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第21話 オーク








「今日はいつもと違うルートで探索してみようと思う」


「分かりました」


 俺たちは通い慣れた道でなく、今日は違うルートから山へと入った。

 ほかの場所に行ってみることも考えたけど、今ではここの地形にも慣れてきた。

 足元や周囲に注意しながらも、俺たちの動きに最初の頃の固さはない。

 なのでルートを変えたりしながら、ここの探索を続けることにした。


「基本的には同じだけど、違うルートだから何が起こるか分からない、慎重にいこう」


「はいっ」


 俺と話すだけで嬉しそうに顔が綻ぶ。

 ミアの忠犬……いや、忠猫っぷりにも慣れてきた。

 勿論それは嬉しい。

 可愛い女の子に懐かれて思うことがないわけではない。

 だけど同時に心配でもある。

 俺にもしものことがあった時に何もなければいいんだけど……


「――――っ!」


 探知に反応が出る。

 だけど……違和感を感じる。

 これはスライムやゴブリンじゃない。

 探知で感じる気配だけでは分からない、けど……たぶんもっと強い魔物だ。


「ミア、あっちの方に強い魔物がいるんだけど分かるか?」


 ミアがすぐに目を閉じて、集中する。

 猫の耳がピクピクと動いて気配の場所を探っていた。


「これは、オークだと思います」


「……オークか」


 嫌な思い出しかないな。

 魔物としてのランクはD。

 冒険者が複数人いてようやく倒せるってくらいの強さだ。

 しかもこの山にはスキルを持ったオークもいる。

 普通に考えたら子供2人で倒すのは不可能だ。

 だけど今回は勝算もある。

 何よりオークの魔核はスライムやゴブリンよりも遥かに高い。

 危険を冒す価値はあるだろう。


「倒したいけど……ミアはどう思う?」


 オークは強い。

 今までで一番の強敵だ。

 そう考えたら背筋が震えた。

 それでも―――


「お供させて頂きます、ご主人様」


 彼女は当たり前のように頷いてくれた。

 最高に頼もしかった。















 木々まばらに茂る、森の奥にそいつの姿はあった。

 2mほどの巨体。

 緑の体色の筋肉質な体が棍棒を握って、獲物を探すように辺りを見回していた。


「作戦通りに、もしも俺に何かあったら絶対に逃げるように」


「嫌です」


 うん、だよね。

 ミアの即答に思わず苦笑する。


「絶対に倒すぞ」


「はいっ」


 ミアが素早くオークの後方近くに回り込む。

 『隠密』スキルを使っているため相手はまったく気付いていない。


 オークの一撃は重い。

 仮に俺たちが殴ってもそれはオークにとって致命傷になりえない。

 けど、オークに殴られたら俺たちは、少なくとも骨は何本か持っていかれるだろう。

 そのため、先手をどっちがやるかで少し悩んだ。

 俺は身体能力を強化できるけど気付かれやすい。

 ミアは気付かれにくいけど攻撃されたら大ダメージ。


 悩んだ結果俺がやることに。

 ミアが怪我をするくらいならというのもあるけど、たぶんミアの一撃だとオークに致命傷は与えられないのではないかと思ったから。


 限界まで距離を詰める―――


「っ」


 オークが気付く、けど遅い。

 俺とオークの距離はもう数mも離れていない。

 身体能力強化のスキルを発動して、ステータスを強化すると、俺はそのまま突っ込んだ。


「GUOOOOOOOOOOOOッ!!」


 ゴブリンやスライムとは比べ物にならない迫力。

 棍棒を俺目掛けて滅茶苦茶に振り回してくる。


 オークは棍棒を振るう。

 棍棒が俺が避けた先にある木に当たればそれだけで、樹皮は抉れ、木の皮が宙を舞った。


 なかなか素早い。

 力任せの攻撃の癖にその一撃は流れるようだ。



 ッヂ!!



 掠っただけ。

 けどそれだけで皮膚が裂けて、血が噴き出る。


「馬鹿力だな……」


 頬の血を拭いながら、オークを見る。

 これ、剣で受けたら折られるだけじゃ済まないな……

 そう思ってしまうほどの、攻撃の嵐。

 俺はオークの猛攻に対して慌てて距離をとる。


「っ!」


 背中が木にぶつかる。

 俺は一瞬それに気を取られた―――ように見せかける。


 オークが棍棒を振りかぶった。

 俺は避けない。

 ジッと動かずにオークを見る。

 このタイミングではもう避けれない。

 オークは俺を見下ろしながら獲物を叩き潰すために、頭上の棍棒に力を溜める。


「GOOOOOOOOOOッ!!!」


 それを見て俺は勝利を確信した。

 だけどそれは向こうもだった。

 今から俺の頭をかち割る想像でもしているのかもしれない。

 だから俺は自分の勝利を疑っていないオークに聞こえるように言ってやった。


「穴」


 予め買えることを確認しておいたそれを購入する。


「―――ッ!?」


 その瞬間、オークの踏みしめていた地面がすっと消え、勢いよくバランスを崩し、音を立てて倒れこむ。

 オークはおそらく何が起こったかわかっていないだろう。

 その証拠に、目の前のオークは動きを完全に止めて混乱していた。


 剣を振りかぶり、体勢を崩し切っているオークの首に狙いを定める。

 オークは慌てたように立ち上がろうとする、が―――それは叶わなかった。

 

 俺の剣がオークの命を刈り取る。

 オークの肉質はやはり硬く、いくら身体能力を使っての攻撃でも一撃では首を完全に切り離すことは出来なかった。

 それでも出血は多く明らかな致命傷だ。

 オークは力なく棍棒を振ろうとするが、それもゆっくりと力を緩めていき、やがて完全に動きを止めた。 

















「ご主人様ッ!」


 ミアが慌てて駆け寄ってくる。

 もしもこの作戦で失敗したらミアにも参加してもらうつもりだった。

 だけどオークはミアの手を借りることなく倒すことが出来た。

 Dランクという強敵を一人で倒せたことに自分の成長を実感する。


「あっ、ち、血がっ! ご主人様っ、お怪我を……!」


 オークの攻撃が掠った時の怪我だろう。

 出血は多く見えるけど大して深い傷でもない。

 回復するまでもないと、放っておくことにした。


 オークは冒険者の壁の一つとも言われている。

 1対1で正面から倒せた冒険者は、それだけで称賛を浴びるほどだ。

 搦め手を使ったとはいえ、そいつを一人で倒せたことが嬉しかった。

 だけど何より目の前の少女に怪我がなくてよかった。

 過程も結果もそれに比べたらどうでもいいとすら思える。

 俺は安心させるようにミアに大丈夫だと言ってやった。


「ですがっ、す、すぐに治療を……っ」


 ミアは心配性だった。

 ちょっと意地悪してみたくなる……もしここで俺が痛がったらどんな反応をするのだろう。

 悪戯心が沸き上がるけどさすがにそれはミアが泣きそうなのでやめておこうと思いとどまった。


「帰ろう、疲れた」


 オークの魔核はいくらになるだろうかと、ワクワクした。

 俺は装備を仕舞い、オークの解体を始める。

 ミアはまだ何か言いたそうにしていたけど、もう一度大丈夫だと言ってやる。


「……分かりました」


 まだ何か言いたそうなミア。

 確かに心配させてしまったのは事実だ。

 何かご褒美でもあげたほうがいいのかもしれないな。

 そう思ってミアに提案してみる、するとミアは―――


「あ、あの……それなら、ご主人様に……」


 ミアは少し恥ずかしそうに言い淀む。

 俺が黙ってミアの言葉の続きを待つと、彼女は意を決して頼んできた。


「ひ、膝枕を……」 


「ん? いいけど」


 なんだそんなことかと俺は答えた。


「そ、そうですよね……やっぱり、私の汚い足なんかじゃ……」


 と、そこまで言ったところで卑屈ミアさんはちょっとだけ動きを止める。

 「……え?」と、俺の言葉を思い出す。


「あ、あのっ、今何と……?」

 

「膝枕だろ? やってくれるんだよな、嫌じゃないなら頼むよ」


 むしろ俺のご褒美な気がするのだが……ミアがいいならそれでいいと思う。

 するとミアは顔をヤカンのように沸騰させた。

 目を見開いて、真っ赤な顔のままワタワタし始める。


「そ、そんなっ、嫌じゃないですっ! で、ですがご主人様を……わたっ、私が……! その、あっ、ありがとうございますっ!」


 ミアのあまりの慌てっぷりに思わず可笑しくなり笑ってしまった。

 恥ずかしそうに俯くミアを見て彼女に怪我がなかったことを安堵した。


 うん、本当に……よかった。









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