第43話 冒険者登録(2)
「ミアさんですか。文字は書けますか? 書けないようでしたら代筆しますが」
「お、お願いします」
俺はかろうじて字は書けるが、この国の識字率は低い。
なので、職員さんが簡単な情報の記入などを済ませてくれた。
そうして登録を済ませていき、簡易鑑定でミアのスキルを確認する。
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スキル 短剣術(1)、危機感知(1)、隠密(2)、狂化(3)、忠誠(2)
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お、忠誠スキルが上がってる。前は1だったよな確か。
比較的上がりやすいスキルだけど、こんな簡単に上がるとは……ミアの忠誠が怖い。
でも、色々あったし、お互い信用してきたって証拠だな。
「これは全て教えないといけないんですか?」
「教えたくなければ構いませんよ。ただ、こちらとしてもスキルを教えてもらえると、その方に合ったクエストをお勧めしたりできます」
なるほど……スキルを教える代わりにメリットもあるわけか。
確かに、採取スキルなどの非戦闘スキルを活かしたクエストもあるだろうし。
「どうしましょう?」
ミアがこちらに振り向き聞いてくる。
スキルを教えるのは、こちらの弱点を教えているのも一緒だ。
出来ること、出来ないことを知られると、戦闘に大きなハンデが追加される。
「教えてもいいんじゃないか?」
ギムルでもミアは職員に教えたらしいし。
さすがにギルドが個人情報を売るようなマネはしないだろう。
ミアのスキルを教えることに問題はないと思う。
「分かりました」
そうして、思いつくままにミアはスキルを全て伝える。
3つ目くらいから受付の女の人が驚いたようだった。
5つ目を申告した時は「多才ですね……」とミアのことを褒めていた。
やっぱスキルを多めに持つってことは注目されることなんだな。
しかし、ミアが褒められると俺も自分のことのように嬉しい。
「最後に簡単なテストを受けてもらいます」
「テスト、ですか……?」
「どれだけ戦えるかの確認です。相手はベテランさんなので本気で戦っても大丈夫ですよ」
ランク試験みたいなものかな? いや、あれは昇級に色々手続きがいるはずだ。
多分、現時点での強さの確認だろう。
言われてみれば弱すぎてなれない人もいるって聞いたことがある。
ギルド側にとっても、それで簡単に死なれたら色々困るだろうし。悪評が立つ。
テストということで、不安そうにしているミアの背中を軽く叩いた。
「頑張れミア」
とりあえず、応援しておこう。
すると、ミアはパーッと顔を明るくほころばせた。
「っはい!」
ミアはほんとに単純で可愛いな。
◇
「武器の使用は許可されていますが、こちらが用意したものを使って頂きます」
怪我とかしないようにという配慮だろう。
だけど少し心配だ……
ミアが怪我をしたらと思うと……って、ミアもこんな気持ちだったのかな。
だとしたら今後は俺も自重しよう。ミアを心配させないためにも。
武器は鉄の芯で重さを調整した木製の物で、布を巻いて固めてあるらしい。
以前までは木刀とかだったらしいけど、怪我人が続出したため今ではさらに安全対策がとられているとか。
弾力のある布で包んであるけど果たして。
「結構固いな……」
実際に武器を見てみる。重いし固い……これ怪我するんじゃないか?
と、思ったけどこれから冒険者として魔物と殺し合ったりするんだ。
そう考えたら、必要以上に安全対策を取るのも問題があるのかもしれない。
怪我に慣れるのも冒険者には必要だって聞いたことがある。実際そうだった。
でもそれはそれとして、心配だ……
「よ、よろしくお願いしますっ」
「ああ、よろしくな嬢ちゃん」
案内されるままに冒険者ギルドの中にある訓練用のスペースで二人が向かい合う。
砂地のグラウンドにはカカシや的、そして疑似戦闘用のコート。
ん? あの相手ってさっきのおっさんじゃないか?
「ルークさんは長い間冒険者を生業としてきました。手加減などもお手の物です」
「あ、どうも。えーと……」
「ルルです」
さっきの受付嬢の人はルルさんというらしい。
「どっちが勝つと思いますか?」
ふいに好奇心で聞いてみる。答えはわかっているけど、あえてだ。
ルルさんは少し悩んだ後に、ふふっと笑った。
「ルークさんですかね」
ルルさんは自信満々で相手の名前を口にした。
そりゃ、当然だよな。ベテランと言う話だし普通に考えたら、ルークさんが勝つと思うだろう。
「そんなに強いスキルを?」
「いえ、スキルの数で言えばむしろミアさんの方が多いでしょう。
ですがルークさんはこういったことを何度も引き受けているので、
対人戦などにも慣れているのですよ」
「経験ってやつですか」
ミアには勝ってほしいけど無理はしてほしくない。
あくまでテスト。実戦ではないのだから、怪我をしないことを優先してほしい。
でもミアの格好良いところも見てみたい。
ううむ、複雑。
「でもこれはミアが勝つと思いますよ?」
「? なぜですか?」
そうこうしているうちに対戦が始まってしまった。
お互いに相手の動向に気を配りながら隙を伺っている。
ルークさんは大きな木刀を正眼の構え。対してミアは逆手に持つ。
「忠誠のスキルが上がってたんですよ。前はレベル1だったんですけどね」
「忠誠……確か忠誠を誓った相手への忠誠心を力に変えるスキルですね。ですが忠誠のスキルはそこまで補正はかからなかったはずですが……」
ミアが短剣を抜いた。おっさんも身構える。
「いやー……ミアの場合はなんて言うか……」
そして、その直後――――ミアが勢いよく地面を踏み込んだ。
疾風のごとく、かすかな音を立てて一気に距離を詰める。
「ッ……! 速っ……!?」
目を見開くルークさん。
ミアはそのまま彼に突っ込み、短剣で剣を……と、思った次の瞬間に急激に軌道を変える。
フェイントだろう。そのまま斜めに体を捻って剣を掻い潜った。
ミアの速度にルークさんはまったくついていけてない。
「くそッ!?」
気付けば、木製の短剣がルークさんの首に当てられていた。
ぴたりと当てられた刃とミアの赤い瞳。
そして、冷や汗をかいてハンズアップするルークさん。
「ま、参った……」
手を上げて降参のポーズ。あっさりと負けを認めていた。
……やっぱりだった。予想通りだ。
「え―――?」
ルルさんが呆けた顔を晒す。美人さんのこんな顔は珍しいかもしれない。
「え、いやいや、え? い、今何が……」
「えーと、なんというかですね……」
ミアが駆け寄ってくる。凄い笑顔だ。
逆にそれが少し怖い。訓練とは言え、さっきまで戦ってきた人とは思えない。
「あの子の忠誠心ちょっと振り切れてるんですよね……」
ぴこぴこ耳が揺れるミアの頭を撫でる。
忠犬ならぬ、忠猫か。
忠誠心が力に……なるほどな。合点がいった。




