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第17話 ミア(3)









 あの後、俺とミアはゴブリンとスライムを追加で数匹倒して山を下りた。

 オーククラスの強い魔物と遭遇しなかったのは運がよかった。

 探知出来るなら逃げることは出来ると思うけど予想外のことが起こらないとも限らないからな。

 俺たちは、山を下ると、住み慣れた家へと着き一息つく。


 暖炉以外特に目立つ物のない、質素な部屋に置かれた椅子に座り、くつろぐ。


「あー……疲れた!」


 今日山へ行って得た成果を布袋から出して確認する。

 それを、目の前の木製のテーブルの上にバラまくと、大小合わせて9個の魔核が転がる。

 それはミアの頑張りが大きかった。

 彼女は俺のために必死に働いてくれたのだ。


「スライムの魔核7個とゴブリンの魔核が2個ですか」


 ミアも近くに寄ってきて、覗きこむ。


「あぁ、一日でこれだけの数が期待できるなら、思ったより早く貯まりそうだ」


 ミアは俺のことを疑問に思わないのだろうか。

 何も聞かずに俺の言うことを聞いてくれている。

 ありがたいことではあるけど、俺自身知ってほしいという気持ちもあるし、少しくらいなら教えてもいいのかもしれない。


 ミアがすすっと寄ってくる。


「魔核というのは一つでいくらするのでしょう?」


「魔物の種類や、魔核の大きさなんかで多少は変動するだろうけど……」


 スライムで300Gくらい。

 ゴブリンはわからないけど、スライム以下ってことはないだろう。

 そうなると今回の収穫では最低でも3000Gの収入が入ったってことになる。


 それを伝えるとミアはさらに傍に寄ってきた。


「………」


 なんかやたらと近い。

 何かを期待されている気がした。

 けど、俺にはそれが何なのか見当がつかない。


「なあ、ミア」


「はいっ」


 え?なに?

 凄い嬉しそうだけど……え?なに?


「……どうした?」


 何も思い当たらないので正直に言うことに。


「え…………」


 ミアにこの世の終わりみたいな顔された。

 猫耳と尻尾が一気に元気を失う。

 胸が締め付けられるようなすごい罪悪感を感じる。


「ご、ごめんなさい……」


 悲しそうな……というより泣きそうな顔をしながらミアは後ろに下がる。

 目の端に涙が滲んでいる、それを見た俺は焦った。

 ミアが近寄ってくる理由ってなんだろう。

 彼女のよくわからない反応に内心慌てながら脳をフル回転させる。


「あ……」


 もしかして頭を撫でたいって言ったことか?

 3000Gのことで頭がいっぱいで忘れてた。

 言い訳するなら、こんなに儲けが出たのは初めてというのもあった。


 けど、これが間違ってたらちょっと恥ずかしい。

 それでも他に思い当たることもないのでミアに聞いてみる。


「ミア、頭撫でたいって言ったの覚えてるか?」


「ぁ……は、はいっ!」


 食い気味に返事をするミア。

 分かりやすかった……ちょっと可愛かった。


「あの……お願いします……」


 膝をついて頭を差し出してくる。

 期待するように上目遣いだ。

 そんなに緊張されると、こっちも緊張するんだけど……いや、撫でるだけだ。

 落ち着こう……無心で撫でよう。


「ん……っ」


 頭に手を乗せた……さらさらとした髪の感触が心地良い。

 撫でるごとに横にある猫耳が動くのが目を楽しませてくれる。

 これは……病みつきになりそう。


「ぁ……ぁっ……ん……っ」


 頭を撫でるとミアの体の震えが伝わってくる。

 なんだろう……ミアの反応がおかしい。

 頬を紅潮させて、息を荒くしている。


 え、なに? 発作?


「ハァ、ハァ……っ……!」


 ついに切なそうに腰をモジモジさせ始めた。

 赤い瞳を潤ませ、口からは抑えきれない喘ぎにも似た吐息が。


「……ありがとう」


 俺は頭から手を離す。

 やたらと残念そうに「ぁ……」って、言われたけど、もう無理だと思う。

 この反応はほんとに駄目だと思う。

 色々とギリギリだ。

 

「ミア……」


「な……なんでしょう……?」


 ハァハァしながらミアはこちらを見上げてくる。

 赤い瞳はうるうると潤んで、どことなく俺に媚びているような印象さえ与える。


「またいつか撫でされてくれ」


「っ! は、はいっ、喜んでっ!」


 嬉しそうなミアを見ていると自分が汚れている気がしてくる。

 自分でも意外だったのだが、俺は猫耳萌えだったのかもしれない。

 しかし、なんというか……さっきの反応はほんとに……いやいや、ミアは妹みたいなものだ。

 そんな彼女にそのような感情を抱くわけにはいかない。

 言い訳を繰り返しながらほんの少しの罪悪感と共に、俺は立派なご主人様でいようと決意するのだった。


 また撫でさせてもらえるように。















 その日のうちにギムルの街へと向かった。

 街の人間たちが行き交う中を俺とミアは進んだ。

 そして、いつものように冒険者ギルドへと行き、魔核を布袋ごとミアに渡す。


「魔核は全部売ろうと思う」


「はいっ、いってきますっ」


 もっと強い魔物の核が取れたら小分けにして売るつもりだったけどな。

 けどスライムとゴブリン程度なら、しばらく貯めていた魔核を一気に売りに来たとか……言い訳は出来ると思う。


 フードで顔を隠したミアがギルドの中に魔核を持って行く。

 ちなみに俺は鑑定を警戒して外で待っている。

 俺のことをからかってくる冒険者に絡まれないようにだ。

 大丈夫だよな……? なんかそわそわする。

 正直俺自身ここまでミアに感情移入するとは思っていなかった。

 割り切るつもりでいたけど、今ではミアを大事な仲間だと思っている。

 妹を持つ兄の気持ちはきっとこんな感じなのだろう。


「ご主人様ー!」


 しばらくしてギルドの扉が開いて、ミアが戻ってきた。

 心配したけど、それは杞憂だったみたいだ。

 その顔はやり遂げた満足感が浮かんでいて、それを見て俺は一安心するのだった。

 

「ミア、大丈夫だったか?」


「ハイっ、ご主人様に言われた通りにできました!」


 ミアが俺に渡してきたのは4300Gだった。

 質がいいものが混ざっていたのか、それともゴブリンの魔核が高かったのか予想よりもちょっと多い。

 あとで詳細を聞くとしよう。


「絡まれたりしなかったか?」


「大丈夫でした」


 そうか……まあ、何事もなくてよかった。

 ちょっと過保護かもしれないけどミアに何かあったらと思うと不安になる。

 何年も独りだった反動なのか、自分に懐いてくれるミアにだんだん依存していってる気がする……


「……? どうした?」


 俺が心配していると、ミアはやたら嬉しそうにしていた。


「ぁ、ご主人様が私のことを心配してくださっているのが嬉しくて……」


 本当に嬉しそうにフードから見える口元を緩ませていた。

 何を今更って感じだ。


「んぁ……っ……! ご、ご主人様……!?」


 答える代わりに頭を撫でた。

 小さく悶えるようにしているミアを見て苦笑する。

 やっぱり反応がおかしい気がするけどそんなところも愛おしく思えた。


 さて、今はそれは置いておくとして……


(『偽装』スキル)


 頭の中で念じる。




 偽装(1)『5000G』




 5000Gか……今の所持金は2万と850Gだ。 

 買えるには買えるけど、もっと余裕ができてからの方がいいよな。


 偽装スキルを買っても生活に余裕ができる所持金……よし、決めた。


(次の目標は10万Gだな)

 

 俺は10万Gを目標にすることにした。

 これだけあればレアスキルを1個とっても問題ないと思う。

 俺が強くなればミアの負担も減るしな。

 今回儲けた額を考えたら1ヶ月以内に届きそうだ。

 そうしたらいくつかスキルを取ろう。

 

 だけど魔核をずっと売るってのも目立つよな……

 子供がどこでそんなに魔物を狩ってるんだって話になる。

 なんとか魔核以外の手段はないものか……

 そこまで考えたところである可能性を考える。

 

「? どうしました?」


「いや、ちょっと思いついたことがあってな、明日試してみようと思う」


 成功したら儲けものだし、成功しなくても損はほとんどない。

 まあ、なんにせよ明日だな。

 俺は成功を願ってミアと一緒に家へと帰った。










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