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第33話 夕食にて







 ミアが自分の過去を話し終える。

 自分が経験した全てを俺に語り、だから俺には感謝していると……そう言ってミアは締め括った。


「申し訳ありません、長くなってしまいました……でも、ご主人様に聞いてもらえて嬉しかったです……ありがとうございます」


 想像以上に壮絶な人生だった。

 何て声をかけたらいいのか分からない。

 だけどそれと同時に納得もいった。

 ミアの持っていた多くのスキル。

 あれはミアが辿ってきた人生の過程で得たスキルなのだ。


 なんて言えばいいんだろう。 

 どんな言葉をかけても安く思えてしまう。

 するとミアはまたしても申し訳なさそうに謝ってきた。


「……ごめんなさい、やっぱり楽しい話じゃなかったですね……」


 ミアはちょっとだけ後悔を滲ませながら言う。

 だけどそれはちょっとだけ違うと思った。


「確かに楽しい話じゃないけど俺は聞けて良かったと思ってる、話してくれてありがとな」


 これは間違いなく本心。

 ミアのことが知れて俺は嬉しかった。

 そしたら―――


「いえ……私こそ……これから私が一生お仕えするご主人様には全部聞いてほしかったんです。本当に……ありがとうございます」

 

 またなんか変なこと言いだしたこの子。


「……ミア? 一生仕えるって聞こえたけど……」


「え? はい、そうですけど……?」


 思わず黙ってしまう。

 だけどそう言えばミアとそのことに関して話をしたことはなかった。

 

「先に言っておくけどミアを一生縛り付けるつもりはない」


「ぇ……?」


 驚かれた。

 でもそんなに驚くところだろうか?

 俺はミアをいつか奴隷の身分から自由にするつもりだ。

 その時にはミアがやりたいようにしてくれればいいと思っている。

 まあ、当分先にはなるだろうけど、少なくとも一生縛り付けるようなことはしたくないと思っている。


「え、えっ? あの……ご主人様? ま、また私は何かしてしまったのでしょうかっ?」


「違うぞ、ミアだって身分的にずっと奴隷なんて嫌だろ? 色々と一段落したらその首輪は外してもらう」


 だけどその前にミアの狂化を何とかしないといけない。

 今回は3万Gの狂化の解除には足りなかったから、ミアには苦しい思いをさせてしまった。

 いつでも狂化を何とかできるように3万Gは確保しておかないとな。


「………あの、もしご主人様が良ければなのですが」


「ん?」


「ずっと、奴隷としてお仕えしたいです……」


「……ずっと?」


 するとミアは慌てて補足してきた。


「も、もちろんご主人様が私のことを邪魔だと思ったならいつでも捨てて下さって構いませんっ! でも、できればそれまでは……」


 ミアは何か奴隷に拘りでもあるのだろうか。

 理由を聞いてみる。


「ご主人様と繋がりがあるのが嬉しいんです、どんな形でも私がご主人様の所有物だって実感できて……必要とされてる気がするんです」


「……嫌じゃないなら無理にとは言わないけどさ」


 俺にはよく分からない感覚ではあるけど、ミアの過去を聞いた後だとあまり強くは言えない。

 必要とされていなかったとミアは言っていた。 

 なら俺がその分ミアを必要としてあげようと思った。

 それに―――と、ミアは続ける。


「ご主人様の奴隷って、凄くいいじゃないですか……」


 ミアは恥ずかしそうに顔を背けた。

 また変なことを言い出した。

 俺はこの言葉をどう判断したらいいんだろう。

 困った俺はとりあえず窓の外を見て気を落ち着けることにした。

 まあ……ミアが変なのはいつものことだしな、と何気に失礼なことを考えた。


 そうしてしばらくするとミアが姿勢を正して聞いてくる。


「あの、ご主人様……次の罰はなんでしょうか?」


「? 次の罰?」


 疑問を感じてミアを見る。

 するとミアも不思議そうにしていた。


「いや、ミア? もう罰は終わったんだぞ?」


「そんなっ! ご主人様のことを教えてもらって終わりなんて……むしろご褒美です……」


「そ、そうなの……?」


 知らなかった。

 俺の過去を聞くことはご褒美だったのか。

 面倒なことを知ってしまったとか思わないのだろうか。

 いや、ミアはなんとなく思いそうにはないけど……ご褒美とまで言われるとは。


「……じゃあ次の罰を与えるけど、いいか?」


「なんなりと」


 そして、また最初に戻る。

 ミアは覚悟を決めたように……って、俺としてはミアにあまりひどいことをしたくないのだが。


「ミアが嫌なことってなにがある?」


「ご主人様の嫌なことが私の何よりの苦痛です」


 即答だった。 

 真面目に言ってるんだとは思うけど、それはもはや俺の罰だと思う。

 どうしよう。難しいぞ意外と。

 

「ミアは俺に怪我を負わせたんだ。その分俺を助けてくれ。それが罰だ」


「そんなこと当たり前ですっ! ちゃんとした罰を下さいっ! じゃないと……私はこれからどうしたらいいのか……!」


 気持ちは分からないでもないけど、それを言いだしたら終わらない。

 俺はなんとかミアを宥める。


「そんなに後悔してるんだったらその分働いてくれればいい」


 俺としてはミアに罰はなくてもいいくらいだと思っている。

 結果としてあの怪鳥に殺されなかったのはミアのおかげだしな。

 ミアは不満そうな顔をしながらも渋々頷いた。

 だいぶ強引だったけど受け入れてもらえてよかった。


「じゃあ罰の話は終わりだ。これからの話を」


 その時自分のお腹から音が鳴った。

 

「あ、お食事になさいますかっ?」


「そうだな……何か無性にお腹すいたし」


 ずっと寝てたせいだからだろうか。

 強い空腹感を感じる。

 窓の外を見るともう暗くなっていた。

 俺たちはアリスさんを呼んで包帯を替えてもらい、夕食を食べることにした。
















 ミアとアリスさんは一足先に夕食を済ませる。

 寂しい気はしたけど俺が寝ている部屋にテーブルなどはないので一緒に食べることができないのは仕方ない。

 俺はと言えば、ベッドの上でミアとアリスさんが持ってきてくれたおかゆを前に四苦八苦していた。


「ぐ……っ」


 失念していた。

 俺怪我してたんだった……体が動かせない。

 腕を動かすと脇腹に鈍い痛みが。


「無理はしないでくれ、だいぶ良くなってはいるけどまだ治ってないんだからね」


 アリスさんの声は平坦な感じだが、こちらを気遣ってくれていることが良く伝わってくる。

 悪い人ではないのだろう。

 だけど、無理をしないわけにはいかない。

 こんなにおいしそうな卵の入ったおかゆなんて久々だ。

 体はこれを欲しているのだ。


「……食べさせてあげようか?」


 それは所謂あーんというやつだろうか。

 美人なアリスさんに食べさせてもらうというのはどこか恥ずかしい気はするけど、この際そうも言ってられないだろう。

 何故かミアがすごい勢いでこっちを見てきたのが気になったけど、見なかったことにしてお言葉に甘えることにする。

 

 アリスさんは俺の口元へおかゆを運んでくれた。

 少し熱かったけど丁度いい。

 空になったお腹が満たされていく。


 食べさせてもらいながらこれからのことを考える。

 アリスさんは俺が動けるようになるまではこの家に泊まり俺の容体を見るらしい。

 そうなるとアリスさんがいるからスキルを使って回復するわけにもいかない。

 しばらくは休みかなこれは……


 ふと、ミアを見る。

 

 やたら羨ましそうな眼差しでこちらをジッと見ていた。

 胸の前で手を握り締めて、泣きそうなミアに俺は首を傾げるのだった。









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