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第22話 ギルド







 ギムルの街に到着すると、俺たちはさっそく冒険者ギルドへと向かった。

 建物の入り口付近にある素材の買取場所につくと、担当者の人に声をかけた。


「すいません、魔核の買取をお願いしたいんですけど」


 担当の人は毎日違っていて、今日は綺麗なお姉さんだった。

 ギルドの職員って美人が多いんだな。


 そんなことを考えていると、隣にいたミアが少しだけ不機嫌そうにそわそわしだした。

 ミアのことだから嫉妬してくれているのかもしれない。

 確かにギルドの人間は美男美女が多いけど、それでもミアが一番可愛いと思うのは贔屓目なのだろうか。


「はい、何の魔核でしょう?」


 少し高い声を室内に響かせ、聞いてくる担当者に、俺は少しだけ声を抑えて伝えた。


「オークです」


 俺がそう言うと、担当の人は動きを止めて目をぱちくりさせた。

 その担当者は少しだけ間をあけて、もう一度聞き返してくる。


「え? すみません、もう一度」


 担当者は明らかに俺のことを疑ってるみたいだった。

 こんな子供がオークの魔核を持っているわけないと。


「オークです、オークの魔核。いくらになりますか?」


 俺は気にせずに問いかける。

 俺だって向こうと同じ立場なら、こんな小汚い子供がDランクの魔物の魔核を持ってきても倒したとは思わないだろう。

 だけど、それは全て事実であることに変わりはない。

 この買取担当のお姉さんも自分の仕事をすればそれで終わりなんだ。

 俺は悪いことをしたわけではないので堂々とした態度をとる。

 それに、さっきから他の冒険者たちの視線を感じるから早く済ませてほしかった。


「これなんですけど」


 俺は手っ取り早く証拠を見せることにした。

 オークの魔核はゴブリンのよりも深く濃い緑色で、大きさもかなり大きい。

 目の前の女の人にの顔に驚愕の眼差しが浮かぶ。

 驚くのはいいけど、ほんとに早くしてほしい……

 そう考えていると、甲冑の擦れる音に続き、乱暴そうな足音が聞こえる。

 その足音は俺の元に近づいてくる。


「おいおい、久しぶりだなあ……しばらく見なかったからてっきり野垂れ死んでると思ったぜ?」


 案の定俺は絡まれた。

 後ろを振り返ると、そこにいたのはいつも俺をからかっていた冒険者だった。

 巨大な斧を背負ったそいつは、少し前のめりになって凄んできた。


「しかもオークの魔核だぁ? どうせどっかで盗んできたんだろ? なあ? 見逃してやるからそれ寄越せ」


 しかもその冒険者は面倒なことを言い出す。

 俺が盗んだと言ってきたのだ。 


「いえ、盗んでなんて―――」


 そこまで言ったところで俺は気付いた。

 周囲の冒険者から冷たい視線が注がれる。

 ここにいる誰もが俺のことを信じてはいなかった。

 それどころか、少数ではあるけど絡んできた男を応援するものまでいた。

 その声に勢いづいたのか、男はさらに調子に乗り始める。


「その魔核は俺が持ち主に返しといてやるよ、賠償金も置いていけば衛兵には言わないでおいてやる……ああ、それと俺の冒険者ランクはDだ、意味わかるよな?」


 それを称賛するように小さく口笛が聞こえ、それに呼応するように周囲から男を後押しする声が聞こえてくる。

 野次を飛ばして俺を糾弾する声や、こちらを見て何か賭けているような声も聞こえる。

 その中には、残念ながら俺を案じる声は一つもなかった。


「ぎゃははっ、どうした? ビビってんのか? Dランクの強さくらい分かるだろ? 分かったら―――」 


「ふざけないでください!」


 隣から怒気を孕んだ声。

 って―――え? ミア?


「これは確かにご主人様がご自分で手に入れられたものです! 盗んでなんかいません! ご主人様を馬鹿にしないでください!」


 その声は明らかに怒っていて、威嚇をするようにミアは俺ですら聞いたことがないような声を張り上げた。


「いや、ミア……少し落ち着いてくれ、俺なら大丈夫だから」


 大丈夫だとは言ったけど……周りの男たちは突然の乱入者に動きを止めていた。

 何も知らない周囲からしたら、いきなり女の子が俺のことを心配しだしたってことになる。


「なんだあ? お前奴隷なんて飼ってたのか?」


 そうなると、こうなることは当然で、男の興味は俺からミアへと移った。

 その男は、ミアの体を舐めまわすような、下卑た視線を送っている。

 それにはさすがにカチンときた。


「そんな言い方はやめてください、ミアは仲間です」


 百歩譲って自分のことなら我慢できたかもしれない、だけどミアのことともなれば別だ。

 ミアは俺にとっては大切な存在だ。

 絶対に馬鹿にされたくない。


「ぶひゃひゃひゃひゃっ! なに女の前だからってかっこつけてんだよ!」


 絡んできた男は大口を開けて爆笑し始め、周囲の冒険者たちの間からも嘲笑が聞こえてくる。


「ああ、そうだそうだ、魔核だったな、やっぱ許してやるよ、代わりにその女寄越せ! ガキみたいだが使い物にならなくなるまで―――――」


 そこから先は言わせなかった。

 身体能力を強化した俺は男の眉間を鞘で突いた。

 何とか手加減できたけど、それでも男は大きく仰け反り、音を立てて無様に転がった。


「……今、なんて言った?」


 男が痛みによろける。

 思わぬ反撃を受けて、一瞬呆けていたけど、しばらくするとわなわなと震え始めた。

 そいつはこちらを睨み、怒りに任せて立ち上がる。

 背中の大斧を手に持った―――そして、殺す気かってくらいの形相で睨んでくる。


「ぶっ殺す!!」


 男が斧を抜いた―――と、同時に俺も剣を抜き、首筋にそれを押し当てる。


「――――っ!?」


 え―――? と、誰かが口にする。

 野次を飛ばしていた声も少しずつ静まり、それに合わせてようやく男も黙った。

 斧を持った姿勢のまま、完全に固まる。


「……もしかしたら手が滑るかもしれない、だからよく聞いてほしい―――武器から手を離せ」


 

 がらんっ



 男がゆっくりと手から力を抜くと、大斧が地面に落ちる。

 周りから音が消え、静寂がギルド内を支配していた。


「謝り方は分かるよな? 頭を下げてごめんなさいだ、今回は特別にそのままでいい……言えよ」


「わ、悪かっ」


「ん?」


 刃先に力を込めると、少しだけ剣が男の首に食い込み、血が流れた。

 緊張感が周囲にも伝わり誰も喋らない。

 そしてそれはこの男もそうだった。 

 微動だにすることなく体を硬直させて、恐れるようにゆっくりと口を開いた。


「ご……ごめんなさい……」


 男が言い終わると同時に、俺はゆっくりと首から剣を離した。

 ドサッと腰を抜かして男が倒れ込み、そいつは今までとは違う目をしている。

 少しだけど、怯えを含んだ視線。

 周囲の冒険者たちも喧騒を止め、こちらを唖然と見ていた。


「魔核はもういい、ミア、帰ろう」


「あ、は、はいっ」


 ミアが慌ててついてくる。

 残った冒険者たちも、ギルドの受付嬢も、何が起こったのか分かってなかった。

 俺たちはそのまま静まりかえったギルドを後にした。

















 街を出て、少しした場所で俺は立ち止まった。

 周囲を確認したけど、うん、誰もいない。

 俺は大きく息を吸い込む。


「あああああああああああああ!!!!? やらかしたああああああああああああっ!!!」


 なんだあれなんだあれ!? 

 俺何してんの!?


「あああ……も、もうギルド使えないかも……出禁くらうかも……すまん、ミア……俺はもう駄目だ、今までありがとう」


 よりによってギルド内で抜刀してしまうとは……しかもほんの少しだけとはいえ流血沙汰だ。

 冒険者ギルドで買い取ってもらえないとなると……あああ、駄目だ思いつかない。

 魔核って他の場所でも買い取ってもらえたっけ?


「も、申し訳ありませんでした! その、私が勝手なことを……」


「いや、気にするな……ミアが俺のことで怒ってくれて嬉しかったよ……ありがとな」


 盛大に落ち込みながら、俺はミアを見る。


「で、ですが……ご主人様も……私のために怒ってくださったんですよね……?」


「それは……まあ」


 それはそうだけど……騒ぎを大きくしすぎたと思う。 

 もうちょっと冷静に対処をすればよかったと今頃になって後悔してしまう。


「あの、ご、ごめんなさい……私のせいで……でも……ほ、本当に……格好良かったです……」


 ミアは心の底から言っているみたいだった。

 頬を染めて、申し訳なさそうに謝ってくる。

 だけどその瞳はどこか熱っぽく、こちらを見つめてくる。


「………」


 これ以上うじうじするのは余計に格好悪いな。


「分かったよ、悪かった……心配かけたな」


 迷惑をかけたギルドには明日謝りに行こう。

 どうなるかは分からないけど……許してもらえるといいな。









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