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第28話 怪鳥









 すでに頭上近くまで来ていた。

 そいつは暗雲立ち込める空に黒い影を作り、羽を上空で羽ばたかせ、着地の態勢をとっている。


「逃げるぞッ! 走れッ!!」


 俺は即座に撤退を決める。

 これは無理だ。絶対に勝てない。

 俺はそいつに生物としての格の違いを感じた。

 これは相手にしたら駄目な奴だ。

 俺たちは怪鳥から目を離さないようにしながら後ろに下がる。


 すると後方で物凄い地響きが響いたかと思うと、ぐしゃりと、あたりに水泡が飛び散る。


 地面に下りたそいつはその巨体を素早く回転させ、尻尾を振り回す。



「――――ッ!!」



 ビシュッ!!!


 俺の頬をギリギリで掠めた光沢のある何かが後ろの木に刺さった。


 ……見切りと回避がなければ死んでいたと思う。

 そう思えるほど、その一撃は威力と速度を兼ね備えるものだった。

 俺は恐る恐る突き立ったものに目を向ける。


「羽根……?」


 その羽はまるで刃物のようだ。

 鋭利で、極限まで殺傷能力を高めたかのような鋭い武器。

 これを飛ばしたのか……


「ご主人様ッ! ご無事ですか!?」


「あ、ああ……っ」


 俺は喉から声を絞り出す。

 震えそうな足を何とか動かす……

 ミアの声が何とか意識を現実に戻してくれた。


 あちらさんには俺たちを逃がす気はないようだ。

 逃げられるとも思えない。

 戦うしかないのか……

 そこまで考えたところで、怪鳥が口を開いた。


「GYAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」


 爆風のような鳴き声で、ビリビリと空気が揺れる。

 鼓膜が破れそうなほどの声量に思わず耳を抑えようとする。


 だけど、体が硬直して動かなかった。

 それは恐怖だけでは説明がつかない。

 まるで何か目に見えない物理的な力で押さえつけられているかのような。

 ミアを見ると彼女も完全に動きを止めていた。


(スキル持ち……!?)


 威圧というスキルがある。

 比較的有名なコモンスキルで、自分よりも弱い相手の動きを止めることができる。

 怪鳥がゆっくりと尾尻を揺らし、体をひねる。

 それがやけにスローモーションに見えた。


(動け、動け動け動け動けッ!!)


 怪鳥の巨体が回転し羽が周りに飛んだ。


「――――っ!!」


 動いたっ!

 だめだ、ミアは反応できてない……!


「く……っ!」


 俺は身体能力強化で最大まで自分を強化する。

 そして、彼女だけはと―――目の前にいたミアを庇うために前に出た。


「え」


 ミアの信じられないような声。

 どこか他人事のように見えるその光景。

 ああ、これは避けるのは無理だろう。

 せめて急所だけは守らな―――――



 ブシュブシュブシュッ!!



 何枚もの羽根が体に突き刺さり、喉の奥から熱いものを感じる。

 やってきた衝撃と共に俺は血を吐いた。

 羽根は急所を外したものの、全身に突き刺さった。

 遅れてきた激痛に、意識が飛びかける。

 全回復を購入しようにも上手く意識がまとまらなかった。


「が、はっ! ごほっ! ッ!」


 怪鳥はもう動けなくなった獲物を前に、ゆっくりと地を響かせ近づく。

 その動きは勝利を確信しているかのように緩慢だ。

 だけどそれは間違いないだろう。

 もうこいつには勝てない。

 逃げようにも威圧されたら、攻撃を避けられない。


「ご主人……様……?」


 逃げてくれと言おうとしたけど、血で喉が詰まって声が出ない。

 ……ここまでか。

 ミアだけでも逃げてほしい、けど。


「ご主人様ぁッ!!」


 ミアはそう叫んで俺に駆け寄ってくる。

 何とか安心させたいが、体は動かない。

 声を出そうと焦るたびに血を吐いてしまう。

 飛びそうになる意識を繋ぎとめるだけで精いっぱいだった。


(体の、中の……は……ねの……除去……)


 全回復の前に体内の羽根をなくした。

 栓がなくなり全身から血が噴き出てそれが雨で流れていく。

 あとは購入するだけ――――


「GYAAAAAAAAAAAAAAッッ!!!!」


 威圧だった。

 俺の体は硬直して動かなくなる。

 怪鳥の猛攻に回復をする暇がない。

 もし、ここでスキルを使おうものなら、怪鳥は俺を今度こそ即死させるだろう。

 かといってほかに何も思いつかない。

 頭が回らない……ああ、無理だ……これはもう――――


 だけど、死を覚悟した俺の前に誰かが立つ。

 ミアが怪鳥に敵対するかのように立ちはだかっていた。


 馬鹿、無理だ。

 逃げろ……そう言おうとしたけどうまく言葉にならない。


 怪鳥は余裕を見せるように尾を振りかぶった。

 尾は俺を攻撃した時とは違い、頭上から叩き潰すように構えられていた。

 思わず目を逸らしそうになる。

 だけど、その時違和感に気付いた。



 ―――何でミアはさっきの威圧で動けるんだろう。



 様子がおかしい。

 ミアの白い髪の先が……赤くなってる?

 雰囲気も何かが違う。

 纏う空気というか……まるで、さっきの怪鳥を相手にした時みたいな。


 勝てない生き物を前にした時みたいな。


 そして、俺は信じられない光景を目の当たりにした。

 叩きつけられる尾をミアが躱した。

 辛うじて見えた……だけど、それはあまりにも理解を超えた現実。

 ミアはまるで何事もなかったかのようにそこに佇みながら、攻撃を加えた存在に意識を向けた。


「アア゛アァァ゛ァァァーーーーーーーーッッ!!!!!!」


 いつもの彼女の声ではなかった。

 だけどそれは紛れもなくミアが発したもの。

 獣のような咆哮。

 これは――――



「………狂……化?」








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