第48話 パーティ(1)
「えーと、こっちの狼がシャルで犬の方がルーシーだったか?」
クレアが頷く。
俺は顔を舐められながら二匹の頭を撫でていた。
ふさふさしたその毛並みはミアに勝るとも劣らない。
「んー……? でもおかしいわね……その子たちが初対面の人にそこまで懐くなんて」
不思議そうに首を傾げるクレア。
ミアも二匹に興味があるのかとてとてと寄ってくる。
「可愛いですね、ごしゅ」
がぶりっ
「にゃあああっ!?」
シャルの方がミアの手に噛みついた。
ルーシーの方もぐるるる、と威嚇をしている。
「ミア……? だ、大丈夫か?」
ミアは噛まれた手を抑えながら痛みに悶える。
歯形ついてる……痛そうだ。
「これが普通の……とまでは言わないけど近い反応なのよね……なんでベルは平気なのかしら?」
俺が懐かれる理由は分からないけど、ミアに関してはもしかして猫だから相性が悪いとか?
なんにせよミアが可哀想なので二匹に言い聞かせる。
「この子は俺の大事な仲間なんだ。仲良くしてやってくれ」
そして、また舐められる。
なんだこの懐きようは……
俺何かしたっけ?
「ははっ、くすぐったいって」
俺もクレアの従魔たちが顔を擦りつけてくるのに合わせて毛並みを堪能する。
ここまで懐かれるってのも悪い気はしない。
「ミア、ごめんなさい。この子たちも悪い子じゃ」
クレアが言葉を止めた。
なんだろうかとそちらを見るとミアが目を見開いたままこちらを凝視していた。
びっくりした。
瞳孔開いてない……?
「私の……私のご主人様なのに……」
………もしかして、嫉妬してる?
いや、さすがに犬と狼には……しそうな気がする。
ミアならする気がしてきた。
「ミアも撫でてやろうか?」
冗談交じりに笑いかける。
パーッと顔を明るくして、ミアが近付いてきた。
「ぐるるるる」
シャルとルーシーはそんなミアを威嚇する。
クレアが何とか宥めるけど二匹はずっと警戒していた。
さすがにここまで拒絶されるとミアが可哀想だな。
「ミア、あんまり気にするなよ」
「……じ、じゃあっ、あとで私も同じことしてもいいですか!?」
半泣きになったミアが言ってくる。
こんなときでもミアは自分の欲望に素直だった。
一瞬いいよ、と安請け合いしそうになったけど……無理じゃない?
俺が同じことをするなら撫でるだけで済むだろう。
だけどミアが同じことをするということは、つまりミアが舐めたり顔を擦りつけたり……
「ごめん、それは無理だ」
さすがに理性が持たない。
がーん! と、ショックを受けるミア。
そうしてる間にもシャルとルーシーが俺に匂いを擦りつけてくる。
「んー……謎ね」
「ご主人様が……私のご主人様が汚されてしまいました……」
クレアの方には同意。
だけどミアの方には色々言いたい。
別に俺は汚れてないぞ。
「あ、ねえねえ!」
するとクレアが良いことを思いついたと提案してくる。
「勝負しない?」
「っていうと?」
「さっきEランクのハウリングベアの討伐クエストを受けてきたのよ。どっちが先に見つけて討伐できるか勝負しない? あ、勿論公平なものにするわよ?」
「パーティってクエスト受注後に組んでも全員に報酬出るのか?」
報酬はちゃんと支払われるのか、という意味での質問。
クレアは大丈夫だと自信満々に答えた。
「報酬に関しては両者の合意があるなら問題なしよ。ソロの場合だった報酬を分けるから取り分は減るしランクは受けた方のだけしか上がらないけどね」
「ああ、報酬が貰えるなら俺としては問題ないぞ」
「決まりね! 勝った方は負けた方に何でも一つ言うことを聞かせられるってことでどう?」
「無理のない範囲でならいいけど」
ランクは今のところ順調だしな。
そりゃ早い方がいいけど急ぎってわけでもない。
報酬も全額は無理でもそれなりに貰えるなら俺に異論はない。
「俺たちとクレアたちで勝負するのか?」
「そうね、ベルと私たちで勝負するわ」
ん? と首を捻る。
その言い方に違和感を感じたからだ。
咄嗟に聞き返す。
「俺『たち』とクレア『たち』だよな?」
「? ベルと私『たち』よ? 何言ってるの?」
「………ミアは?」
「こっちのチームだけど? パーティなんだから当然でしょ?」
クレアは何でもないことのように言ってくる。
つまりこっち側は俺一人。
そして、向こう側はクレア、シャル、ルーシー、ミア、ということだろう。
「そうね、その通りよ」
「……公平とは一体」
俺の呟きを無視してクレアは「さあ、行くわよ!」と、快活に笑い先頭を歩き出した。
どうやら意見は曲げないタイプらしい。
ミアのほうからも何か言ってくれないだろうか。
「っ……ご主人様が……汚され……うぅ……」
駄目だ、ミアは今使い物にならない。
俺は仕方ないなと、クレアの背を追った。




