第23話 膝枕
ギムルの街の冒険者ギルドでもめ事を起こしてしまった日の夜。
俺はできるだけ早い時間にギルドに向かうため、いつもより早い時間にベッドに入った。
だけどミアが何かを言いたそうだった。
そわそわしていたし、最近ではミアの小さな表情の変化から何を考えているのかが何となく分かるようになっていた。
そう言えば、膝枕をしたいって言ってたな。
ちょっと気恥ずかしい気もしたけど、俺はミアに頼んでみた。
するとミアは――――
「あの、少し汗をかいてしまったので体を洗いたいのですが……」
オークとの戦闘もあったし、女の子としては気になるのかもしれない。
勿論構わないと、俺は体を洗いに行ったミアを見送った。
そして、俺は膝枕を待つ間に考え事をした。
現在の所持金は2万7510G。
オークの魔核が売れなかったから、この日の収穫がなかった上に、生活品を僅かに購入したのでちょっと少ない。
残金を眺めながら、偽装スキルでどうスキル一覧を弄るか悩んでいる。
なぜ今そんなことを悩んでいるかというと、明日ギルドに謝りに行くからだ。
というのも俺は今日の昼頃に例の冒険者と騒ぎを起こしてしまった。
冷静さを失っていた俺はスキルを使って実力を見せてしまった。
ついでだから、大まかな強さの基準について説明しておこう。
Dランクの魔物が1匹で、D~Cランクの冒険者のパーティと同程度だ。
あの絡んできた男はDランクだと言っていた。
そして、俺の今のスキルはこんな感じ。
―――――
ベルハルト
スキル 剣術(1)、鑑定(1)
偽装中 万能通貨、地図(1)、身体能力強化(3)
探知(2)、偽装(2)
―――――
つまり、偽装していない戦闘系のスキルは剣術(1)のみ。
そうなのだ。どう見積もってもおかしいのだ。
仮にあの男がEに近いDの実力だったとしても、あの時見せてしまった俺の実力は説明できない。
ギルドで鑑定を受けるつもりはないけど、念には念を入れたい。
説明を求められた時に何も言えないと困るからな。
少し考えた結果、身体能力強化の偽装を解除することにした。
身体能力強化があるならオークの方も、ギルドでの騒ぎの方もそこまで不自然には思われないだろう。
あんまり弄りすぎると、今度は偽装が疑われるけど、最悪万能通貨がばれなければそれでいい。
オークを倒せた理由はこのスキルに加えて罠を使ったということにしておこう。
たぶんこれで大丈夫だ。
身体能力強化だけで罠も使えばオークだって倒せないことはないはずだ。
理想を言うなら偽装のレベルを上げておきたかった。
高レベルの偽装があればかなり安心できるんだけど……
だけど、やはりレアスキルの高いレベルは高額だ。
所持金は残り2万7510G。
まだ所持金の余裕はあるけど、借金のことも考えたら出来るだけ出費は抑えたい。
―――――
ベルハルト
スキル 剣術(1)、鑑定(1)、身体能力強化(3)
偽装中 万能通貨、地図(1)、探知(2)、偽装(2)
―――――
(こんなところか……)
子供にしては強い気はするけど、オークを子供二人で倒すならこのくらいは必要だ。
最優先事項は、万能通貨がばれないことだからな。
ちょっと変に思われるかもしれないけど、シラを切れば分からないはずだ。
コンッ、コンッ
ちょうどその時、控えめなノックと共にミアが戻ってきた。
俺が返事をすると、ひどく緊張した様子でミアが入ってきた。
「お、お待たせいたしました……」
ミアが傍らまで寄ってくる。
髪も洗ったのかその白い髪はしっとりと濡れていた。
ベッドの上に正座して、膝枕の準備を完了させる。
ミアは服の裾は短く、足の部分の露出面積が広いものを選んだようだ。
「……なあ、ミア」
「は、はいっ! いつでもどうぞっ!」
嬉しそうに弾んだ声。
期待するようにそわそわしているミアの脚を見る。
膝枕をする前に俺はミアの滑らかな太ももにそっと手を這わせた。
「はぅ―――っ!?」
今のはミアの声。
だけど……その声はちょっとだけ苦しそうだった。
いや、ていうか……
「ミア、赤くなってるけど……洗いすぎただろこれ」
ミアのいつもは白い肌が今は赤くなっていた。
「そ、それは……ご主人様に汚い足をお見せするわけにはいかないので……」
ミアの脚は汚くなんてない。
すらりと長い脚は、雪のように白く、見るからにスベスベな肌。
美脚といっても過言じゃない。
それが今ではひりひりしそうな……ってくらい色づいている。
触らなくても痛そうだ。
「……痛くないのか?」
「ご主人様に膝枕をさせて頂くためなら、例えこの足がすり潰されようと私は構いません」
何その覚悟……なんとなく本気で言ってそうで怖かった。
「ミア」
「はいっ」
相変わらず、分かりやすく喜ぶ声。
少しだけ罪悪感を感じながら俺は伝えた。
「またそのうち頼む」
その時のミアの顔を何と表現したらいいのだろうか。
この世の終わりみたいと言うか何と言うか……
まあ……多くは語るまい。
だけど、この夜のミアの落ち込み具合は、ちょっと凄かったとだけ言っておこう。
ベッドで一緒に寝るときのミアのくっつき具合もいつもより凄かった。
そんなに膝枕がショックだったのだろうか。
ミアのイラストを頂きました。
活動報告で見ることができるので良ければそちらを!




