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第36話 買取(2)




「まさか本当にBランクのメタルクロウだとはな……しかも亜種だったぞ」


 ギルドマスターのギルガンさんがソファーにもたれ掛りながら呆れたように言ってきた。

 あのメタルクロウと呼ばれる鳥の魔物の素材に関しては冒険者ギルドの人に手伝ってもらうことにした。

 ただギルドに手伝ってもらった際の人件費的な問題で多少納めないといけないらしいけどそれでも十分おつりはくる。


「この街にはBランク冒険者までしかいないからな、ちょっとした騒ぎになってたぞ、俺としても色々聞きたいことがあるんだ」


 まあ、ここってあんまり人の多くない田舎らしいしな。

 だからあんなに驚かれたのだろうか?

 ギルドの人たちからしたらこの街のほとんどの人間が倒せない魔核を俺たちが持ってきたことになるからな。


「メタルクロウの亜種は子供二人で倒せるような魔物じゃない……熟練の冒険者でも少人数じゃ無理だろう、どうやってこれを手に入れたんだ?」


 Bランクの魔物はBランクの冒険者パーティか、Aランク冒険者でもないと倒せない強さだ。

 冒険者はDかCランク辺りから実力者として認められ始める。

 そう考えたらBランクの魔物と言うのは、少しどころじゃないほどの強敵だ。

 Bランクのパーティでも油断すれば全滅もあり得るだろう。


 その上亜種だ。

 成長の過程でなんらかの異常……例えばストレスだったり強い魔力を浴びたりとかで魔核が変化したものが亜種と呼ばれる。

 亜種はその過程でなんらかのスキルを取得することが多く、見た目や強さに違いがでるものが多いらしい。

 ようするに強いのだ。

 それを踏まえると倒したって言っても信じてもらえるかどうか……


 少し悩んで黙っておくことも考えたけど、ミアのことについては相談に乗ってもらいたかったので正直に話すことにした。

 どうせ買取の時に倒したって言っちゃってるしな。

 ミアの狂化についてギルガンさんに伝える。

 その後どうにかして奴隷の首輪を利用して元に戻したことも。

 万能通貨は今回は関係ないので、このスキルのことを聞かれる心配はないだろう。


「狂化か……短時間で相当強いストレスがかからないと滅多に発動しないはずなんだが……」


 そこは俺も驚いたところだ。

 狂化が発動するほど心配かけるって相当だと思う。

 ミアが申し訳なさそうに顔を伏せていた。

 外で待っておいてもらった方がよかっただろうか?


「だけど、発動する可能性がある以上は放ってはおけない、奴隷の首輪で元に戻すことができるのは分かったが、万が一もあるだろう」


 そう言うとギルガンさんは後ろの棚を漁っていくつかの小石のようなものをテーブルにばら撒いた。

 そのうちの一つを指で俺の方へと動かしてきた。


「これは?」


「精神を安定させる効果のある魔石だ、これで狂化も多少は抑えられるだろう。これを魔道具を扱ってる店で指輪やネックレスなんかに加工してもらうといい」


 そんなに便利なものがあるのか……だけど無料ってわけじゃないだろう。

 ちなみに魔石とは魔核に魔法的な効果を付与して加工したもののことだ。

 俺はちょっと警戒しながら聞いてみた。


「……おいくらほどですか?」


「今回のメタルクロウの総額の30%でどうだ?」


「んー……何とも言えませんね。メタルクロウの素材は全部でいくらになりました?」


 何%とか言われても全額を把握してないから答えにくい。

 ギルガンさんはそれもそうか、と教えてくれた。


「魔核が11万2000Gで、素材はだいぶ腐敗が進んで痛んでたから買取不可。腹の中の金属やら鉱石やらは詳しいことはまだ分からないけど少なくとも50万はするだろうって話だ」


 50か……ギルドに少し納めて、さらにこの魔石も購入したとすると……諸々計算して入るのは30~40万G前後ってところかな。


「意外と少ないですね?」


 300は行くと思ってたのに50か……想像していたよりも遥かに安かった。

 ちょっと……いや、かなりショックだ。

 あの量の塊なら地金としての価値も高そうだしもっと行くと思ってたけど。

 それとも俺が無知なだけなのだろうか。


「メタルクロウは別に全部体内に貯めるわけじゃないからな、糞にもなるし、攻撃手段として体外に排出したりもする。残ってた塊も胃酸で溶けて劣化してたり空洞も多かったらしい」


 そうなのか……残念。

 倒すタイミングが悪かったんだな。

 頭の中で計算しなおす。

 それと同時に魔石のことと狂化のことも考える。

 取り分は少ないから思ったより余裕はできなかったけどミアの狂化の心配がなくなるなら早めに解決しておきたい。

 そうなるとやはり魔石はほしいと思う。


「これに関しては別に完全に無効化するわけじゃないからな。買ってもそのことは忘れるなよ」


 どうするかと頭を悩ませる。


「言っとくがこの精神安定の魔石は珍しいからな」


 自分から買わなかったら手に入るところはないぞってことだろうか。

 30%ってことは、大体18万くらいってことだよな。

 だけど魔石なんて今までほとんど見る機会はなかったんだ。

 値段なんて知るはずもない。

 昔両親と街に来た時に見たことがあるような気もするけど……何年も前のことだからな。

 うん、覚えてない。

 ミアをチラリと横目で見る。

 申し訳なさそうに頭を振るところを見るとミアもどうやら知らないようだ。

 どうするか……


「あ」


 思わず声を出してしまった。

 俺は慌てて咳払いをして誤魔化すとスキルを発動した。

 そうだよ、何で忘れてたんだ。

 俺には万能通貨があるじゃないか。

 このスキルは何でも買える。

 それなら万能通貨の値段は、良い目安になるだろう。 

 それにしてもこのスキルは何を基準としているのだろうか……物品は高いと思ったらスキルとかは安いし、謎である。


「どうした?」


 おっと、いかんいかん。

 また変な目で見られてた。

 余計なことを考えるのはあとにしよう。

 多少ギルガンさんの方が高くても今後の関係のことも考えてそっちで買ってもいい。

 ギルドマスターの顔も立てないとな。

 そう思い目の前の魔石と同じものを調べる。



 精神安定の魔石(中)『120000G』



 このスキルが表示した値段はギルガンさんの提示してきた値段よりも安かった。

 ギルガンさんの提示した値段は大体18万くらい。

 少なくとも50万って話だからもっといくかもしれない。

 それなのに万能通貨では12万で買えるのだ。

 つまりそれはギルガンさんが高めに値段交渉をしていることを意味しているのだと思う。


「……20%くらいでどうです? たぶんそのくらいだと思うんですけど」


「……なんだよ相場知ってたのか?」


 そう言うってことはつまりそういうことだろう。

 試されてたみたいだ。ついジト目になってしまった。

 ニヤリと笑ってきたギルガンさんにため息をついて苦笑を返しておく。


「お前の言う通り大体そのくらいだ、悪かったな」


 別に怒ってるわけじゃないんだけどな。

 値段交渉で高めに言うのは常套手段だろう。


「それじゃあ20%ってことでいいですか?」


「ああ、いいぞ」


 ちなみに狂化スキルの消滅と狂化無効の魔石については以下の通りだ。


 対象の狂化消滅(3)『750000G』


 狂化無効の魔石『350000G』


 たぶん消滅が無難なんだとは思う。

 だけどさすがに75万Gはポンと出せない。

 無効の魔石はなんとか素材代から買えるかもしれないけど……

 顔を立てる意味でもギルガンさんから買った方がいいだろう。

 そっちを手に入れてから精神安定の方は売るなりすればいいと思う。

 

「狂化無効の魔石ってどこにあるか分かります?」


「そうだな……北の方にあるラムールにならあるかもな」


 ラムールか……冒険者の街として有名なところだ。

 魔石がもしかしたら安く手に入るかもしれないし、それにこの辺りは魔物が少ないのだ。

 ラムールの周辺に出る魔物の魔核目当てで行ってみるのもいいかもしれない。

 後でミアと相談しよう。














 そうして魔核や素材を売ったお金を査定が終わったらしいギルドで受け取る。

「人件費の分は既に引いてあります」


 明細を受け取って問題がないことを確認する。

 ギルドを出てアリスさんのいる治療院を訪れた。

 治療分のお金を全額払う。


「このお金はなにか良からぬことを……まさか、彼女にひどいこととか……」


「いやいやいや」


「すまない、冗談だ」


 アリスさんの冗談はちょっとだけ分かりにくい。

 短期間でこの額を払いに来たことに驚かれたけど話をしたら納得してもらえた。

 けどアリスさんと話せてよかった。

 俺の治療をした時に仲良くなったミアとアリスさんは女同士の話で盛り上がっていた。

 少し寂しい気はするけど二人が楽しそうだったのでよしとしよう。


「それじゃあさっそく……」


 街を出てさっそく布袋の中にある硬貨の中に手を突っ込んだ。

 スキルで吸収すると手の中の硬貨がフッと消えてなくなった。

 万能通貨を使用して所持金を確認する。



 所持金『623280G』



 62万か……借金返済の目途が立ってきたな。



 



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