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第24話 ギルドの長







「『鑑定』」


 ギムルの街のギルドの前で、自分に鑑定を行う。

 それは、万能通貨が偽装できているかの確認のためだ。




 ―――――



 ベルハルト



 スキル 剣術(1)、鑑定(1)、身体能力強化(3)



 偽装中 万能通貨、地図(1)、探知(2)、偽装(2)




 ―――――




 問題がないことを確認して、胸に手を当てる。

 今日はミアも一緒に来るように言っておいた。


「あー……緊張してきた」


 冒険者ギルドの前まで来ると、少し深呼吸して、気を落ち着ける。

 そして、俺は意を決して扉に手を掛けると、ギィっと音を立てて、扉が開く。


(おぉ……やっぱ目立つ)


 人の少ない昼間を選んだのだけど、それでもやはりある程度の冒険者たちがいた。

 何人かは俺を見て、何かヒソヒソと話をしているようだった。

 そのうち半数くらいは昨日の騒ぎを知らないのか、周囲の反応を不思議そうに見ていた。

 ミアにはフードを被ってもらっているけど、かえってそれが目立っている可能性もあった。

 さすがにもう奴隷契約した日からかなりの日数が経っているし、元気になったことについては隠さなくていいだろう。

 そんなことを考えながら受付へと向かう。


「あの、すみません……」


 受付の女の人に声をかける。

 昨日とは違う人だけど、やっぱり美人だった。

 肩までかかる茶髪の人で、ちょっとクールっぽい感じがした。


「初めまして、ギルドの受付を務めさせていただいているアーシャと申します」


「あ、初めまして、ベルハルトって言います……それで、昨日のことなんですけど」


 礼儀正しく対応されたことに一安心する。

 出入り禁止になってないのかな?


「はい、昨日の乱闘騒ぎの件ですね、ギルドマスターがぜひお話を伺いたいと申しておりました」


 ざわっ


 聞き耳を立てていた何人かがざわついた。

 そりゃわざわざギルドのマスターが子供相手に話がしたいなんて、なかなかないと思う。


 ギルドマスターとは、ギルドのトップを務める人間だ。

 運営などの手腕はもちろんのこと、その強さもかなりのものだと聞いている。

 荒れくれ者が多い冒険者をまとめるには、ある程度の強さがないといけないってことらしいけど。

 そんな偉い人が、俺なんかに……いや、乱闘騒ぎを起こしたんだから、偉い人が出てくるのは分かるんだけど、それにしても、まさか一番上の人が出てくるとは思ってもみなかった。

 それだけに、余計に緊張してきた。


「どうでしょうか? もし本日のご都合が合わないようでしたら日時はそちらに合せますが」


「いえ、大丈夫です」


「ありがとうございます、ではこちらへどうぞ」


 そして、案内されて、ギルド中央付近にある階段を上がる。

 俺の家に2階はないから、少しだけソワソワする。

 ギルドに2階があることは知ってたけど、実際に来るのは初めてだ。


 階段を上り切って、少し進むと、アーシャさんは一番奥にある一室をノックした。

 するとくぐもって聞き取れなかったけど、中から声が聞こえる。


「失礼します」


 俺もアーシャさんに続いて部屋に入り、ミアもそれに続いた。

 全員が入室したのを確認して、アーシャさんが静かに部屋の扉を閉めた。


 その部屋は、物は多いけど、整理整頓されており、清潔そうな印象だ。

 俺はそんな部屋の目の前のソファーに座る人物に目を向けた。


「おう、昨日のことで話がしたかったんだ、なんでもドルドのやつを力づくで謝らせたんだって?」


 髪を短く切りそろえた30か40ほどの男は、獰猛そうな笑みを浮かべた。

 その体に張り付いた筋肉は鋼のようで、鍛え上げられたものだということが分かる。

 もしかしなくても、この人がギルドマスターだろう。


「えっと、はい……ご迷惑をおかけしたみたいで」


「その話はまあ置いといてだ……お前の名前は?」


「ベルハルトです、こっちは仲間のミア」


 ミアが礼儀正しくぺこりと一礼すると、それに続いて俺も頭を下げる。


「意外と礼儀正しいな、もっと楽にしていいんだぞ? まあ座ってくれ」


 そう言われて俺たちは少し震えながら、ギルドマスターの対面のソファーに腰を掛けた。

 ソファーに座る経験なんてほとんどなかったので、その柔らかさと座り心地の良さに軽く感動を覚えた。


「俺はこの街の冒険者ギルドのマスターをしてるギルガンだ……さっそくだがよ、お前冒険者にならないか?」


 突然のことに俺は驚くけど、それは成人してからだと思いなおす。

 だけど、まさかギルドのトップから誘われるとは思ってもみなかった。


「理由をお聞きしても?」


 念のため、ギルがんさんに理由を尋ねてみる。

 乱闘騒ぎのことで謝りに来たのに、なんでこんなことになっているのか。


「そりゃあ、強い人間に冒険者になってもらいたいってのはギルドマスターとして当然のことだろう

 オークのことも聞いてる。どうやって倒したかは知らないが大したもんだ」


「昨日のことはいいんですか? 抜刀までしちゃってますけど」


 俺が恐る恐る聞くと、ギルがんさんは何でもないように言ってきた。


「ああ、あれについてはむしろこっちが謝らないといけない」


 どういうことだろうと、ギルガンさんの表情を伺っても

 特に怒ってる様子もなければ、含みもなさそうだった。

 だけど、俺にとってそれは理解できない言葉だった。


「基本的にギルドは冒険者同士の揉め事には介入しない、死人が出た場合は別だけどな。

 だけどベルハルトはまだ冒険者にすらなっていない子供だ」


 そういうことなのかと、内心で納得する。

 ようやく理解が及んだ。


「ドルドはそんな子供相手に恐喝をしたんだ。詳細は聞いたが明らかに度を過ぎてる。

 確かにお前は乱闘騒ぎを起こしたらしいが、ギルドはドルドの行動と言動の方に問題があると判断した」


「じゃあこっちに処罰とかはないんですか?」


「ないな、逆にドルドの方のランク降格、それと罰則を破った罰金に加えて

 冒険者資格を一定期間だが剥奪することにした」


 俺はその言葉に驚き、すんなり許されたことに安堵した。

 少し冒険者ギルドに悪いイメージを持ちすぎていたのかもしれない。

 ギルガンさんは、だけどと続ける。


「ドルドはDランクだった、お前……なにしたんだ?」


 部屋の空気が一瞬で張り詰めたようだ。

 つまり、俺のような子供になんでそんなことができたのかと聞いているのだろう。

 けど、言い訳は考えてあった。


「ついカッとなって……相手も油断してたみたいですし」


 俺の偽装したスキル的にも、大きな違和感はそこまでないはずだし、

 言うなら、相手が油断したのも本当のことだった。

 不意を突いて先手を打ったのも見てただろうし、これで何とか通ればいいんだけど。


「油断か……」


 ギルガンさんは顎に手を当てて、考え込む仕草をし、目を鋭くしてこちらを見てくる。

 ついでに言うなら、後ろのアーシャさんからも強い視線を感じる。

 何ココ怖い……帰りたくなってきた。


「まあいい、それでさっきの話は受けてくれるか?

 お前はまだ子供だが、成人してからならぜひ歓迎したいんだが」


 しばらく考え込むと、話を切り替えるように提案してきた。


「分かりました、もしその時になったらよろしくお願いします」


 俺としても冒険者には興味があったし、なりたいと思う。

 もし、冒険者になれたら、金集めも楽になるだろうし。

 だけどそれは、借金が返せたらの話になる。


「あの、もういいですかね?」


「ん、ああ、悪かったなわざわざ」


「いえ、こちらこそ」


 一礼して立ち上がると、俺はミアと一緒に部屋を出た。

 緊張はしたけど、何事もなくて本当に良かった……

 だけど、お咎めなしとは思ってもみなかった、どうやら気にしすぎていたようだ。













 Dランクの冒険者を圧倒したという二人の子供、その二人の話を聞いて

 ギルドマスターのギルガンはずっと控えていたアーシャに声をかけた。


「どうだった?」


「ただの子供ですね、スキルも念のため何度か確認しましたが剣術、鑑定、身体能力強化と無難なものばかりでした」


 アーシャは鑑定スキルを持っていた。

 この部屋に呼んだのも、騒ぎを起こした冒険者の能力を見るためだった。

 ギルガンはミアという少女のスキルはここで鑑定を受けたことがあるので知っていたけど

 問題はベルハルトと名乗ったほうの人物だった。


「スキルレベルは?」


「剣術が1、鑑定が1、身体能力強化が3です」


「へぇ、強いな」


 レベルは低いけど、鑑定というレアスキルまであり、身体能力強化はコモンスキルだけど、レベルが3だった。

 あの年齢でもいないことはないけど、レベル3のスキルを持ってる人物は少数だった。


「ですが、少々拍子抜けでしたね」


 ギルガンは、アーシャの言葉で、昨日の報告を思い出していた。

 それは、Dランクの冒険者よりも強い子供というものだった。

 だから、もっと多くのスキルを持っているのではと、そう考えていたのだった。


「そうだな……ああ、わざわざ悪いな、ありがとう。お前は仕事に戻ってくれ」


「分かりました、失礼します」


 ギルドマスターのギルガンに言われ、アーシャは受付に戻っていった。


「んー……」


 ギルガンの脳裏に、隠蔽、偽装スキルのことがよぎった。

 もしもあの少年がスキルを隠しているのだとしたら……


「いや……考えすぎだな」


 ギルガンはギルドの仕事に戻り、少年のことは頭の隅に追いやった。

 その憶測こそが真実なのだとは思いもせずに―――








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