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第38話 出発







「なっ、ど、どどういう……なぜ奴隷商になんてっ!?」


 奴隷商は良い言い方をすれば、ミアと初めて出会った場所。

 悪い言い方をすれば……死に体のミアを買った場所だ。


「ミア、大丈夫だから落ち着いて」


「で、ですが……っ、あ、いえ……申し訳ありません……ですが本当にどうして奴隷商になど……」


 ミアは俯いて、わなわなと震えながら声を絞り出す。

 やっぱりトラウマ抉りまくりの場所だよな。

 勘違いさせたいわけじゃなかったので、素直に言ってしまおう。


「たぶんだけど、ミアが考えてるようなのとは、まったく違うからな?」


「えぇと……私がいらなくなったとか……」


 相変わらず自分の価値を低く見積もっている。

 こんなに可愛くて、よく尽くしてくれる子なんてそうそういないのに。


「ないない」


 そう言うとミアは安心したのか、真っ青だった顔に血の気が戻る。


「あ、ありがとうございます」


 安堵に涙をこすって、満面の笑みをこちらに向けた。

 あまりにも必死なミアに苦笑してしまう。

 誤解させるつもりはなかったけど、申し訳ないことをしたな。

 ミアはそれなら何で奴隷商に行くんだろうかと、不安でそわそわしていた。



















 道中ミアに尋ねる。


「なぁミア、今日がなんの日かわかるか?」


「いえ、申し訳ありません……」


 そう言ってミアはしゅんとする。耳がぺたんと萎れた。

 ここまで言えばさすがに何かしら勘付くかと思ったけど。

 ミアはおどおどしながら、疑問符を浮かべていた。


「昨日自分で言ってただろう、今日はミアの誕生日だよ」


 説明できないのは心苦しいが、ミアのためにサプライズはとっておこう。

 すがる目つきで俺を見つめるミアを横目に、奴隷商の入り口を潜る。


「これはこれは、ベルハルト様。本日はどのようなご用件で?」


 入った瞬間に声をかけられる。

 初対面……だよな?

 あの時は奥に入り込んでしまって違う人が対応してくれた。

 何で名前知られてるんだろう。

 不思議に思っていると奴隷商人らしき男は補足してくれた。


「私共が見限った奴隷の状態をそこまで回復させた御方ですからね、どうやってそこまでの状態に?」


 どう説明したものかと、咄嗟に嘘を考える。


「えーと、食べては寝させてを繰り返しました。ミアはかなり食べますからね……食べさせたらすぐに治りましたよ」


「なるほど……細い見た目に反して大食いだったのですね……」


 適当な言葉で誤魔化しておく。

 奴隷商の男はすんなり信じた。

 もしかしたら何か隠してるとは思ってるのかもしれないけど。


「………」


 うん、まあ……ミアはすごく不満そうだったけど。

 女の子としては思うところがあるのかもしれない。


「それにしてもそこまでの上物だったとは……どうでしょう、金貨を何枚か出すので譲ってもらえたりは」


 びくりとミアが怯える。

 ミアを安心させるように俺は即答で断りを入れた。

 そして、それよりもと要件を伝えた。

 

「今日はミアの首輪を新調しにきました。確かできましたよね?」


「もちろんです。様々な事情のお客様がいらっしゃいますから、首輪自体のデザインから装飾まで注文に合わせてお作りします。

 ベルハルト様はどのようなデザインをご所望でしょうか」


「……え?」


 予想外のことで、ミアは驚きの声を上げる。

 少しでも喜んでくれると嬉しいんだけれど。


「せっかくだから誕生日祝いに奴隷の首輪を新調したいんだよ。

 ミアは祝わなくてもいいって言ってたけど受け取ってくれないか?」


 奴隷と主人の関係じゃなく、自分はミアと家族でありたい。

 それが本心なんだけど、ミアはあくまで俺の奴隷でいたいと言う。

 多分、それがミアが安心する立ち位置だからだろう。

 主従関係、これがはっきりしているからミアは安心するんだ。


「ミアが奴隷でいたいならそれでも構わない。だけど俺にとってミアは家族みたいなものだから……受け入れてほしい」


 孤独な俺が気まぐれに買った奴隷のミア。

 少なくとも、自分にとってミアは大事な家族だ。

 ミアが奴隷でありつづけたいのであればそれでいいけれど、いつか本当の家族になれるといいなと……そう思う。


「……ありがとうございます。本当に……嬉しいです……」


 ミアは魔石の装飾が施された首輪を指先で触り、嬉しそうに笑った。
















「こんなところかな」


 家の中で荷物を整える。

 言うまでもなく2週間後にラムールに行くためだ。

 日持ちのする保存食や武器や解体ナイフ。

 その他にも最低限のものだけをカバンに詰めていく。


「ほかに必要な物ってないかな?」


 ミアからの返事はなかった。

 鏡越しに魔石の首輪をずっと見てたまににへらっと表情を緩める。

 精神安定の魔石を首輪に加工してもらってからずっとあんな調子である。

 喜んでくれるのは嬉しいけど何も言わずに鏡を見て笑みを浮かべるミアはちょっと怖い。

 でも水を差すこともないだろうと思い、落ち着くまであのままにしておく。

 ああなるとしばらくは戻ってこないのでこっちはこっちで進めておこう。


「……ん?」


 なんだこれ?

 机の引き出しの奥から出てきたのは赤い魔核らしきものだった。

 手に取って薄らと付着した埃を拭う。

 なんの魔核だろう。

 うちの親は冒険者だったし何かの魔物を倒した際に手に入れたものだろうか?

 ここまで大きい魔核はもしもの時に相当いい値段で売れるだろう。

 一応持って行くか……と、カバンの奥へと押し込んだ。


 それからの時間は何事もなく過ぎていった。

 スキルをいくつか購入して、試しに使ってみたりをした。

 戦力的な面を安定させながら、スライムだったりゴブリンだったりの弱い魔物を相手にする。

 



 そうして二週間後。




 ラムールに行く商人とは街の入り口で待ち合わせの約束だ。

 だけど早く来すぎてしまったのかまだ誰もいない。


「誰もいませんね」


「そうだな、悪かったよ。この分なら寝坊助のミアにもっと寝てもらっててもよかったな」


「ぁう……ご主人様が意地悪です……」


 ミアは何気に朝に弱い。

 今朝も起こそうとしてたら服を握られて攻防を繰り広げた。

 起こそうとしても中々起きないし……朝から疲れた。


「お? もしかしてあの人たちかな?」


 こちらに近付いてくる人影を発見した。

 数台の馬車がこちらに向かってきていた。

 そして、馬車の中から一人の男が出てくる。

 

「おはようございます、ベルハルトさん、ミアさん」


「はい、おはようございます。今日からよろしくお願いします」


 俺に続いてミアも頭を下げる。

 この人が俺たちとラムールの街に一緒に行くことになった商人のデーネルさんだ。

 商人らしい小奇麗な格好をしている。


「もう揃ってるんですか?」


「はい、もうほかの皆さんは揃っていますよ。自己紹介は移動しながら済ませておいてください」


「分かりました」


 馬車に乗り込むと3人の若い女冒険者の人たちがいた。

 一応ほかにも空きはあるらしいけどいざという時に連携がとれないと困るから多少狭くなってでも一緒に乗ってほしいらしい。


「初めまして、ベルハルトです。こっちはミア」


 ミアがぺこりと頭を下げる。

 それに続いて向こうも名乗る。


「私はリンゼよ、よろしくね」


「私はルーシャです」


「サリアです、これからしばらくよろしくお願いします」


 ちなみに席順はリンゼさんが一番左、真ん中にルーシャさん、一番右にサリアさんという並びだ。

 俺たちはそれの向かい合う様に座る。

 見た感じ20手前くらいの冒険者パーティって感じだな。

 リンゼさんが戦士みたいな恰好で赤っぽい髪型。

 ルーシャさんとサリアさんが魔法使いかな?ゆったりしたローブを着ている。

 しかしなんというか……サリアさんは胸部がとても大きかった。

 そこについ目が言ってしまったのは男として仕方のないことだろう。


「………」


 ミアが何も言わずにサリアさんの胸と比べて落ち込んでいた。

 切ない……でもミアはまだ成長期ってやつだと思うからこれからだ……たぶん。


「……ご主人様」


「ん?」


 ミアが何か覚悟を決めたような声を出してこちらを見てくる。

 ほんのりと顔が赤い。


「あの、お、男の人はやっぱり大きい方が好きなんでしょうか……?」


「………」


 人前でなんてこと聞くんだ。

 初対面の3人をちらりと見る。

 リンゼさんたちはこういう話題は平気みたいだ。

 年上の余裕を感じるけど俺は少し恥ずかしい。

 

「ミア、人前では恥ずかしいんだが……」


「そ、そうですねっ、すみません……まだちょっと寝ぼけてるみたいです……」


 ミアは恥ずかしそうに俯いた。

 さりげなくフォローを入れておく。


「……まあ、今日は早かったからな」


 俺もまだ眠いくらいだ。

 朝の弱いミアにはもっときついだろう。


「これだけ早朝に起きるのは大変ですよね」


「主にミアがな」


 ルーシャさんが「ぷっ」と、笑うのが見えた。

 ミアは出会ったばかりの人たちの前で話すことに慣れていないんだろう。

 また恥ずかしそうに赤くなってしまった。

 

「仲がいいんですね」


「ミアは妹みたいなものですからね」


「へー、ベルハルトさんたちはなんでラムールに?」


「ベルでいいですよ」


 リンゼさんたちは見た目通り良い人たちみたいで、馬車の中の時間は和やかな空気のまま過ぎていくのだった。






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