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第37話 15歳






 街で色々やったせいで帰りが遅くなってしまった。

 外はすっかり暗くなっている。

 今日一日の結果に満足しながら家の扉を開けて中に入った。


「ご主人様のお力はお金があればあるほど何でもできるようになるんですよね?」


「そうだ。だから魔物が多く出るらしいラムールに行くのも悪くないかもな」


 椅子に座って一息つく。

 すると、ミアが提案してきた。


「私が働くというのはどうでしょう?」


「働く? どこで?」


 ミアの言葉がいまいち飲み込めずに聞きなおす。

 

「まだ決まっていませんが、どこか雇ってもらえる場所があればと思ったのですが」


 確かに今の俺たちは安定した収入がない状態だ。

 借金がある身としてはまずいと思う。

 以前は小汚いということで雇ってもらえなかったけど、今日は服も何着か購入した。

 小汚い子供から普通の子供にランクアップというわけだ。

 もう一度探してみたら案外簡単に雇ってくれるところがあるかもしれない。


「でも俺たちまだ成人してないしな、子供でも雇ってくれるところはあると思うけど……」


 それでも多少は限られてくるだろう。

 労働力として考えるなら働き盛りの大人が良いってのは分かるけどな。


「でしたら私が明日成人するので、そうなってから雇って頂ける場所を探すというのはどうでしょう?」


 なるほど、と頷いた。

 頷いたけど、凄い違和感に俺はミアを見た。


「ミア……明日成人するって聞こえたけど」


 ミアを見ると「そうですけど?」みたいな顔をしていた。

 明日が誕生日だったのか……そういえばもう少しで15だって言ってたな。

 思ったよりも早かった……俺も聞くべきだったのかもしれないけど、できれば教えてほしかった。

 俺が微妙な顔をしていると、怒っていると勘違いしたのか慌てて頭を下げてきた。


「あっ、も、申し訳ありませんっ! もっと早くにお伝えするべきでしたっ!」


 早く伝えてほしかったというのはあってる。

 でもそれ以外を何となく勘違いしてる気がした。

 いや、ミアなら絶対してる。

 この子はする子だ。


「……なんで伝えるべきだったか分かるか?」


「え、それは……ご主人様の行動選択の幅が広がるからでは……?」


 やはり違っていた。


「ミア、明日はお休みだ、魔核集めも、魔物狩りもなにもしないぞ」


「……え? なぜですか?」


「ミアの誕生日を祝うからだ」


 収入もあったしな。

 かなり余裕もできたし、ミアにはお世話になっているのだからこのくらいは当然だ。


「そんなっ、駄目ですッ! いえ……嬉しいことは嬉しいのですが……」


 ミアが遠慮してくるのは予想通り。

 しかし、さすがに成人する15の誕生日を何もしないわけにはいかない。


「じゃあせめてしてほしいこととか食べたいものを教えてくれ、そんなにお金はかけないからさ、それならいいだろ?」


「ご主人様がお傍にいてくださるならこれに勝る幸せはございませんっ!」


 意外と頑なだなミア。

 ミアにもっと娯楽とかを教えた方がいいのだろうか? 

 同年代の友達の一人でもいたら違うと思う。

 それとも借金のことで気を使ってくれているのだろうか。


「でも働くことになったら一日のほとんどを離れて過ごすことになるけど」


 あ……と、今更気付いたようにミアが悲しそうな声を漏らした。

 働く時間にもよるけど何時間単位でその店に拘束されるのは確定だろう。

 俺がずっと一緒にいるわけにもいかないので、必然的に一緒にいることのできる時間は減る。


「ぁ……だ、大丈夫です……ご主人様のお役に立てるなら、が、頑張ります……っ!」


 凄いテンション下がってた。

 無理矢理元気を出そうとしてるみたいだけど、そこまで考えてなかったのか。

 ついでに言うなら俺がヒモになるみたいで嫌だった。

 あとミアが変な客に絡まれたりしないかとか。

 ミアは抜けてるところがあるから、考えれば考えるほど嫌な予感が浮かぶ。


「……冒険者になるか?」


 ついでに提案してみる。

 子供の頃からの夢だった冒険者を。


「冒険者、ですか?」


 ミアが15になるなら可能だと思う。


「安定してる収入ってわけじゃないけどな、でも冒険者なら俺も手伝えるしさ」


 危険もあるし、強い魔物も出てくるけど、その分当たればデカい。

 そして、それは俺のスキルを利用したら決して夢物語じゃない。

 まあでもそれはそれとして―――


「ほんとに祝わなくていいのか?」


「は、はい……ご主人様のお傍にいられるだけで十分すぎますっ! これ以上なんて頂けません……」


 ふむ……まあ、無理にあげることもないだろう。

 この日はお互いの意見を言い合ってラムールの街に行くかどうか話し合うのだった。 




 ……………………………



 …………………



 …………



 ベッドの上に腰かけて万能通貨で購入できるものを確認する。

 大金が入ったこともあり、スキルを手に入れることを検討してみた。

 だけど何でも買えるとなると目移りするな……

 何でもかんでも買って従者に買い物袋を持たせている貴族の気持ちが今ならちょっとだけ分かる気がした。

 流石にそんな贅沢はできないけれど、少し浮かれてしまうのは仕方がないだろう。


 そうしているといつの間にか夜も更けてきた。

 集中しすぎたかな。

 ミアは既に布団の中に入ってうとうとしている。 

 俺もミアと一緒に横になる。

 時間が遅いこともあって眠気はすぐにやってきた。

 横になりながらミアとの会話を思い出す。



 ――――ご主人様がお傍にいてくださるならこれに勝る幸せはございませんっ!



 駄目だ、天使に見えてきた。

 ミアはほんとに物欲ないよな。

 楽と言えば楽だけど少し心配だ。


「ミア」


 ああ、でも―――と。

 俺はミアに声をかける。

 日付もそろそろ変わった頃だと思う。

 何も欲しくないなら無理にとは言わない。

 でも、これだけは言わせてもらおう。


「誕生日、おめでとう」 


 ミアに布団をかけなおす。

 その安らかな寝顔に癒されながら俺もゆっくりと意識を落としていった。















 翌日俺とミアは街でラムールについての詳しい情報を集めていた。

 正確な場所を地図で知り、狂化を抑えることができるような魔石はあるのかどうか。

 これに関してはもしあれば万能通貨の値段と相談になるだろう。

 他にもそこに行くために必要になる経費なんかも計算する。


 ラムールは冒険者が多く集まる街のようで王都が比較的近くにあるということもあり、賑わいを見せているらしい。

 周囲も草原の多いギムルと違い山や森などの自然が豊富だとか。

 しかし、その分魔物もギムルの街に比べて多いらしい。

 というかこれがラムールに行こうと思った一番の理由だったりする。

 やはり魔核はいい値段になるからな。

 今俺たちのいるギムルは比較的平和な街だから魔物が少ないのだ。


 ミアの狂化のこともあるけどそれは最悪俺のスキルでなんとかなるしな。

 重要性は高いけどお金があるなら緊急というわけでもない。

 

 ガルムさんに借金の相談をしたところ、約束の期日までに払ってくれるなら何でもいいらしい。

 違う街に移住しようとも、お金を返してくれるなら何も言わないと。

 ただこちらの居場所を把握するのは大変なのでもし住居を移す場合なんかは一報してくれるとありがたいとも言っていた。

 

 馬車に乗せてくれる人間に関しては、2週間ほど後に丁度ラムールに行く商人がいるということで同行させてもらえることになった。

 護衛もしてくれるなら無料で連れて行ってくれるらしい。

 俺たちみたいな子供に護衛を任せることに不安はないのだろうか?

 そう聞いたら俺たちが冒険者ギルドで噂になってるからある程度強いということは知っていると言っていた。

 それに他にも何人か雇っているから問題ないらしい。

 俺たちはあくまでついでの保険みたいなものだとか。


 そうしてラムールに行く準備も整ってきたところで時間を確認する。

 もうすぐで昼食時だ。


「ミア、ちょっと昼食の前に行きたいところがあるんだけどいいか?」


「勿論です、どこへ行かれるのですか?」


 俺は少し悩んだ。

 ミアに伝えるべきかどうか……だけど、結局ミアも連れて行くことになるなら遅かれ早かれだろう。

 俺はその場所の名前を口にした。


「奴隷商だ」


 ミアの顔からサッと血の気が引いた。

 じわりと目に涙が滲む……嫌な思いをした場所だし抵抗はあるんだろうな。

 けどそれとは別にこのネガティブっ娘は何か勘違いしてる気がした。

 






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