第46話 赤い少女
そして、翌日。
小鳥の止まり木停で食事を終えた俺とミアはさっそく街の中を歩いていた。
「今日はどちらへ?」
「魔石屋を見ようかなって」
ミアの狂化を無効化する魔石を手に入れるためだ。
たぶん高い買い物になるだろうけど必要経費だと思う。
そうして魔石屋に向かい店の人間に案内してもらう。
狂化を完全に無効化する魔石は34万Gだった。
高い……馬鹿みたいに高い……
しかし、ここは出すべきだろう。
幸い盗賊たちの賞金や昨日のクリムゾンベアーの魔核を売ったGが20万ちょっとある。
それでも34万Gは本当に高い……でも、ミアの今後を考えたらこの力は無効化できるようにしておいたほうが絶対に良い。
色々と葛藤はあったけど何とか購入した。
ちなみに今の所持金はこんな感じだ。
所持金『384600G』
「ミア、首輪の魔石を外してくれないか?」
ミアに首輪の魔石を外してもらう。
かちゃりと音を立てて魔石が外れる。
そこに狂化無効の魔石を嵌めた。
ちょっとした調整は必要だったけど、これでミアの狂化の心配はなくなったことになる。
一安心だな……
それと入れ替わりに不要になった精神安定の魔石は売ることにする。
「それじゃあこの魔石を売―――」
ミアが凄い見てきてた。
うるうると瞳を潤ませて泣きそうだ。
「……どうした?」
「いえ……別に」
いや、分かる。分かるよ?
一応初めてあげたプレゼントだしな。
気持ちは分からないでもないけど……借金のことを考えたら不要な物は……
「大丈夫です……私のことならお気になさらず……」
健気にも俺に気を使わせまいとそう言ってくる。
だけどミアの目からは今にも涙が零れ落ちそうだ。
俺は何とも言えない気持ちになった。
「………」
装飾品に加工してもらった。
負けたよ。
ミアのあの顔には勝てないと思う。
だけどミアさんや。
なぜ指輪に加工してもらった魔石を左の薬指につけるんだ?
意味は分かっているのだろうか。
「……っと、すみません」
道を歩いていると通行人とぶつかってしまった。
咄嗟に謝る。
「こっちこそごめんなさい」
赤い髪色をした女の子。
ミアと同い歳くらいだろうか。
赤い髪に赤い目に……とにかく赤尽くしだ。
冒険者なのか皮の鎧に身を包んでいた。
気の強そうな瞳がこちらをジッと見てくる。
「……あの?」
「あなた……誰かに……」
少女が何かを口にしようとしたその時だった。
「わぶっ!?」
突然赤髪の少女の後ろから何かが飛び出してきた。
いきなりだったので反応が遅れる。
「ご主人様!?」
ミアも慌てて駆け寄ってくる。
俺は顔中を舐め回されて―――ん?
「犬……?」
俺に覆い被さっているのは2匹の犬……いや、片方は狼か?
犬と狼のペアだ。
「ご、ごめんなさい! シャル! ルーシー! 待て! 待て、よ!」
慌てて止めようとしてくれているが2匹は止まる様子がない。
俺の顔は唾液でべとべとだ。
ミアに助けを求めようとそちらを見る。
「ちょ、ミア! 助けてくれ!」
「は、はい!」
ミアが赤髪の少女に加勢するように魔物たちを引き離そうとする。
そこで、赤い少女が「あー!!」と、驚いたような声を出した。
こ、今度は何だ……!?
「もしかして……」
赤い少女は気の強そうなツリ目にさらに強い意思を込めてこう続けた。
「あんたね!? 奴隷の女の子に戦わせて寄生する最低の屑男っていうのは!!」




