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第25話 意外な事実








 照明で照らされた階段を考え事をしながら降りる。

 階段を降りると俺はそのままギルドの入口付近の買取カウンターに向かい

 あらかじめ持ってきておいたオークの魔核を売った。

 今度は絡まれることもなく、スムーズに買い取ってもらえたことに安堵する。

 さすがに昨日の今日で難癖をつけてくれる人はいないようだ。

 これで所持金は3万5510Gになった。

 やはりDランクの魔物ともなると、その魔核は高額だった。

 だけど、ゴブリン亜種の魔核のほうが高価だったのは意外だった。

 あいつそんなに珍しい魔物だったのかと、驚いた。


 太陽も傾き始め、今は昼を少し過ぎたあたりだ。

 このまま帰ったとしても時間が余りそうだった。

 だけど、山に行って資金稼ぎするには中途半端な時間だ。


「ミア、何か欲しいものはあるか?」


 ミアは最近頑張ってくれてると思う。

 だから感謝の気持ちも込めてプレゼントの一つくらいは送りたい。

 収入もあったし、安いのでいいなら買ってあげてもいいと思う。


「欲しい物、ですか?」


 ミアはピンと来てなさそうな顔をする。

 欲しいものがないのだろうか……?


「最近頑張ってもらってるからな」


「私がご主人様のために頑張るのは当然です」


 やんわりと断られた。

 うーむ……ミアの性格を考えたらこうなることは予想できたのかもしれない。

 無理にあげることでもないとは思うけど……どうするか……。


「ミア、少ないけどお小遣いだ」


 3000Gを取り出して、ミアに渡す。

 ちなみに、スキルに気づかれないよう、俺はポケットから出すふりをした。

 少し恰好悪いとは思うけど、聞き出せないならこれで好きなものを買ってもらおう。


「そ、そんなっ! 私の全てはご主人様のものです! 受け取れませんっ!」


 予想通り、ミアはやっぱり遠慮してきた。

 彼女は結局俺の出した硬貨を受け取らない。


「ミア、もしも俺に何かあったらどうする?」


「ご主人様に何かあればそれは私の失態です、死にます」


 ミアの目は完全に本気だった。


「……いや、うん……そういうことじゃなくてだな」


 それより、俺に何かあったら死ぬつもりなのか……その忠猫っぷり、ちょっと怖い。

 危険なことはできるだけ避けるとしよう、俺はそう心の中で誓った。


「例えばだけど俺が病気や怪我で動けなくなった場合とかだよ、その時食材の買い出しとかはどうする?」


 そこでミアも気づいたようだ。

 現在のところ、所持金はすべて俺が持っていて、スキルに収納したままだ。

 ミアはスキルのことは知らないだろうけど、いざという時にお金がどこにあるのか、分からないのはまずいってのは理解しているはずだ。

 今のままではもし俺が動けなくなったら、何も手に入れることができないことになる。


「というわけだ、受け取ってくれ、どうしてもほしいものがあればこれで買ってもいいし、

 何かあった時のために残しておくのもいい。その辺りは任せるよ」


 こうしてようやくミアに少量のGを渡すことができた。

 多少強引な気はしたけど、何か理由でもつけないと受け取ってもらえなさそうだしな。

 それに、咄嗟に考え出した理由だけど、今思えば考えておくべきことだったと思う。

 これなら俺に何かあっても、ミアがそのお金を少しでも残しておいたら大丈夫だろう。

 勿論何もなければそれが一番いいとは思うけど。

 ミアが大袈裟なくらい頭を下げて硬貨を受け取ったのを確認したところで、お腹の音が鳴った。


「それにしてもお腹空いてきたな」


 何かを食べようと周囲を見ると、街の人たちが思い思いに行き交いその奥には露店があるようだ。

 ソースの香りや、肉の焦げる匂いがあたりに漂い、食欲を刺激する。


「お食事にしますか?」


「そうだな、丁度あそこにロックバードの串焼きが売ってる、あれでどうだろう?」


 俺たちは普段はあまり肉を食べない。

 基本的に、安い芋や、余った野菜で作った簡素なスープだったし、

 たまにはこういう贅沢もいいかもしれない。

 ミアも賛同したようで、頷いてくれた。

 俺たちは、連れ立って串焼きを売っている店へと向かう。

 だけど、俺は思わずそこで動きを止めた。


「? どうかなさいましたか?」


「ちょっと好物が売っててな、やっぱり美味そうだ」


 それはシーザーキノコという珍しいキノコだ。

 ちょっとオレンジっぽい色で一目見ただけではおいしそうには見えないんだけど、味は抜群だ。

 キノコとは思えないほど、濃厚で、独特な香り豊かな風味が口いっぱいに広がるんだ。

 そのまま食べても美味しいんだけど、調理するとさらに旨味が増す。

 俺はスープやシチューに入れたのが好きだった。

 昔は親にねだって誕生日とかの記念日に食べさせてもらっていた。

 最近はずっと食べてなかったから、懐かしい感じがする。


「買ってきます」


「うん……うん?」


 ミアはその店に行き、先ほど渡した3000Gを――――


「待て待て待て!!」


「は、はい、なんでしょう?」


 慌ててミアの腕を引いて彼女を引き留める。

 というか素早いなミア。


「値段を見てみろ、1個3800Gの高級品だぞ」


 シーザーキノコは年中取れるのだけど、その数は何といっても少なかった。

 群生地もあまり詳しく知られていないこともあり、市場に出回るのは稀なのだ。

 だから平民が気軽に買えるような食べ物ではなく、祝いの席でたまに出されるくらいだった。


「あと俺が食べたいって言ったからって買う必要ないんだぞ?

 ほんとに欲しいものがあったときとか、何かあった時のために残しておくんだ」


「はい……」


 猫耳をぺたんとさせて、ミアが落ち込んだ。

 まるで悪いことをして飼い主に叱られたペットのように。

 俺は慌ててフォローする。


「いや、怒ってるわけじゃない、気持ちは嬉しいよ……ありがとな」


 ぴーん!


 耳が戻った。

 分かりやすい反応。可愛い。

 しかし、食べたいと思ったのは事実だし、いつかミアと一緒にこれを食べたいものだ。


「冒険者になれれば今より収入も増えて、食べる機会もあるかもしれないんだけどな」


 それには借金を減らすのと、成人することの二つの条件がある。

 厳しいとは思うけど、子供のころの俺の夢でもあったから、やっぱりなりたいって思ってしまう。


「そういえばミアは何歳なんだ?」


 年下だというのはなんとなくわかるけど、詳しい年齢は聞いたことがなかった。

 ミアがいいというなら、一緒に冒険者になりたいし、そのあたりを聞いてみたい。


「14です、もう少しで15になります」


「そうか、それなら―――――」


 と、そこで俺は動きを止める。

 今耳から入ってきた情報に驚いたからだ。


「?」


 俺の反応に不思議そうにするミア。


「え、ミアって14なの?」


「は、はい、そうですけど」


 俺の反応の理由が分からなかったのか、ミアは不安そうにしている。

 けど俺は予想外の事実に驚きを隠せない。


「あの、ミアさん……年上だったんですね」


「え、あの? ご、ご主人様?」


 口調を変える俺。

 少しだけ慌てた様子のミア。


「ど、どうされたんですか? 距離を感じるんですが……」


 ミアのことは友達や、家族みたいに思っている。

 何というか庇護欲を刺激される妹みたいなかんじだ。

 だけどずっと年下だと思っていた妹分が実は自分よりも年上だったと判明。

 凄い違和感だ。

 思わず敬語になってしまうほどには混乱する。


「い、いえ、なんか今まですみませんでした……」


 ミアは妹じゃなかったのか……俺は今まで年上ぶってたことを思い出して、なんとなく恥ずかしくなった。


「ご主人様!? あの、ほんとにどうされたんですか!? わ、私が何かしてしまったのでしょうかっ?」


 その後、俺とミアは空腹のことも忘れてしばらく妙な空気になった。

 時間が経つにつれ、それは元には戻ったけど……ほんとにびっくりした。









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