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第19話 ミア(5)








 いまだにちょっと重い空気だった。

 今更ではあるのだが、さすがに命令までするのはやりすぎだった。

 対人能力が低い俺はこういう時の経験がなくどうしていいのか分からない。

 ミアもそのことを気にしているようだったけど、俺がヘタレなせいで会話もなく家へと帰った。

 家に入り少し落ち着いてからミアに伝える。


「『偽装』スキルを手に入れようと思う」


 ミアは何かを聞きたそうな顔をしていたけど、さっきのこともありそれ以上詮索してはいけないと思ったのかそれ以上の反応は示さなかった。

 目標の10万には届いていないけど、硬貨の位置情報で効率よく集めれることが分かったからな

 偽装に関しては余裕があるなら早い方がいいと思っていたのでさっそく購入することにする。

 これでミアが魔核を一人で売りに行かなくても大丈夫になる。

 彼女の負担も減るだろう。


 さっそく万能通貨を使い購入できるスキル一覧を開く。

 勿論購入する項目は『偽装』スキルだ。




 ―――――スキル『偽装』を取得しました。




 続けてレベル2を購入する。

 レアスキルのレベル2は1万Gだ。

 今の俺にはかなり高額で一気に1万5000G消費して残りは3万3010Gに。

 だけどその価値はあったと思う。

 偽装のレベル2は詳細鑑定をも欺く。

 ……これで、ステータスが見られることはまずなくなった。

 所持金は一気に減ったが、肩の荷が降りた気分である。

 念のため、スキルを確認する。



 ―――――



 ベルハルト



 スキル 剣術(1)、鑑定(1)



 偽装中 万能通貨、地図(1)、身体能力強化(1)、探知(2)、偽装(2)





 ―――――




「ミア、これからは俺が魔核を売りに行くよ」


「………」


 ミアは返事を返さない。 

 何か考え事をしているのかどこかボーっとしたままだった。


「? ミア?」


「ぁ、な、なんでもないです……」

 

 力のない細い声。

 なんだろう?

 なぜそんな悲しそうな顔をしているのか。

 やっぱりさっきのことは言い過ぎたのかもしれない。


「ミア、近いうちに話がある」


 ある程度気持ちの整理とかができたら、俺のことを聞いてほしい。

 すぐには無理だけど俺はミアを信用している。

 だからそれまで待っていてほしい。

 そう思って言ったのだが……


「っ!」


 なぜか泣きそうな顔をされた。

 必死に涙を堪えているのが分かる。

 こんなに悲しそうにされたのは初めてかもしれない。


「ミア? どうした?」


「い、いえっ、なんでも、ありません……」

 

 さっきから元気がない。

 無理に聞くわけにもいかないので俺は何もできない。

 そう思いながらもしばらくしたらミアにも明るさが戻った。

 空元気の気もするけど……

 聞いた方がいいとは思いつつ、結局そのまま夜を迎える。


 俺とミアはあの日から一緒に寝ている。

 最初の数日は緊張して中々眠れなかった。

 だけど俺もだいぶ慣れてきて今ではそうしていないと落ち着かないほどだ。


「ご主人様……」


 寝言でミアが俺を呼ぶ。

 いつもより近い距離だった。

 自分の体を俺に押し付けて、甘えるようにくっついてくる。

 少し寝苦しいほどだけど、それでミアが安心するならとそのまま眠りについた。




 











 その日は珍しくミアの方が早く起きた。

 いつもはこっちが先なのだが、俺が起きた時には既に隣にミアの姿はなかった。

 目を擦りながら部屋を見回すと起床していたミアが朝の挨拶をしてくれる。

 今日に限ってなぜだろう?

 不思議に思いながらも俺は支度を整えていつもの山へと向かった。



 そして、ゴド山に到着して硬貨と魔物を探しながらしばらく。

 そこでもミアの様子はおかしかった。

 鬼気迫るっていうか……必死すぎるくらい必死だった。

 何とか俺の役に立とうとしてるみたいな。

 やる気があるのはいいことだけど……


「よし、今日はこのくらいにしておくか」


 スライムの魔核5個と落ちていた銀貨4枚だ。

 昨日よりは少ないけど十分だろう。


「あのっ、も、もう少しだけ……集めませんか?」


 少しだけびっくりした。

 ……珍しいな。

 ミアが自分の意見を言うのは本当に珍しい。

 いつも後ろからついてくる感じだったんだけど。

 俺としてもミアの意見は聞きたい。

 だけどもう何時間も探索している。

 街に行く時間もなくなるし、何より体力を減らした状態で魔物と遭遇するのは危険だ。

 やる気を出してるミアには申し訳ないが、今日はここまでにしよう。

 そう伝えると―――


「ご主人様……」


「ん?」


 涙声だった。

 声は震えて、抑えきれない悲しみに表情を歪めている。


「わたしは……もう、必要ない゛ので……しょうか……っ」


 ミアは頭を地面に擦りつける。

 人としての尊厳を全て捨て去る様な土下座。

 だけど俺は疑問符を浮かべる。


「お゛、お願い゛じまずっ、ずでないで、なんでもじます゛っ、だ、だがら……う゛う゛ぇええええええっんっ!!」


 ミアの行動はたまに分からないけど、今日が一番意味が分からない。


「お、おい、ミア? どうしたっ?」


 探知することも忘れて慌ててミアに駆け寄ってミアをなんとか落ち着かせるために声をかける。

 俺は必至でミアを慰め、そのかいあってか、しばらくしてようやくミアが落ち着く。

 まだちょっと泣いてるけど……顔をぐしゃぐしゃにしながら答えてくれた。


「……偽装のスキルで……ご主人様のお力は……鑑定されなくなります……だから、わ、私はもう……」


 やっと俺は理解する。

 ミアは偽装スキルを俺が手に入れたから自分が捨てられると思ったのだ。

 確かに、目立ちたくないと思って奴隷を買ったのは間違いない。

 実際ミアと出会った日にも彼女にはそう説明している。


「……それに、私が何も考えずにあんなことを聞いて……!」

 

 あー……やっぱり気にしてたのか。

 冷たくしちゃったからな。

 あの後まともなフォローをしなかったのもまずかった。

 ミアは色々なことを悪い方向に考えてしまったようだ。


「ミア、俺は別に怒ってない。むしろきつく言い過ぎた……ごめん」


 それに―――と、続ける。


「俺にはミアが必要だ」


 俺は断言する。

 まだ信じ切ることは出来ないかもしれない。

 だけど、それでも目の前の少女がいなくていいとは絶対に思わない。


「………え?」


「偽装スキルがあっても、いや、どんな力があったとしても俺にはミアが必要だよ」


 もう一人は嫌だ。

 広いだけの家に一人でいるのはもうたくさんだ。


「お、お傍にいさせて、くださるのですか……?」


 不安そうにミアの瞳が揺れ動く。

 そんなミアを安心させるように俺は頷いた。


「あ゛ありがどう、ございます゛……! ありがとうございまずうぅ……!」


 泣き続けるミアが落ち着くまで、俺は黙って待った。

 これ、俺も言わないといけないよなあ……力のこともあるけど、借金のこととか。

 それを聞いてもついて来てくれるかは分からないけど……

 普通に考えて借金のあるやつと一緒にいていい気はしないだろう。

 それにこの力も不気味だと思う。

 仮に俺はそのことでミアが離れたいと言っても、受け入れるつもりだ。

 例えミアに逃げられても、拒まれても、怖がられても。

 悪い予感は色々浮かぶ。


 だけど、それでも―――


 ミアはきっと一緒にいてくれるんだろうなと、何の根拠もなく思った。











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