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第40話 ロマンス






 冒険者同士の恋愛はそんなに良いものではない。

 物語のように綺麗なものではない。


 それが分かるようになったのは冒険者になってしばらくしてからだった。

 冒険者にとっては恋や愛なんて価値がないものなのだ。

 それを知ってからは私の中でもそれらが色あせて見えるようになった。


 私の名前はルーシャ。  

 サリアとは幼馴染だ。

 リンゼとはラムールでの冒険者登録をした時にパーティを組んでそれ以来ずっと一緒に冒険をしている仲間だ。

 歳が近いこともあり仲良くなれた。

 それ以来リンゼは頼りがいのあるパーティリーダーだ。

 たまに暴走するけどそれを止めるのは私たちの役目。

 なんだかんだで上手いこと噛み合っているのだと思う。


 冒険者の英雄譚に憧れているリンゼを見て呆れた風にしているけど、内心では私もそういう物語を好ましく思っていた。

 特に冒険者同士のラブロマンスが大好きだ。

 恥ずかしくてサリア以外には話していないけど冒険者になったのはそういうのに憧れたのが大きかったりする。

 

 だけど現実は厳しくて……そういうのはやっぱり夢物語なのだと思い始めていた。

 冒険者の人たちは乱暴で……そう言う目で見てくる人も少なくない。

 実際何度か口には出せないような誘いを受けたこともある。

 死ぬことを覚悟した人が最後の思い出として仲間とヤルなんて話はよくあった。

 それを初めて聞いた時はあまりの落差にとてもショックを受けてしまったのを覚えている。


 だけど冒険者というのはやりがいがあった。

 クエストをクリアして依頼者が喜んでくれるのが嬉しかった。


 それでもやっぱり色恋の話があまりないのは憧れてた私にとっては寂しい。

 受付嬢を口説いてる人はたまに見るけどほとんどが撃沈している。

 冒険者同士では男女関係は仲間関係に亀裂が入るとかでタブーにしているパーティもある。

 現実はつまらない。

 憧れは大抵一番退屈な結果で裏切られるのだ。

 サリアも不満に思っているのかたまに愚痴をお互いに話し合っている。


 ラムールでデーネルさんという商人からクエストを受けた。

 ギムルの街とラムールの街の往復を護衛してくれるなら報酬を弾むと。

 私たちはすぐにそのクエストを受けた。

 食事も出してくれるらしく、時間はかかるけどとても割りの良い仕事に思えたのだ。

 行きは何事もなくギムルへと到着出来た。

 帰りはもう2人乗ることになったけど、話してみるととても良い人たちだというのが分かった。

 一人はミアというとても可愛らしい獣人の女の子。

 もう一人はベルハルトという大人びた雰囲気の男の子。

 不覚にも出会ったばかりなのにちょっと格好良いなと思ってしまった。


 今回も問題なく終わると思っていた。

 だけどそれは間違いで盗賊に囲まれてしまった。

 数はこっちの倍くらいいる。

 リンゼがベル君たちにデーネルさんを守るように言って後ろに下がらせた。

 正しい判断だと思う。

 いくら護衛と言っても子供たちに危険なことはさせられない。


 だけど形勢はそうも言ってられなくなってきた。

 盗賊のリーダーらしき男が強くてリンゼが押されている。


 それを見て周囲を囲むようにしている盗賊たちが好き勝手なことを言い始める。



 ―――女は殺すな。



 それはつまりそういうことなのだろう。

 想像するだけで杖を持つ手が震えてしまう。


 だけど、冒険者としてここで屈するわけにはいかない。

 デーネルさんもだけど、最悪の場合にはベル君とミアちゃんも逃がさないといけない。

 でもそうなったら盗賊たちに嬲られるのは私とサリアとリンゼ。

 覚悟はしてたけど……やっぱりその時になると怖かった。


 目線だけでベル君たちを見る。

 険しい顔をしていた。

 やっぱり怖いのだろう。

 でも大丈夫……君たちは私たちが守る。

 冒険者としての誇りに賭けて――――


 って思ってたけど信じられないことが起こった。

 気付けば盗賊たちが死んでいた。

 何が起こったのか全く分からない。 

 それをベル君がやったのだと気付くまでには随分と時間がかかった。


 得体の知れない人に見えた。

 こんなに強い人だとは思わなかった。

 失礼だろうけど……ちょっと怖かった。


 だけどベル君の手が少しだけ震えているのを見て、私は自分が恥ずかしくなった。

 私たちのために戦ってくれた年下の男の子を怖がってしまったことを。

  

 そして、安堵から涙が零れる。

 やっぱり男たちの慰みものになるのは本当に怖かったから。

 それを助けてくれた目の前の男の子は物語に出てくる主人公のように思えた。


「大丈夫ですか?」


 そう言って安心させるように声をかけてくれたベル君を見て不意に胸が高鳴った。

 私は年下好きだったのだろうか。

 でも仕方ないと思う。

 冒険者は乱暴な人が多い。

 下卑た視線を向けられることもある。

 こんなに純粋な目で私たちを守ってくれる人はほとんどいなかった。

 だから仕方ないことなのだ。

 自分の顔が熱くなってしまっているのも。

 胸の鼓動が妙に早いのも。

 

「う、うん……」


 最初の言葉は撤回しよう。

 物語のように綺麗なことばかりじゃなくても―――この感情はとても良いものだ。

 




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