覚はあったのか」


 てっきり何も考えてないと思ってた。

 だけど気遣いはありがたい。

 俺は鈴を受け取りお礼を言った。


「シャル、お願い」


 クレアがそう言うとシャルがこちらへと寄ってきた。


「ん?」


 よく分からなかったのでクレアを見る。

 するとクレアはやれやれと呆れた顔をしていた。


「さすがにベルが不利すぎるでしょ? シャルは結構強いからこの辺りの魔物は相手にならないわよ」


「……もしかしてさっきの俺が一人ってのは冗談だったのか?」


 クレアは頷いた。


「でもベルは何も言わなかった。ってことは一人でも問題ないくらい強いか何か手を考えてるんでしょ?」 


 お、意外と鋭い。

 いくら俺の不注意だったとしても、クレアの一見した性格的にそこまで深く考えないと思ってた。

 

「でもそれならシャルがそっちでミアがこっちでもいいんじゃないか? このメンバーの入れ替えって意味あるのか?」


「それだとパーティの意味がないでしょ? はぐれる場合も考えてどんなメンバーでも戦えるように慣れておかないとね」


 そういうものか……いや、そうだな。

 でもクレアとそこまで長くパーティを組むつもりはないんだけど……

 期限を決めてなかったし、これが終わったら話してみようかな。


「気を付けてね」


 そうしてクレアたちと別行動を取ることに。

 クレアはルーシーとそれに警戒されて距離を取っているミアと一緒に森の奥へと向かって行った。

 ミアの背中が無駄に哀愁があった。

 今夜はミアの好きなものを食べさせてあげよう。

 贅沢は出来ないけどちょっとくらいなら……


「おっと、俺もそろそろやらないとな」


 勝負は勝つから面白い。

 やるからには勝ちたい。

 俺は周囲に人の気配がないことを確認。 

 シャルは……まあさすがに従魔にくらいは見られてもいいだろう。

 そのままスキルを使用した。


「『探知』」















 森の中を歩くクレアとルーシー。

 と、その後方4、5mほどを離れて歩くミア。

 風の騒めきに木々が擦れる。

 今のところそれ以外の音は聞こえない。

 何かあれば従魔たちが何かしらの反応を見せているだろう。

 だから今のところ魔物の問題はなかった……それ以外の問題はあるようだが。


「クレアさん……私実は臭いんでしょうか?」


 ミアの卑屈発言にクレアの頬が引き攣る。


「だ、大丈夫よミア、その内仲良くなれるわよ。臭くもないし……」


 クレアとミアとルーシーのパーティは森の奥の方へと進んで行っていた。

 クレアはラムールで過ごして1年以上経つ。

 自信がありすぎるというほどでもないが、少なくともミアやベルたちよりは長い。

 そんな有利な条件で負けるわけにもいかない。

 と、思っていたのだがさすがにこれほどのハンデはやりすぎたかしら? と、今更ながら少し気にするクレアだった。

 ベルとミアはおそらくミアの方が強いとクレアは考えていた。 

 その上地形に詳しい自分たち。

 人数的にも戦力的にもこっちが有利だ。

 クレア側が勝った時の言うことを聞いてもらうという約束は軽めにしておこうと密かに決めるクレアだった。

 それでもなかったことにしないあたり、クレアを知る者がその場にいれば彼女らしいと言いそうな状況であった。

 なぜかクレアはベルには負けたくないと対抗意識が沸いてしまうのだ。 

 そのことを不思議に思いながらもミアに話しかける。


「ミアはベルのことが大好きなのね」


「……は、はい」


 恥ずかしそうに顔を俯かせる。

 しかし、確かな肯定。

 クレアはもう彼らの仲を否定する気にはなれなかった。

 

「ミアは何で冒険者に?」

 

 するとミアは答えた。


「少しでも御恩をお返ししたいんです」


「ふ~ん?」


 何があったのか、とは聞かない。

 そうして話題はクレアが冒険者をしている理由へと移る。

 ミアほどではないがクレアも若い。

 そんな彼女がなぜ危険な冒険者を? という疑問があった。


「そうね、憧れてる冒険者がいるのよ」


「どんな方たちなんですか?」


 クレアは「んー」と、記憶を辿るように頭を捻った。

 思い出す。

 いつか助けてくれたあの二人のことを。


「正直顔は覚えてない。だけどすごく優しかったのを覚えてるわ……シャルとルーシーって犬と狼じゃない? なんで種族が違うのにって思うでしょ? 実はシャルとルーシーはうちの両親が拾ってきた捨て子でね」


 そうしてクレアは優しく笑った。

 宝物を自慢する子供のように。


「この子とシャルは弟みたいなもので友達みたいなものだった。私たちにとって生まれた時からお互いが傍にいたから。

 だからなのかな……一緒に遊んでると楽しくてつい周りが見えなくなっちゃうことがあってね?

 気付けば魔物に囲まれてたの……まあ、そんな危ないところを出歩いてた私が悪いんだけどね」


 でも―――と、クレアは続ける。


「そんなとき助けてくれたのがあの二人だった。もう名前も思い出せないけど……それでもあの二人が私にはとても眩しく思えた。

 シャルとルーシーも助けてくれた上に怪我まで治してくれたその二人に良く懐いてね……」


 憧れなのよ……と、クレアは言った。


「そうですか……それは、頑張らないといけませんね」


「そうね、いつかあの二人みたいな冒険者になって私も誰かを助けたい! だからこの街に来たのよ!」


 クレアは決意するように拳を掲げた。

 あの二人みたいな冒険者になりたいと。

 あの人たちみたいな優しい人でありたいと。

 夢を追うその姿がミアにはとても眩しく思えた。

 そんなミアの視線に気付いてクレアが「あはは」と、照れ臭そうに笑った。


「さあ! 行くわよ!」


 そう言って足を速めた。

 だけど、そういえば―――と。

 もう顔も名前おぼろげにしか思い出せないけど……あの二人とベルは似ていた気がする。

 

「まさかね……」


「?」


 クレアは「なんでもないわ」と、そう言ってその考えを振り払った。

 それはさすがに偶然が過ぎる。

 でも、もしそうだったら楽しそうだな……と、そう思った。

 その憧れに近付くためにクレアは、踏み出した。

 その赤い瞳には目標を見据えた確かな決意が宿っていた。


「……でもベルは大丈夫かしら? 万が一がないようにシャルについていってもらったけど……さすがにミアをこっちにしたのは偏らせすぎたかしら……」


 クレアはミアのほうがベルよりも強いと思っている。

 だから知らない。

 戦力の方よりで言うならベルの方に偏らせすぎてしまったことを。

 クレアは自分が負けるなんて微塵も思っていなかった。

 

 だからクレアは知らない。

 討伐証明部位を集め終わったベルが既に待ち合わせ場所でクレア達を待っていることを―――





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