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第39話 道中





「そうなのよ! トロルキングの大軍勢を退けたところは鳥肌が立ったわね!」


「そこもいいんですがクラリスが仲間のために王様に剣を向けたところも格好良いですよね」


 リンゼさんとは意外にも趣味が合った。歳が近いからかな。

 冒険者になったのも今、話しているみたいな冒険譚に憧れてのことらしい。

 ルーシャさんとサリアさんはまた始まった……みたいな顔をしていた。

 

「ベルは冒険者にはならないの?」

 

 いつの間にか呼び方の距離も縮まっていた。

 ミア以外の人とこんな風に話すのは随分と久しぶりだな。

 何となく嬉しくて、自然と自分の頬が緩むのを感じる。


「まだ14ですからね、なるとしてももう少し先だと思います」


 借金のこともあるしな。

 借金が多いと冒険者にはなれない。債務を抱えたまま死なれると困るからだ。

 まあ今のペースで考えたら、借金のことはなんとかなるだろうとは思う。

 お金を返し終わったら……どうするんだろうな。


「え、ベル君って14なの?」


「ちょっと意外ですね」


 そこでルーシャさんとサリアさんが入ってきた。

 興味津々といった感じで、俺のことをまじまじ見てくる。

 意外って……どういうことだろうか? まだ子供だからかな。


「だって、大人びて見えたから……背も高いし」


「格好良いですよね」


 ミアが耳をピコピコしながら、隣でしきりにうんうんと頷いていた。

 ノリがいいなミア。昔と違って、元気になってくれて嬉しい限りだ。


「そうですかね?」


 そんなことは初めて言われたかも知れない。

 けど、言われてみれば背に関しては高い方だからかな。

 なんか、褒められるのってちょっと心地いいかも。


「そうですよ、それに冒険者の街とも言われてるラムールに行くなら、てっきりそこで登録したいのかなって」


「あー……確かラムールでの登録は縁起がいいって言われてるんでしたっけ」


 ラムールは人の出入りが盛んだ。大きな交易路の一つと言っても差し支えない。

 それは魔物が多いから必然的に冒険者が集まるようになって、冒険者相手に商売するために商人たちが集まっていったと言われていた。

 そんな街なのでもっと人を集めようと誰かが広めたのか、ラムールでの冒険者登録は縁起がいいとされている。

 実際、Sランク冒険者の何人かはその街での登録をしているらしいので、まったく効果がないとも言いきれないかも。

 そういう俺たちもギムルでミアの登録をしなかったのはそのためだ。験担ぎってやつだ。


「ベルたちは―――」


 俺はそう喋ろうとしたリンゼさんを止めた。

 3人は頭に疑問符を浮かべながら、突然黙った俺を不思議そうに見てくる。

 唯一ミアだけは何かを察したようだった。毛を逆立てている。

 

 がたんっ


 唐突に馬車が止まる。御者が真っ青な顔で震えていた。

 いきなりのことだったので、前の3人はバランスを崩して前のめりになっている。

 スキルで培った探知で気配を探って、出来る限りの現状を伝えた。


「たぶん盗賊だと思います! 数は……9人で包囲されてますね」


「―――っ!」


 途端に馬車の中が緊迫する。

 信憑性を持たせるためにもスキルのことを話すべきだろうか。

 しかし、それよりも先に外から怒鳴り声のようなものが聞こえてきた。

 俺たちは急いで馬車から出ると、そこには武器を持った如何にも盗賊といった風貌の男たちがこちらを取り囲んでいた。

 小汚いなりでにやにやとこちらを見定めているようだ。


「ベルたちはデーネルさんを守って! 私たちはこいつらを相手にするわ!」


 リンゼさんが指示を出す。ハンドサインを駆使した的確な戦闘配置。

 ここらへんの判断の速さはさすが冒険者だ。


「フレイムボール!」


 後衛に回ったルーシャさんが、先手必勝とばかりに魔法を唱えた。

 初めてみたけど、無詠唱だ。

 だけど、知識で知っていたものよりも大きい火球が現れる。

 無詠唱は火力が大きく下がると聞くけど、術者の力量か人を殺めるには十分な威力を持っているように見える。

 メラメラと焔を揺らす火球は、まっすぐに盗賊たちの方へと向かっていった。


 火力はあるが、速度はそこまでない。盗賊が舌打ちをしてそれを躱す。


「ぐおっ!?」


 しかし、完全には避けきれなかった上に、体勢を崩したことで陣形が崩れる。

 どうやら、相手の盗賊は弱い人を相手にしていたのか、完全に不意を打たれていた。

 しめたとばかりに、そこへリンゼさんが斬り込んでいく。

 剣を掲げ、勇猛果敢に盗賊たちの混乱の渦に陥れていった。


「あ、ありがとうございますっ」


「後で聞きます! 油断しないで!」


 デーネルさんの言葉を聞き流して、盗賊と戦うリンゼさんたちに目を向ける。 

 リンゼさんの動きは滑らかで盗賊たちの攻撃を苦もなくいなしていく。

 相手の体勢を戻せないように立ち振舞、徐々に戦力を削っていく。

 リンゼさんが前衛として後ろに敵が行かないように立ち回り、ルーシャさんが容赦なく後ろから魔法を放つ。

 そして、サリアさんが回復魔法でリンゼさんを癒している。小さなダメージしか負ってないので、ほぼ万全の状態で戦えているようだ。

 戦い方はバランスが取れていて崩れそうになかった。実を取るよりも命を守ることに徹した、実に合理的な戦い方。

 だけど、流石に敵の数が多いからかなかなか攻勢に回ることはできない。消耗戦ではこちらが不利かもしれない。


「お、お頭! こいつら結構強いですぜっ!」


 すると、俺たちの前にお頭と呼ばれたはげ頭の大男が出てきた。

 2m近くある体躯はそれだけで威圧感がある。まさに、物語に出てくる蛮族の長そのものだ。

 背中に背負った身の丈ほどもある大剣を手にとる。そして、ゆうゆうとそれを構えてみせた。


「お前らは後ろのやつらを狙え、こいつは俺がやる」


 盗賊たちがリンゼさんを避けて回り込むように展開し出した。

 散らばったことで後ろを守ることが難しくなってしまう。


「っ! そう簡単に通すわけ―――ぐっ!?」


 リンゼさんは盗賊たちを通すまいと動こうとするが、頭上から振り下ろされた大剣を防ぐのに手一杯になってしまう。

 完璧に相手のリーダーにイニシアティブを取られてしまったようだ。


 大男の動きは見た目とは裏腹に素早かった。

 さらに巨大な大剣の重量のせいで、攻撃を受け流すことができない。

 男女の筋力差の問題もある。徐々にリンゼさんの体力を削っていく


「ぬぅ!!」


「うわぁ!!」


 大男の大きく振りかぶった一撃で、リンゼさんは後方へと吹き飛ばされてしまう。

 強い衝撃で体が痺れ、明らかに動きのキレがなくなっている。 


「このアルゴラ様をてめーらみたいなガキ共がどうにかできるわけねーだろうがよ!」


「くっ」


 リンゼさんを見る限りかなり危うい。大男の攻撃を受けるたびに、増える傷の治癒も後ろの盗賊たちの妨害でうまく回らない。

 リンゼさんが弱いというより、盗賊の頭領が一枚上手だ。

 重い剣戟の音が空間を震わせる。リンゼさんの剣が弱々しく悲鳴をあげる。

 リンゼさんには余裕がない……このままだと遠くないうちにやられてしまう――っ!


「ひひひ、お前らの相手はこっちだぜえ?」


「女どもは殺すなよ」


「ぎゃははっ、分かってるよ!」


 盗賊たちは下卑た笑みを浮かべて、必死に戦っているリンゼさんにルーシャさんとサリアさん……そしてミアの体を舐め回すように見ていた。

 すでに戦利品に舌なめずりをする、その浅ましさ、余裕。

 仲間がそんな目で見られたことに強いいらだちを感じた。

 俺は気付かれない程度に重心を落とし、自身の殺意を明確にする。




「おいっ、どうでもいいがさっさと終わら  せ    る      ぉ」



 集中力の隙間に入り込むように、地を蹴り出し、剣を一閃。相手の首へとすり抜けさせる。

 ドサッと音を立てて、首のない男が崩れ落ちる。ごろりと転がる頭が呆けた表情を浮かべたままだった。

 あまりにもあっさりと死んだ盗賊に周りがどよめく。

 ミアを除いて、何が起きたのかまったく理解できていないようだった。

 俺は崩れ落ちた盗賊の後ろで剣を軽く振るって血を払う。


「―――は?」


 そう言って目を見開いた男も、次の瞬間には首と胴体が別れた。

 疾風のように駆け巡り、宙に剣先で線を描き殴る。

 相手の距離を詰めて、相手の無意識を突くように斬る、斬る、斬る!

 一足跳びに距離を詰め、その勢いで叩き切っていく。

 人の首って意外と簡単に切断できるんだな……と思ったけどこれがスキルの恩恵か。

 普通じゃここまで精確に切れないけど、スキル補正のおかげだな。

 今考えることでもないかと、視線を盗賊に向ける―――

 唖然とする男たちの間を縫う様に、次々に首を落としていく。


「く、来るなごあぇ!?」


 剣が機能しづらいインファイト。その場で剣を落とすと、相手はにやりと笑う。

 しかし、その油断が命取りだ。

 相手が喜ぶのもつかの間、懐に入って掌底で顎を砕いた。

 骨の砕ける感覚。肉が潰れるような気持ちの悪い感触が伝わってくる。


「ミアに色目を使ったのはお前だな……」


 粉々になった顎を抑えて痛みにのたうつ男。

 かなり痛いだろうけど、ミアに下卑な目を向けたんだ、当然の報いだ。

 そもそもあれだ、こちらを殺しに来たんだから、こちらもそれ相応に対処しただけだ。

 ひいひいと泣きながら苦しんでいる男の首を裂いて絶命させる。


 そうして盗賊たちを次々に殺していく。格下相手だからこそ、赤子の手をひねるようなもの。

 けれど……人を殺したのは初めてだった。

 罪悪感と生理的な忌避感で手もぶるぶると震えているのが分かる。

 けど、と……自分を無理矢理納得させる。

 こいつらは盗賊だ。人を殺して尊厳を踏みにじることに快楽を覚える外道だ。

 魔物よりも質が悪い。彼らは生きるために人を殺し、外道は欲望を満たすために殺す。

 なら、こいつらは魔物以下の畜生だ。

 魔物以下のもっとおぞましい魔物。

 それならば殺すことに何を躊躇する必要があるだろうか……


「………」


 言葉を失っている大男が後退りをする。逃げる算段でもつけているのだろうか。

 アルゴラ、だっけ? 話す必要もないので気にせず近寄る。


「リンゼさん、任せてもらえますか?」


「あ、あぁ」


 傷だらけになっているリンゼさんには下がってもらう。

 すると我に返ったように大男が焦った声を出した。


「ま、待て! 言っとくが俺はそこらに転がってる雑魚共とは違うぜっ?」


「もしかして強いスキル持ってる?」


「当たり前だ! おい、今謝るなら見逃してやってもいいぞ?」


 無視してゆっくりと近付く。大男は明らかにこちらよりも弱い。

 気付いていないだろうけど腰が引けていた。

 勝つことは難しいとわかっているのだろう。


 こちらが剣を構える。ぎゅっと柄を握り、大男を睨んだ。

 男も俺にさっきと同じ速さで動かれたら逃げ切れないとわかっているのだろう。

 男も舌打ちと共に大剣を構えた。

 相手の出方を伺っていると、大男は大剣を腰だめにして突っ込んできた。


「っ!?」


 大きく避けてしまえば奴に体勢を整える時間を与えてしまう。

 そう思った俺は男の突きを受け流してそのまま攻撃しようとした。

 けど大剣が俺の剣に当たった瞬間、伝わってきたのは想像よりずっと大きな衝撃。


「―――ッ」


 反撃に移ることができず、横に飛び退かざるを得なかった。

 しかし、この攻撃で吹き飛ばせると思っていたのか男は予想外の出来事に一瞬固まる。

 けどこっちも腕が痺れてコンマ一秒動きが遅れた。

 もしかしてリンゼさんが受けた攻撃はこれが原因か。

 即座に反撃に移れず、相手が勢いづいた。


「どうしたクソガキぃっ!!」


 想像よりも重い剣撃や体格に見合わない素早い動き。

 何より剣で切り結んだ時の痺れは……


「衝撃波?」


 レアスキルの「衝撃波」。

 確か手脚と手に持っているものから衝撃を発するスキルだったと思う。

 強いスキルってこれだったのだろう。滑らかな動きを見る限り相当使い慣れているようだ。

 持っている人に遭うのは初めてだから断言はできないけど、一瞬強張ったのを見るに当たりだったのだろう。


「はっ、だからどうしたっ! 分かったからって防げねえだろうがっ!」


「じゃあ防がないよ」


 見切りスキルを発動。

 衝撃波のスキルは手にもったものから衝撃を発することができる。

 だけど、それはその分得物の消耗が激しくなるってことだ。

 大男の剣戟を避けると同時に、剣のど真ん中に向かって、怪力スキルで力任せに叩き込んだ。



 ばぎんっ!!



「な――――っ!?」 


 男が驚愕に目を見開き、動きを止める。

 子供相手に武器を折られるとは思ってなかったのだろう。

 だけどこっちも腕が痺れて上手く動かない。 


 そこからの判断は早かった。

 盗賊ならではの危機察知能力だろう。

 足で地面を蹴り上げ、こっちに土塊を飛ばしそのまま脱兎のごとく逃げ出した。


「覚えてやがれ! 次に会った時は後悔させてやる!」


 そうか。次なんてないけどな。逃げ足だけは褒めてやるが、相手が悪かったな。

 距離は15~20mくらい、風は左から右に微風、影響はないな。

 俺は傍に落ちていた比較的大きめの石を握って、振りかぶる。

 腕を振り伸ばし、力いっぱいぶん投げた。


 吸い込まれるように石が盗賊へと向かっていく。

 俺の持ってる投擲スキルの補正だ、逃げられまい。


 ぃっ!!


 石は鈍い音をたてながら見事に盗賊の後頭部にヒットした。


 地面に倒れ伏して小さく痙攣している。

 あれならしばらくは起き上がれないだろう。


 後ろを振り返ると、リンゼさんたちは唖然としたようにこちらを見ていた。


 死にかけた時に考えたことがある。

 メタルクロウ並みの魔物が出てきたときに、ミアの狂化がなかったから勝てなかった。

 そんな事態にはなっちゃだめだ。狂化はミアを苦しめるから。

 だから、格上相手にも勝てるようスキルを計画的に取得したのだ。

 せめてメタルクロウと互角に戦える程度にはと。


 それにしても……随分と強くなってしまった。うぬぼれなだけかも知れないけど。

 まあ、調子に乗って買いすぎたかもしれない。

 あまりにもスキルを手に入れすぎて、人間やめてる気分になってきたよ。

 どこか他人事のようにそう思う。自分で選んだことなのに。

 まあでもその前に―――


「大丈夫ですか?」


 頑張って俺たちのために戦ってくれたリンゼさんたちが心配だった。

 皆のもとに駆け寄り、俺は手持ちの回復アイテムをポケットから弄った。



 ―――――



 ベルハルト 


 所持金『513530G』



 スキル 剣術(1)、鑑定(1)、身体能力強化(5)、投擲(4)、威圧(2)



 偽装中 万能通貨、地図(1)、探知(3)、偽装(4)

     怪力(4)、体術(4)、危機感知(3)、回避(1)、見切り(1)




 ―――――








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