第20話 忠誠
あの後俺たちは、魔核を買い取ってもらうため、ギムルの街のギルドに向かった。
最初に訪れた時は緊張してたこともあり気付かなかったけど、その建物は案外広く、奥の方まで続いているようだった。
建物内は少し薄暗く、奥では数人の冒険者と思われる人たちがカウンターで話していたり、テーブルに集まり何かを話していた。
俺たちは、そこでスライムの魔核5個を買い取ってもらった。
そのついでにミアにはギルドの簡易鑑定を受けてもらった。
山を降りるときのミアの動きが明らかに良くなっている気がしたからだ。
ミア自身も動きやすいと感じていることを確認したのでもしかして……と思ったのだ。
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ミア
スキル 短剣術(1)、危機感知(1)、隠密(2)、狂化(3)、忠誠(1)
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その結果がこれだ。
そう、ミアのスキルは増えていた。
俺のように購入したわけでもないのにだ。
増えたのは忠誠というスキルだった。
聞き覚えのないスキルだったので家でスキル辞典を引っ張り出して調べてみた。
効果は、忠誠を誓った存在が近くにいるとステータスに補正がかかる。というものらしい。
このスキルを取得した理由は今の俺とミアの距離感で何となくわかった。
「ご主人様? どうされました?」
やたらと距離が近いのだ。
歩きながらたまに腕が触れ合いそうになるほどだ。
正直歩きにくいのだが、ミアが嬉しそうなので良しとしよう。
たぶんだけどミアの誤解が解けて俺がミアに必要だと言ったあたりからだろう。
俺としても可愛い妹分に懐かれて悪い気はしない。
「あの、ご主人様……」
そんないつもより近い距離からミアが声をかけてきた。
「その……冒険者の人たちがご主人様を見ていた気がするのですが……」
それは俺も感じていた。
目を付けられて絡まれやすかったという意味では、俺は有名人だ。
しばらく顔を見せていなかったから物珍しさもあったのかもしれない。
「ご主人様……魔核は私が売りに行った方がいいのでは……」
「別に殺されるってわけじゃない、精々絡まれるくらいだから大丈夫だと思うぞ?」
それにミアにもしものことがあったと考えたら心配だ。
一人で行かせてしまうとその間に外で待つことになるのだが、心臓に悪い。
もしミアが変な男とかに絡まれたらと思うと……うん、やっぱ駄目。
「で、ですがっ」
だけどミアだって俺のことを心配してくれている。
申し訳ないと思うけど、もう少しだけ我慢してほしい。
俺は何か言いたそうにしているミアを誤魔化すように彼女の頭を撫でた。
「ふあぁっ!? ご、ご主人様……っ!?」
ミアがすぐに表情をトロンとさせる。
何となくコツが分かってきた。
この頭の少し前の辺りを優しく撫でるとミアの反応がいいのだ。
街中ではミアのこの姿をあまり見られたくないのでやらないけど、今は自宅だ。
誰に見られる心配もないので遠慮なく撫でる。
「よし、ご飯にしよう」
頭から手を退けて、街の露店で買い込んだ食材で夕食の準備をする。
後ろから「うぅ……ずるいです……卑怯すぎます……」とか聞こえるけど、気にしない。
ミアはチョロい。
まあ、そこが可愛いんだけど。
具材を煮込んで、スープに塩を振りながらこれからを考える。
今のところ金集めは順調だ。
今まで意識したことないけど、硬貨ってのは意外と落ちてるもんなんだな。
少し多く取れすぎな気もするけど、位置が分かる人間なんて俺以外にいないのだから、こういうものなのだと思うことにした。
猶予はまだ1年以上あることを考えたら余裕がある。
借金返済をする目途が立ってきたことに内心で安堵した。
(そろそろ戦力的にも充実させたほうがいいかもな……)
その夜に俺はスキルを購入した。
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ベルハルト
スキル 剣術(1)、鑑定(1)
偽装中 万能通貨、地図(1)、身体能力強化(3)
探知(2)、偽装(2)
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身体能力強化(3)を購入した理由は単純な戦力の強化だ。
思った以上にこのスキルが役に立つ場面があったので、レベルを上げてみたのだ。
あとミアに良いところを見せたかったからだな。
ミアはスキルの豊富さもあり意外と強い。
そうなると俺の活躍が減ってしまうのだ。
別にミアはそのくらいでマイナスな感情は抱かないと思うが、やはり俺としてはいいところを見せたかった。
ようするに見栄だな。
レア度の低いコモンスキルは比較的安く購入ができる。
レベル1から3まで一気に上げたというのに7000G。
一気にここまで上げるのは普通に考えたら5年はかかるだろう。
それを考えたら相当安い。
この選択が最善だったかは分からないが、少なくとも効率が上がったことは確かだ。
次は探知のレベルを上げて、索敵範囲を増やしてみようかなと思っていたりする。
そういえば今いくら貯まってるのだろうと万能通貨内の所持金を確認した。
2万9710Gだった。
食材を多めに買ったのとスキルの購入で一気に少なくなった。
色々と順調だから気が大きくなっていたのかもしれない。
なんにせよ使いすぎた……と、少し反省した。




