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第15話 ミア(1)








 二度寝から目覚めてしばらく経った頃。

 意外なことにミアとの距離が縮まっていた。

 家の中を歩くときに妙に近い気がしたし、表情もいくらか柔らかい。

 一緒に寝た時に何もされなかったから安心したのだろうか。

 理由は分からなかったけど、信用されたのなら何よりだ。

 顔を洗ってミアとテーブルに向かい合うように座る。


「これから冒険者ギルドに行くけど……その前にこれを着てくれ」


 俺はミアにいくつかの衣服を渡した。


「あの、これは……?」


 服を受け取るミアに俺は説明した。


「いつまでもその格好って訳にはいかないだろ? 俺のおさがりで悪いけどそれを使ってくれ」


「ご主人様の……」


 ミアの顔が少し赤くなる。

 やっぱり男が使ってた服は嫌なのだろうか。

 しかし、借金のこともあるし、新しいものを買うような余裕はない。

 ここはミアに少し我慢してもらうしかない。


「フードもついてるから街に入る前にそれで顔を隠してくれ」 


「フード、ですか?」


 顔を隠せるフード付きの安い服だ。

 今朝起きて探したら、丁度一着だけ出てきた。


「ミアは顔が良い……というか可愛いと思うからな、絡まれる確率を少しでも減らしておこうと思ったんだ」


 ミアはまだ子供だけど、これだけ整った容姿をしているなら、そういう危険もあるかもしれない。

 考えすぎかもしれないけど、警戒はしておくに越したことはないだろう。

 ついでに言うなら奴隷商の人間も警戒したほうがいいだろう。

 ミアが一日でここまで元気になったのは、いくら何でも不自然だ。


「あ、ありがとうございますっ、あの、大事に使わせて頂きますね!」


「安物だろうから別に汚してもいいぞ」


 そこまで言ったところで、俺は席を立ちあがる。


「ご主人様? どちらへ?」


「ミアの分の装備も探してくる、確か外に剣とかあったと思うから」


 古いものだけど、ないよりはマシだ。

 俺はミアに背を向けて外へ出る。

 そして、武器がしまってある物置に行こうとして気づいた。


「ミアにどんな装備がいいのか聞いてなかった……」


 俺が剣を扱うからそう判断したけど、よく考えたら短剣とか斧もある。

 やはりミアの意見も尊重したほうがいいだろうと考えた俺はすぐに踵を返して、ミアのいる家のほうへと戻る。


「ミア、聞きたいん……だけ、ど……」


 尻すぼみになり、消えていく俺の言葉。

 その原因は視線の先のミアにあった。


 俺のおさがりだと言った服にミアは自分の顔を埋めていた。

 俺が昔着ていた古い麻の服。

 男が着ていたというのに嫌がる様子もなく、ミアは自分からその服に触れている。

 その謎の光景に俺は思わず動きを止めた。


「可愛い……えへへ……」


 目の前の少女は嬉しそうにその言葉を口にしていた。

 俺が少し前に言った可愛いという一言を思い出すように頬を緩ませる。

 尻尾が緩やかに動き、ミアの感情を表す。

 ミアは俺がいるのにも気付かずに服をぎゅっと抱きしめて幸せそうに表情を崩した。

 そして、スリスリとミアは俺の服に頬擦りをしている。

 小動物が自分の所有物に匂いを擦り付けるような仕草。


「………」


 とりあえず俺は黙って外へと出た。













 フードを被ったミアと一緒にギムルの街へと到着する。

 しばらく進んで、その建物が目に入ると、ミアは物珍しそうにギルドをじっと見ていた。


「ここが冒険者ギルド、ですか……」


「そうだ、今からここで魔核を売ってきてほしい、それとミアのステータスも見てもらう」


 冒険者ギルドでは金を払えば自分のステータスを鑑定してもらえる。

 俺のように鑑定スキルを持っていない人間はこうして自分の能力を調べているんだ。

 ギルドの鑑定は簡易的な300Gの鑑定と、2500Gの詳細鑑定がある。


 簡易鑑定は値段が安い代わりにスキルしかわからない。

 詳細鑑定ともなると、ステータスなどの数値も分かったりする。


 今回ミアは簡易鑑定のほうを受けてもらうことになる。

 一緒に戦うにしても得意なことが分かれば相当楽になるだろうし。


 ミア一人に行かせてもいいものか心配だったけど、買取と鑑定くらいはすぐに終わるだろう。


 そして、ミアが冒険者ギルドに入ってしばらく待つ。

 少しソワソワしてたけど幸いなことに何事もなくスムーズに事は終わったようだった。

 ミアを迎えて鑑定結果の書かれた紙を見ると、こんな感じだった。




 ―――――



 ミア



 スキル 短剣術(1)、危機感知(1)、隠密(2)、狂化(3)




 ―――――




 ミアは意外にも多才で、これには素直に驚いた。

 万能通貨取得前の俺よりスキル数が多い。

 複雑な気分ではあるが、心強いことは確かだ。


 時間はまだ昼になったばかりくらいか……


「ミア、近くの山に行こうと思うんだけど」


「はいっ、御供させて頂きますっ!」


 心なしか昨日より近くなった距離。

 なぜかは分からないけど、懐かれているのならこれでいいのかもしれない。

 俺とミアは街を出てあの時の山―――ゴド山へと向かった。















 予定通りゴド山に到着。

 俺が万能通貨のスキルを取得することになった山。

 魔物の出る危険な場所だ。


 現在の俺の所持金は『19550G』。

 ミアを買った時に1万G支払ったのだが、その後ミアに売ってもらったゴブリン亜種の魔核が1万Gした。

 それで丁度プラスマイナス0になった感じだ。


「さて、山に入る前に……」


 またオークと遭遇したら今度こそ殺されるだろう。

 俺だけなら逃げれるかもしれないが、今回はミアもいる。

 そのためにいくつかの準備をしておきたい。


「魔物の位置が分かるようになるスキル」





 探知(1)『1000G』


 聴覚強化(1)『1000G』


 空間把握(1)『10000G』


 魔力感知(1)『5000G』


 ―――――――


 ―――――――


 ――――………





「意外と多いな……」


 といっても購入するものはあらかじめ決まっていた。

 元々俺が知っていたスキル。 

 簡単な特徴もスキル辞典で調べておいたので迷いなくそれを購入する。


『購入しますか?』


 購入を念じる。




 ―――――スキル『探知』を取得しました。




 これで俺は『探知』のスキルを使えるようになった。

 だけどこれだけでは魔物のいる大まかな方向が分かるようになるだけだ。

 しかも範囲は10mと、心もとない。

 そこで俺はスキルのレベル2を購入することにした。

 勿論購入するのは探知だ。

 これで……



 ―――――



 ベルハルト



 スキル 万能通貨、剣術(1)、鑑定(1)、地図(1)、身体能力強化(1)、探知(2)




 ―――――





 「『探知』」


 

 さっきより広い範囲の情報が流れ込んでくる。

 なんとなくだけどこの方向にこれがあるって分かる感じ。

 これだけ広いなら見つかる前に逃げられるだろう。

 そして、このスキルは見つからないためってのもあるけど、魔物を見つけるためっていう目的もある。

 所持金は一気に『16550G』に減ってしまったが、必要経費だと割り切ることにしよう。


「ミア、俺が先頭に立って魔物を探す、何か異変があったら教えてくれ」


「は、はい」


 少しだけ体が強張っていた。

 魔物が怖いのか、それとも知らない場所に俺たちだけで入ることによる緊張か。

 確か精神を落ち着かせることのできるスキルもあったとは思うけどこれ以上スキルで所持金を減らす余裕がない。

 早めに慣れてもらうしかないだろう。


「ご主人様」


「どうした?」


「お守りします……絶対にっ」


 ミアは周囲を警戒しながらそう言ってくる。

 短剣を持つ手に力が込められていた。

 ……俺のことを考えてくれるのは嬉しい。

 だけどここでは自分を第一に考えてほしかった。


「ミア、自分のことも考えてくれ、もし万が一があったら俺を置いて逃げてもいい」


「絶対に嫌です」


 俺はその返答に驚いた。

 それはミアが初めて見せる強い意志だった。


「ご主人様……後でどんな罰でも受けさせて頂きます、死んでも構いません。だから―――どうか、私を置いていかないでください……」


 そこで俺は自分が馬鹿だったことに気付いた。

 ミアの気持ちを考えてなかった。

 ずっと一人だった俺にとってミアはある意味特別な相手だ。

 短い付き合いだけど……死んでほしくないと思っている。

 だけどそれはミアにも当てはまることなのかもしれない。


「……分かった」


 結局俺はそう答えるしかなかった。

 それなら絶対に守らないとな。

 自分も、ミアも。

 決意を固めるように俺は周囲の警戒を始めて山へと踏み出した。











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