第18話 ミア(4)
翌日。
いつものようにゴド山へとやってきた俺とミア。
山の麓の辺りで俺は思いついた考えを実行するためさっそく万能通貨のスキルを使用した。
「この山にある銀貨以上の価値を持った貨幣の位置情報」
この山は少ないけど冒険者の出入りもある。
偶然落とすかもしれないし、命を落とした冒険者の持っていた硬貨がそのままという可能性は十分にある。
普通に探したら気が遠くなるようなことでも、このスキルがあるなら取りこぼすことなく知ることができる。
銀貨以上に限定したのは細かいもので時間を潰すくらいだったら魔核の方がいいと判断したためだ。
そして、言葉にした瞬間、その文字が頭の中に浮かぶ。
貨幣の位置情報(銀貨以上)「ゴド山全域」『5000G』
貨幣の位置情報(銀貨以上)「自身を中心とした半径1キロ」『1000G』
よし。
思わず口元を緩ませる。
こういう情報は大きい。
購入できなくても損はないし、購入できるなら試す価値は十分にある。
(そうだな……さすがに5000Gを試すのは怖いな……安い方を買うか)
貨幣の位置情報(銀貨以上)「自信を中心とした半径1キロ」『1000G』を購入する。
すると地図スキルが発動して、赤い点がその中に表示された。
てっきり情報が直接頭に流れてくるかと思ったけど……
スキルに気遣いができるとは思えないけど、ありがたかった。
「ミア、こっちだ」
しばらく視界が悪い山道を歩く。
勿論『探知』スキルを発動しながら周囲を警戒する。
地図で自分の現在地と赤い点が重なるように動いていく。
「この辺りだな……ミア、この近くに硬貨が落ちてると思うんだが」
地面に視線を落として周囲を調べる。
勿論探知を発動しながら魔物の警戒も怠らない。
「お、あったあった」
そこに落ちていたのは一枚の泥に汚れた銀貨だった。
比較的新しい硬貨なのか、指で擦ると綺麗な銀色の輝きが反射した。
銀貨は一枚1000Gだ。
つまりこれだけで情報分の利益を得たことになる。
「あ、あの……」
ミアが俺を呼ぶ。
なんだろうと振り返ってミアを見た。
「ご主人様のその御力は……」
ミアは恐る恐ると言った様子で聞いてきた。
彼女のことだから力を怖がっているわけではないと思う。
何となく俺の機嫌を損ねないかの心配をしている気がした。
確かに気になるのは分かる。
体力、健康状態を回復させて、スキルを手に入れて、物の位置情報まで把握できる。
常識で考えたらありえない力だ。
もしかしたらミアは純粋に俺のことを知りたいだけだったのかもしれない。
それに俺としてもミアになら話してもいいと思えた。
「ミア……それは聞くな、命令だ」
だけど俺はそう言って話を無理矢理切ってしまった。
咄嗟とはいえ自分が発した言葉の冷たさに驚く。
ミアは慌てて頭を下げてきた。
「っ……! も、申し訳ありませんっ!」
ミアが謝る姿を見て俺は自分がつい先ほど口にした言葉を思い出す。
命令……。
奴隷は主に絶対服従だ。
命令すれば伝える行為は絶対にできなくなる。
それに何より俺はミアが俺が困るようなことをするやつじゃないってわかってる。
俺自身も教えてもいいと思っていた。
だけどいざその時なって、怖くなった。
言いたかった。
信じてるから、と。
そう言って全部伝えたかった。
命令なんてしなくても、俺はミアを信じてるって……
この感覚は覚えがある。
絶対的な信頼感。
この人なら大丈夫だと無条件に信じていた。
信じてた……何も考えずに、ただ信じてた。
そして―――それが裏切られたときの絶望感。
信じたくて、信じてほしくて……だけど、それなのに勝手に怖がって遠ざける。
我ながら自分勝手だなと思う。
目の前の女の子一人信じることのできない自分に反吐が出る。
(あー……やめよう、なんか落ち込んできた)
ふとミアが気になり、目を向けてみると、俺の言い方を少し気にしているのか、その顔は俯きかげんで、少し落ち込んでいるようにも見えた。
考えを振り払って気を取り直した。
硬貨の位置情報である赤い点を目安に次の場所へと向かう。
少しおかしな空気になってしまったけど、気まずくなった俺たちに反して硬貨は面白いほど順調に集まった。
途中で出たスライムとゴブリンも倒すことに成功する。
成果は金貨2枚、銀貨6枚、スライムの魔核4個、ゴブリンの魔核1個だ。
魔核は布袋に仕舞って、硬貨をスキルに吸収させる。
これで4万5850G。
一気に倍以上に増えた。
大量に拾うことは出来ないけど、やはり魔核を集めるよりこっちのほうが効率的だと分かった。
目論見は成功……いや、大成功と言ってもいいだろう。
だけど今日もオークは出なかったか。
探知で警戒し続けてる俺としては少し拍子抜けではあるけど、安堵の方が大きい。
このまま出ないでいてくれたら助かるんだけどな……
「?」
その時おかしな反応があった。
少しだけ俺は動きを止める。
「ご主人様?」
俺の微妙な変化を察知したのか、ミアが俺を呼ぶ。
けど、今の俺にはそのことより、地図上の反応のほうが気になった。
なんだろう……今、一瞬だけど……
大量の硬貨の反応がちょっとだけ見えて、消えたみたいな……
「いや、なんでもない」
さすがにあの量はありえない。
もう地図上には何の反応もないしな。
でも―――
しばらく移動する。
移動しながら考える。
懸念は消えない。
ふと財宝のことを思い出した。
まさか……存在したのか?
「………」
駄目だ、やっぱり気になる。
「ミア、ちょっとだけ戻ろう」
俺が早足で歩くとミアは慌ててついてきた。
少しだけ緊張しながらその場へと戻る。
その周辺を行き来して何度も確認をする……だけどやはり反応は何もなかった。
(なにもないな……スキルが間違ってるとも思えないし、やっぱりさっきのは見間違いだったか?)
疲れてるんだろう。
今日は早めに切り上げてゆっくり休むとしよう。
で、街で魔核を売ってスキルに吸収させる。
所持金『48010G』
全額でこうなった。




